第四百十二幕 後始末
「……!」
少し経ち、私は医務室のような部屋で目覚めた。
一度植物で全体を覆ったので稼働出来ているのか分からないけど、見慣れたダイバース会場の医務室みたい。
周りには誰もおらず、負傷者とかも出なかったのかな。それなら良いんだけど、やらかした事を考えると私だけが隔離された可能性も十分にあり得る。
すると医務室の扉が開き、水とタオルを持つボルカちゃんがやって来た。
「お、目覚めたか。おっはー。色々取りに行ったらそのタイミングで起きちゃったみたいだな」
「そうなんだ。あ、おはよう……で良いのかな?」
「ま、時間的には違うけど気にしない気にしなーい。取り敢えず起きたらおはようが一番分かりやすいぜ」
「アハハ……確かにしっくり来るね」
どうやらボルカちゃんはずっと看病してくれていたみたい。でもダメージによる気絶じゃなくて疲労による眠気だから、寝ていた時間はお昼寝とかと同じくらい。長くても二、三時間だね。
ボルカちゃんも来てくれたし、私は気になった事を訊ねてみる。その前に……。
「迷惑掛けてごめんなさい。本当に色々と……」
「いいって事よ。親友が苦しんでたら助けるのは当たり前だろ? ティーナが気にする事じゃないぜ! てか、もうさっき謝ってたしな!」
本当に心が広いボルカちゃん。快く許してくれた。……魔族の国に居た影響かちょっと魔族っぽい言葉も混ざってるけど。
謝罪を終え、改めて聞いてみる。
「それで私が出した被害については……」
それは植物魔法による周りへの被害。
星全体を覆い、ラトマさんとかの発言から一部地域では実力者が抑えていたみたいだけど、それでもお家とかの被害は多く出ていそうだから。
流石にその全てを謝るだけで許して貰える筈がない。せめてこの植物魔法で衣食住の確保くらい──
「ああ、それは大丈夫だ。ルミエル先輩が殆ど直してくれたってさ」
「…………。……え?」
ほとんど直した……? 世界中を……?
いくらルミエル先輩でもそんな事……。
「ま、それなりにキツイって言ってたな。幻獣の国や魔物の国はその構造上あまり手を加えなくても良いらしいけど、人間の国と魔族の国は凝った建物も多いから二、三日は徹夜を覚悟して行動するって」
「二、三日の徹夜!? そんな事で国の再建なんて……!?」
「ルミエル先輩なら可能なんだと。流石だよな」
「本当にスゴいね……」
方法は分からないけど、ルミエル先輩は私が起こした問題の大半を解決させるとの事。
規模は世界。一部種族の居住区以外本来の姿とあまり変わらない幻獣の国・魔物の国はともかく人間の国と魔族の国は本当にどうするんだろう……。
取り敢えず街や国の修繕はルミエル先輩に任せて良いって事なのかな。
「ま、ダイバース自体が世界的に中継されていたし、ルミエル先輩を含めてみんながある程度の火消しはしたけど、記者やインタビュアーがティーナに話を窺うって事くらいはあるかもな」
「それは仕方無いよ。私は世界中に沢山の迷惑を掛けたんだから。正直に色々話す」
「ま、インタビューはアタシ達も受けるからのらりくらりと躱して行こうぜ」
「アハハ、頼もしいよ。ボルカちゃん」
されて当然。非難の声は多く挙がると思う。だけどそれについてボルカちゃんも一緒に話してくれるとの事。
迷惑ばかり掛けているのにそこまでしてくれるなんて頭が上がらないや。
「気にすんな。親友だからな。一緒に色々背負うんだよ」
「本当にありがと。ボルカちゃん」
そして私達は医務室から出る。外にはウラノちゃん達全員が待っていてくれた。
「起きたのね。ティーナさん」
「目覚めましたわね!」
「ゆっくり休めたか? ティーナ殿」
「ティーナ・ロスト・ルミナス。相変わらずの魔力。最大の術を使ったらすぐに動けなくなる我も見習わなくてはな」
「それは見習う事なのでしょうか?」
ウラノちゃんにレモンさん。ユピテルさんにエメちゃん。他にも後輩達や本当にみんな。
こんなに思ってくれるなんて。このみんなが居るなら、私も面と向かって現実を直視する必要があるのかもしれない。
何はともあれ、私達はダイバース会場に戻った。
*****
「あ、ティーナ・ロスト・ルミナス選手達が出てきた!」
「お話を聞かせてください!」
「お体の方は大丈夫ですか?」
「あれ程の力を使った以上、まだ休んでいなくても大丈夫なのでしょうか!」
「……え? あれ……?」
なんか、思った反応とは違った。
何を思ってあんな事をしたのかなど聞かれると考えていたけど、私の身を案じる人達が多かった。
それは記者さん達だけではなく一般の方々もそんな感じ。
本当になんで……?
