第四十幕 幻獣ごっこ
「次に行くのは順番通りなら幻獣の国になるな」
「その文は……“次に訪れるは南に位置する幻獣の国。幻獣達の王は頼もしい味方になった。”……だね」
「文脈だけだと容易く見つかりそうなものだな」
魔族の国に位置する場所から石ころを見つけた私達は、次いで幻獣の国に向かっていた。
北側から南側って真逆の方だね。本来ならそこから西方向か東方向に行った方が良さそうだけど、英雄さん達は何かあって急遽変更したりしたのかな?
そして此処から南側にある物は──
「──部室だ……」
「そう言や森に入ってすぐの場所だもんな」
考えてみたらそうだった。
この文章に合わせて設定された位置からして、南側はダイバースの部室がある所。
他にめぼしい物も見つからないし、次の物はここにあるって考えて良いのかも。
私達は部室へと入って行く。
「あら、どうかしました? 何かご用ですか。冒険者の皆様方」
「ル、ルミエル先輩……?」
そこに居たのは、獣の耳を生やしたルミエル先輩と同じように幻獣のコスプレをしている先輩方。
……なに、これ?
「えーと……ルミエル先輩……その格好は……」
「ルミエル? 誰の事を言っているのかしら。私は幻獣のフェンリルよ。がおー!」
「フェ、フェンリル……?」
曰く、ルミエル先輩はフェンリルとの事。
曰くって自分で思っても状況が全く掴めないんだけど……ホントに何これ? フェンリルって大きな狼だよね……。
「よく来たね! 幻獣の国に何用だー!」
「メリア先輩……」
「私はメリアなどではなーい! 魔法と弓に長けており、容姿端麗な長寿の種族エルフだぞー!」
細長いつけ耳を装着し、弓を背にレイピアを片手に持つメリア先輩。愛用のほうきもちゃんと持っていた。
そんなメリア先輩はエルフで……。
周りを見てみると他の先輩達も奇っ怪な格好をしている。
「は、遥々よくぞやって来たね……わ、私はフェニックス。主力を張って居るよ」
「ユ、ユニコーンですぅ……よく来ましたねぇ……」
「先輩方……」
そして二人の先輩は自分の格好に紅潮し、あまりハッキリと物を言えてなかった。
そう言えば、この先輩達の自己紹介はまだだったかも。
フェニックスの格好をしているのが“レヴィア・フローラ・レイカ”先輩で、ユニコーンを再現する為に額にツノを付けているのが“リタル・セラピー”先輩。
二人とも一番最初のかくれんぼで私が見つけた人達だね!
あれ、けどそうなると此処に居ないイェラ先輩は……。
「ぼ、冒険者の者達よ。遥々この地に来るとは。ワシに何のようだ!」
「イェラ先輩……?」
「イェラではない。ワシは幻獣の王、ドラゴンだぞ!」
二本のツノを付け、お尻の方に尻尾を付けているイェラ先輩。
腰の木刀も相まって結構似合っていた。と言うか、全員のクオリティはかなり高いね。
「学芸会でもしてるのかしら……」
「ハハハ……多分違うと思うぞー」
「と、とても似合っております事よ! 先輩方!」
「うん! みんな可愛い!」
一瞬後退るけど、とても似合っていて可愛いのは間違いない。
多分これって、幻獣の国を再現する為に幻獣ごっこしてるんだね!
「私も動物なりきりごっこは好きですよ!」
「あらそう? けれど残りはワイバーン、ガルダ、ジルニトラに──」
「それより、何か用があるのではないか!? 態々赴いて来たのだからな! さっさと用件を言え!」
「もう、焦らし過ぎよ。ドラゴンさん」
「黙れ! ルミ……フェンリル!」
似合ってると思うけど、イェラ先輩的には恥ずかしいのか先を促した。
私達は改めて文脈を見てみる。
「“幻獣達の王は頼もしい味方になった”ってあるから、話せばすぐにくれるのかもね」
「そうだね。それじゃ、この石ころみたいな物ありませんか?」
「お、おお。あるぞ! 用途もよく分からぬ物だが、世界平和に貢献してくれるなら授けてやろう!」
「あ、そう言う体なのか。成る程なー」
「勿論貢献致しますわ! 英雄……ではありませんね。設定上はまだ。……私達冒険者パーティは世界をより良くさせましょう!」
意図を読み解き、私達は話を合わせて確認する。
イェラ先輩……じゃなくて、ドラゴンさんは懐から黄色い石ころを取り出した。
「そうか。その意思が本物なら、この石を君達に授けよう!」
「意思が本物……この石……え?」
「ゴホン! その言葉が本物ならこの石を授けよう!」
「気にしたんですか……」
一瞬戸惑ったけど、一先ず石を授けてくれた。
何にせよ、これで二つ目だね! 残る石はきっと二つ。私達はコスプレパーティ会場から後にした。
「ルミ……二度と私にこの様な事はさせるな……!」
「えー? 良いじゃない。似合ってたわよ♪」
「私はこのままでいいなー」
「エルフは見た目そんなに変わらないだろ……! フェニックスを見てみろ! 再現が他より難しいから一番奇抜!」
