第四百二幕 植物の中
前方に向けて直進。迫る植物を躱し、時には燃やし、必要とあらば旋回するように遠回りでも進み行く。
速度はそれなりだけど、追ってくる植物にキリが無いな。司会者さんの安全も大事だからそんなに速くは出来ないし、魔力を余分に消費するだけ。
てな訳で、提案してみるか。
「司会者さん。基本的な魔力操作は出来ますか?」
「ええ、多少は。一日中大声を出し続けるのにも体力が要りますから!」
「そんじゃ、魔力で身を守ってください。少し速度を上げますんで」
「了解しましたァ!」
魔力は宿っているタイプの人みたいだ。なので魔力を纏わせ、多少の圧力に耐えられるようにさせた。
これで全力……とまでは行かないけど速度を上げられる。今の時点で植物に追い付かれる事は無いし、これなら余裕を残してティーナの元に行けるぜ。
「行きますよ!」
「オーケーです!」
炎の出力を上げ、一気に加速。迫る植物を移動の余波だけで振り払い、植物の巨人目掛けて一直線。
数十秒のうちに付近まで到達し、その瞬間に空から大きな掌が降ってきた。
「また別の巨体か。ジャイアントゴーレムだな」
正面に見える巨人ではない、ティーナが作り出す山並みのゴーレム。アタシは振り下ろされた掌を避け、周囲を見渡す。
その数は数十体。山かと思った周りの存在全てがゴーレムだった。これをその辺の都市に投下するだけで制圧出来るくらいの力はありそうだ。まあそう言った都市には相応の実力者が居るから制圧出来るかは分からないけどな。
何はともあれ、これらを相手にする労力は勿体無い。巨体で範囲は広いけど、いくつか隙間はあるからそこを通り抜けるか。
「ちょっと酔うかもしれませんよ」
「大丈夫です! 既に今までの速さで慣れましたので!」
「そうッスか。そんじゃ遠慮無く……!」
炎を放出し、複数体の巨大ゴーレムの隙間を抜ける。加速による負荷とかは魔力強化で耐えてると思うんでアタシのコントロールが重要だな。
けどま、繊細な操作は日々の部活動で鍛えている。動きもそこそこ速いゴーレムだけど、アタシなら簡単に見切れるぜ!
《何と言う凄まじさ! ボルカ・フレム選手!! 次々と迫り来る巨腕や植物を、私を庇いながら華麗にすり抜けて行きます!! 縦横無尽の植物に対してこの繊細なコントロール!! これが歴戦の王者足る所以なのかーッ!!?》
「王者って言い方はちょっと語弊がありますよ。団体戦はチームのみんなのお陰ですし、前回の個人戦では2位だったんですから」
褒められて悪い気はしないけど、あくまでアタシは準王者。ちゃんとその辺は修正しておかなきゃチームメイトやラトマに悪い。
取り敢えず順調に腕や植物は避けながら突き進む。その腕を駆けてビースト達も襲ってくるけど、飛行能力は持たないからそのまま直進。本元へと突入した。
「まるで此処が迷宮みたいになってんな。ちゃんと道とかあるし」
《これが植物からなる巨人の体内! 整備された道があり、照明まで完備されております!! 今しがたボルカ選手が告げた通りさながら迷宮が如き様!! 周りにも配下となる植物兵達はおり、ボルカ選手は如何様な方法で突破するのかーッ!!》
司会者さんも絶好調。実況があるとソロ攻略よりテンションは上がるな。人によっては集中したい局面かもしんないけど、アタシ的には賑やかな方が良い。
ティーナの場所は分からないから闇雲に攻撃する訳にもいかないな。なので取り敢えず上下に炎を放出した。
《ボルカ選手の攻撃!! 火柱が立ち、体内を炎上させて行きます!! ああーっと!! しかしながら植物は直ぐ様纏まりを見せ、見る見るうちに再生してしまいましたァーッ!!》
上下に放った火は炎の通り道を作り出すもすぐに植物が集って再生するように埋め尽くされる。
道は塞がってしまい、一直線に行く作戦はこれで失敗……と言う訳じゃなく、アタシは一つの確信を得た。
「ティーナの場所は下か」
《なんと!? ボルカ選手は今の一撃でティーナ選手の居場所を突き止めたようです!! 一体何を見、考え、確証に至ったのか!! 本人に聞いてみましょう!!》
「植物の再生速度を見たんですよ。同時に穴を空け、同時に塞がった。その時微かに下側の再生速度が早かったんです」
アタシが見たのは再生速度。それによってティーナの居場所を見つけた。
司会者さんは疑問を浮かべるように話す。
《再生速度! それが早いとどうなるのでしょうかァーッ!?》
