第四百十三幕 ダイバース代表戦・再開
──“翌日”。
昨日は日が暮れるまで寝ていたけど、それで疲労は取れ切れていなかったのかベッドに入ったらすぐに眠れた。
なので今の私は万全でダイバースの大会に臨む事が出来る状態にある。
「昨日は本当に迷惑掛けちゃったから……今日は精神面でも負けないように頑張るよ……!」
「おう。ティーナが出場する事は全員の総意だからな。気張って行こうぜ!」
他の出場選手。及びお客さん達。みんながあんな事をした私を受け入れてくれた。それに応えるのは試合の中で。
今日の気合いはいつもより多く入れていくよ!
《──皆様始まりました!! “多様の戦術による対抗戦”!!! 代表戦二日目!! 昨日は一騒動ありましたが、皆様の気概はそれによって更に向上の兆しありっ! 葉っぱが掛かった事により発破を掛けられ、今! 選手達一同が再び集結しました!!!》
相変わらずテンションが高い司会者さん。聞いた話だとボルカちゃんと一緒に行動していたんだってね。
その時に司会者さんの実況があったから世界中の人達は一部地域で対策が取れたとか。それこそラトマさんやエメちゃんのように会場に来ていない強者が居る場所では。
お陰で被害は抑えられたんだもんね。司会者さんも立派なMVPだよ。
《さあ! ご託はもう宜しいようで! それでは代表戦、再開ァァァい!!》
「「「どわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」」」
「「「ウオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!」」」
『『『グギャアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!』』』
『『『キュオオオオオオオォォォォォォンンンンンンンッッッッッ!!!!!』』』
その言葉で火蓋が落とされ、ダイバースの代表戦がリスタートする。
初日の第一試合からやらかしちゃったからね。全部を仕切り直しって感じかな。前日にルミエル先輩が選手達のケアをしてくれたらしく、全員が万全の状態。手強さで言えば昨日よりも遥かに上になってるね。
ともあれ、試合がスタートした。
──“再試合”。
「今度は試合に勝つ為に! “樹木衝撃”!」
「「「ぐわあああ!」」」
「“ファイアボール”!」
『『『ぐうぅ……!』』』
試合が始まり、私達は早速順調に突破していく。
確かに手応えのある相手が多い。元々そうなんだけど、より拍車が掛かっているようなそんな感じ。
しかし何とか突破し、二日目を無事に一位で通過する事が出来た。お友達で言えばシュティルさんもブロックを一位通過したみたい。やっぱり強いよね。
そして明日は最終戦。悔いの無いように戦わなくちゃね。
──“ダイバース代表戦・最終日”。
《紆余曲折あった今年の代表戦。それもいよいよ最終日に差し掛かります。此処まで勝ち上がった世界を代表する選手達。その者達による世界一を決める戦いが──今、始まりまァす!!》
「「「どわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」」」
「「「ウオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!」」」
『『『グギャアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!』』』
『『『キュオオオオオオオォォォォォォンンンンンンンッッッッッ!!!!!』』』
昨日に引き続き司会者さんの言葉が綴られ、会場が大きく盛り上がる。
泣いても笑っても今日が最後。今決着が付けられる。
《それでは第一試合……スタァァァトォォォ━━ッ!!!》
そして試合が始まった。
第一試合。スタートダッシュは大事。これによって今日の流れが決まる大一番。一度の勝利で勢いに乗って優勝まで突き進む事も有り得るからね。
大事なのは対戦相手。
「……まさか、最終日の第一試合で当たる事になるとはな。“魔専アステリア女学院”の面々よ」
「うん。今年はそんな感じの事が多いんだ。レモンさん達とも最初の方で当たっちゃったから」
「ふっ、そうか。事実上の決勝戦……と言うのは他のチームに失礼だが、その気概で臨むとしよう。私達も今回は挑戦者だからな」
挑戦者の立場で挑んでくるシュティルさん達。元々そう言うタイプじゃないけど慢心などが無くなりかなり手強くなっているのは間違いない。私達も気を引き締めて挑まないとね。
既に試合開始の合図は告げられている。私達は転移し、今回のステージとなる舞台にやって来た。
──“夜の森ステージ”。
「此処が……」
今回のステージは夜の森。通常の森ステージは何度もあるけど、こんな感じなのはあまりないかな。
視界を確保するのは意外と苦じゃない。空は満月であり、結構くっきりと周囲は見えていた。
でも夜のステージだけあってシュティルさんや魔物さん達が有利かな。そして周りに味方はおらず、今回はバラバラに転送されたパターンみたい。
(まずは周囲の確認)
ダイバースの定石とも言える行動。何より味方と敵の位置を把握しなくちゃいけないからね。
既に気配は動いており、至るところで移動していた。気配を読める人はそちらに向かい、気配を読めない人は高台とか見渡し易い場所を目標にしている。
ティナで空から全体を見下ろせるからね。手元に地図が無くても全容を把握出来るし、そこに気配を照らし合わせれば大凡の検討は付く。
「私が行くのは……」
独り言……そう、独り言を呟き、そちらの方へと向かう。気配の詳細は分からない事もあるけど、取り敢えず誰かと当たればそれによって進展するから。
移動は大きく。私の居場所を敢えて知らせる。それが敵でも仲間でも対面すれば事は動く。
「……!」
気配の方に到達し、その瞬間に炎が迫ってきた。これはボルカちゃんの炎とは違うね。私は魔力の気配。ボルカちゃんは生き物の気配を追えるからこそ、間違えても私に攻撃してくる事は無いから。そして私もボルカちゃんの気配は分かるので私が間違えて仕掛ける事もない。
「“貫通樹”!」
炎の放たれた方向に高速の樹を放ち、ガサガサと茂みは揺れて木々は倒れ、辺りには粉塵が舞い上がる。
直撃したかどうかは分からないけど、既に私の気配に気付いているみたいだから遠慮無く仕掛けさせて貰ったよ。
「……!」
次の瞬間、歪な力の気配を感じた。
色がある訳じゃないけど感覚で分かる。これは毒。周りの植物にも反応が出ているもんね。
大会のルールからして殺傷力は無いと思うけど、多分吸ったら体が麻痺する系の代物。意識を奪えば勝利となる大会にピッタリな毒かな。
なので私は植物魔法でその毒が到達する前に防ぎ、自身を囲んで隙間無く埋める。遠方に植物を伸ばして換気口とし、新鮮な空気の確保も出来た。
「……燃やしてきそうかな」
植物の中に籠った場合、相手がして来そうな行動は単純な破壊か燃焼。だったらその意表を突いてみようかな……!
