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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部三年生
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第四百七幕 引火

 ──寒い。

 その感情が、私の脳裏を過った。

 今の季節は暖かく、むしろ暑いとも言えるもの。なのに何だかとても寒く感じる。周りは植物が覆い、ママが抱き締め、温かい筈なのに……何だかとっても寒かった。

 何故こんなに寒いのか。みんながまたやって来たので心身ともに温もりを感じる筈なのに、とてもとっても寒い。

 もう少し体を動かそうかな。体を動かせばどんな寒さも凌げる。それとも、もっとお日様が近ければ暖かいのかも。



*****



「先手必勝!」

『…………』


 数倍は強そうな赤木人。相手の動向は通常種と同じ。単純にパワーとスピードと精密性が高いくらいだろう。

 つまり強敵って訳。なので先に仕掛け、ただひたすらに討つのみ。


「そらよっと!」

『……』


 懐へと差し込んで炎を纏い炎で加速した拳を打ち付け、その体を殴り飛ばす。そこ目掛け炎を放出して追撃。

 吹き飛ぶ最中に燃え広がり、レモン、ユピテル、新たに加わったシュティルが仕掛け行く。


「はっ!」

「“雷槍”!」

「ふっ……」


 燃え盛る赤木人を木刀で打ち抜き、壁へと衝突させる。同時に雷で貫き、集めた空気を解放して生じた衝撃波で一気に吹き飛ばす。

 それによってまた壁に激突し、透かさず追撃。動きが止まった今、近寄るのは危険なので遠距離からの攻撃に集中し、一際大きな粉塵を巻き上げた。

 その煙を植物が薙ぎ払い、全てを消し去る。そのまま攻撃へと転じ、アタシ達は植物に弾き飛ばされた。


「一々距離を置かれるな……!」

「その距離もあってないようなものだけどな……!」


 飛ばされた瞬間にその距離は詰め寄られる。本体じゃなくて腕となる植物がだけどな。

 当然この速さにはまだ対応し切れず押し切られ、壁を粉砕して外へ飛び出す。外ってもまだ巨大植物の中だけどな。此処の広さだけで複数座の山以上はあるんだ。


『…………』

「抜かり無しだな……!」

「だが動きは直線的。防げぬ事はない」

「ああ。最終的にはアタシ達に向かっている訳だしな! ただひたすら真っ直ぐにな!」


 反応出来ない速度とは言え、来る事は分かっているので来ると思った瞬間にガードを固めればダメージを最小限に抑える事は出来る。通常の木人からそうだな。

 今まで食らったのも何らかの理由で防御が遅れた時だけ。対処法があるとすればそこだ。

 アタシ達は赤い木の鞭を防御し、その鞭に触れた。


「導線みたいに伝えてやるぜ!」


 鞭を炙り、そのまま炎を木人に向ける。

 まあ仕掛けがある訳じゃないから火元を伸ばすのはアタシ自身だけど、体躯は広いから効果的だろう。

 大したダメージにはならずとも、向こうからの攻撃を弱めたり目印として行動し易くしたり用途は様々だ。

 アタシは燃え盛る赤い木を見やり、ふと当たり前の事を思い付いた。


(……そう言や、燃料って使うと無くなるよな)


 それは、初等部に入る前の幼児ですら理解している周知の事実。

 けどそんな当たり前、当然の事がティーナの植物魔法に対して有効なのではないかと思えた。


(……アタシの炎は謂わばアタシ自身の魔力を燃料にしている訳だもんな。魔力が炎に変わって放出している……もしそれがアタシじゃなくて別の魔力なら……実際、小さな炎でも何処かに引火したら大きくなる。アタシの使用した魔力総量を越えるんだ。それについて炎の解釈を広げれば……)


 ティーナの魔力は無尽蔵。それによって生み出される植物兵も然り。だからこそアタシの炎に対し、アタシの魔力を触媒にしなければ……。


「……イケるかも……!」

「……? 如何した?」


 一人言のように呟き、隣では小首を傾げるレモン。

 魔力操作。解釈を広げ、やれると思い込む。そうする事でイメージが掴め、魔導がより鮮明な形となっていく。

 想像の幅は広がった。取り敢えずやれるだけやってみっか!


「ちょっとした魔導のアイデアが浮かんだんだ。これなら赤木人にも勝てるかもしれねえぜ!」

「そうか。では頼りにしているぞ」

「応よ!」


 ぶっつけ本番でも実行しなくちゃこの場は切り抜けられない。通常の木人ですらギリギリだったからな。数倍は強いアレには勝てない。

 今この瞬間、限界を越えたアドリブ力の高さを見せてやるぜ!


「取り敢えず、さっきみたいにカウンター出来るような隙を作る必要があるな。あまり強くない攻撃を誘発するか」

「心得た」


 レモンを始めとして周りの主力に事を伝える。兎に角仕掛ければそれくらいは誘えるだろ。


「行くぞ!」

『…………』


 レモンが踏み込み、赤木人の眼前へと差し迫る。同時に木刀を振るって殴り飛ばし、ユピテルが雷速で追撃をする。


「“落雷”!」

『…………』


 赤木人の全身を雷が包み、バリバリと目映く光る。周りの赤い植物に反射して目がチカチカするけど、姿を捉える事は出来ているから問題無い。


「潰れよ!」

『…………』


 雷に当たっても無問題なシュティルが雷に打たれながら念力にて赤木人の体を押し潰す。

 頑丈な体はシュティルの念力でもひしゃげるまではいかない。けどまあ、動きは止まったな。別にカウンターじゃなくても仕掛ければ良いだけ。取り敢えず燃やしたもん勝ちだ。


「“引火”!」

『……』


 ユピテルが雷を消し、シュティルが念力も外す。同時にアタシが少量の炎で触れ、その体に火を着けた。

 これで準備完了。後はイメージを広げ、遠隔の魔力操作で更に燃え上がらせるだけ。このまま勝利を掴み取る!


