第四百一幕 植物道中
《更に右から迫ってきます!》
「オーケー!」
《地響きが……下から来ると思います!》
「任せろ!」
司会者さんの声を聞き、死角から迫ってくる植物も焼き払う。
本当に視野が広いな。攻撃の気配も読めない今、アタシは来る場所を推測するか、見てから避けるしかないけど、司会者さんのお陰で見なくても対応出来るぜ。
けど此処まで肝心の人とは会っていない。二人道中なのは一人より良いけど、本当になんの情報も無いからそれについては大変だな。
「地上を走り続けるのも大変だな。いつ何時植物が襲ってくるか分からない。あんま変わんないかもしれないスけど、空から探してみますか?」
「空からですか?」
「うっす」
「分っかりましたァーッ!」
状況説明には音声拡張の魔道具。普通の会話には普通に対応。ちゃんと使い分けてんな~。
取り敢えず司会者さんの腕をまた引き、下方向に火炎を放出して空に飛び立つ。
その余波で周りを囲んでいた植物も焼き消え去り、一気に空中に乗り出した。
《さあ! 私達は今、空へと移動しました! 空中からご覧になりますわ現在の“多様の戦術による対抗戦”会場! そうです!! この未開のジャングルのような有り様が代表戦の会場なのです!! 先程も申し上げた通り、負傷者、行方不明者の数は不明!! 現在、植物に阻まれ気配を読む力も機能しない状況!! この会場に家族や友人が居るのであれば、小まめに通信の魔道具で連絡を取るのが最善策と思われます!!》
状況を伝えつつ注意換気をする。ちゃんと人々の安全安否を考えているな。流石だぜ。
けどこれは予想以上。見渡す限りがジャングルであり、マジで全世界が植物に覆われているんじゃないかと思う程。
すると司会者さんが映像伝達の魔道具を見てハッとした。
「ボルカ選手! これを見てください! 宇宙から撮られた今の星の状態です!」
「宇宙中継までしてんのか!? ダイバース代表戦!」
「はい! 世界一の催し物ですので! どうやら高所に移動した事で魔力波をキャッチしたようです! その映像をご覧下さい……!」
映像伝達の魔道具に別の場所から通信が送られてきたみたいだ。
そしてそれは宇宙からとか。確かに世界的に人気の競技。全世界に伝えるには魔力を全体に与えるのは間違いない。高所に移動したのはそう言った観点からしても正解だったな。
アタシは下方から迫り来る植物を焼き払いつつ、その映像に目を向けた。
「……これ……本当にそうじゃねえか……!」
「はい……その様です……!」
それに映されたものは、アタシ達の星。それを覆い尽くす植物。まだ星の半分くらいだけど、本当に全域を植物が飲み込んでやがる……!
今までは最大でもステージを埋め尽くすくらい。多く見積もっても大陸一つ分。それでも十分過ぎる範囲だけど、歴代でも最強クラスの暴走状態だ。
「これってライブ中継ッスか?」
「はい。進行形です……!」
「今も広がっていますね……」
目を凝らせば、星を覆う植物が少しずつ広がっているのが分かった。
中継映像だからゆっくりに見えるけど、これが星の大きさって考えればその速度はとんでもない。数十分で星の半分を埋めている訳だからな。侵食速度、軽く音速は超越してんなこりゃ。
「他の場所がこの会場と同じようになってんなら……ダメだな。生存者の有無も分からない。ティーナの意思が関係無くても、ティーナの魔法なら無闇に他者を傷付ける事は無いと思うけど、現状で人の姿がないから何も言えないぜ」
「そうで御座いますね。おっと、司会としてこれを伝えなくては……!」
世界の現状報告に乗り出す司会者さん。そのプロ根性も流石だな。アタシも見習わなくちゃ。
とにかく今はティーナを止めるのが最優先かもな。このままじゃ世界が植物まみれになっちまう。と言うか既になってるか。状況確認は二の次。生存者は居ると信じてティーナを止めに行くか。
「ティーナの場所、大凡で良いので分かりませんか?」
