第四百四幕 木人
拒絶反応が起き、植物から追い出されたアタシ達。また彼処に戻らなきゃティーナを連れ出せない。
今回に至っては何がトリガーでこうなったのかも分からないからな。本人から直接聞く他にないぜ。いや、一応立ち合った可能性のある面々にも聞くか。
「ビブリー達は経緯とか知ってるか? ティーナがこんな風になった」
「そうね。本人の口から直接聞いた訳じゃないけど、何となくの推測は出来るわ。直前に記憶の中の何かを見られた事と、ボルカさんが石化して一時的に居なくなってしまった事じゃないかしら」
「アタシの石化……確かにあり得るな。強敵だったとは言えメド相手に不覚を取っちまったアタシの責任か」
記憶と石化。アタシが主な原因って事か。責任逃れをするつもりはない。
となるとやっぱアタシが何とかしなくちゃならないな。それは義務だ。ティーナを一人にさせちまった償いだ。
「貴女一人でも無いでしょう。最初の段階で私達に気付きがあったら変わっていた。みんなで背負うわ」
「ウラノ殿の言う通りぞ。ボルカ殿」
「へへっ、頼もしいな」
アタシも良い仲間を持ったな。そして当然ティーナも仲間で親友。慰めるのは友人の役目だ。
「うっ……此処は……」
「「「………!」」」
すると、アタシ達とは別の声も聞こえそちらを見やる。
そこにはユピテルを始めとし、“魔専アステリア女学院”のみんなが居た。
「成る程ね。蔦からは降ろしていたから他のみんなも排出されたみたい」
「さっき降ろした面子だけか。此処には睡眠の粉も無いし、次第に意識を取り戻したな」
これは頼もしい味方。さっき降ろした面々が一緒に出されて衝撃で意識を取り戻した。
戦力は一気に整った。後はそれを無下に出来るだけの実力があるかもしれない巨大植物を何とかするだけ。一先ず事情説明をし、メンバーに協力を要請した。
「そうであれば我が出向かぬ訳にいかなかろう。やるぞ」
「勿論私もですわ!」
「もちろんです!」
そして快く承諾。ま、みんな良い奴。この状況を見て見ぬふりする薄情者は存在しない。
「取り敢えず標的はあの巨大植物。救出するのは中に居るティーナ及び会場に居た観客やダイバース代表戦に参加していた選手達だ!」
「ええ」「ですわ!」「ウム」「了解」「「「はい!」」」
士気を高め、巨大植物に狙いを定める。向こうも此方の存在に気付いたのか、一斉に無数の植物を放ってアタシ達へ嗾けた。
なんなら周りの物も動き出したな。ステージ全域……いや、世界中の植物全般がアタシ達の敵という訳だ。
『『『…………』』』
「“ファイア”!」
「はあ!」
『『『…………』』』
『『『…………』』』
「“転雷”!」
迫り来る植物は炎と木刀、雷で粉砕して直進。後ろに続く仲間達も次々と植物を薙ぎ払ってティーナの元に戻る。
現時点ではそこまでの強度も無い植物が放たれてるな。あくまで拘束を優先している感じか?
そうなるとアタシ達を追いやった事への矛盾が生じるけど、相反する二つの感情が同時に沸き上がって今に至るなら説明も付くか。あくまで傍に居て欲しいってだけなのかもな。
『『『…………』』』
『『『…………』』』
「ゴーレムとビーストの御出座しか」
「私達が見た物より更に大きいです……!」
「どんどん力が増してるわね」
巨大ビースト&巨大ゴーレムの御出座し。
巨体に加えて速度も高く、一撃をいなす事すら難易度が高い。ティーナとまた会うよりも前に消耗が勝っちまうな。
でもまあ、それはアタシが目覚めた時点からの大前提。今回は仲間達も居るし、取りこぼしながら進んでも影響は打ち消せる。
『『『…………』』』
「植物も本格的に攻めてきたな」
「食虫植物……いや、食人植物とか食獣植物の類いか」
ウツボカズラにハエトリグサ。その他諸々の食○植物。既に胃液もたんまりで飲み込む気満々だな。
捕らえるだけにしては殺意が高いな。いよいよ箍が外れてきたか? 前の暴走状態と比べると、範囲は広いけど自我が合間見えたしな。
とは言えティーナの状態は分からないまま。アタシはアタシのやれる事をやるだけだ。
「どけどけどけェーッ!」
炎で植物を焼き払い、全員の通り道を形成。今ある植物は殺意は高いけど大した事無い。次にどんな物で来るか、それを悠長に待つつもりは無いけど待たなくても自然と作り出されていく。
アタシ達にとっては当たり前だけど、改めてティーナの魔力量は凄まじい。星一つを多い尽くす総量。中等部三年生一人の力でこれ程とはな。
今までも惑星みたいな植物や森その物を落としたりもしていたけど、それはあくまで山くらいのサイズ。本当の星に匹敵する物を生み出せるなんてな。
