第三百九十八幕 不明瞭
──“神殿ステージ・跡地”。
司会者さんを含め、何人かに事情を説明した私達“魔専アステリア女学院”一同は一時的に会場を離れ、先程のステージへと転移した。
この森林ステージに変貌した神殿ステージは他の初戦では使わない場所なので自由に行動出来る。
だけど既に周りは植物だらけ。入った途端に囲まれたわ。
「これがティーナ殿の癇癪で起こされた御技か。今までも不可思議な様はあったが、これ程までとは」
「やれやれ。何故ティーナ・ロスト・ルミナスはボルカ・フレムを含めた“魔専アステリア女学院”の面々や我らに相談しないのか。一人で背負い込む事も無かろうて」
「心配掛けたくない性格なのよ。ティーナさんは。それに相談云々ではなく彼女自身の問題。前にこんな事があってから押さえ込んでいたし、私達も前の騒動以降収まりつつあるかと思っていたけど……本来のティーナさんは催眠や洗脳の類い。心を読むと言った力が効かないからこそ、奥底を見られた時とお友達が確実に無事と分かる状況じゃなければ追い詰めてしまうのね」
あくまで私の推測。ティーナさんの性格から判断した事柄。
けど概ね合ってるんじゃないかしら。本当に見られたくない箇所は、“テレパシー”ですら読めない場所に仕舞っている。だから私達にも分からなかった。
彼女、自分の境遇はあまり話さないものね。遠慮しているんじゃなく、無意識で話せなくしているみたい。
「取り敢えず場所が変わっていなければ空中神殿に居る筈。石化したボルカさんもそこに居ると思うから、一先ずボルカさんを回収。メドさんに石化を解いて貰い、ティーナさんを説得すれば事は解決する筈よ」
「そうか。それは分かった。……がしかし、厳密に言えばそれは解決とならぬな? 臭い物に蓋をしたのと同義。彼女の心の奥底は依然として閉じられたままに思えるが」
「…………」
流石、鋭いわね。レモンさん。
そう、それによって一時的に抑えられたとしても根本的な問題は解決していない。彼女のトラウマが何かも分からない現状、推測でそれに対処しなくてはならない。
まあ、その言葉からして家族……主に母親関連なのは見て取れる。けれど下手に刺激したら今より更に暴走してしまうでしょう。だからこそ扱いが難しい。心の問題なんて時間以外に解決出来るのか分からないし、その時間を経ても一生引き摺る人は居るもの。ティーナさんがどちら側の人間なのか、今はやれる事をやるしかないわね。
「その事は把握しているわ。その上でこのまま暴走させるよりは止めた方が良いと判断した次第よ」
「フム、理屈は分かった。確かに精神を突き、更なるダメージを与えて身も心もボロボロにしては元も子も無いか。心得た」
その手の問題についてはレモンさんも把握している様子。常に人間の本筋を見ているような人ですものね。解決しないと分かってもやらなきゃいけない事を理解するのは早いみたい。
なので即座に行動を開始。まずは通り道を遮るティーナさんの植物を処理していかなくてはね。
「物語──“龍”」
『ゴギャア!』
「“光球”!」
「突破する」
「“雷矢”!」
出し惜しみはしない。早くティーナさんを解放しなくてはならないもの。
龍の炎で焼失。ルーチェさんも熱を帯びた光球を打ち付けて通り道を作り、レモンさんは木刀で粉砕。ユピテルさんも雷で焼き消した。
その道を抜けて突き進み、植物の中心に居るティーナさんの元へ駆け抜ける。
移動方法も多種多様。私は召喚した龍の背に乗って飛行し、ルーチェさんは魔力。レモンさんは自分の足で駆け抜け、ユピテルさんは電磁浮遊で進み行く。後輩達も自分達なりの方法よ。
『『『…………』』』
『『『…………』』』
「あれは……!」
「ティーナさんの魔法ね」
その道中にも様々な妨害がある。植物からなるゴーレムやビースト達が自力で動いているわね。
管轄から外れたのではなく、ティーナさんがそうするように、無意識に命令を下しているのかしら。だから試合中は味方と判断されたみんなにも襲い掛かってくる。
「露払いなら後輩の役目っしょ!」
「ああ、此処は私達に任せてください」
「ええ、頼んだわ」
「頼もしいな」
サラさんとリゼさんがゴーレムとビーストの相手に名乗り出る。
炎と風。二人の相性も植物に対しての相性も悪くない。範囲を更に広げられるし、適材適所ね。
『『『ブオオオォォォォォ……!』』』
「巨大ゴーレムも居るのね」
「しかと炎も纏ってますわ……!」
「それでは此処は私達が……!」
「やりますわ!」
「私達も手伝います!」
「任せてください!」
「倒して見せましょう」
複数体の巨大ゴーレム。それの相手に名乗り出たのはディーネさんとベルさん。そしてルマさんとシルドさん、ケイさんの五人。