「ボルカちゃん。これ……」
「言ったろー? ルミエル先輩がある程度を落ち着かせてくれたんだ」
「本当に何したんだろう……」
「そりゃ、世界を修復したんだろうな~」
ルミエル先輩が何をしてくれてこんな対応になったのか、私に知る由は無い。
取り敢えずインタビューには答えなくちゃ。本当にルミエル先輩はスゴいや……。
─
──
───
──“数時間前”。
「植物が消えていく……」
「けど……」
「街が……国が……!」
ボルカさん達は無事に成功したみたいね。植物に包まれていた人達が解放され、緑が消え去り押し潰れた建物や瓦礫の山などを目にする。
信じられない物を見たような面持ちで固まり、人々は私の方を見た。
「ルミエル・セイブ・アステリアだ!」
「貴女が助けてくれたんですね!?」
「ありがとうございます……しかしこれは……」
「……そうね。今回の事を起こしたのは私の後輩であるティーナさんよ。だけど止めたのは“魔専アステリア女学院”を初めとしたみんな。それに他の子達も──」
一先ずティーナさんへの疑惑を払拭させておこうかしら。疑惑も何も原因ではあるけれど、その上でティーナさんへ向けられる可能性のある負の感情を和らげておく。
話術も鍛えているからそれくらいは可能。後はそこから噂が広がればティーナさんへ向けられる怪訝な意見も消え去るでしょう。
だけどそれだけじゃ完全には晴れない。後輩の為だもの。ある程度の問題は解決しておきましょうか。後輩達への負担は、もう卒業しているけれど先輩として私が減らしておくわ。
「成る程……」
「そんな事が……」
「しかしどうやって……」
話の方向性は変えた。少し緩和したわね。後は実行に移して更に収めましょうか。
「さて、それじゃあ建物の修復に向かいましょうか。ダイバース会場の構造は覚えているから、居住区やその他の地図を集めてくれますか?」
「は、はい。しかし一体……」
「とにかく、ルミエル・セイブ・アステリアさんの考えなら間違いはない筈。被害に遭った街の絵や写真を集めよう」
流石に全世界の地形を覚えてはいない。なのでその場所の痕跡を集める事を最優先とする。
近くに住んでいる人なら一枚くらいは持っている筈だし、そう言った物が無くても証言を得られるものね。
一番良いのは映像だけど、植物騒動で中身のデータが消えている可能性もある。だから形として残りやすい絵や写真って訳。
まずは負傷者とかの可能性を考え、ダイバース会場を戻さなくてはね。
「──“想像具現”」
「「「…………!?」」」
頭の中のイメージを魔力に変換し、そのまま表へと繰り出す。
これは永続的な魔力の具現体。ダイバースのステージにも応用しているものね。強度は今までの建物の数倍。私への負担は外部に漏れた魔力を集める事により、ノーリスクで実質無限の魔力を扱う。この独自理論で生み出した魔力操作との兼ね技は私の体力的な問題も解決出来るから重宝するわ。今はティーナさんの魔力の欠片が周囲に充満しているからより効率的に集められる。
あっという間にダイバース会場は再生させ、転移術で次の場所に向かう。
「さて、直ったわね」
そして次の街でも写真や証言を集め、元と変わらない建物を再生させた。
建物自体は良いけど、他の問題も当然出てくるわ。
「ああ……大事な資料データが……」
「会社の機密事項がァァァ……!」
「金貨50枚の超大型取引が……」
「お宝ファイル大全集が……」
「ボクのゲームがあああ!」
データ類etc.