「“フレイムバーン”!」
更に炎を込め、正面へ放って燃え盛る道を作る。植物は即座に戻ろうとするけど、周りが炎に包まれてたんじゃ再生力も落ちるだろうぜ。
順調に道は確保出来ている。このまま上手く行けば良いんだけど、懸念ポイントは色々だ。
今最も警戒している事柄それは──惑星に匹敵する植物の力をアタシ達に向けられた場合だ。
今は世界中に伸びている植物の一割にも満たない物が来ているだけ。仮にその力を集中、集結させた場合、アタシ達に止められるかは分からない。アタシ達は多分惑星は破壊出来ないからだ。
『………』
「動きが変わったな……」
そしてその懸念は、現実になろうとしていた。
植物の巨人は動き出し、魔力が込められているのを感じる。人や生き物の気配は読み取れるけど、魔力エネルギーとかを感知する力はそんなに無いアタシでも分かる程の力。
この場に居る全員がそれを感じ取り、一つの強い気配にハッとした。
『────……………………』
「……植物の……」
「人……?」
「木人だ」
炎の通り道の先、目の前に立っていた木からなる人型のナニか。
その見た目もさることながら異様な気配を放っており、このまま真っ直ぐ行きたいところなのに雰囲気に気圧される。木目が顔みたいで単純な見た目も不気味だ。
「マズイな」
「その様だが……」
「止まる訳にはいかねえよな……!」
レモン、ユピテル、アタシ。自分で言うのもアレだけど、今この場に居る三強が臨戦態勢に入る。
次の瞬間に加速して嗾け、
『…………』
「「「…………!?」」」
──刹那に吹き飛ばされた。
単純に速いレモン。炎で加速したアタシ。雷速のユピテル。アタシ達三人が反応する間もなく吹き飛ばされた。
「ヤバいな。こりゃ想像以上だ」
「ああ、私達が微かにしか反応出来ないとは……!」
「見えはしたのだがな……」
目で追う事は何とか出来た。しかし反応は出来なかった。
一瞬のうちに植物の鞭が放たれて吹き飛ばされたな。ダメージの具合は掠り傷程度。目で追えたんで自分への防御体勢は咄嗟に取れたけど、アタシ達の中でも一番速いユピテルがこうなるとは予想以上の強さを有している。
「マジにならなきゃ勝てないな」
「追う事は出来るからな。打開策はある……!」
「後はダメージが通るかどうかだ」
目で追えない事は無い速さ。攻撃力も防御すれば掠り傷に抑えられる程度。
アタシ達の攻撃に対してどの様な反応を見せるか、それが今回のキーポイントとなりそうだ。
「“旋回炎”!」
『………』
なので避けられないよう、本体ではなく周囲に炎を放った。
体は植物。熱耐性くらいはあるかもしんないけど、それでもある程度は抑え込める筈だ。
そんな炎の中に向け、レモンとユピテルが突撃する。
「はっ!」
「“落雷”!」
炎の中に入り、死角から木刀で打ち付けるレモン。木人に視界があるかは分からないけどな。
木刀によって木人は吹き飛ばされ、複数の木々にぶつかりながら粉砕する。一際大きな樹の元で止まり、その大樹にユピテルが落雷を放つ。雷鳴轟き、目映い光と共に包まれた。
「“フレイムバーン”!」
そこへ間髪入れず炎を放出。更に大炎上させ、森全体を大きく焼き尽くした。
「どうだ、この三連撃!」
「手応えはあったが……」
「果たしてどうなるか。焼き消えれば良いがな」
大きな煙を前にアタシ達は身構える。様子を窺い、次の瞬間に無数の植物が飛び出した。
「無傷……って訳じゃなさそうだな」
「ああ。周りの植物によって傷が再生している」
「“傷”という概念があるのかすら分からぬがな……!」
この植物はさっきの物に比べたら全然遅い。それはあくまで自身の再生に用いられた物だから。
ダメージは確かにあり、完全に消し去る事が出来れば再生しないと思うけどこのフィールドでそれは酷だな。それに、炎の上級魔術を受けてこの有り様なら骨は折れる……実際文字通り折れそうだ。
「観察結果、倒し切れない事もない耐久力。見切れない事もない速度。防げない事もない攻撃力……アタシ達的には全部が微妙に足りないな。もう一声弱点が欲しいぜ」
「そうだな。とは言えこの強さなれば通れぬ事もないか」
「ああ。押し切る他あるまい」
倒せそうではある存在。もうちょっと本気を出せば勝てるかもしんないけど、ティーナの所にも巨人以外の守護者的な存在は居るだろうしな。なるべく体力は温存しておきたいところだ。
アタシ達のティーナ救出作戦。追い出されたアタシ達は確かな強敵ではある木人と相対した。