一挙一動で広範囲を破壊する巨大ゴーレムが複数。この五人でも足りないくらいだけど、おそらくティーナさんの近くには更に居る筈。これ以上戦力を減らす訳にもいかないので彼女達に託した。
『『『…………』』』
「後輩達が止めてくれるけど、それでもまだまだ多いわね」
「無尽蔵の兵力。改めてティーナさんは凄まじいですわね……!」
「だが、これくらいならば敵対した私達は何度も倒した事がある」
「ああ、その通りだ」
多くの相手は後輩達が止めてくれているけど、それでも行く先々に待機している。
龍で焼き払い、光球で焼き消し、木刀で打ち抜き、雷で焼き切る。各々の攻撃で突破し、活路を開いた。
「私達はまだ何もしてない……」
「得意分野が得意分野だからね……」
「貴女達はまだ待機よ。能力の無効化も魔力サポートもティーナさん相手に有効活用出来るわ」
「「は、はい!」」
残ったメンバーは私とルーチェさん、レモンさんにユピテルさん。そしてムツメさんにギフさんの六人。
戦力で言えば申し分無し。聖魔法で回復も可能なルーチェさんに色々便利な本魔法。単純な火力が人間の国でトップクラスのレモンさんにユピテルさん。能力を消し去るムツメさんと魔力操作で様々なサポートが可能なギフさん。バランスの良いパーティーではあるわね。問題は今のティーナさん相手に何処までやれるかだけど、それを考えても仕方無いわ。問題点については到達した時に考えましょうか。
「場所は彼処か」
「ええ。モニター越しに見た限りはね。あの状態から移動は出来ないでしょうし、ほぼ確実だと思うわ。何故か目先には植物の壁があって進めなさそうだもの」
そしてティーナさんが居るであろう場所のすぐ近くにやって来た。確定はしていないけれど、状況を考えたらほぼ間違いない。植物の橋も架かって通りやすくなってるわね。
なので直ぐ様乗り込み、植物を駆けてその場所にやって来た。
「この植物の塊の中に……!」
「ええ、ティーナさんが居るわね」
目の前にあったのは繭のようになった植物の塊。この中にティーナさんが居るのは確定として、そこを空けるよりも前にやる事もあるわね。
『…………』
「巨大な植物人形ですわ……!」
「人形……言い得て妙ね。ゴーレムとも違う人の形をした植物」
「女性を模したのか? 蔦が長い髪の毛のようになっている」
「ティーナ・ロスト・ルミナスの心境を投影したような存在か何かか?」
「何れにせよあれを何とかしなくてはならないわね」
目の前に居る、巨大な人のような植物。見れば下半身部分と繭のような塊が直結しているわね。それも気掛かりだけど、何よりその大きさが問題かしら。
現時点でこのステージと同等のサイズ。山並みの巨大ゴーレムを遥かに超越した大きさ。大気圏にも突入し兼ねないわね。目の前にずっと植物の壁が見えてたけど、それはあの人形の足だったみたい。
『ァアア……』
「音が……!」
「ゴーレムのように空気が通り抜けて鳴るのとはまた違うわね。本当に鳴いているみたい」
「意思があるのかどうか。しかし意思があるとすればそれはティーナ殿のモノか否か」
「ただ巨大なだけの木偶ならまだしも、ティーナ・ロスト・ルミナスの意思と直結していたら厄介だな。巨大な物体に意志が宿るだけでそれは脅威だ」
巨大な植物の人。それは巨腕を掲げ、次の瞬間には私達へ振り下ろした。
私達は飛び退くように避け、更に距離を離す。ギリギリの位置で掠り、巨腕は下方の山をぺしゃんこに押し潰した。
それによって大きな粉塵が上がり、視界は砂埃に覆われた。
「まだ距離があったから避けられたが、これはマズイな」
「一挙一動が地殻変動を遥かに越える一撃。ティーナ殿を救出するまでの前哨戦にしては骨が折れるな」
巨大な植物人形は山を複数挟んだくらいの位置に居た。なので龍に乗ったり各々が全力で回避すれば当たらずに済む。けど、ただ手を下ろしただけでこれ。友達とお話しするだけなのにこんなに苦労するなんてね。
「一先ずアレを止めねば話にならぬな」
「そうね。壊せるかどうかはさておき、気くらいは逸らしてティーナさんが居るかもしれない繭の中に入りたいわね」
「話をするにはそれくらいしかありませんものね」
何はともあれ、やるべき事は分かっている。巨大な植物を止めて繭の中に入り、ティーナさんと話す。それで解決するかどうかは兎も角とし、それくらいしか出来ないわね。
そして最初に見つけようと考えていたボルカさんの行方も未だに不明だけど、一緒に居るか近場に居る筈。見つけ次第回収優先かしら。
私達によるティーナさんへの説得。残念ながらまだその段階には行けてないわね。




