第四十一幕 謎解きゲーム終了!
「最後の文は……“最後に来たのが東に位置する人間の国。それらが合わさる事で生まれる到達点がゴール”。……かぁ。合わさるってのが何を指し示しているかだね」
「この石ころの事を言っているのか、はたまた別の何かか。どちらにしても人間の国に位置する場所に向かってからだな」
東側にある人間の国モチーフの場所……って、私達の居る場所が区分するなら人間の国だからなんか変な感じ。
取り敢えずそこに向かってみる。
「森の東側は……」
「山だな」
「山ね」
「山ですわ」
学院が所持している山だった。
私とボルカちゃんがたまにお昼を食べる山とは違う場所だけど、近いから割と見慣れた雰囲気はあった。
「此処が人間の国設定か。後半に体力を一気に消費しそうな場所だなー」
「一時間くらい歩きっぱなしだから結構疲れたのに……」
「ルミエル先輩ってスパルタだものね」
「そうでしたわ……畳み掛けてきますの」
思えばおかしくはない。ストレッチはしたし、歩き続けているから足の方も慣れてる。つまり登山には絶好のタイミング。体力以外は。
気圧されるよりも行動する方が先決。私達は身体に魔力を込めた。
「行くしかねーか!」
「うん……!」
「体作りも必要だもんね」
「そうですわね」
魔力で身体能力を向上。そのまま踏み込み、一気に山を駆け上がる。
何処に何があるのかは分からないけど、そんなに大きくはない山だから一先ず頂上に行ってから事を考える。
数分で登り終え、私達は頂上に到着した。
そこにあったのは紙が張られた看板。
「文章?」
「説明でもヒントが散りばめられてるって言ってたから、それの事かもな」
「じゃあ読んでみるよ。──“神々に挑む英雄達へ霆が降り掛かる。全知全能の神は英雄の力を試し、英雄を認めた”……だって」
全知全能の神様と英雄の対決についての文。
今回の肝は“霆が降り掛かる”ってところと“英雄の力を試し、英雄を認めた”って箇所かな。
「“全知全能”の部分は省略しても良さそうだね。今までの“破壊を生み出す神”や“幻獣達の王”。“魔物達”みたいに個々を指し示す言葉は直接関与はしていなかったもん。簡単に言えば魔力で作られた魔物とか、一目で分かる事だったからね。無しの方向で考えると良いかも」
「だな。“霆”と“認めた”。それが重要だとして、考えられる線は──」
「何らかの方法で雷をこの看板の所に落とす……かな」
文脈から読み取れる単純な答え。それは雷を落とすというもの。
問題点は雷魔法を使える人が私達の中では誰かって事だね。
「ボルカちゃん。雷魔法は?」
「アタシは無理だ。風の系統でもないしな。習えばやれるだろうけど、中等部のうちは自分の系統の派生が中心だ。……ルーチェ達は?」
「私もダメですわ。あくまで聖魔法と光魔法。ボルカさんの言うように雷もそのうち使えるようになるかもしれませんけど、今は使えません」
「私は本のキャラクターでギリギリかな。ドラゴンとか何らかの魔導師ならイケるかもしれないけど、そんな単純かしら?」
雷魔法……かは分からないけど、現状だとウラノちゃんに可能性があるくらい。
だけど最後のミッションがこれって言うのは少し思うところがある様子。もう一つ工夫が必要なのかも。
改めて文章を黙読する。
「……神々に挑む英雄……。ねえ、もしかしてこの一文が関わってくるんじゃないかな」
「……そう言えば、文脈だと一人で戦っている風だけど、“神々”って言葉は複数を表してるな」
「それじゃあ、複数人でどうしろと?」
「分かりませんわ……」
読んでみたら一人の神様が相手しているようだけど、最初の時点では複数人が相手になってる。
つまりその事について考えれば……。
「……狙いはこの場所じゃなくて……山全域……?」
「「「………!」」」
私の言葉にみんなが反応を示す。
すると何かを思い付いたように、補足を加えるようにウラノちゃんが言葉を綴った。
「そうよ。確か山は神様の居場所って言い伝えがある。だから数え方は“座”。そしてこの山……一つのようだけど実は小さな山と大きな山で二つある……!」
「私とボルカちゃんがお昼を食べてる場所!」
「そっか! 確かに彼処とは離れてるけど、現在地と別々なら最低二人の神様が居る事になる! “神々”に該当するぞ!」
「つまり、二ヶ所に雷を降らせて受ければ……!」
「危険かもだけど、マ……私の植物魔法なら二つのポイントに樹を生やして受ける事が可能だよ!」
「それじゃ、早速試してみましょう!」
「うん!」「ああ!」「ですわ!」
ウラノちゃんも若干の興奮を見せながら魔導書をパラパラと開き、私はママとティナに魔力を込めた。
ティナを先行させて私達がよくお昼ご飯を食べる場所に置き、明らかに後から置かれた看板を発見。
狙い目はそこ!
