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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部三年生
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第四百十九幕 遊びに行こう・不思議な縁

 ボルカちゃんと共に海か山を目指して飛行中。ほうきには何度か乗った事があるけど、見知った街中を飛ぶって言うのはなんだか不思議な感じ。

 絨毯とか空を飛んだ事自体はあるんだけど、自分で操って進むのは新鮮だね~。

 ダイバースでも空を飛ぶ機会はあるけどステージと街中は大分違うや。


「どうだティーナ。箒に乗っての空中移動は?」

「風が気持ちいい~。普通に歩くのと植物に乗って行くのとも違うね~。何度か乗っててもこの風を直に浴びる感覚は癖になるかも!」

「そりゃ何よりだ。メリア先輩が箒レースに行く訳だぜ。確かに先輩の性分なら適正だ!」


 風を切って空を進み、私達は目的地に向かう。

 たまに他の人ともすれ違うけど、全員が気持ち良さそうに飛んでいた。暑いこの季節も風を直接感じる空なら涼しいし、快適に過ごせる。そもそも空は気圧が低くて気温も低いもんね~。

 そんな感じで少し進むと、丁度山と海に挟まれた地域にやって来た。地上を行くなら距離はあるんだろうけど、空から見るとどちらの距離も変わらないように映るや。


「どっちに行くー?」

「そうだな~。海は空から見ても分かる程に人が多いし、山は宿泊施設が見つからなかったら行く可能性があるし……どっちもどっちだな。取り敢えず降りてテキトーにブラつくか」

「そうしよっか~」


 海も山も、目的地ではあるけどあくまで目安。なので私達はその付近の街を歩いてみる事にした。

 朝食直後だからあまりお腹は空いていないので、物品を眺めたりとかがメインになるかな。


「この辺りなら降りられるか。行こうぜ」

「うん!」


 箒は乗り物なので降りるにも場所が必要。何処で降りてもOKだったらメチャクチャになっちゃうもんね。

 なので指定場所に降り立ち、ほうきを手に持つ。絨毯や箒は持ち運べるから、それが苦じゃないならわざわざ停めなくても良いの。勿論もちろん周りの人には配慮してね。

 そろそろ長期休暇も終わりなのでお店の数も減りつつあるけど、まだまだ出ている。見て回るには十分だね。


「ほえ~。まだ近場だけど、あまり見ない物も売ってるんだな」

「この時期の限定品みたいだね。そろそろ終わるけど、残暑もあったりするからあと一ヶ月は使えそう」

「確かにな~」


 出店には涼しくなる魔道具が売られていた。ブローチのような形であり、魔力を込める事で冷気が発せられるみたい。でも魔力が無い人は使えないのかな。充魔方法があれば良いけど。

 興味深いけど、今は別に必要ないのでスルーしておく。


「お、魔力で動く人形だ」

「本当だ。自動化しているんだね~」


 魔力を軽く込めると音が鳴るお人形さん。あらかじめ設定された言葉を話したり、親御さんが忙しい時に子供と遊んでくれる物だね。

 こう言う系のお人形はお家に無いなぁ。私は基本的に自分で話す感じだからね。


「お、海を入れたガラス瓶」

「海を再現してあるんだ」


 他にもこの季節っぽい置物が色々あった。

 ガラスの中に海を再現した物や、中をおもちゃのお魚さんが泳いでいる物。この季節には合わないけどスノードームとか、こう言った小物系ってお部屋に飾ったりするのも良いかもしれないよねぇ~。