魔力を形として残す事で絶対的な信頼があったけれど、ティーナさんの強過ぎる魔力によってそれら全てが消え去ってしまったみたいね。
流石にそれを修復するのは時間魔導の使い手が居ないと厳しい……訳でもないわ。
「大丈夫よ。それらは魔道具に仕舞われた物ね。それなら魔道具を修復して、その痕跡から消えたデータを収集。文字や数字には限りがあるから浮き上がってきた文字に当て嵌め、映像などは割り出された数字に画を組み込む。それを精密な魔力操作で形とし、より強固な物に……完成したわ。大事なデータを見る訳にはいかないから各々で確認して頂戴」
「おお、助かった!」
「ありがとう! ありがとう!」
「ルミエル・セイブ・アステリアさん!」
「ありがとう!」
「やったー!」
彼らは中身を確認。どうやら大丈夫だったみたいね。詳しくは見ていないから不明だったけれど、その反応からちゃんと直っていたみたい。
一人一人、今回巻き込まれた人達の何人にその様な修復物があるか分からないけれど、しっかりとそれも直していくわ。それが魔力関係無い物だったら推測と応用で何とかしなくてはいけないから大変だけど、何とかしたから良し。
「二、三日の徹夜じゃ済まなそうね」
後輩ちゃんには見栄を張ったけれど、実際はもっと掛かりそう。移動の手間は瞬間移動みたいな感じで省けるけれど、街の修復の際に集める資料。他の人達のデータ物や大事な宝物。それらを集めるのが大変ね。
取り敢えず暫くは後輩ちゃん達に会えなそう。ティーナさんの確認をしておきたかったけれど、それは全てが終わった後ね。
「他にも必要な事があったら連絡頂戴。世界中に点在するアステリア家の経営社に……そうね。このサインを持っていけば対応してくれるわ。悪用厳禁ね♪」
「「「は、はい!」」」
ま、悪用しようとしたらすぐに証拠は掴めるからしようとしても出来ないけれどね。
何はともあれ、話している暇はない。世界規模のダメージを修復していかなきゃね。
私は暫く世界を飛び回る事になりそう。
───
──
─
「ありがとうございました」
「では、記事を纏めて置きます」
「はい。本当にご迷惑お掛けしました」
ルミエル先輩のお陰で必要以上の質問は無かった。それどころか私の起こした事柄に対しての始末を付けてくれたなんて。
騒動にはなったけど、事は収まりつつあった。だって既にこの周囲は完全に修復されていたんだもん。
「本当にスゴいね。ルミエル先輩って」
「だな。取り敢えず、会場は戻ったけどダイバースはどうなるんだろうな」
「続行されたとしても私は辞退するよ。大きな迷惑を掛けちゃったからね」
「それなら連帯責任で“魔専アステリア女学院”で辞退すべきじゃないか?」
「それはボルカちゃん達に悪いよ。寧ろ止めてくれた側なのに責任を負うなんて」
私は出るべきじゃないけど、そんな私を止めてくれたボルカちゃん達には中等部最後のダイバースをして欲しいと思った。
全部私が悪いんだから、そこまで背負わせる訳にはいかないよ。
そこへ、他の選手達が来た。
「“魔専アステリア女学院”は辞退する必要は無い」
『ああ、このまましてやられてばかりなのは私達が気に食わない』
「優勝候補が居ない大会で切っても胸を張れないからな!」
『前回王者が出ないと張り合いも無い!』
『それは俺達全員の総意だ!』
私達の辞退を引き止める声。
此処に来た人だけじゃなく、今見えている今回の参加者達ほぼ全員がそう言った面持ちで構えていた。
優勝したいのは全員がそう。だけど、それは“魔専アステリア女学院”を破っての優勝。此処に居る人達がそれを思ってくれるなんて……。
「私からも同じ意見だ。此処に居る全員が優勝候補ではあるが、去年の優勝者である君達はその中でも特筆している。あの力を目の当たりにして改めて思った。君達と高め合いたいとな」
「シュティルさん……」
そして“神魔物エマテュポヌス”の代表としてシュティルさんも意見を出した。
参加しないつもりだったけど、本当に全員からそう思われてるなら……でも……。
「ハハ、汲み取ってやろうぜ。ティーナ。こんな時だからこそエンターテイメントは求められているんだ」
「こんな時の原因が私なんだけど……」
「気にすんな! 寧ろ出ない方が失礼なレベルになってるぞ!」
「…………」
周りを見れば『「うんうん」』とボルカちゃんの言葉を肯定するような選手達、及びお客さん達の顔付き。本当に……出て良いのかな……此処までされたら流石に断れないかも……。
「……うん……分かった……辞退はしない……その代わり……みんなを目一杯盛り上げるよ……!」
「その意気だ!」
「「「おおおぉぉぉぉっっ!!!」」」
「「「オオオォォォォッッ!!!」」」
『『『キュオオオオンッッ!!!』』』
『『『グオオォォォンッッ!!!』』』
私の声にみんなが賛成してくれた。
本当に恵まれているんだね。あんな事をしたのに許してくれるなんて……。これも全てボルカちゃんやルミエル先輩、みんなのお陰。私もいつか、みんなに恩返しを出来ると良いな。
私達が起こした植物騒動。一区切りが付き、ダイバースの大会も続行される事となった。




