第四百十幕 支離滅裂自問自答
お日様を手に取り、私達の場所に引っ張る。
ちょっと大きくて重いけど、引けない程じゃない。今すぐ引き寄せてあたたかくしなきゃずっと寒いまま。
「流石に本気で貴女を止めざるを得ないわ。ティーナさん」
「ルミエルお姉さん……」
「そう呼ばれるのも悪くないけど、やっぱりいつもの貴女が良いわね」
お姉さんが私との距離を詰め寄る。だけど私達は止まらない……! ──止められない!
『………』
「あら、ティーナさんのお母様。ご機嫌麗しゅう」
『………』
ママが最強のお姉さんも止めてくれる。
無数の植物が伸び、その体を追い行く。お姉さんは魔力で覆って蔦を断ち、距離を置いて止まった。
(まあ、あれはお母様本人ではないのだけれど、それを話したらまた暴走に拍車が掛かってしまうものね)
仕掛けてこないね。本気になったならもっとガンガン攻めてくるって思ってたけどそんな様子は無い。
やらないの? それなら好都合。私の邪魔をさせない……!
『…………』
(それと、太陽の方も対処しておかなきゃね。私には少し難しいから──)
ママが更なる植物を打ち込み、全てを消し去られる。やっぱりルミエルお姉さんには通用しないみたい。他のみんなも何度も振り払っているから効果が無い。
少しやり方を変えよっかな。お日様が落ちてあたたかくなれば、きっと全てが終わるもんね。それまでの時間稼ぎ。
今までで一番みんなを止められた物を思い浮かべ、ママに頼んで植物で生成する。これが一番手っ取り早いよね!
「──“ティーナ・ロスト・ルミナス”」
『…………』
「植物魔法で自分を……!」
「そう言や、ティーナは人形役をするって言ってたな。そしてあれは木人……こう言う事だったのか?」
「分身にも近いような気がするけど、それとはまた別みたいね」
私を生み出してみんなと遊ぶ。土台は木のお人形さんだけど、見た目は私とそっくりにした。後ろに居るのが大きなママなら、等身大のティナって感じかな?
この子ならみんなと遊べそう。今ある植物のエネルギーを集中させ、お裁縫を趣味にしてから今までで一番の最高傑作が完成した。
「やっちゃえー!」
『………』
「速っ……!」
「赤木人よりも遥かに……!」
ティナは踏み込み、ボルカちゃん達全員に嗾ける。
他のみんなは反応が間に合わなかったけど、その前にはルミエルお姉さんが躍り出た。
「確かに、世界でもトップクラスの速度ね」
「やっぱり止めちゃうんだ~」
ルミエルお姉さんが正面から受け止め、その横からラトマ君が踏み込んで拳を振りかぶった。同時に殴り付け、爆発的な衝撃波と共にティナは消え去る。
「でも意味無いよ!」
『………』
「殴った傍から再生。再生も無効化しているんだけど、その部分が消えても周りの植物が補うから意味を成さないか」
色んな攻撃を無効化するラトマ君だけど、今の範囲では星その物を壊さないとすぐに直るよ。
そしてそんな事をしたらみんなを巻き込んじゃうからやらない……やれないよね。
『…………』
「そして単純な速さは俺以上……!」
ティナは回し蹴りを放ち、ラトマ君を吹き飛ばす。そんな彼をルミエルお姉さんが魔力で覆うように受け止め、流れるように片手を薙いでティナを破壊した。
だけど今回もすぐに再生するから平気!