「これ買っちゃおうかな? お人形達と一緒に並べたら絵になるかも……」

「お、いいんじゃないか? ドールハウスに飾れば水槽みたいな感じにも出来るしな」

「確かに! ミニチュアの街をもうちょっと本格的にしたいとも思ってたんだよね~。水族館も作れちゃうかも」

「値段も1個辺り銅貨1~3枚だし、手頃だもんな」


 ボルカちゃんのアイデア。それはとても素晴らしいと感じた。

 お人形作りが更に進化して今はミニチュア作りにもハマっている。ドールハウスを筆頭に、街とかも作りたいと考えていたの。

 だからこう言った雑貨や小物を購入して形作るのは良いかもしれない。今の私じゃ造れない領域にあるもんね~。


「これとこれとこれ下さーい!」

「はいよ~。お、ティーナ・ロスト・ルミナスじゃないか。ウチに来てくれるなんて有り難いね~」

「アハハ……そんな大袈裟ですよ」

「いやいや、そうでもねェさ。ほい、毎度あり~」

「ありがとうございます!」


 購入し、空間魔導による見た目より沢山入るポーチの中に仕舞う。新しいアイデアが浮かんでくるね~。今から作るのが楽しみ。

 すると私達の周りに視線が。一体……。


「ティーナ・ロスト・ルミナス……!?」

「ボルカ・フレムも居る……!」

「そっか、見覚えのある顔と思えば!」

「世界的な有名人じゃないか!」


 本当にそんなに大袈裟な反応じゃなかったかもしれない。私を見た店主さんの言葉は正しかった。

 そう言えば私達って有名人だもんね。ダイバースの連覇とかで。

 捕らえていた時は基本的に眠らせた人が大半だから、植物騒動を知らない人も多いんだ。

 ルミエル先輩が全部直してくれたんだもんね。傍から見たらちょっと眠くなって起きたらいつも通りの風景って事も少なくなかったかも。

 そんな私達の周りにはあっという間に人だかりが作られた。これはちょっと大変。


「っし、脱出すっか」

「……え?」


 そう告げ、迅速な判断力でボルカちゃんは私の手を握る。それと同時に身体能力で跳躍し、出店の屋根へ。布が沈むよりも前に更に踏み込み、お店の形を崩す事無く近くの建物に乗り移った。

 そこから体を捻って弾みを付け、誰も居なくなったのを見計らい少量の魔力で高くジャンプ。その建物の屋上に上がって集まった人達に手を振る。なんて早い行動……!


「そんじゃあな~」

「スゴい動き……」


「「「あぁ~!」」」


 下の人達からは落胆したような声が。

 だけどちゃんとファンサービスは忘れておらず、いつの間にか購入していた紙の束とペン。それに高速でサインを書き記し、的確に人々が集まる位置に放り投げた。


「今日はプライベートなんだ。これで堪忍してくれよ~!」

「「「おぉーっ!」」」


 落胆の色は一変。歓喜の声に変わり、人々の手にはサイン色紙が収まっていく。

 拾わせるとかじゃなく、本当に完璧な位置把握で手渡しているね。私の知り合いではルミエル先輩もだけど、ボルカちゃんも十分に超人の領域に立っているや。


「スゴい一連の動きだね。ボルカちゃん。私はそんな風に出来ないから永続的な植物魔法でお花をボルカちゃんのサインに飾る事しかやれなかったよ」

「いつの間に……ハハ、ティーナも十分スゲェよ!」


 私も自分の出来る範疇でファンサービスはしておいた。でもまだまだボルカちゃんの域には達していないや。

 単純な身体能力で離れたのもほうきや魔導の使用可能域の範囲外だったから。

 ちゃんとその辺を考慮して行動しているんだもんね~。


「取り敢えず噂は広がり続けるだろうし移動すっか。二泊三日。時間はたっぷりあるんだ。別に人間の国に留まらなくても良いしな」

「そうだね。その場合許可証が必要だけど、基本的に国境付近では配っているから行けそう」

「箒も速いしな。レースとかじゃ時速数百キロは当たり前。プロなら音速以上も可能。流石に常にそのレベルで移動すると疲れるから程々に抑えるとして、色んな所を見て回るには十分だ」

「転移の魔道具もあるもんね~。名所だけならある程度は見て回れるかも」

「だな!」


 箒の移動速度はそれなり。レースが競技として成立するくらいだもんね。十五歳未満は私有地や決められた場所以外で乗れないのも納得。

 加えて転移の魔道具も経由出来るから、二泊三日でも世界中を見て回る事は可能なの。なのでその辺りも視野に入れておく。


「次は何処に行く~?」

「ショッピングの後は……レジャー施設だぜ!」

「レジャー施設……?」


 私の疑問に返答するよりも前に腕が引っ張られ、その場所へと向かう事になった。

 辿り着いたのは遊園地などがある場所。レジャー施設の意味は分かってるけど、ショッピングの後って所が分からないや。でも深い理由は無いと思う。それはボルカちゃんの様子を見て分かった。