そう考えているうちに周りの植物はミシミシと音を立てる。物理攻撃か炎か。何れにせよ私の行動は決まった。
「此処は……!」
次の瞬間に私を囲んでいた植物は押し潰れた。ちょっとやそっとじゃ壊れない強度にしたんだけど、流石にこの領域まで来ると攻撃力も高まるよね。
植物の囲いは崩壊し、私はその魔物さんの死角に回り込んでいた。
「“樹拳”!」
『……!』
地面を掘り進み、背後からの奇襲。植物魔法からなる拳を勢いよく打ち付け、大きな粉塵を巻き上げて地面は拉げクレーターを形成する。
結構強めの攻撃を仕掛けたんだけど、相手はと言うと……。
『脱出していたか。ティーナ・ロスト・ルミナス』
「無事……頑丈だね……!」
腕を薙ぎ払い、私の体を風圧で吹き飛ばす。
かなりの肉体強度。殆どダメージを負った様子も無い。単純な硬さで言えばシュティルさん以上かも。此処は一旦距離を置いて──
『そんなに近くて良いのか?』
「………!?」
──刹那、何かが高速で迫り、私の頬を掠った。
咄嗟の反応で躱す事は出来たけど、直撃したらただじゃ済まない一撃。一体何が伸びたのか。それを見てみたら相手の腕だった。
「なんてリーチの腕……」
『色々と目立つのでな。本来の姿は隠していた。しかし、先日の騒動を起こしたティーナ・ロスト・ルミナスを前にするなら明かしても良いだろう。余はこの大会で、真の姿は明かさずに勝利してきたのだからな』
「………!」
メキメキと体の筋肉が撓り、徐々に肥大化する。脂肪とかじゃなく、繊維一つ一つが強靭な肉の塊。
体躯は大きくなり、腕は伸び、口から炎。体からは蛇が生えており、その蛇達は毒の息を吐いていた。
その存在によって周囲は揺れ、満月の空が曇り掛かる。この姿って……。
「魔物の王様……テューポーン……!」
『ご名答。まだまだ成長途中の為に体は小さいが、この程度の大会で優勝するには十分だろう』
テューポーン。
伝承では雲を突き抜ける巨体に星の端まで届く腕。炎や毒を撒き散らす存在。
でも本人が言うように、山みたいに大きな今の体でも本物には程遠い……なんなら私に合わせて大樹程度に留まっているや。
けれど間違いなく脅威的な存在だった。
「まさかテューポーンさんが“神魔物エマテュポヌス”に居たなんてね……新人さん……なのかな……?」
『そんなところだが、年齢で言えば主らに近い。スカウトで入ったと言ったところよ。魔物の国の中心部に拠点を構えていたのだが生温く退屈な日々を送っていてな。そこにシュティル・ローゼがやって来て余をスカウトした。余は奴より強いが、その気概に感心したんでの。丁度退屈していたのもあって乗ってやった次第よ』
「テューポーンさん……シュティルさんよりも……!」
シュティルさんよりも強いと豪語するテューポーンさん。話の内容から実際に戦った訳じゃないんだろうけど、魔物の国の無法地帯にて最も力の強い者達が集う中心部出身。これはとてつもない相手になりそう……しかもこれでまだ成長途中。人間換算なら15歳くらいなんだ……。
『それと、テューポーンさんと言うのは止してくれ。魔物の国どころか世界でも最強格であった余の祖先は力を誇示する為にもそれを名乗っていたらしいが、主らにとっては人間さんと言うようなもの。違和感がある。あまり変わらぬが、テュポンとでも呼んでくれ。余の略称にして名だ』
「うん……テュポンさん……!」
今までは小さな姿で戦っていたテュポンさん。今の大きさでも小さ過ぎるくらい。
この姿の実力も知らないけど、間違いなく強いのは分かる。これは今まで私が体験したダイバースの大会で、一、二を争う熾烈な戦いになるかも。
『さて、ちょっとした雑談は終わり。それなら戦いながらでも出来よう。……世界大会と聞いたが現状、退屈なのは変わらぬ。更に言えば中心部に居た時より暇だ。前の騒動を踏まえ、主は少しくらい楽しめると良いのだがな』
「そうだね。精進するよ……!」
ダイバース代表戦最終日、第一試合。私とテュポンさんの戦闘が始まった。




