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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部三年生
411/457

第四百九幕 引き寄せ

「お人形にしてあげる!」

「なりません!」


 植物を無数に放ち、ムツメちゃんは触れるだけでそれを消し去った。

 やっぱり普通には捕まえられない。だけど物理的な力なら効く。周りは魔力から作られた物だけじゃないもんね。だってこの世界の全部、私のテリトリーなんだもん。


「それ!」

「……ッ!」


 ムツメちゃんと同じくらいの大きさはある土塊を引き抜き、それを彼女にぶつけた。

 魂をお人形にするとして、あまりやり過ぎると元の体に戻る時の土台が無くなっちゃうもんね。だからぐちゃぐちゃにしちゃダメなの。

 強い衝撃を受けたムツメちゃんは吹き飛び、植物の壁に激突。その間に鋭利な樹を生やし、両手足を貫いた。


「……ッ」

「あー、やっぱり少し意識するだけで魔法なら解けちゃうね~」


 ちゃんと貫通したけど、無効化の力を込める事で消し去って脱出。でもあのダメージ。魔力を込めない常人と同じくらいの強度であるムツメちゃんには少しツラいかな。

 可哀想なので周りに回復の花を咲かせ、空気経由で痛みを和らげてあげた。これなら変に意識しないから無効化されないよね。


「痛みは引いたかな? 後は動きを止めるだけだね!」

「……っ」


 ママの植物魔法だけじゃ効かない。なので外から更に複数の土塊を持ち上げ、その全てをムツメちゃんに構えた。

 じゃあ早速投擲開始!


「そーれ!」

「……!」


 一つの土塊を放り投げ、ムツメちゃんは飛び込むように回避。土塊が砕けて砂塵が舞い上がり、それを突き抜けて次の土塊が落下した。


「くぅ……!」


 直ぐ様立ち上がってそれも避けるムツメちゃん。落下のたびにお城の床は壊れちゃうけど自動的に修復されるからずっとキレイなまま。

 次から次に放り投げ、ムツメちゃんは飛び込み駆け出したまに他の物を壁にかわしていく。

 動きは遅いけど、観察力が高い。だからどこに落ちてくるかを予測して上手く避けてるんだね。スゴいスゴい!


「でも、これは避けられないでしょー?」

「……っ。更に複数の……!」


 連続して投げてるとは言え、結局は一つずつになっちゃってる。なので今度は数十個を同時に投げるの! 土塊の雨を降らせてあげる! これなら見切ったところで逃げ場が無いもん! ムツメちゃんの速度なら簡単に当てられるからね!


「これでおしまーい!」

「……!」


 瞬間的に複数の土塊を同時に降下させた。

 総合的な範囲は数百メートル。落下までの時間は一秒にも満たない。魔力を纏わない常人の脚力でこの速さは流石に避けられないよね!

 反応する間もなくムツメちゃんは土塊に押し潰され、土塊同士が衝突して一際大きな粉塵を舞い上げた。


「後はムツメちゃんもお人形にして、みんな仲良しのダンスパーティーが始まるね!」


 土塊の下敷きになったであろうムツメちゃん。すぐにそこから出してあげる。

 土塊を退かすとそこに──ムツメちゃんの姿は無かった。……あれ?


「ムツメちゃんが居ないや。ぺっちゃんこになっちゃった? でもそれっぽい物は無いよね」


 探してみるけど、ムツメちゃんはどこにも居ない。そこにあるのは変わらない床だけ。

 床と一体化した訳でもない。本当にどこ行っちゃったんだろう。気配を読もうにも彼女に魔力は宿っていないから読めないし、見つける術は無くなった。試しにティナを飛ばしてみたりしたけど、周りに居る訳でもない。


「……?」


 次の瞬間、周りの植物が根本から崩れ落ちた。

 どういう事? ママの力が維持出来なくなった訳がないし、重さの問題も特に無いのに。

 見る見るうちに周りは崩れ落ち、お城は崩壊する。お城はまた建て直せば良いけど……あ! ボルカちゃん達が大変!

 私は慌ててそちらの方に向かい、その近くから声が聞こえた。


「──私の無効化は……対象に触れるだけで影響を及ぼします……! それが先輩方を拘束する植物に作用すれば、根本から壊れて脱出できますから……!」


「ムツメちゃん。一体どうやってあの土塊から……」


 押し潰した筈のムツメちゃん。彼女の腕力では土塊の重圧へ対応する事は出来ない。

 それなのに移動しており、ボルカちゃん達を結ぶ樹の近くに立って壊しちゃった。……そっか。土塊が落ちる瞬間に床に穴を空けて避けたんだ。


「せっかく作ったのに……壊しちゃダメー!」

「……! 雰囲気が急に……!」


 壊された。また一からみんなをお人形にしなきゃ……。

 酷いよムツメちゃん。私はただ、みんなとずっと一緒に居たいだけなのに……!


「もう怒ったから! もう知らない! どうせ壊すなら、全部壊れちゃえ!」

「……!」


 怒ったよ! もう怒った! そんなイジワルするなら仕返ししてやるー!


「落ちてきて!」

「……!? 空に異変が……先輩方! 起きて下さい!」


 ムツメちゃんはボルカちゃん達に触れ、そのまま起こしてしまう。また捕まえなきゃいけないなんて大変だよー!

 本当にメチャクチャ! だったら全部無くしちゃえばいいんだ!