「耐久力は大陸その物と同じくらいかしら。一挙一動にそのレベルの攻撃を叩き込まないといけないのは大変ね。それで再生して速さは雷以上。攻撃力の程は……」
「まだまだー!」
『…………』
「一概には判断出来ないけれど、強いのは間違いないわね」
ティナがお姉さんにパンチを打ち込み、その風圧で前方が抉れて大きな土塊を巻き上げる。そこは深い溝のようになり、正面にあった複数の山は余波で崩落。だけど溝と山は直ぐ様他の植物達が埋めた。
躱された瞬間にボルカちゃん達も差し迫り、私の方にやって来た。
「アタシ達はティーナの相手をするぜ!」
「うん! 遊ぼー!」
片手に炎を纏い、迫った手を植物でガード。横から更なる植物を突き出して嗾け、ボルカちゃんはそれらを焼き払った。
「それじゃあ、おままごとの中での鬼ごっこをしましょうか」
「オッケー!」
そうだった。私は今お人形。だからおままごとの中で鬼ごっこも出来る。
今の流れから私が逃げる役かな? ちょっと鬼の数が多いけど、問題無し。ママの植物が付いてくれるから!
「“ファイアボール”!」
「やって」
『ゴギャア!』
「“光球”!」
ボルカちゃんの火球。ウラノちゃんのドラゴン。ルーチェちゃんの光球。それらを植物で防御し、薙ぎ払って弾く。
その横からはシュティルちゃんとレモンちゃん、ユピテルちゃんがやって来た。
「鬼ごっこ。触れたら私達の勝利か」
「今のティーナ殿相手では大変だな」
「しかしまあ、やれぬ事もなかろう」
木刀と天候、雷。それ全部を防ぎ、三人の体も吹き飛ばす。
その後に続くよう、年下の子達も仕掛けてくれた。
「先輩! 元に戻ってください!」
「調子狂うんスよーっ!」
「先輩……!」
「先輩……」
ディーネちゃん達。そしてムツメちゃん達も。私、こんなに沢山のお友達が出来たんだねぇ。嬉しいなー。スゴく嬉しい!
━━でもダメ。そんな大事な人達は何れ居なくなってしまうから……! だから止めなきゃ……! ──ママは居ないけど、みんなは此処に居るんだよ。━━でも、もう関係無い。もうすぐみんな、あたたかくなるんだから。
「……! 急に温度が……」
「近付いてきたみたいね。太陽が」
「大気も海も何もかも蒸発してしまう……!」
アハハ、ポカポカしてきた。私に指図しないでよ。私は私なんだから。
みんな一緒にあったまろうね!
「……太陽の方は手配しておくから何とかなるかもしれないけれど、それによって生じる影響が大きいわね。少しの間この場を空けるけれど、ラトマ。ボルカさん達。大丈夫かしら?」
が
「俺は問題無い。ダメージにはなるけど抑えられる」
「アタシも大丈夫ッスよ! ルミエル先輩!」
「ふふ、頼もしいわね♪」
それだけ告げ、ルミエルお姉さんはどこかに移動した。
何をするつもりなんだろう。分からないけど、分かる必要も無い。私はこの場のみんなを拘束するだけ!
「捕まって!」
「更に鋭い植物が……!」
「そっちの方は任せた。此方も大変だ」
『…………』
ボルカちゃん達は蔦から逃れ、ラトマ君はティナの相手。
蔦へ炎に光、あらゆる魔導をぶつけて薙ぎ払い、ティナが殴り飛ばされるも再生。ラトマ君を逆に吹き飛ばし、追撃のように無数の植物を叩き込んだ。
「カハッ……!(俺がダメージを負うなんて……範囲は狭いように見えるけど一撃一撃に一点集中しているんだ。余計な破壊や余波を生まない完璧な攻撃か……)」
ラトマ君は赤い液体を吐き、その上から植物で押し潰す。ボルカちゃん達の対応も間に合わず植物は巻き付き、そのまま締め付けて骨をミシミシと軋ませた。
「アグァッ……!(骨が折れた……! マジでティーナ……いや、完全に自分の意思からも外れた行動みたいだ)」
「━━アハハ! みんなが一緒! 巻き巻き一緒! ずっと一緒に居れるんだ! ──こんな事しても幸せにはなれないよ。もうママや私の事は……━━うるさい! うるさい! うるさい! うるさい!」
