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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部三年生
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第四百十五幕 蕾と炎のお姫様

「行くよ!」

『行くぞ!』


 蕾のお姫様の拳を放ち、テュポンさんも巨腕で対抗。正面から山並みのサイズはある拳がぶつかり合って衝撃波を散らし、その余波で大地は抉れた。

 周りを見れば遠方で炎とか水とか色々な属性が窺えられる。とても高い場所に居るからみんなの様子も少しは分かるね。


「“フラワーロード”!」

『花道か。それを飲み込むのが余だ!』


 お花畑の道を空中に作り出し、テュポンさんの体を囲むように包み込む。それを散らし、炎を吐き付けて焼却。同時に毒が放たれ、周囲は汚染される。


「“光合成”!」

『解釈を広げた草木の呼吸か』


 二酸化炭素を吸い込んで酸素を放出する光合成。その解釈を広げ、毒素を吸い込んで無害な空気を放出する植物へと変えた。

 それによって空気は綺麗になり、人体に害が出る事は無くなった。そこから更にけしかける。


「“上昇樹林”&“夜薙樹”!」

『上下からの挟み撃ちか……!』


 足元と空の両方から植物を叩き込み、テュポンさんの体を打つ。そしてこれは、次の攻撃への布石でしかない。


「“突撃樹木”!」

『動きを止め、確実な一撃を放つのが狙いか……!』


 正面に向け、植物を突き付ける。それによって固定されていたテュポンさんの体は吹き飛び、弾かれるように彼方へ向かう。

 その着弾地点も予測しており、粉塵が立ち上がると同時に新たな植物で追撃。更なる土煙が舞い上がるのを確認した。


『良いぞ。それでこそ張り合いがある!』

「……!」


 全然問題無いって感じ。あれでも効いているのかもしれないけど、そんな素振りが全然見えないからちょっと不安になる。

 それでも続けるしかないよね。蕾のお姫様はハッピーエンド。私達の戦いもそうなる事を願う。

 “神魔物エマテュポヌス”にはテュポンさんだけじゃなくてシュティルさんも居るからね。ボルカちゃんを始めとして他のみんなもどうなっているか少し心配かな。


『動きが止まっているぞ!』

「……!」


 その瞬間にまた巨腕が放たれた。

 考えている暇なんて無いみたい。一瞬の油断も出来ない相手だもんね。

 ボルカちゃん達はきっと上手くやっている筈。そう信じて今は目の前のテュポンさんを相手取る。勝負はまだまだ終わらな──


「そらそらそらそらァ!」

「ふっ……!」


『……!』

「……!?」


 そんな事を思っていると、激しい戦闘を起こしながら向かってくる二人が居た。

 向こうではあの二人が当たっていたんだ……大将戦って感じだね。そう、あの二人。


「ボルカちゃん!」

『シュティルか』


 ボルカちゃんとシュティルさん。

 炎で加速するボルカちゃんに蝙蝠コウモリのような翼で飛び交うシュティルさん。二人は激しくせめぎ合い、巨大化したテュポンさんやお花の鎧を着込んだ私達に目もくれない。あの激しい戦いの中、二人は余波も気にせず戦っていたみたい。


「“ファイアランス”!」

「容易い」


 炎の槍を撃ち込み、それを圧縮した天候で防御。その衝撃波は私達にも届き、大きく揺れた。

 その攻撃を放った事で一旦の間が出来、周囲の様子を確認したのかボルカちゃんは私達に気付いた。


「お、ティーナ。やっぱりか。また派手にやってんな~。巨大大戦か」

「派手なのはボルカちゃんもだよ……」


「やはりこの規模はテュポンか。フッ、その姿となったという事は、ティーナはお眼鏡にかなったか」

『ああ。良い相手だ』


 ボルカちゃんは蕾のお姫様の肩付近。シュティルさんはテュポンさんの肩付近に降り立ったので会話が成立する。

 この二人がバッタリ出会でくわすなんてやっぱり強者同士は自然と引かれ合うのかもね~。

 まあボルカちゃんもシュティルさんも気配の詳細を読めるから始めから狙っていたのかもしれないけど。


「取り敢えず邪魔したな。今の二人の大きさを考えるとアタシ達でタッグバトルは無理そうだ」

「うん。お互いに邪魔をしちゃうかもしれないね」

「ああ」


 私とボルカちゃんの相性は良いけど、今の状態だと互いにデメリットも出てくる。大きさ的にも微調整が難しいからね~。

 なのでまた別々に行動し、各々(おのおの)の相手に集中する。ボルカちゃんはどんな感じで此処まで来たんだろう。


───

──


 ──“少し前・試合開始直後”。


「さて、と。今回はバラバラに転移されたか。ティーナの気配は……成る程な。近くに強そうなのが居るぜ」


 今回は夜の森ステージ。気配は近くにいくつかあるけど、狙い目はシュティルかな。単純に野放しにしておくとアタシの仲間達が全滅する可能性すらある。シュティルとティーナが当たれば勝てる確率も上がるんだけどな~。