「此処からは推測混じりなるんですけど、おそらくこの植物はティーナを守る為に生み出されている。なので必然的に、ティーナの居る方向の再生速度が早くなるんです。いち早く直さなきゃ本体に影響が及んでしまいますからね」
《成る程!! 再生速度によってそこまで分かるとは!! 流石はボルカ・フレム選手です!!》
「ハハ、そんなに褒められる事でもありませんよ。何はさておき場所は分かったんで行きましょう」
大凡の居場所の検討は付いた。なのでもう一度下に炎を放ち、トンネルを造り出して飛び降りる。
進む途中にも植物は再生してアタシ達を包み込もうとしているけど、周りを炎で囲んでいるんで自動的に防御してくれる。炎とアタシ達の間には魔力で空気の溝も作っているから呼吸の確保も可能。このままティーナを探したいな。
「落下速度も上げるか。この巨人は山よりも遥かに巨大だし、落ちるだけでも一苦労だ」
体勢を変え、移動しやすいフォームで加速。その間にも定期的に穴を空けたりして居場所の詳細を掴み、ティーナが居るであろう場所付近までやって来た。
「ティーナ! 居るんだろー! 早く出てこいよー!」
《ティーナ選手! 居りますでしょうかー!?》
炎の拳で植物に穴を空け、一際大きな空間に出る。アタシ達はそこで不穏なモノを目にした。
《こ、これは……!》
「成る程な。そりゃ会場には誰も居ない訳だ。だって全員──この部屋に居るんだもんな」
《行方が分からなかった人々が!! この部屋にて拘束されております!! 意識は無い様子ですが呼吸は確認!! 全員生きているのは間違いありません!!》
巨大な部屋。そこに吊るされた人間魔族や幻獣魔物。
会場の人達全員此処に居るみたいだな。誰一人見つからなくて当たり前だ。気絶……している訳でもない。微かに寝息が聞こえるから植物による睡眠効果のある何かで眠らされているみたいだな。
ビブリー達やレモンにユピテルまで。全員を捕らえる芸当は難しいと思うけど……植物の発生に伴い、不意を突いて全方位に眠りの粉や作用する物質を蒔かれたんじゃ成す術も無くなるわな。
《一体何がどうなっているのか! 皆様は果たして……!》
「おっと、炎の外には出ない方が良いですよ。多分睡眠作用の物質で充満してると思いますんで」
《……! わ、分かりました! それでは、世界中の皆様にはこの光景のみを見せておきます!!》
視界が悪いのは薄暗いからだけじゃない。睡眠粉が周囲に充満している。今はアタシ達を覆う炎で防いでいるけど、一歩でも出たら忽ち眠くなって他のみんなと同じ状況になっちまうな。
そして肝心のティーナはと言うと……。
「……うぅ……私は……独りじゃ……」
「安らか……じゃないな。悪夢に魘されながら眠っている……眠らされているか? 意識は何処にあるか分からないけど……取り敢えず目の前のモノを消さなきゃティーナもみんなも救えないって訳か……!」
《……!? なんと! 気付きませんでした! 今! 私達の正面には! 女性のような形をした植物が見下ろしています!!》
ティーナの意識も不明。前方には外の巨大植物をこの部屋サイズに縮めたような人形が立っている。
形はティーナが持っている人形にそっくりだな。顔も体も植物だから殆どシルエットのようなものだけど、あの人形から全体に蔦が伸びている。みんなを拘束しているのもあれか。
『…………』
「何も話さないか。今回はティーナも寝ているしな」
《わあっ!?》
瞬間的にアタシ達の方にも蔦が伸び迫り、正面に炎を放出して防御。次の瞬間には周りの粉に引火し、粉塵爆発が起こった。
《ふ、粉塵爆発です! 粉から粉へと伝わり、周囲が一瞬だけ炎の壁のようになりました!!》
「解説どーも。ご苦労な事ですよ」
これはアタシの炎じゃ危険かもな。粉が充満している今、炎を使ったんじゃ引火する。そこから爆風で炎の鎧が吹き飛んで眠り粉を吸い込んだらそこまでだ。
となると、レモン辺りを起こす方向から始めるのが得策かもな。レモンなら数分は息を止めて対応も出来るだろうしな。……けど、それじゃ非効率。呼吸の確保が可能なモノを召喚出来るかもしれないビブリーも候補。もちろんアタシも周囲への影響に考慮しつつ戦うとして、先ずは戦力の増強から始めっか。
「ティーナの意思なのか無意識なのか分からんけど、相手してやるぜ!」
『…………』
植物が再び迫り、それらを躱して囚われの面々回収に赴く。
突如として発生した植物の問題。アタシ達は本元に到着し、説得兼戦闘が本格的に始まった。




