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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部三年生
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第四百五幕 最強の存在

『………』


 中々の強敵である木人を前に、アタシ達は一斉にけしかけた。

 相手の反応速度はどれくらいだろうな。初撃は攻撃目的だったから反応速度とはまた違うし、アタシ達が仕掛けたさっきは普通に食らっていた。

 どの道攻撃しなきゃなんねえから余計な思考は避けたいけど、参考くらいにはしなくちゃならないよな。


「その確認も兼ねるか。“ファイアランス”!」

『…………』


 火の槍を放ち、木人の体を貫いた。

 与えたけど、そもそも避けすらしないか。当たってもすぐに再生するから回避は選択肢に無いのかもしれないな。

 それはアタシ達にとっては好都合。再生出来ないくらいに攻撃すれば勝てるって訳だ。


「避けぬのならやりようはあるな」

「そうだな」

『………』

 

 レモンが木刀を打ち付け、ユピテルが雷を放つ。それによってまた体が砕け、アタシは炎を込めて追撃。木人の全身を焼き払った。

 だけどまだ形は残っている。そこ目掛け、透かさず他のみんなもけしかける。


「“光球”!」

「やりなさい」

『ゴギャア!』


 光の爆発に飲み込まれ、そこへ龍の火炎が放たれ更に炎上。更に更にと仕掛け行く。


「細かくします! “空間掌握・斬”!」

「燃えちゃって! “火炎球”!」

「炎への追加だ。“吹込風”!」

「熱は逃がしませんわ! “土釜”!」


 ディーネが木人を空間ごと切り分け、その部位ごとにサラが炎で焼却。リゼが風で焚き付け、ベルが土で囲んで集中砲火……ならぬ集中放火。

 防御不可の空間術で小さくして一点集中の熱で焼き払う。こりゃたまったものじゃないだろうぜ。


『『『…………』』』

「周りの植物兵達は私達が……!」

「はあ!」


 そして実力がまだ足らない一年生達は周りの露払い。地味だけどかなり重要な行動。敵の数を減らせば減らすだけ此方こちらが優位に働くしな。

 ティーナの有する文字通り無尽蔵の魔力。兵力を減らすに越した事はない。その分アタシ達の集中を木人に向ける事が出来、戦況はより有利になるからだ。


『…………』

「「「…………ッ!」」」


 刹那、アタシ達は再び枝か蔦の鞭によって吹き飛ばされた。

 相変わらず速い。間に合う反応は精々防御が出来るかどうかくらい。それでも防ぎ切れずに飛ばされるからな。

 防御っても直撃を防げるくらい。障害物があれば衝突によるダメージも及ぶってもんだ。


『……』

「動き出したな……!」


 一薙ぎからの歩み寄り、ゆっくりと歩を進める。アタシ達は一瞬の隙も見逃さずに相手の動きを──


『……』

「……!」


 ──観察しようとしたら目にも止まらぬ速度で迫ってきた。

 それについての反応はアタシ達の中でも最速のユピテルがし、雷の網を張ってせめぎ合う。その横からアタシとレモンで挟み撃ち、木刀と炎剣で斬り掛かって切断。上半身と下半身を吹き飛ばした。


「一気に離してみたけど……」

「どうやら無意味だったみたいだ」


 再生する体を引き離してみたらどうだという思考の元でおこなった手法。

 結果、断面から植物が伸びて体は一つになった。その再生速度もかなり早い。体を分離したと思ったらその瞬間にこれだもんな。


『…………』

「そこから転じて攻撃に……抜かり無いな」


 戻った瞬間、植物の腕が伸びて突き抜ける。なんとか紙一重でかわし、その後に爆音と衝撃波が響き渡った。

 当然のように音速越え。音の数百倍はある雷速のユピテルを捉えるんだ。これでも遅過ぎるくらいだろう。


「速度か……」


 速さか。戦闘中の反応速度とか移動速度についてはよく考えるけど、速度の限界に挑戦しようとした事は無かったな。

 折角の成長機会。試してみるのも悪くない。


「熱による加速。炎の出力を調整して、その時に掛かる負荷は魔力強化で補う。今のアタシなら……やれる!」


 自分を激励しつつ魔力を集中させる。それだけじゃなく木人に反応する為に感覚を研ぎ澄ます。

 次の瞬間に植物の鞭が放たれたのを察知し、軌道を読んで回避。瞬時に込めた魔力を解放し、一気に木人へと差し迫った。


(こうだ……!)

『………』


 突き抜け、粉砕。惑星脱出速度……いや、太陽系脱出速度くらいにはなったかもな。

 それでもユピテルよりかは遅いけど、緩急の差で攻撃を与えられた……って訳でもないな。相手は元よりそんなにかわさない。

 けど確かな成長は実感する。やっぱやり込んでいる事には成果の実感が湧かないとモチベーションも上がんねえしな。アタシはまた一つ上の領域に行けた。


『…………』

「……っ」


 ま、相手もすぐに再生はするんだけどな。この再生力はとてつもない。ただでさえ辛うじての攻撃と回避なのにやっとこさ与えても治ったんじゃあな。アタシの体は吹き飛ばされ、一つの大木に激突。肺から鉄の味混じりの空気が漏れる。

 ダメージはまあいいや。すぐに戦線復帰。レモン達の近くに立つ。回復する系は再生する前に完全消滅させるのが定石だけど、上級魔術でも形は保っている。周りの植物からすぐに……。