「これで成功か? ボルカ殿」

「まあな。イメージのまま引火させた。後は燃え尽きるのを待つだけだ。……それも至難の技だけどな」


 赤木人は燃え続ける。傍から見たら今までとあまり変わらない。このまま結果が出るまでの時間経過を待つとして、避け続けるのも大変。赤木人の実力は変わらないからな。

 それを示すよう、攻撃は止まらず続けていく。


『………』

「これは攻撃を加えても良いのだな?」

「ああ。イメージ通りならどんなに攻撃しても赤木人が残り続ける限り火は消えない」


 炎を纏った植物が放たれ、周りの植物にも引火していく。

 一つの火種から大きな広がりを見せるのが炎の恐ろしいところ。相手の攻撃力も一時的に上がる……と言うより攻撃に炎の追加効果が付与されるけど、炎自体はアタシの任意で消せるからな。火炎一つ一つの威力は低いから味方に点火してもすぐ治せる。

 炎混じりの鞭をかわし、赤木人は自身もけしかけてきた。


『………』

「自分の置かれた立場に気付いたか……いや、そう言う訳じゃないな」


 踏み込み、樹の拳で殴り飛ばされる。

 動きは見えないので咄嗟に全身を魔力強化して防御し、強い衝撃波が全身を打ち付けるも辛うじて耐える事が出来た。


「かはっ……耐えたけど……大ダメージだ……!」


 ティーナの一点集中“樹拳”を受けたような気分。口の中が切れた訳じゃないのに鉄の味が広がってんな。腹部から胃酸も逆流してきて体調不良だ。

 時間いっぱい耐えるにせよ、それもまた大変だな。


『……』

「……っ」


 高速で迫り、次はレモンを狙う。元気な人を積極的に狙う感じなのかもな。

 植物の手足による高速連撃。レモンは持ち前の反射神経と動体視力でいなすも押し切られ、仰け反らせたところで腹部に蹴りを受けた。


「肉弾戦が得意なようだ……!」


 レモンさえ押し切られる赤木人。今の一撃で弱りを見せたが為、次いで近くに居たユピテルを狙った。


「高速移動なら我の得意分野だが……!」

『…………』


 雷速と超高速のぶつかり合い。光の軌跡が描かれ、幾何学きかがく模様もようとなって赤い部屋に散りばめ、次の瞬間にはユピテルの体を吹き飛ばすのを確認した。


「雷速ですら追い越すか……! なんと言う凄まじさ……!」

『…………』


 吹き飛ばすと同時に植物が押し付けられ、壁を粉砕して遠方に。アタシ達はまだ受けたダメージが収まらず応急処置の途中。次の狙いはシュティルとなった。


『…………』

「成る程。手強い……!」


 シュティルと赤木人のせめぎ合いが執り行われる。

 肉弾戦から天候と植物のぶつかり合い。衝撃波が部屋全体に伝わり、大きく揺れてシュティルの体は何度も破壊と再生を繰り返す。それを理解したのか、植物にて全身を包み込んで拘束するように囚われる。


「くっ……再生を理解するだけの知能があるのか……?」

『…………』


 アタシとレモン、ユピテルは一時的に行動不能。回復の必要が無いシュティルも完全に拘束。

 これにてアタシ達は全滅の危機に瀕する。


「……けど、そろそろ相手も限界だろ……!」

『…………』


 次の瞬間、赤木人の片手が燃えて落ちた。同時に炭となり、そのまま外から入り込んだ隙間風に巻かれて消え去る。

 “引火”の効果がようやく出たか。赤木人に使われた魔力の量からか、それなりに時間掛かったな。いや、これでも早い方か。そもそも赤木人にはあまり魔力をいてないのかもしれない。その真偽は不明だけどな。


「ボルカ殿。これは?」

「相手の魔力に引火する炎を使ったんだ。ほら、普通の火も薪を燃料に燃えるだろ? そして薪は最終的に燃え尽きる。それを赤木人にしたって訳だ」

「成る程の。ボルカ殿は火種を置き、彼奴あやつを薪として焼き消した訳か。謂わば魔力のみを燃やす火」

「そう言う事!」


 相手の魔力に引火する炎。魔力を燃料とし、最終的にはその魔力が尽き果てる。

 ぶっつけ本番のこの魔導は成功。赤木人は自身を動かす魔力を使い切り、完全に消え去った。


「少量の魔力で可能にするからな。これは中々使えるぜ!」

「見事だ。ボルカ殿」


 相手に着火すれば、その時間耐える事で勝利を確定させる炎魔導。自分の才能が恐ろしいぜ。土壇場でこんな技を完成させるとはな。

 何はともあれ──


「……さて、やっと辿り着いたぜ。ティーナ」

「…………」


 赤い植物に埋まったティーナの近くにやって来た。

 その間にも様々な植物で妨害はされたけど、赤木人に比べたら全然大した事が無かったぜ。


「そろそろおはようの時間だぜ。ティーナ」


 植物の上に乗り、ティーナの前へ。

 ダイバース代表戦から始まったティーナの暴走。流石にそろそろ止めるべきだろう。何処まで植物が広がっているのか定かじゃないけどな。

 最終局面に突入……ってところか。


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