第四百三幕 救出作戦
「行くぜ!」
『…………』
炎で加速し、周囲から植物が迫り来る。けどもこのくらいならアタシ達に纏わせた炎で防御可能。
正面に迫りながら火球を放ち牽制。植物を払い除けながら巨人へ向かう。
《後ろから来ておりますよ!》
「オーケー!」
司会者さんのサポートも光るな。
炎の鎧だけじゃ防ぎ切れない威力と強度の植物が放たれ、指示と共にそれらを回避。根本に炎をぶつけて切断し、処理した後に巨人の近くへ迫った。
「そらよっと!」
胴体部分に触れて炎を打ち付け、その体を弾く。同時に回し蹴りを叩き付けて吹き飛ばし、更に上へと向かって炎で勢いを付けた踵落としを食らわせた。
それによって植物の巨人は床に叩き付けられ、アタシは両手に魔力を込める。
「“フレイムショット”!」
地面に倒れ伏せた巨人へ火炎を放射。その一撃で動きを止め、周りの植物に目を向ける。
「片っ端から解放したんじゃすぐに捕まったり足を引っ張り会うのがオチ。当初の目的人数を復活させるか。まだまだ終わんないしな」
《あらゆる植物の攻撃を防ぎ避け! ついに巨人を打ち倒しました! しかしボルカ選手の言葉からしておそらく健在ではあるようです! 先ずは仲間達の救出を優先する次第! 世界の命運はボルカ選手に委ねられたのかー!?》
「大袈裟ッスよ。いつもやってる練習とそんなに変わりません。ちょっと範囲が広いだけです」
《なんとなんとなんと!! “魔専アステリア女学院”ではこの様な特訓が茶飯事との事!! これが強さの秘密なのかもしれません!!》
司会者さんが居ると賑やかで良いな。
ま、強さの秘密は先輩の残した鍛練方法が主だからそんな単純じゃないんだけど。
取り敢えず目覚めさせるメンバーは既に決めている。まずはレモンとビブリーが優先。単純な戦力の増加ならユピテルも必要かな。何人が観戦に来ているのかは分からないけど、此処には文字通り眠れる強者が多い。周りの粉をなんとかしたら形勢は一気に此方へ傾く。
『『『…………』』』
『『『…………』』』
「周りの有象無象も大変だな。相手取るの」
巨人を地に伏せさせたけど、植物の数は無尽蔵。ゴーレムやビーストが壁からも作り出されて空中のアタシ達へ迫り来る。
瞬時に焼き払い、そのまま周りの壁を確認。捕まってる人々は完全に拘束されて蛹みたいになっているから誰が誰かは分からない。
けど体格から大凡の特徴は掴めるな。それに、無意識だとしてもティーナの特徴はある。親しい人は自分の近くに置く筈だからな。
「て事は……!」
ティーナが何処に居るか。その姿も分からないけど、明らかに大きな繭みたいな植物が中心部に置かれている。他に当ても無いし、そこを狙うしかないよな。
「“フレイムブレード”!」
《……!?》
炎剣を横に薙ぎ、付近の植物を焼き切る。
その光景を前に司会者さんは驚きの様子。ま、そうだよな。下方の植物巨人じゃなくて繭の上にある蛹のような塊を狙ったんだから。
《ボルカ・フレム選手が狙うはおそらく人々が捕らえられているであろう植物! 何が目的か!? 今現在、睡眠作用のある粉が充満している有り様! 助け出したとしてもまたすぐに眠ってしまいますが……!》
粉の事は理解している。けど、今アタシが助け出したメンバーはこれくらいじゃ止まらないんだよな~。
植物の蛹が落ち、蔦は空中で解ける。その中から出てくるはレモンとビブリー。同時に他の“魔専アステリア女学院”メンバーとユピテルを落とした。
多分レモンとビブリーは寝起きも良いタイプだろうからな。
「今は植物の中で周りには睡眠の粉充満。倒すのは伏せてる植物! 頼んだぜ!」
「──……寝起きそうそう頼み事が多いわね」
「……ウム、心得た……!」
二人は息を止め、アタシは炎を周囲に展開。一時的に周囲の粉を防ぎ、ビブリーは“魔導書”をパラパラと開いた。
レモンは木刀が無いので近くの木を折って手頃な得物として構える。同時に迫っていた植物類を斬り伏せた。
「これに物語は必要無いわね──“ガスマスク”」
本から取り出したガスマスク。アタシ達四人の分だけを取り出し、即座に装着。これで炎の鎧を放ち続け、常に魔力を消費する状態から解放されたぜ。
呼吸を止めているうちに複数本の植物を薙ぎ払ったレモンにも渡し、アタシ達の視界は悪いけど行動しやすくなった。
《これで自由に行動する事が出来るようになりました!!》
「あら、そちらの方は司会者さん。そうね、貴女には安全地帯を用意しておきましょう」
《ウラノ・ビブロス選手! ありがとうございます!! さあて! 何人がこの中継を見ているかは分かりませんが世界中の皆様!! 更に頼もしい選手二人が加わりましたァーッ!!》
ビブリーが比較的安全に過ごせそうな場所を用意。そして司会者さんはさっきもしていた植物の中に入ってやり過ごす。二重三重の安全地帯だ。
アタシとしても動きやすくなったな。丁度植物の巨人も起き上がったし、後半戦スタートだ。