「ツノを生やすのだって地味に恥ずかしいんだよ~」
ちょっとした言い争いが聞こえたけど、じゃれ合いみたいなものだねきっと。
私達は道中で次の文章を読み上げる。
「えーと、“三番目に訪ねたのは西に位置する魔物の国。狂暴な魔物達は手が付けられない。”……か。こりゃ文言的に一番大変かもな~」
「と言っても、今回は戦闘無しらしいから緩和されてると思うよ。あとこれだけ訪れたじゃなくて訪ねたなのが気になるところかな」
「そうなると、着目すべき点はウラノちゃんが言った“訪ねた”と“狂暴な魔物達は手が付けられない。”ってところだね」
「表現としては間違っていませんが、何にせよ西側に行ってみなくては分かりませんわね」
目的地は西側。魔物の国設定されている場所。
一先ず時間が時間なので少し急ぎ足で向かい、そこには不定形の何かと魔道具が置いてあった。
「これは……」
「十中八九、ルミエル先輩達が作った魔力からなる存在ね」
「つまり魔物の再現って訳か~」
「という事は襲ってくるんですの?」
『『『~~~』』』
「き、来た……!」
ウニョウニョとした何かが迫り、私達は距離を置くように退避。
安全な樹の上に立ち、策を講じる。
「取り敢えず、アレは倒しても良い魔物なのか?」
「別に構わないとは思うけど、先輩の魔力からなる魔物。倒したところで増え続けるでしょうね」
「じゃあどうすれば良いんだろう……」
「文章にあるのも“手が付けられない”……ですものね」
一つ一つの力はそんなに強くないけど、多分いくら倒しても意味がない存在。
これもまた謎解き。正攻法は違うって事かな。
「ヒントになりそうな物を探さなきゃな」
「あの魔道具が確実にそうだとして、魔物の中から回収しなきゃね」
「あ、それなら私に任せて!」
明らかに怪しいのは置かれた魔道具。なのであれを回収する為、私はママに魔力を込めて植物を伸ばした。
「確かにあれなら回収出来ますけど、魔物に妨害されませんの?」
「大丈夫! 邪魔されないから!」
『『『………!』』』
「成る程……」
伸ばした植物の左右から更なる枝を出し、周りの魔物達をグサリとお団子のようにする。
すぐにするりと落ちて復活するけど、邪魔される事無く謎の魔道具は手に入った。
「単純に考えれば魔物達が守るこれを潜り抜けて回収すれば中に入ってるとかだけど……」
「開きそうにないね……」
揺すったり叩いたりしてみたけど、開きそうな場所は無かった。
鍵穴とかは無いし、蓋のような隙間も見えない。中身が石ころだとしたら壊れちゃう可能性があるから無理やり抉じ開けるのも止めた方が良いもんね。
「熱で緩くするって方法もあるけど、この箱とはまた別だもんね。そうなると切断とかになるかな」
「切断かぁ。ティーナの葉っぱかアタシの火の剣とかそんな感じになりそうだな」
「けどこの魔道具の大きさじゃみっちり詰まってたら中身まで斬れちゃうね」
「そうなりますわね……」
開け方自体は色々あるけど、それには相応のリスクが付き物。
今回はルール上特にね。だからちゃんとしたやり方で開けた方が良さそう。
「うーん……」
ユサユサ、コンコン、トントン、カンカン。どんなにしても全く開かない。
植物で縛ったり溶けない程度に炙ったり、本魔法でピッキングのプロを召喚したり、色々試してもダメそう。
だんだん嫌になってきた……。
「もう! どうすれば開くのか教えてよー!」
《畏まりました。この箱の開け方は……》
「……え?」
そして、魔道具が言葉を発してパカッと開いた。中には赤い石が……って、ええ!?
「あ、開いちゃった……」
「……。もしかして……文章の“訪ねた”って……“訊ねた”って事……? 手が付けられないの部分は手は必要としないって意味のヒントだったって訳……」
「んなアホな……」
「ルミエル先輩なら茶目っ気入れてそうしそうですわ……」
有り得ない話じゃないどころか、ルミエル先輩には妙な説得力があってやり兼ねないという結論に至った。
初等部の子達でも解ける謎だもんね……。ピッキングのプロでも開けられない入れ物なんて出さないか……。
「危なかったな~。音声認識部分に植物が詰まったり、周りが熔けて覆ったりしてたら開けられなかったぞ」
「そ、そう言えば……。ある意味一番の難題だったよ……」
何はともあれ、これで幻獣の国の物と魔物の国の物は入手した。
残るは人間の国の物とゴールすればクリアかな?
開けるのに苦戦しちゃって三十分は消費しちゃったし、時間はギリギリ。
問題自体は全部が単純なんだけど、大きな氷とか先輩達の劇場とか音声認識の魔道具とか、別方面で時間を掛けさせてくるね。
けどもう少し。魔物達を払い除けて樹から飛び降り、最後の到達点に向かった。




