第四百十一幕 胸の内の本音
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「太陽が……」
「流石だわ。さて、後は貴女よ。ティーナさん……ではなくティーナちゃんの方ね」
「……っ」
植物が断ち切られ、太陽が離れたのも確認した。
どうしてみんな邪魔をするの……? 絶対に寒いよりあたたかい方が良いのに……。
「みんな……邪魔ばかり……! 私の邪魔をするみんなが邪魔……! 今すぐお人形にして言う事聞かせる……!」
そんな事、思ってない。なのに本心と違う事が言葉として出てしまう。
それに、何故か私は自分と対話している気分になる。今の私と昔の私。二重人格ってやつなのかな……。そんな自覚は無いけど、妙な不安や焦燥に駆られる。今すぐ此処から離れて何かに隠れたい。そんな気持ち。
「消えちゃえ!」
無数の植物を放ち、みんなから身を隠すように覆い尽くす。
もうどうなってもいい。世界をあたたかく出来なかった。みんなは離れていく……ママももう……!
「違う違う違う!」
降り注ぐ植物。突き上げる植物。左右から挟み込む植物。あたたかくならないなら、せめて包み込んで世界をあたためる。
植物に炎を加えて更に温度を高め、全体を大きく炎上させた。
「“水球”!」
「……!」
そしてその炎の蔦にディーネちゃんが水をぶつけ、炎を消し去った。
他にもボルカちゃん達が駆け迫り、次々と植物を焼き払っていく。
「ティーナ! 詳しい事は分からんけど、取り敢えず正気に戻れ! アタシ達は居なくならない!」
「……っ」
嘘……嘘ウソうそ……! そう言っていたママも……信じてたのに……私の前から居なくなった……!
だから私は……!
「成る程ね。此処は一線引いて、貴女達に任せましょうか」
「ええ、任せてください! ルミエル先輩!」
「その為のサポートだけはしておくわ」
ルミエルお姉さんが魔力を放ち、周りの植物を全て消し去った。すぐに他の植物が補うけど、私達の前にはボルカちゃん達が……。
「取り敢えず、捕まえたー!」
「……!」
抱き付き、そのまま手を引かれて炎魔術で上昇。その後を他のみんなも追う。横を抜ける炎はちょっと熱かった。
「下じゃ植物で話し合いが阻止されるからな! 話し合いは此処だ!」
「物語──“雲島”」
ウラノちゃんが“魔導書”から雲を出し、そこが空に広がって陸地のようになる。
私達はそこに落ちた。
「……さて、貴女も行きなさい。今必要なのは少しでも多くのお友達。ちょっと上の先輩が出る幕じゃないわ」
「は、はい!」
またルミエルお姉さんが不思議な魔道具で誰かを呼び出した。
彼女はそのまま空へ上がり、私の前に来る。
「遅れました……ティーナさん……!」
「エメちゃん……」
エメちゃん。これで最も付き合いのある友人と後輩達が勢揃い。
フワフワの雲の上に立ち、周りに植物はやって来ない。私が無意識下でそうしているのかも。
「全員揃ったみたいだな。何から何まで手厚いサポートだぜ。ルミエル先輩」
「流石はルミエル・セイブ・アステリア。隅々まで行き届いている」
「みんなが集まったって……きっといつか居なくなる……誰一人だって欠けて欲しくない……」
私にはいつの間にか沢山のお友達が出来ていた。でも、だからこそ別れの可能性も多くなる。
それならいっその事、本当にずっと一緒に、お人形としてでも居る方が……!
「そっか。ティーナは本当に一人が寂しいみたいだな。悪かった。少しとは言え居なくなっちまって。前に絶対居なくならないって言ったのにな。……けど、ティーナも薄々気付いているんだろ? いくらそれを否定したとして、何れは訪れるって。アタシ達を人形にしたって、ティーナが話している相手は結局──」
「それ以上言わないで!!」
「その反応の時点で分かっているみたいだな。アタシ達がよく知るティーナは」
違う……違う違う違う……ママはお人形を依代にして体が治るのを待っているだけ……体は土の下の黒く四角い箱の中にあるけど……きっと戻ってきてくれる……!
本当に……?