 それは──


「っしゃー! 来たぜ遊び場(テーマパーク)に!」

「活発だね~」


 単純に遊びたいだけだから。

 ちょっと男勝りなところもあるボルカちゃん。意気揚々と乗り出し、飛び付くように入る。ふふ、可愛い。

 時期が時期だからお客さんは多いけど、意外とすんなり通る事が出来た。


「行くぜー!」

「わわっ……!」


 腕を引かれ、アトラクションに行く。

 レジャー施設というだけあり、様々な乗り物からそれ以外の建造物と豊富なアミューズメントコーナーがあった。

 高速で進む魔導車からゆっくり進むお馬さんをモチーフにした物。景色を楽しむ遊具など多種多様。食べ物も沢山あり、一日中居ても飽きないね。

 まあ、思ったより空いてるとは言え人は多いからいくつかの乗り物に乗ったら一日が終わっちゃうんだけど、それもまた醍醐味。


「ひゃっほー!」

「わー!」


 高速魔導車。速度で言えばダイバースで私達が出しているものとあまり変わらないのに、何故かこうやって乗る立場だと怖さが勝る。不思議な感じ。


「これとこれとこれくださーい!」

「毎度ありー!」

「相変わらずよく食べるね~」

「食べ盛りだからな!」


 お昼ご飯。一つの物に並んだだけで数時間が経過した。

 待ち時間もボルカちゃんの小粋なトークのお陰で退屈しなかったし、あらゆる分野にけてるよね~。


「これは落ち着くね~」

「のんびりするのも悪くないけど、やっぱちょっと退屈だぜ~」


 お馬さんモチーフの乗り物。速度は出ておらず、上下しながらゆっくり回る。

 ボルカちゃんには物足りないらしいけど、私にはこれくらいが丁度良いかな~。昼食後だから余計にね~。


「ァア~!」

「わあ!?」

「ハッハー!」


 お化け屋敷。一日の締めがこれなんだね……。私は普通にビックリし、ボルカちゃんは楽しそうにどんどん進む。

 ダイバースではアンデッド系の相手とも戦う機会は多いけど、向こうが驚かしに来ているから身構えちゃって案の定こうなる。流石は脅かしのプロ……。


「いや~楽しかったな~。まだ夕方だけど、そろそろ宿泊場所探さなきゃだしパレード見たら切り上げるか」

「うん……って、パレード見てたら夜が遅くなっちゃうんじゃ……」

「それもそうだな……仕方無い。名残惜しいけど探すぞ!」

「そうだね。本当に名残惜しいや」


 正直パレードは楽しみにしてたけど、初日からキャンプ場所を探すのはちょっと大変そう。パレードを見ていたら本当に夜更けになっちゃうもんね。その時間の探索は難しいかも。

 なので口惜しみながら宿泊施設探し。何処も混んでるとは思うけど、まだギリギリ夕方の今ならまだ間に合うかもしれない。


「多少オンボロでも良いんだけど、どの辺にあっかな~」

「少しくらいなら簡単に掃除出来るもんね~」

「風呂は必ず付けたいな。後は食事サービス」

「お風呂は分かるけど、食事まで付けたらもっと難しくなっちゃうんじゃ……」

「それが問題だ。取り敢えず行くか」

「うん」


 難しいとは思いつつ、希望の条件が整った場所を探してみる。

 お風呂と食事付き。一泊とは言え、全体的に長期休暇の今はそれが難しい。一通り探したところで路地裏の方に明かりが見えた。


「ん? 彼処って宿泊場所か?」

「ホントだ。そう書いてあるね」


 その証明となる看板が置かれた、寂れているけど外観は悪くない建物。

 路地裏にあるからこの見た目でも人が少ないのかと思いつつ、私達はそこに入った。


「ん? 珍しいね。こんな所にお客さんなんて。若い子達……ああ、いらっしゃい」

「あ、どうも……」

「お姉さん一人ッスか~?」


 そこに居たのは、書物を読むお姉さんが一人。口にはタバコが咥えられており、私達が来たのを見て消してくれた。

 悪い人じゃなさそうかな。見た目はちょっと怖いけど。

 お姉さんはボルカちゃんの質問に答える。


「そうだね。親の代から受け継いだ宿泊施設……けどこんな所じゃお客さんなんて来ないし、儲けにはならないかな~。だから昼間には別の仕事をして日銭を稼ぎ、たまに来るお客さんの支払いはお小遣いみたいな感じだ」