 取り敢えず気配から強さを推測。動きにも着目しないとな。実力者は初動から違うから、真っ直ぐに対戦相手となりうる方へ向かっている。

 既に鉢合いそうなものあんな。けどそれは実力者同士っぽい。片方はティーナか。アタシはもう一つの動きが違う気配に向かうか。


此方こっちだな」


 突き止め、炎で加速してそちらに向かう。

 相手は優勝候補だらけのこの大会でも更に頭一つ抜けた“神魔物エマテュポヌス”だからな。強そうな気配はアタシが食い止めるべきだ。

 仲間達は信用も信頼もしてる。アタシがシュティルを止めれば後は全員が勝つだろうさ。


「……む?」

「アタシの登場ォーッ!!」

「開始早々元気だな」


 加速してそのまま到達し、上から奇襲を仕掛ける。

 ま、声に出して現れた時点で奇襲も何も無いけど。取り敢えず足止め出来れば上々だ。

 狙いは正確。目的通りシュティルと当たったぜ。


「よォ、シュティル!」

「ボルカか。君と当たる前にある程度は減らしておきたかった」

「それをさせない為にアンタに狙いを定めたんだぜ!」

「そうか。確かに効果的だな」


 そのまま踏み込み、足先の触れた地面は沈むように粉砕した。当たりはしなかったな。残念。

 シュティルの考えはアタシの逆って感じ。仲間を信頼していない訳じゃないとは思うけど、アタシ達の実力を判断した上でそうした方が勝利に近付けるって考えたんだろうな。

 それを事前に阻止出来たのはアタシ達にとって大きなアドバンテージだ。


「早速始めっか!」

「既に始まってる」


 足を抜き、炎で上昇。月明かりのある夜の森だけど、それでも暗さはある。けど炎で照らせば影響は及ばないぜ。

 シュティルは蝙蝠コウモリのような翼を広げて上昇。既に圧縮した空気は念力で片手に集めており、態勢は整っている様子。準備万端なのはアタシもだけどな!


「“圧縮炎”!」

「似たような技を」


 無論、シュティルを参考にした。

 アタシに念力は使えないけど、魔力を一点に込めて力を込める事は出来る。それをそのまま押し出せば力の籠った炎を放てるってもんよ!

 魔導の火炎にはそれが可能だぜ!


「そらっ!」

「はっ!」


 火球と空気が正面衝突を起こし、大きな爆風で大地が抉れる。そのまま吹き飛び、アタシ達も弾かれるように彼方へ飛ばされた。

 でも直撃した訳じゃない。単純に風圧で押されただけだ。見失うよりも前にシュティルの気配を追い、また加速して追い付いた。


「“フレイムロケット”!」

「ただ炎を纏って突撃するだけか」

「高い攻撃力だろ?」

「それはそうだな」


 追い付くと同時にそのままの威力で突進。速くて高い威力を誇る加速移動。それを攻撃に使わない手は無いぜ。

 シュティルは両手をクロスさせて防御姿勢に入り、そのまま打ち付けて共に吹き飛ぶ。複数の木々を貫通し、同時に弾いて距離を置いた。


「“ファイアランス”!」

「遠近自在なのも面倒だ」


 炎の槍で少し離れた場所に居るシュティルを狙う。本当に面倒ってだけでダメージにもならないのは流石だ。

 元より不死身のヴァンパイア。それは承知で更なる追撃を仕掛ける。


「そらよっと!」

「次は鞭か。こんな物で……」


 放った炎の鞭は体勢を低くして回避。そこから付け加えるのが定石ってもんよ。攻撃には二重三重の工夫をこなさなきゃな。


「“異動”!」

「……!」


 鞭は通常の軌道とは異なる動きをし、シュティルを死角から狙った。

 ルミエル先輩程じゃないけど、魔力の遠隔操作も形になってきたんだ。お陰でこんな動きも可能になっている。

 炎の鞭はシュティルを打ち付け、そのまま巻き付いて体を拘束。後は上手く意識を奪いたいところだけど、そう簡単にはいかないよな。


「全身を覆う系は私にとっては大した問題ではないぞ。ボルカ・フレムよ」

「だな。全身から念力放ってら」


 念力にて炎の鞭を弾き、消し去った。

 意識の奪取判定となる脳破壊が一番手っ取り早いんだけど、逆に言やそれ以外の方法が無いんだよな。

 まだまだ万全でそうそう隙は生まれないし、ある程度は削っておかなきゃ話にならないか。削るってのは文字通りの意味でだ。


「“フレイム”!」

「……!」


 火炎を放ち、その体を飲み込んだ。

 常人なら火力で触れた箇所が蒸発する威力だけど、シュティルは耐久性も大会随一。多分ちょっとしと火傷を負わせるくらいしか出来ていない。んで、それもすぐに治る。

 ただでさえ再生能力があるのに耐久力も高いとか、生物として完成してるよな。ヴァンパイア。と言うかアンデッドだから“生”物ってのは語弊があるかもしんないけどな。


「「………!」」


 その瞬間、空が雲で覆われた。同時に遠方で巨大な何かが見える。さっきから爆発みたいなのはあったけど、向こうも激しくやってるみたいだな。

 となると多分ティーナが敵の主力と戦っているという事。白熱してるのは間違いない。


「アタシ達も本腰入れて取り組むか!」

「そうだな。既に何度か戦った相手。互いに高め合おう」


 魔力を込め、向こうも力を込める。周りの事は気にせず、ただひたすらに高め合う。

 アタシは炎で加速してぶつかり、シュティルも蝙蝠コウモリのような翼で激突。火柱が立ち、次の刹那に更なる加速と共に突き進む。

 夜の森を飛び交い、アタシ達はせめぎ合った。


──

───


 お互いに邪魔にならないようティーナとその相手から離れ、シュティルと再びぶつかり合う。

 狙いは脳。一定時間破壊し続けばアタシの勝利が決まる。


「決着を付けよう」

「出来たらな!」


 アタシとシュティルの戦闘。それは終盤へと差し掛かるのだった。……まだ互いに余力は残してるけどな。


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