「……っ……状況は……」

「はい! 今は空から……!」

「……! 植物が天空に伝って……!」


 蔦を伸ばし、お空の隕石を確保。それを高速で地上に降下させ、雲は掻き消えお空からその隕石を落とした。


「ラトマの時にやった……!」

「癇癪で自分の住む星をも壊そうと言うのか……! ティーナ・ロスト・ルミナス……!」

「自分でもどれ程の被害が出るのかはよく分かっていないかもな。以前のティーナ殿より様子がおかしい。判断能力も低下していると考えて間違いないだろう」


 これが落ちればみんなは謝ってくれるかも。だってムツメちゃんが悪い事をしたんだからね! 連帯責任!

 全部ぜーんぶ、吹き飛んじゃえ!


「これを止めるには最大級の……!」

「ダメだ! 力を込めるには落下速度が速く、間に合わない!」


 周りの植物は衝撃波で大きく揺れて吹き飛び、吊るしてある他のチームとかのみんなもユラユラ揺れる。

 大丈夫。お人形さんを壊したりしないよ! ただお仕置きするだけだから!


「これでは───」


 隕石の直撃は免れないよ! 今度こそこれでおしまい!

 着弾前、隕石はお空で崩壊を喫した。……つて、あれれ~?


「……! 隕石が空中で……!」

「爆散した……? 大気の影響か?」

「いや、これは……」


「──やっと国の面々の避難を完了させたんだけど、またこれを砕く事になるとはな」


 空中に見えるは一人の男の子。あの子も知ってる。

 隕石を衝撃波ごと粉々にし、私達の前に降りてきたのは──


「ラトマ君!」

「くん……? なんか様子がおかしいな……」


 魔族の国のラトマ君。

 みんなのお仕置きに落とした隕石なのに破壊しちゃった。前は片腕をボロボロにしたけど、今回はその様子も見受けられない。


「ラトマ! 腕は大丈夫か!?」

「ああ。あれからマジで鍛えたからな。もうあれくらいじゃ怪我しない」

「へえ。流石だな~」


 スゴく練習したんだね~。だけどその性質から捕まらなかったラトマ君が来てくれたのは好都合だね。だって一緒にお人形に出来るもん!


「ラトマ君もお人形になろう!」

「……! これは流石に……」

「大変そうか?」

「それどころじゃないな」


 一つがダメなら更に複数。数十個の巨大隕石を降下させた。

 これなら止められないでしょ~。負けないんだから!


「一つですら星に終焉をもたらす隕石が更に複数か」

「一つずつを砕くのも骨が折れる……で済めば御の字だな」


 沢山の隕石が雨のように降り注ぐ。その余波で星は揺れ、全部をみんなの元に落としてく。流れ星ごっこだね!


「まだまだね。ラトマ」

「……!」

「ルミ姉……!」


「あーっ!」


 するとルミエルお姉さんが現れ、お星様を破壊しちゃった~!

 もう! 全員が向こうの味方~! 1vs多数なんてズルいズルい~!!


「もう! みんな邪魔ばかりして! なんでなんでなんで!」

「ティーナさん。私達は居なくならないから、縛り付けるのは止めたらどうかしら? 早く元に戻して、みんなで一緒に過ごしましょう」

「だってだってぇ……」


 みんなはいつか居なくなる。それはいつか訪れる未来。そう、ママみたいに……。

 ──分かってる。心の底では理解している。もうきっと、ずっと会えない事は……━━そんな事はない! きっといつか体が戻れば……! ──もう、戻る体も無いんだよ。だってママは……━━そんな事はない! 絶対に!


「…………」


 ママの事を考えると、何故か体が寒くなる。鳥肌が立つような、何かを見つめたくないような、そんな気持ち。

 寒い……寒い寒い寒い……寒い寒い寒い寒い寒い……。なんでこんなに寒くて……涙が溢れてくるの……?


「寒い……寒い……暖かくしなきゃ……世界を温めなきゃ……!!」

「……!」

「これはマズイわね……!」


 周りを囲むようにママの植物が覆い尽くす。ルミエル先輩はみんなを移動させ、また私はここに残っちゃった。

 だけどママは温めてくれている。でもまだまだ寒い。もっと暖かくしなきゃ……! そう言えば昔……。


【──ねえママ! なんでおひるはあたたかいの~?】

【ふふ、それはね。太陽さんが私達を見守ってくれているからよ】

【そうなんだー! たいようさーん! ありがとー!】

【ふふ、私の植物魔法も太陽さんが大好きなの】

【そうなんだ~】

【けど、一番大好きなのはティーナとパパ。家族のみんなよ!】

【ホント? わーい!】


 ──あ、そうだ。寒いならお日様があれば良いんだ。今はあんなに遠いから、もうちょっと近付けちゃおうかな。


「暖かくしなきゃ……温かく……もっと……」

「植物が天空に……!」

「もしかして……そんな事……」

「……今のティーナさんなら或いは……有り得るわね」


 お空の遥か上。まだまだ天■のママには届かないけど、温かくする事はできる。

 植物はどこまでもどこまでも伸び、あたたかいお日様を掴んだ。


「もしや……!」

「ええ。今のティーナさんは……──太陽をこの星に落とそうとしているわ……!」

「んなバカな!? そんな事を植物でッスか……!? そもそも掴むとかそう言う次元じゃ無いッスよ!?」

「そうね。本来ならそう。けど、魔導は思い込む事が大事。それでも本来は限りがあるんだけれど、今のティーナさんには際限が無いみたい」

「んな……!」


 あたたかくするならお日様が大事。もう全部……私はお日様を星に引き寄せた。


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