第四百十八幕 打ち上げパーティ・長期休暇の過ごし方
──“打ち上げ会場”。
ダイバースの会場を貸し切り、私達は各々で盛り上がっていた。
基本的には親しい人達と共に過ごしており、他チーム同士の交流は少ない……って程でもないけど控え目ではあるかな。基本的には何回か戦っただけでそこまで親しくなるのは難しいもんね~。
けれど私達みたいに他のチームとお友達が居る場合は積極的に関わっている。
「今宵、斯様な宴に誘ってくれて感謝する。ティーナ殿ら。私達も何かしらの打ち上げをしたかったからな」
「うん。せっかくならみんなと一緒の方が楽しいかなって思ってさ。いつものメンバーに呼び掛けて、お友達も呼んで良いよって言ったらこんなに集まっちゃった。嬉しいな~」
「フッ、人脈は如何様に広がっているか存ぜぬからな。一人の知り合いが数人から数十人として、増え続ければこの数にもなる」
エメちゃん、レモンさん、ユピテルさんにシュティルさん。他の人達も含め、いつものメンバーから数珠繋ぎでこんなに集まった。
悪さとかする人が居ないなら賑やかなのは良い事だもんね~。とても楽しいパーティになってるよ。
「ルミエル・セイブ・アステリアとイェラ・ミール……!」
『友に呼ばれた打ち上げでこれ程までの大物と出会うとは……』
「感涙だ……!」
「あらあら、沢山の子達が集まってきたわね。イェラ♪」
「ルミの知名度を思えば当然だろう。本当は休ませたかったのだがな……」
「寧ろ楽しいわ♪ 他者との関わりが好きだもの。休む為にボーッと過ごすよりこの方が性に合ってるかも」
「それは間違いないな」
ルミエル先輩とイェラ先輩も相変わらずの人気者。今回はダイバース参加チームのメンバーしか呼んでいないけど、それでも人だかりが出来ていた。
だけど先輩はその上で楽しそうにしているね。ファンが集まってきてくれるのは好きみたい。
「まさかこんなに人や他種族が居るとは。賑やかなものだな」
「シュティルさん。楽しんでるー?」
「ああ。賑やかなのはあまり好きではないが、つまらない訳じゃない。楽しんでいるよ」
「オイオーイ。その言い方だとそうは見えないけどな~」
「自分で言うのもなんだが、感情はあまり表に出さぬからな。こう見えて楽しんでいる方だ」
「なら良いけどな!」
シュティルさんも表情はあまり変わらないように見えるけどちゃんも楽しんでくれているみたい。それは良かったよ。
私も勿論楽しいし、みんなもそれぞれ交流を深めているね!
「ディーネさん。貴女の水魔術を参考にしています!」
『貴女の空間把握能力、参考になる』
「あ、えーと……」
「新人戦からウチが“魔専アステリア女学院”の部長になるんで! よろしくー!」
「主語が大きいぞサラ。あくまで“中等部の”部長だろう」
『おおー』
「サラ・フォティ。手強いライバルになりそうだ」
『ティーナ・ロスト・ルミナスさん方が居なくなった後も“魔専アステリア女学院”は強敵だが、三連覇はさせぬぞ』
「ルーチェ・ゴルド・シルヴィア。ベル・ノーム。対戦相手としてもだが、シルヴィア家とノーム家は外交相手としても重宝している」
「あら、アナタ……ふふ、そうなのですわね」
「ダイバースは紳士淑女の嗜みですものね」
単純なファンから新たな勢力への関心。そして外交。様々な理由から私達の元に集まってくる人達が大勢居た。
元々有名な“魔専アステリア女学院”。ダイバース連覇で更に注目度が高まり、ちょっと複雑な関係性も出てきていた。
「ティーナ・ロスト・ルミナス。貴女の魔導。是非とも観察したい」
「昨日の騒動。凄まじかった。何が根源でその様な……」
『幻獣の国にて、少し前に起こった火災で減った植物が戻った。感謝する』
「あ、えーと……」
私の元にも当然他の人や幻獣さんに魔物さん達が来る。
ルミエル先輩が事を収めてくれたのもあって恨み言を言われる事はないけど、罪を犯した私にとってはちょっと複雑。と言うか幻獣の国で大規模な火災なんて起こっていたんだね。幻獣の国の知り合いとはあまり話さないから分からなかったよ。
何はともあれ、みんなが馴染んで来ている。元々親しくなかった人達とも交流が増え、気が付けば始まった時より周りの輪が広がっていた。
「ティーナもどうだー? 結構囲まれてたけど大丈夫か?」
「うん。とても楽しいよ。ボルカちゃん」
周りには人が集まってくるようになった。でも、私はママとティナをぎゅっとにぎりしめて愛想笑いを浮かべる。
まだ穴が埋まらないようなそんな感覚になっている。現実を受け入れようとはしているけど、そう簡単に行くものじゃない。もう、話さないのかな……元々話してなかったのかな……。多分、後者。