「そうですね……一度はステージへ行きましたが、その後“魔専アステリア女学院”の皆様によって医務室の方に移動してました。そこからはどうにも……」
「医務室からは一通り見てきたけど、ティーナの姿は無かったな。自立した植物魔法。それに運ばれた可能性はあるか」
ステージってのはおそらく初戦の神殿ステージ。そこからアタシと一緒に医務室へ向かった後、行方不明。
何か手掛かりのようなものでもあれば良いんだけどな。
「手掛かりか……」
「……そう言えば……ティーナさん達が後にした神殿ステージに彼女の痕跡と思しき巨大な植物がありましたけど……まるで女の人のように見えました。ステージの貸し出しなのでモニターで見ていましたが……」
「成る程。それは大きなヒントになるかもしれませんね。それじゃあ神殿ステージか」
神殿ステージに巨大な植物。それは唯一にして大きなヒントになりうる。
転移の魔道具は当然のように植物魔法で遮られて使えないし、アタシ自身が行くしかないな。
「神殿ステージまでは数キロ……具体的な距離は分からんけど、飛ばせば行けるか」
「お供しますよォーッ! 現場に向かってこその司会者ですから!」
「オーケー。そんじゃ、行きますか!」
決めた瞬間に炎を放出し、一気に加速して突き進んだ。アタシ達の後を植物が追うように迫るも炎の余波で焼き消す。
このまま真っ直ぐ行けば数分で着くな。生身の司会者さんに合わせて多少は速度を落とすけど、それでも間に合うだろう。てか、もはやそれ以前の問題だしな。
《私! ボルカ・フレム選手のお陰で進めてますが、その後を追うように無数の植物が迫ってきます! まるで我々の行く手を阻むような──》
「本当に感嘆の根性だぜ!」
追われる様も実況解説。何度も言うけど流石のプロだ。
しかし、確かに周りの植物も増えてきたな。司会者さんの言う通りアタシ達の行く手を阻んでやがる。……て事は神殿ステージの巨大植物にティーナが居て間違いなさそうだ。
少し速度を上げ、神殿ステージに乗り込んだ。
《さあ! 我々はこのまま真っ直ぐ行き、植物に染まった神殿ステージへと乗り込みます! 果たしてティーナ・ロスト・ルミナス選手は此処に居られるのか! それとも──おおっと! 更に更により多くの植物達が襲ってきます!》
「早速来たか……!」
入るや否や無数の植物が差し迫る。瞬時に炎で防御して消し去り、突破して突き抜けた。
その瞬間にも周囲から植物とゴーレムやビーストが姿を現す。今まで味方だった植物達が敵に回るとその数の応酬がとんでもないな。
天才的なアタシも魔力は無尽蔵じゃない。ほぼ無尽蔵に湧くティーナの植物魔法とは相性悪いな。炎と植物で相殺や防御自体は可能だけど、数の暴力がとんでもないぜ。
「一々相手するのも面倒だな。てか、ティーナに到達するまでアタシの体力が持たない」
上記の理由からなるべく相手はしないようにする。特に自分達の脅威になるモノを防ぐくらいで、ティーナに会うのが先決だ。
「先ずは通り道の確保。──“フレイムキャノン”!」
植物の壁に向けて広範囲の炎を放ち、爆炎と共に崩壊させて駆け出す。
植物は崩壊した傍から再生するけど、それでも僅かに時間は掛かるからな。その瞬間に炎で加速し、前方に見えている山よりも遥かに巨大な植物へ向かい行く。
《さあ! 次から次へと攻めてくる植物! ボルカ選手はそれらを躱し! 避け! 燃やし! 消し去り! 怒涛の勢いで突き進みます! 目指すは正面の巨大植物! この先にティーナ選手は居るのか! 他の人達と再会する事はあるのか!! 乞うご期待願います!!》
「実況モードに入ってるッスね。んでも、そのご期待はほんの数分後になると思いますよ!」
炎のトンネルを抜け、周りの植物から逃れて突き進む。
移動だけでも魔力は消費する。これまた何度も言うように、無尽蔵のティーナの魔法には流石に魔力切れ負けするからなるべく回避優先。この辺の魔力管理も大変だな。
アタシと司会者さんの植物道中。目的地の巨大植物は近くに見えるけどまだまだ遠いぜ。