「苦労しているんスね~」

「意外とそうでもないよ。お客さんが滅多に来ないからのんびり出来るし、風呂や部屋は使い放題。偶の清掃と自分の食事くらいにしか金銭は使わないから気儘きままにやれてるんだ。貸家じゃないから家賃も発生しないしな」

「へえ~」


 意外とこの生活を満喫しているみたいだね。

 確かに見てみれば趣味っぽい物が並べてあるし、部屋で過ごすのも此処でお客さんを待ちながら過ごすのもあんまり変わらないみたい。


「それで、アンタらはお客さん?」

「ウッス。風呂と夕食朝食があれば良いんですけど、まあ食事は自分達で食べに行けるんで泊まれれば良いッス」

「へえ。ならツイてるね。ちゃんと風呂と食事付きだよ。私の手作りになるけど、文句言うなら殺すから」

余程よっぽど不味くなけりゃ出された物に文句なんて言わないッスよ~」

「フフ、面白い子だね」


 な、なんか打ち解けてる……。でも概ね希望通りの内容だったし、内装も普通に整っている。一人の経営で此処まで綺麗に出来るなんてこのお姉さん実はスゴいのかも。

 そんな感じで私達は此処に泊まる事にした。


「では支払いはこれで……」

「ん? これは……ぎ、銀貨五枚……!? ちょ、アンタこれって……!」

「足りませんでしたか? 素敵な場所ですのでこれくらいは必要かと思いましたが……それじゃあ金貨を加えて……」

「……!? ちょ、ちょちょちょ、ちょい待ち! 多い多い! 普段は銅貨十枚くらいだよウチは!」

「え? こんなに綺麗なのに……」


 そんなに安いんだ……。確かにお客さんが中々来ないような立地だけど、私にはこれくらいは払った方が良く見えるのに。

 お姉さんは深呼吸をし、一旦座って落ち着く。


「まさかアンタら、お金持ちの貴族さんか何かで……」

「ティーナはそうッスね。アタシは一般家庭の出なんできっちり銅貨十枚に甘んじますけど」

「ティーナ……そう言えばその顔……アンタら、ティーナ・ロスト・ルミナスとボルカ・フレムか!? そんな有名人がウチに……!?」

「私達を知ってるんですね!」

「知らない方がおかしいと言うか……いやまあ、知ったのは知り合いのツテでなんだけど」

「知り合い?」


 どうやらお姉さんも私達を知っているらしく、それは知り合いから聞いたみたい。

 それについて訊ね、お姉さんは答える。


「ああ。覚えてるかは分からないけど、アンタらに知り合いのカフェが救われたらしくてね。今や大繁盛してて、私もそこで働いてるんだ。距離が距離だから一週間に二、三回くらいだけど……それもあって今は此処が経営難でも暮らせてるって感じ」


「カフェの知り合い……それにコワモテのお姉さん……」

「コワモテは余計だよ」

「あ! ホラーをコンセプトにしたカフェの……!」

「あー、去年だか一昨年だかに行ったな~」


 一度きりなのでもうあんまり覚えてないと思うけど、その知り合いの人が経営するカフェには私とボルカちゃんが行った事あった。

 不思議な縁もあるんだね~。繁盛しているなら何よりだよ!


「ハハハ! そうかそうか! それならサービスもしてやりたいくらいだけど、貰えるもんは悪い物以外貰っておくのが私だからね。有り難く銀貨五枚と銅貨十枚は入れとくよ」

「はい。構いませんよ」

「ま、普通にこれも商売だからな~。その辺はちゃんと理解しているッスよ」

「サービス自体はしてやるから安心しな。こう見えて私の料理はあのカフェでも大好評でね。腕にりを掛けてもてなすよ!」

「そりゃ楽しみッスね!」

「うん!」


 そんな縁もあり、美味しい料理が確約された宿泊場所に辿り着く事が出来た。

 お姉さんも商魂逞しいだけで良い人っぽいし、良い場所を選べたね~。

 私の旅行、二泊三日の一日目。無事に宿を見つけるのだった。


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