「……。そっか。楽しんでるなら何よりだ。ところでティーナ。長期休暇も残り僅かだけど、何か予定とかあるか?」
「予定? 特に無いけど……課題も終わってるから、後はお家に帰って少しゆっくりして、学校が始まる二日前くらいには寮に戻る感じかな」
特に予定は無い。ダイバース代表戦の後、私はお家の方で過ごしている。長期休暇くらいしか帰る機会が無いもんね。だからこのところずっとそんな感じ。
それを聞き、ボルカちゃんは私にグイッと顔を近付けた。
「っし、そんじゃそれまでの数日間。アタシと一緒に遠出しようぜ。もう箒には乗れる年齢になったし、ちょっとした旅行だ!」
「……え? 旅行? ……うん。いいけど、今回は何人くらいで行くの?」
「無論、アタシ達二人だけでだ! たまにはそう言うのも良いだろ!」
「ボルカちゃんと二人で旅行……」
突拍子も無いアイデア。全然悪くないけど、突然過ぎてちょっと理解が追い付かない。
でもお泊まり会とかみんなでした事もあったし、それが私達だけになるとしても別に問題無いね。
「どうだ? ティーナ」
「うん、勿論大歓迎だよ。だけど、どうしてまた急に?」
「思えば二人だけで出掛ける機会も少なかっただろ? たまにはあったけどほんの数時間のショッピングくらい。旅行みたいに何泊何日ってのも無いからな。折角の中等部最後の年。加えて箒の適正年齢になった。もう世界中、自由に行けるって訳だ!」
「成る程ね~。うん、良いよ~」
以上の理由から私達での旅行を提案したボルカちゃん。
確かにもう箒に乗れるから魔法の絨毯の運行時間外や、使用人さんにお世話になる馬車を使わずとも遠出が可能。そして中等部も最後だから、思い出作りって言うのは納得かも。
私は了承し、ボルカちゃんと一緒に二人で旅行に行く約束をした。
「それでいつ行くの? 長期休暇の間なのは間違いないとして」
「早い方が良いかもな。明日とかどうだ?」
「本当に早いね……まだ何の準備もしていないけど……」
「それはそうだな。んじゃ、明後日にすっか。もう一週間くらいで学校も始まるし、明後日から二泊三日としよう」
「オッケ~」
日程は明後日。期間は二泊三日。明日は準備とか何処に行くかの話し合いとかそんなところかな?
打ち上げパーティの最中、私達は長期休暇最後の予定を入れた。
*****
──“旅行当日”。
「やっほー! 待った? ボルカちゃん!」
「全然! 丁度来たところだ」
「アハハ……お互いの姿が見えるや否や、待ち合わせ場所に私より先に行こうと急に走り出したもんね~」
「応よ!」
一日準備を終え、私達は待ち合わせ場所にやって来た。
一時間前には着くようにしたけど、ボルカちゃんも同じ考えだったみたい。だから待ち合わせより一時間早く行く事になった。お休みの日はちゃんと早寝早起きしてるんだよね~、
「それで何処に行く~?」
「そうだな~」
昨日のうちに決めようと思ったけど、ボルカちゃん的には行き当たりばったりの宛の無い旅行がご所望みたい。なので特に考えず、何をしたいかだけ話した。
取り敢えず食べ歩きや、ご当地の物産拝見とかそんなところ。荷物も二泊三日用の物であり、空間魔導を応用した圧縮の魔導に入れているから邪魔にならない。着替えとか費用とか諸々、全部ポーチサイズに収まってるの。
何はともあれ行きながら考えるという事で、私達は自分の箒に跨がった。
「そんじゃ、レッツゴー!」
「おー!」
長時間の箒移動は色々な場所が痛くなるけど、私はそうならない為の物を買っておいた。ボルカちゃんは立ち乗りメインだから必要無いってさ。安く抑える方が優先みたい。
箒くらいなら私が買っても良かったけど、そこは自分で買うぜ! と言うのでその意思を尊重したよ。
私達は箒に乗って進み、その道中で改めて話し合う。
「それで、何処行こうか?」
「だな~。朝食は終えてるからまだ飯屋はいいとして……宿泊場所も見つけなきゃな」
「今の時期はどこも混んでるからね~。予約が必要じゃないかな?」
「ま、もし泊まれなかったらその辺で野宿だ。テントとかキャンプ用品は持ってきたから許可が降りてる場所なら可能だぜ!」
「流石ボルカちゃん!」
もしもの場合はキャンプに変更する事も出来る。ボルカちゃんの趣味の一つなので、宿泊施設が見つからなくても夜は越せるようになってるの。
なので宿泊場所については深く考えず、夜まで何処で何をして過ごすか、それについて話し合う。
「ま、取り敢えず海とか山とか目指すか。観光名所とかじゃなくても必ず何かしらはあるしな」
「アハハ、そうだね。今の時期は特に」
一先ずの目的地としては海か山。人混みは溢れてるだろうけど、屋台や諸々の施設。単純に登山や海水浴とかでやる事は見つかるから。
私達の二人旅。最初の目的地を決めた。