「……! そうか。んじゃ、そうするか」

「……? 何か思い付いたか? ボルカ殿。それに傷の程だが……」

「ああ、傷は大丈夫だ。作戦についても成功するかは分からないけど、取り敢えずやってみる価値はあるものを思い付いた」


 近場で再生の過程を見ていたのもあって思い付いた。

 そうすりゃ再生する事が出来ずに終わるんじゃないか? 希望的観測だけど、ディーネやシルドにベル。防御術の力があれば上手くいくかもしれない。


『…………』

「……っと……!」

「話し合う余裕は少ないな……!」


 その瞬間にまた攻撃が放たれた。とっくに再生も終わってる。

 話し合う時間はレモンの言う通り短い。なので端的に纏め、それを全員に伝えた。


「確かに、やってみる価値はある」

「だろ? 苦労はすっけど、成功すりゃ力を抑えながらイケる!」


 伝え終え、木人が行動を起こす最中でアタシ達も再び仕掛ける。同時に相手からも無数の植物が音を遥かに超越して振る舞われた。このお持て成しはゴメンだな。

 行動は決まった。まずはその準備の為に植物を消し去らなきゃな。


「まずは三人で仕掛けるぞ!」

「心得た!」

「ああ!」


 鞭の隙間を通り抜け、その体に各々(おのおの)の攻撃を放つ。

 腕を断ち、胴を断ち、更に細かく粉砕。いつもなら此処から炎で全身を包んだりしたけど、今回の目的はそれじゃない。要は再生させなきゃ良いんだからな。


「ディーネ! シルド! ベル! 任せたぞ!」

「分かりました!」

「はい!」

「了解しましたわ!」


 三人は力を込め、各々(おのおの)の魔導をもちいた。


「──“空間掌握・囲”!」

「──“絶対防壁”!」

「──“最硬土壁”!」


 細かく分断させた木人の体。それを三人の防御術で包み込み、完全に密封する。

 周りの植物からはエネルギーが供給されるけど、その管みたいな役割を担う箇所が閉じ込められているから届かず再生も叶わないだろ。

 そこに向け、アタシは魔力を込めた。


「“旋風火炎”!」


 周りの植物を更にさえぎるよう、炎の竜巻を形成して閉じ込める。

 周りの植物は燃え尽き、最後にユピテルがギフから魔力を借りて力を込めた。


「溜まりましたか?」

「ああ、やはり君とは能力の相性が良いな。ギフ・プレンよ───“顕現・雷霆ケラウノス”!」


 体力は大きく使うが、力が使えなくはならない“雷霆ケラウノス”を生成した。

 それを炎の中に放り込み、ディーネ達は魔導を解除。次の瞬間に大きく電流がほとばしり、付近が焼き消し飛ばされて森に大穴が空いた。


「はぁ……流石に完全消滅したか」

「大変だな。まさか木人一体で此処まで疲弊するとは」

「ああ……。身が持たぬぞ……」


 木人は完全に消え去った。再生をさまたげ、その上で強大な力を放つ。それでやっと一体が消滅。

 本当に手強い相手だ。流石にこのレベルはそうそう生み出せないだろ……。奥の手みたいなものだと思う事にしよう。

 後は今まで通りある程度の植物を払いながらティーナの元に────


『───………』


「……。……マジ……かよ……」



『『『……………………………………』』』

『『『……………………………………』』』

『『『……………………………………』』』



 ────行こうとした直前、あの強敵だった木人の大群(・・)が姿を現した。



「流石にこれは想定外……」

「一体でも皆で協力してやっとの相手なのだがな」

「ティーナ・ロスト・ルミナスは限度を知らないのか……」


 意気消沈。ただでさえそれなりに疲れたのに、追い討ちを掛けるようなこの有り様。

 数え切れない程の木人が立ち、全員が植物を展開して臨戦態勢に入っていた。


「やるっきゃないか……!」

「そうだな」

「気が滅入る……」


 特にユピテルは、ギフの手助けがあったとは言え大技を使った直後。アタシも上級魔術を何度か使っている。疲労具合は割とそれなり。本当にそれなりだ。

 肩で息をし、直後に目にも止まらぬ無数の植物が打ち出された。全てが音速以上。まだ呼吸は整ってないし、もう思考も回らない。

 そんなフワフワした頭の中、一つの単語がよぎった。




 ───万事休すか……。




──

───


『『『『──────』』』』

『『『『──────』』』』


───

──


「「「…………!?」」」


 ──その刹那、一体でも強敵だった筈の木人達が一つ(・・)残らず(・・・)消し飛んだ(・・・・・)


 完全に消滅し、再生の様は見えない。目に汗が入って視界がボヤける中、美麗な黒髪の持ち主が目の前に現れる。



「───……遅くなったわね。世界中の人々を避難させていたら遅れてしまったわ。ごめんなさいね」



「……!」

「「…………!?」」


 容姿端麗。この植物達に囲まれても変わらぬ強大な魔力を有したその人物。


「……ルミエル先輩……!」

「お疲れ様。ボルカちゃん。可愛い後輩のみんな!」


 世界最強、ルミエル・セイブ・アステリア先輩。


 単なる魔力の広範囲放出でアタシ達には一切の影響を与えず木人達を消し去った。……って、マジかよ……。

 その圧倒的な力に何も言えなくなる。周りのみんなも呆然としていらぁ。そりゃそうだよな。


「後は私に任せて頂戴。ティーナちゃんを正気に戻さなくちゃね!」

「……うっす」


 出来るのは色々な要因から空返事だけ。頼もしい助っ人が現れ、アタシ達の戦いは次の段階へと進むのだった。


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