『…………』
「あらあの植物……ティーナさんの持っているお人形に似ているわね」
「そうだな。周りの気配も歪。掴めぬぞ」
「それについてはアタシも分からない事だ。取り敢えずティーナを起こす為にもアレの破壊は必要なんじゃないかって思った次第だからな」
「成る程ね」
「納得だ」
自分が体験した情報以外は何も分からない。ティーナの植物魔法がこの範囲を覆える事も知らなかったしな。
それは兎も角とし、何はともあれ何はさておき目の前の相手に集中するだけだ。話しているうちにも無数の植物やゴーレム&ビーストが迫ってきてるし。
「あら、今回は会話の途中にも攻めてくるのね」
「そうだな。ティーナ殿の意思があるのかは存ぜぬが、暴走状態と考えると先程よりも制御が利いていないのかもしれぬな」
「……? どういう事だ? 二人はこれより前に何かを体験したって訳か?」
「そうね。先程までのティーナさんだけど……今は話している余裕も無いわね」
「その様だな」
既に二人はティーナと一戦交えているみたいだ。さっきまでと今とで様子は違うらしいけど、それを話す余裕も無し。何故なら植物達の攻撃途中だから。
襲い来る植物を各々で掻き消し、植物の巨人へと狙いを定めた。既に眼前には新たな植物が迫っている。
「何処を攻撃すれば良いとかは分かってるか?」
「さっきまでなら核となるティーナさんが離れたら止まったわ」
「そうだな。あれを止めてもティーナ殿自身をどうにかせねばならぬ」
「そうか。了解!」
完全に焼き消しても多分すぐ再生する。だから必要なのはティーナの意思で止めるかどうかってところ。じゃあ別に無理して巨人を倒す必要も無いな。
取り敢えずティーナを繭の中から引き摺り出す必要がある。植物はまた消し去り、アタシ達三人は繭を目指して進む。
「“ファイアボール”!」
「物語──“龍”」
「はあ!」
炎や得物で蔦は破壊したけど、ビーストやゴーレムが周りを埋め尽くす。相変わらず無尽蔵の植物兵。全部を相手にするのも大変なんで、一気に終わらせるか。
「“フレイムバーン”!」
『『『…………』』』
正面に炎を放ち、植物やゴーレムにビーストを焼き払った。そこから更に魔力を込めて放出し、植物の壁に穴を空けて相手を全て外に追いやる。
このまま圧迫されたんじゃ疲れが溜まる一方だからな。道は切り開いて置いた方が良い。
「一気に駆け抜けっぞ!」
「ウム」
「ええ」
植物は直ぐ様補充される。なのでその前に繭の方へ。ティーナの近くに行けば行く程量も多くなってくるけど、植物は作りたてだからさっきに比べたら幾分マシな数だ。
それでも道を阻む植物。それらを振り払い、繭の近くまでやって来た。
『…………』
「そう簡単に此処は通さないってか!」
「このくらいのサイズなら私の龍で十分よ。貴女達は先に行きなさい」
「頼もしいな。ウラノ殿」
植物の巨人ったって、外のモノに比べたらかなり小さい。大きさで言えばビブリーのドラゴンと同程度。
なのでドラゴンで動きは止め、更に迫り来る植物はアタシ達が消し去った。
「この中にティーナが……!」
「私では内部にまでダメージを及ぼしてしまうかもしれぬ。頼めるか? ボルカ殿」
「アタシとしても難しいけど、まあなんとかなるっしょ!」
繭に穴を空ける作業はレモンにとって少し難しいらしい。精密な動きも出来ると思うけど、この繭の構造から一点に衝撃を与えたら内部に響く仕様みたいだな。
だからアタシは片手に炎を込め、燃える手刀にて一本一本焼き切っていく。後ろはレモンに任せてっし、精密かつ迅速に空けてやるぜ!
「出てこいよ! ティーナ!」
繭を切り開き、この中のティーナを──
『…………』
「……!?」
「これは……!」
「おそらく、拒絶反応かしら……!」
ティーナに迫った直前、外の植物と周りが共鳴し、周囲が大きく揺れた。
ビブリー曰く拒絶反応。それは確かに間違い無さそうだ……!
「もうすぐなのに……!」
「押し出されるぞ!」
「追いやられるわ……!」
繭から正面を埋め尽くす植物が顕現。勿論消し去るけど、更に更に数が現れアタシ達を追い出した。
巨大植物の中から外に飛び出し、司会者さんも含めた全員でドラゴンの背に乗る。
《ティーナ選手の元に近寄った瞬間、急に追い出されてしまいましたァーッ!?》
「ダメだったか……!」
「やっぱり、拒絶が大きくなっているのね」
「また一からやり直しか……!」
ドラゴンから見やる巨大植物。なんか、少し動きも変わったな。
『……………………………………………………』
「これ……マズイか?」
「……ええ、多分」
「その様だ……!」
植物は行動に乗り出し、より多くの範囲を埋め尽くす。見ればあれの膝下並みの大きさはある巨大ビーストや巨大ゴーレムが形成されているな。難易度はより高まったか……!
アタシ達のティーナ救出行動。ビブリーとレモンを解放したけど、まだティーナには届きそうにないぜ……!