「…………」
「ティーナの話し相手。それを否定し続けているけど、何処かを切っ掛けにその境界線が曖昧になっているみたいだな。もしかして、臨死体験的なので本人に会ったとかか?」
「…………………………」
一度、確かに一度、そんな経験があった。よくは覚えていないけど、確かに会ったような気がした。
前に魔物の国で、シュティルさん達と一緒にバフォメットと戦った時。その時私は……一回何処かを彷徨った。
ボルカちゃん、そしてエメちゃんは言葉を発する。
「アタシ達も殆ど覚えてないけど、前にルミエル先輩に助けられた時、ティーナによく似た人に会ったような気がするんだ。オッドアイじゃなかったけど、顔立ちや髪質が似ているな」
「……! そうでした。あの時確か、ハープを弾いたとても優しそうな女性が……」
「…………!? ハー……プ……?」
私がその時見た人も、そうだったかもしれない。私を見て哀れみの感情にも近いモノを浮かべ、悲しむような、微笑むような表情だった。
もしあれが本当にそうだとしたら、私が今まで話していた物は一体……。そう思うと現実を突き付けられるような感覚に陥り、全てを否定したくなった。全てを植物で囲みたくなった。
「ティーナもそうみたいだな。てか、アタシに内緒で臨死体験するなよ。そのまま逝っちまったらマジで号泣するからなアタシ」
「それは……ごめんなさい……」
「ああ、成る程。バフォメットと戦った時か。確かにあの時一度周囲に居た皆が死にかけたな。強敵だった」
「オイ! 戦いがあったのは聞いていたけどそれは初耳だぞ!? 親友のアタシに黙っていて、その上でアタシが今回石化したくらいで暴走したってのか!? ティーナァァァ━━ッ!!」
「わあ! ご、ごめーん!!」
何だろう……ボルカちゃんとこんな話をしているのに心がどんどんあたたかくなってくる。不思議な感じ。
アハハ……でも確かにそれについては黙ってた私が悪かったかも……。本当にあの時、多分そうなりそうだったんだよね。
隣ではウラノちゃんが笑っていた。
「やれやれ。すっかり立場が逆転したわね。と言うか、貴女が居なくなった私も悲しいんだけど」
「私もですわ!」
「私達もです!」
「無論だ」
「私は共に死に掛けた中だから保留だな」
「そうは行かぬぞ!」
寒い感覚。寂しい感覚。痛い感覚。その全てが和らぐのを感じ、急に眠くなってきた。
「……! 下方の植物が……!」
「消えていく……」
「本音をぶつけ合う事。それが大事だったのかしら。これでいいかは分からないけれど」
どうやら植物も消えたみたい。上からはママとティナ、そしてボルカちゃんのお人形が落ちてきた。
数時間の騒動。少し無茶をしちゃったのかな……。もっと話したいけど、今はちょっぴり無理かも。
「…………」
「ティーナ!?」
フラッと倒れ、私に当たったのは私達が立つ雲の感触ではなく、柔らかい人肌。横には赤い髪が風に靡いて揺らめくのを見届けた。
「……ったく、無茶し過ぎだ。まだまだ言いたい事は色々あるけど、今は休め。話はその後だ」
「うん……ごめんね。ボルカちゃん」
「良いって事よ。友達が先に謝ってきたら許さなきゃな。悪い事以外では。それが友達以上の親友なら尚更だ」
それはつまり、植物で世界中を覆った事は悪くないと言ってくれている。大勢の人に迷惑を掛けたのに、絶対に私が悪いのに……。
「取り敢えずゆっくり休め。後始末については後で考えよう」
「うん……ありがとう……ボルカちゃん」
その言葉でより安心感が高まり、急な眠気はそのまま安眠へ導入される。
私がした事。ママ達の事。ボルカちゃんの事。いつかは必ず向き合わなければならない。私の中に居る、幼い私と。
またいつ暴走しちゃうか分からない以上、私が解決しなきゃ……。私だけが……。
「おやすみ。ティーナ」
「…………」
私だけ……じゃないかな。頼んでみたら……ボルカちゃん達も手伝ってくれるかな……。
そんな事を思い、私は微睡みに沈むのだった。




