第四百六幕 再突入・変化
現れたルミエル先輩。木人は一体残らず消し飛ばしたけど、惑星を覆い尽くす周りの植物は健在。次から次へと新たな刺客が作り出される。
あの木人にゴーレムやビースト。強敵からお馴染みのメンツと多種多様。それに対してルミエル先輩は臆せず、余裕のある表情で片手に魔力を集中させた。
「ティーナさんを迎えに行くのは貴女達の方が良いわね。この辺り一帯は全て私が請け負うわ」
瞬間的に魔力を放ち、生み出された植物兵は即座に消え去った。
この辺り一帯。それは文字通り、このステージ……ダイバース会場のある大陸の端から端まで全てをルミエル先輩が担うという事。
頼もしいけど、相変わらずの規格外。アタシ達の苦労は何だったんだって思うけど、そんな先輩でも一人じゃティーナを止められないと判断してアタシ達に託した。
絶対にやられる訳にはいかないな。
「頼みました! ルミエル先輩!」
「此処でルミエル・セイブ・アステリア殿が来るとは。頼もしい限りだな」
「我らは行くとしよう」
ルミエル先輩の助けがあり、植物の妨害を抜けてアタシ達は先へ行く。
その間にも植物は迫り、ルミエル先輩が即座に排除した。これなら気にせず本体に迎えるな。
一年生と二年生達は一瞬先輩に見惚れていたけどすぐに切り替える。優先順位はしかと理解している。頼れる後輩達だ。
ルミエル先輩のサポートもあって襲い来る植物は一つ残らず消え去り、苦労もせず再びティーナの居る植物の場所へやって来れた。
「このまま乗り込むぞ!」
「無論だ」
「ああ!」
既に覚悟は決めている。植物に向けて炎を放ち、通り道を作って突入。内部には無数の植物が蔓延っており、即座にそれらを焼き払って先程の場所に向かった。
おそらく場所は変わっていない。アタシ達はただ追い出されただけだからな。周りの植物は外のルミエル先輩のサポートによって多少抑えられているから目的地にはすぐに辿り着いた。
「睡眠の粉はまだ充満しているかもしれない。その辺の事を考えておこう」
「そうだな。しかし、人数分をどうやって防ぐか」
「焼き消す他あるまい」
ビブリーがガスマスクを出したとして、今回はそれなりの人数が居る。なので突撃した瞬間に炎や雷で粉を消し去るという事にした。
アタシ達は魔力を込め、ティーナの居る部屋に向かい行く。
─
──
───
──静かになったと思ったら、また騒がしくなりつつある。そう言えばボルカちゃん達が居なくなっちゃった……もしかして……そんな筈はない! みんな居る……筈なの……。
そうだよね。賑やかになったんだもん。みんなと一緒に、遊ぼっか。
───
──
─
「“フレイムスピア”!」
「“雷槍”!」
炎と雷で壁を突き破り、同時に内部で放出させて睡眠作用のある粉の排除を試みる。それについては成功だ。
入るや否や目の前にあったのは、心臓のような形となった赤い植物とその中に居るティーナ。さっきとは大分内装も変わったな。全体的に赤くなってる。
《おおーっと! 先程飛ばされてから十数分! ボルカ・フレム選手と頼れる強者達が集いましたァーッ!》
「あ、司会者さん。そう言や、植物に隠れてたんで追い出されなかったんですね」
そしてその場所には先程は飛ばされなかった司会者さんが居続けたみたいだ。植物の中で隠れてたから拒絶反応に巻き込まれなかったのかもな。
誰も居なくなっても実況は続けたんだろう。プロ根性が大したものだ。
「この変化の様は何がどうしてですか?」
《はい! これは振動の後、周りの植物が纏まりを見せて変化変色したものです! 内部で何が起こったのかは定かではありませんが、周りの植物の共鳴を見たところ何らかの影響は出ているかと……!》
「曖昧な所で詳しくは分からないけど、取り敢えず何かはありそうって感じか。確かにティーナがこの状態になってからの植物兵は強さも増した。明らかに強くなったな」
大きな情報は得られなかったみたいだけど、強くなっているのは明白。周りの赤い植物も血脈みたいに鼓動してるし、マジでヤバそうだ。
『……ァ……ア……ソ……ボ……』
「……!? 植物の巨人が喋った……!?」
「遊ぼう……ティーナ殿の意識が表に出てきたか」
「成る程な。つまり満足させたら解放出来そうだ」
この状態のティーナは、精神年齢が下がる。それこそ初等部にも満たない幼児並みの精神。
だからこそ純粋に物事を楽しみ、戦いが遊びとなる。それが今回のキーポイント。
「んじゃ、遊んでやるか!」
「ああ、そうだな」
「付き合ってやろう!」
『……アソボ……アソボ……』
ティーナの遊びに付き合う。それは間違いない。血管のような植物は形を形成して兵となり、アタシ達以外の周囲を囲んだ。
ビブリー達は植物兵が相手取り、アタシ達三人はティーナ自身が直々にって感じみたいだな。
「此処からが最終戦って感じだな!」
『アソボ……』
真っ赤な手の形をした植物が迫り、それを跳躍して回避。そこ目掛けて腕から更なる植物が伸び、アタシの体を捕らえるように動き出す。
それに対してレモンが木刀を振るい、赤い植物類を切り裂く。ユピテルの雷を巨大植物に直撃させて怯ませた。
「“フレイムアロー”!」
その上から炎の矢を撃ち込み、巨大植物を焼き尽くす……けどそう簡単にはいかないか。すぐに炎は消え去り、植物の巨腕がアタシ達へ迫る。
動きはそんなに速くない。なので簡単に避け、巨大植物へ炎を放出。大きな焔が舞い上がった。
『アソンデ……』
「……! 燃えながら……!」
「炎を纏っているな」
「そう言えばティーナ・ロスト・ルミナスは炎も使えたか」
そう言やそうだ。ティーナは確かに炎魔法を使う事も出来た。この植物はその要素も持っているみたいだな。
けどアタシの炎よりは流石に劣る。上手くすれば押し勝てる筈だ。
『…………』
「……!」
瞬間、巨大植物の腕が急速に伸び、アタシの体を打ち抜いて吹き飛ばした。
炎の噴射による速度アップか……! 緩急の差で反応するよりも前に食らっちまった……!