(自分と喧嘩してらァ……二重人格……とも違うか? 近いけどな。大切な物を失った昔のティーナとアタシ達と付き合いだした今のティーナが……あ……ダメだ……思考の前に意識が飛ぶ……)
みんなは捕まえた。ちょっと強引になっちゃったけど、どうせお人形にするんだもん。少しくらい壊れても直してあげる。
世界はもうすぐあたたかくなる。これでもう、全部おしまい。これで世界は──
「───何とか間に合ったわね。全部終えてきたわ」
「あ、ルミエルお姉さん」
随分と早いお帰り。何をしてきたんだろう。折角の拘束を解き放ち、そのままみんなに回復魔術を掛けて完治させた。
「━━ルミエルお姉さんはなんでそんなスゴい力を持っているのに、私には一向に仕掛けてこないの?」
「……貴女は……差し詰め幼い頃のティーナさん……ティーナちゃんかしら。ふふ、そうね。戦う必要が無いからよ。今のこの世界、私達が戦うとしたらスポーツの一貫か、予期せぬ敵が現れた時だもの。今はスポーツも中断。敵なんて居ない。戦う理由が無いのよ」
「──なんでですか……? 私は……みんなを苦しめてるんですよ。ルミエル先輩……私の意識もある……なのに……」
「今度は私がよく知るティーナさん。ふふ、悪意の欠片も無いじゃない。自分でも止められない力の暴走……この世界では割とよくあるのよ。それが可愛い後輩の為なら、私が解決してあげる」
私と私がルミエル先輩と話す。既に太陽は落ちてきている。仮に止められたとしてもこの接近。この星は終わる。
「もう遅いよ。みんなポカポカになるの!」
「そうね。だからそうならない為──太陽系に結界を張ったわ」
「太陽系に……!?」
太陽は既に大きくなっている。気温も次第に……あれ?
「温度が……」
「まずは私達の星を魔力で包み込んだ。これで接近した太陽からの影響を抑えられるの。後は他の必要な天体……太陽系にある無数の惑星や衛生に張って守ったわ」
「そんな短時間で宇宙空間を……!」
「ふふ、研究が進んでね。前にボルカさん達が提供してくれた技術がやっと形になってきたから運用出来たわ。まだ完成ではないのだけれどね」
「だけど! 太陽が落ちればそれも……!」
「それについても大丈夫よ。頼れる人が既に異変に気付いていたから同時に準備をしていたの」
「…………!?」
何を言ってるの……? 意味が全然分からない。落ちる太陽を止められる人なんて……!
「ふふ、生ける伝説……多くは語らないけど、かつて多元宇宙を舞台に戦った英雄パーティーの一員だもの」
「…………!」
─
──
───
──やれやれ。まさか今の時代に太陽にまで届かせる力の持ち主が居たか。末恐ろしい才能よ。
「しかし、それはルミエル・セイブ・アステリアもだな。流石はアイツの子孫……太陽に迫ってもヴァンパイアの肉体が消え去らぬ魔力を張ってくれたか」
私は太陽に手を翳す。地上から何度も見、何度も苦しめられた忌まわしく、美しい存在。何れ崩壊するらしいが、それは今では無かろう。
今はまだ、あるべき場所に留まっておけ。
「かつては多元宇宙を崩壊させ兼ねん規模の戦いがあった。銀河系や宇宙を新たに創造してぶつけるなんてザラ……私は流石にそのレベルは無いが……太陽を帰す事くらいは出来よう」
歳を取ると独り言が多くなる。そろそろ頃合いかもしれないな。この数千年で世界の行く末は見ていたが、愉快な者達も台頭してきた。
あと数百年程経たら、皆の元に行くのも悪くないか。
「沈まれ。太陽」
念力を太陽に向けて放ち、元の位置に戻す。太陽に匹敵する巨大な植物も消し去り、私の役目は終えた。
「後は若者達の役目。古きは隠居して然るべきよ」
そのまま私は我が星に帰還。さて、若人達よ。後は主らが切り開くが良い……と、それっぽい事を言ってみた。私は茶目っ気があるんだ。