「“顕現樹木”!」
最初に私達の居場所に樹を生やし、時間が無いので即座にティナの送り込んだ場所にママも行かせて樹を生やす。
ウラノちゃんの準備も終わっていた。
「物語──“雷神”!」
『──!』
ドラゴンでも魔導師でもなく、出現させたのは広範囲へ落とす事が出来る雷神様。
ドン! と背の太鼓を叩き、直後にピカッと光る。次の瞬間には天雷が降り注ぎ、二つの樹に直撃した。
「……出てきた! 丁度二つの山の中心部に箱が!」
「よし来た!」
ティナを伝って上空から確認し、山間部に現れた箱を確認。
ボルカちゃんは魔力を込め、ジェット噴射のように爆炎を放出してその場所へ。
即座に回収して戻り、ルーチェちゃんが私達の手を引く。
「しっかりと掴まって下さいまし! 最後の文……“それらが合わさる事で生まれる到達点がゴール”という事は……!」
「ゲームが始まった看板のあった場所!」
「ですわ!」
ママの植物魔法で全員を包み、ボルカちゃんの炎魔法で加速。その際に生じる衝撃はルーチェちゃんの聖魔法で和らげ、一気に山を降るようにスタート地点へと戻った。
「「「「ゴォォォォル!!!」」」」
「……! いきなり現れたわね……!」
ズズーン! と樹の塊が落ち、既に待っていたルミエル先輩を確認。
他の先輩達もおり、私達は四人それぞれ見つけた石ころを見せた。
「魔族の国で見つけた黒い石です!」
「魔物の国にあった赤い石だぜ!」
「幻獣の国にあった……と言うより先輩達が渡してくれた黄色い石ですわ!」
「人間の国にあった……白を基調とした虹の石」
「……ふふ、ちゃんと全部を回収して四つが交わる到達点……即ち中心部に戻ってきたわね」
誇らしげに石を見せ、ルミエル先輩は微笑ましそうに笑う。
片手を挙げ、宣告した。
「新入生vs先輩達の対抗謎解きダイバース。見事貴女達の勝利よ!」
「やったー!」
私達の勝利宣言。
時間は一時間と五十分くらい。悠長に降りてたら間に合わなかったね。
結果として、私達は見事勝利を収めた!
「お見事♪ 英雄達の旅路は長く短い……原点であるスタート地点に立つ事で一番最初の文も回収。貴女達の完全勝利ね。その石ころはお礼よ。そうね、丁度貴女達四人の持ってる物が良さそうね♪」
報酬はこの石ころ。
結局これはなんだったんだろう? とても綺麗な石だけど、宝石には見えないよね。
するとルミエル先輩は片手に魔力を込め、横に線のような物を引いた。
「“解除”」
「「……!」」
「「……!」」
石ころは割れ、中からキラキラした石ころと同色の何かが現れる。
ルミエル先輩は笑顔を浮かべて言葉を続けた。
「ティーナさんが持っているのは“ブラックダイヤモンド”。ボルカさんが持っているのは“ルビー”。ルーチェさんが持っているのは“トパーズ”。ウラノさんが持っているのは“オパール”。どれもこれも本物の宝石よ♪ 一週間近く経ったけど、少し遅れた入部祝いね!」
「ブ、ブラックダイヤモンド!?」
「ルビーって……マジすか!?」
「トパーズ……確かに本物ですわ」
「オパール……白い綺麗な宝石」
それらは全て本物の宝石であり、私達にプレゼントしてくれた。
どれもこれも立派な代物で、金貨数百枚以上の価値はあるよ……。ちょっとしたお屋敷が建つくらいの価値。
「そんな悪いですよ! 入部祝いって……!」
「フフ、今回のゲームは最初からそれが目的なの♪ ただ渡すだけじゃ味気無いから、楽しんだ後に苦労の末に手に入れる。良い催しでしょう?」
「けどこれってお屋敷くらいは建つ価値が……」
「そんなの大した金額じゃないわ♪ 学院と実家の総資産からしたらね! けど、とても大事な物。私自らが厳選した特注品よ。とても大事な後輩である貴女達だからプレゼントしたの♪」
今回のゲームは最初からこれが目的だった。
後輩の為に此処までするなんて……お嬢様学校の理事長の娘とは言え、合計でお屋敷が複数建つ程の金額を出すのはスゴいとしか言い様がない。
「安心してね。悪銭とかじゃなく、ちゃんと私が自分で稼いだ物だから!」
「自分で!? 一体何をして……!?」
「フフフ……ヒ・ミ・ツ♡」
「……っ」
怪しい。スゴく怪しい。
お嬢様でもそんなポンって渡せる金額じゃない……! 大した事無い訳がない……!
するとイェラ先輩がこっそり耳打ちしてくれた。
「案ずるな。ルミは色々と事業展開しているからな。既に自分でかなり稼いでいるんだ。ちゃんとノーマルな職種だ」
「そ、そうなんですか……良かったです……」
怪しい企業とかじゃないみたいでホッと一息。
何度も思うけどスゴいね。ルミエル先輩。学生なのにしっかりしていて。
何にせよ、これでダイバースは完了。私達は先輩にとても綺麗な宝石を貰い受けた。
───
──
─
──“翌日”。
「おっはー! ティーナ!」
「おはよう! ボルカちゃん!」
「おはよう。ティーナさん。ボルカさん」
「おはよう! ウラノちゃん!」
「おっはー! ビブリー!」
「おはようございますわ。皆様方」
「おはよう! ルーチェちゃん!」
「おっはー! ルーチェ!」
「おはよう。ルーチェさん」
次の日の朝、登校時間。私達は“ブラックダイヤモンドのブローチ”や“トパーズのイヤリング”。“ルビーのネックレス”に“オパールのブレスレット”など、アクセサリーとして貰った宝石を身に着けていた。
みんなとても似合ってるね! 周りの目も一際輝いて見える!
私の“魔専アステリア女学院生活”。今日もまたいつもの日常が始まった。