これは不覚を取った。炎には色々と用途があるからな。加速して仕掛ける事を勘定に入れてなかったアタシの不手際。
ティーナが強いのは分かり切っている事。少しでも油断をする訳にはいかないぜ。
吹き飛ぶ最中に空中で停止し、炎を放出して再び戻る。今度はこっちの番だ!
「“ファイアフィスト”!」
『…………』
炎の拳を放ち、その植物を逆に吹き飛ばす。そこから魔力を込め直し、両手をそちらに構えた。
「“フレイムバーン”!」
『ア……ア……』
上級の炎魔術を撃ち込み、そのまま押し込んで植物の部屋を貫通。炎が抜け出し、赤い植物の巨人を吹き飛ばした。
これでそう簡単には戻って来ないだろ。ティーナの居る心臓のような植物に向かい──
「……ッ!?」
「ボルカ殿!」
「ボルカ・フレム!」
何かに阻まれ、吹き飛ばされた。
アタシが反応出来ないくらいのそれ。大方の予想は付く存在だな。
「赤い……木人か……!」
『……』
ルミエル先輩が地上の方で大多数を止めてるけど、此処にも現れやがったぜ。
星を覆い尽くすエネルギーの集合体。強さに違いがあるのかは分からないけど、簡単に勝てる相手じゃないのは明らかだ。
『…………』
「……っと……!」
「また厄介な……!」
「この者一体で危機的な状況となるな……!」
赤い木人は全身から植物を放出し、所構わず粉砕する。向こうで戦っている他のみんなにも影響が及んじまっているな。
色々な障害物を越えなきゃ親友とも話せないなんて世知辛い世の中だぜ……!
「“フレイムバーン”!」
『………』
上級魔術の二度撃ち。負担は大きいけど四の五の言ってられない状況だからな。
既に何度か行ったから割と体力もキツいけど、まだまだァ!
『………』
「効いてないのか……!」
しかし、今度はダメージにならなかった。
さっきまでの木人なら一時的に動きを止めるくらいにはなっていた。なのに今回はこの有り様。やっぱ強化されてるか……!
ただでさえ手強かったってのに、また探り探り仕掛けて足止めしなきゃならないのは気が滅入る……!
『………』
「来る……!」
今一度動きを見せ、周囲に植物が伸びる。次の瞬間──赤い木人が吹き飛ばされた。
「………!?」
「───ようやく辿り着いたと思ったら……絶賛ピンチの最中だったな」
「……シュティル!」
────シュティルの天候によって。
赤い木人の体は渦巻く風に飲まれて回転しながら吹き飛び、赤い壁に激突。一時的に動かなくなる。
ダメージは無さそうだけど、めり込んで身動きが取れなくなったんだろう。
「そう言や、此処に居る筈なのにアンタの姿は無かったな。シュティル」
「居たは居たのだが、全く知らぬ場所で目覚めてな。何があったのか私にも分からぬのだ」
「あー……きっと植物の変化のせいかもな。ティーナの近くに拘束されてたのは全部切り離したけど、落ちどころが悪くて排出されず、植物の変化と同時にどっか行ったんだ」
「何の話かは存ぜぬが……まあ色々あったのだろう」
ティーナ付近の植物は全部落とした。それなら何個かは別の場所に行ってしまっても変じゃない。
シュティルや他の強者達が全員揃った訳じゃないのはそう言った理由もあるかもな。
「けどまあ、来てくれて助かる。あの木人……通常体ですら厄介だったのに更に強くなってんだ」
「その様だな。通常体の存在は知らぬが、君達が苦戦している様を見ると理解出来る。事実、私の攻撃でも吹き飛びはすれどダメージは無さそうだ」
『………………』
話しているうちに赤い木人は壁から抜け出し、再びアタシ達の前に立ちはだかる。
此方にもシュティル・ローゼと言う頼もしい助っ人は現れたし、外ではルミエル先輩が全部の相手をしてくれているから此処での戦闘にも集中出来る。
取り敢えずティーナと話してみる。そして抜け出す。その二点だけを優先し、アタシ達の戦闘は続行されるのだった。




