第四幕 魔導の実技
──“三限目”。
「次は魔導植物学だ。あーそれと、今回は初日と言うのもあって私が全教科やるが、基本的には私より詳しい専門の教員が居る。明日以降はその方々に教われよ」
「「「はーい」」」
「とは言っても、初等部からの者達にはお馴染みの先生方だがな。それじゃあ始めるぞ」
学校ではそれぞれ担当する教科によって先生達が変わる。家庭教師の先生達もそんな感じだったからシステムは同じ感じだね。
そんなこんなで植物学の時間。ママの魔法が命を生み出すものなら、この授業は色々と参考になりそう!
「えー、マンドラゴラから世界樹まで、魔導由来の植物の数は様々だ」
「先生ー! マンドラゴラと世界樹では天と地どころの差ではありませーん!」
「良いところに気が付いたな。そのレベルで大小様々な植物には──」
生徒からのツッコミに返答しつつ授業を進めていく。
うーん、柔軟な対応。流れるようなやり方だね。手慣れてるって感じ。
そんなこんなで三時間目も無事終わりを迎えた。次の授業は……。
──“四限目前”。
「ほら、ティーナ。次の授業は魔導実技だ! 着替えて向かおうぜ!」
「“魔導実技”? 二時間目でやった魔導学の実践とは違うの?」
「ああ。あれはあくまで魔力出力の確認だからな。実技は実技でちゃんとした授業があるんだ。これは主に応用で……ま、やってみたら分かるさ!」
「そうなんだー」
次の授業に備え、私達は制服から動きやすい服装に着替える。
魔導学と違い、魔導……即ち魔法・魔術その物を主体とした実技。
どんな感じなのか分からないけど、一先ず周りに合わせて制服のボタンを外し、スカートを脱ぐ。
使用人の人以外の前で着替えるのは初めてでちょっと恥ずかしい。変な下着とか思われてないよね? 基本的に黒か白の物だし、目立った色合いじゃないからきっと大丈夫……。
そしてやや周りの目を気にしつつ着替え終わり、直後に着替え終えていたボルカちゃんに手を引かれる。
「行こうぜ。ティーナ。意外かもしんないけど、アタシが一番好きな授業は魔導実技なんだ!」
「へえ~。別に意外じゃないけど、好きな授業があって良かったね!」
余程楽しみなのか、嬉々として実践場に向かう。
引っ張られたままそちらに赴き、私達は一番乗りだった。
「まだ誰も来てないね」
「まあなー! 基本的に一番乗りだぜー!」
「他の人とは来ないの?」
「最初は乗ってくれるんだけどなぁ。次第にアタシに置いてかれちゃうんだ」
「アハハ……何となく分かるかも」
休み時間とかの様子を見る限り、友達が居ないって訳じゃないみたいだけど実技とかの授業じゃやや距離を置かれているみたい。
理由は……言うなら才能の差とかかな? 人一倍やる気があって、それに伴った力も持ち合わせている。だから距離を置かれちゃうみたい。
「けど、あまりに早すぎるから何をして待ってればいいんだろう? 五分くらい後には始まるとして、このまま話してるのも暇な気がする。イヤじゃないけど……」
「そっかー。確かに退屈ではあるな。一足先に魔法の練習でもしておこうか? しておいて損はないと思うしな」
「たった五分で……? それって何をするの?」
「簡単に言えば魔力の微調整かな。魔法でも魔術でも、いきなり放出すると疲れちゃうだろ? 実技前には準備体操的な事もするけど、その前に微調整しておくとパフォーマンスがより良くなるんだ」
「そうなんだぁー」
開始までの半端な時間をどうするか。
ボルカちゃん曰く、魔力の調整みたいな事をすると実技で動きが良くなるんだって。
それなら言われた通りにしてみようかな。ママとティナがやってくれるから魔力とかはあまり使わないんだけどねー。
けどママに魔力を分けたりするから損はないよ。
「それで、魔力の微調整って?」
「そうだな。こう、グググーからのバーッ! って感じ」
「よ、よく分からない……」
「そ! みんなからそう言われて実技の時間だけは若干避けられちゃうんだよねぇ~。何となく理由は分かるんだけどさぁ。何となくで出来ちゃうから説明のしようもないって訳」
「へえ~……」
感覚派って事かな? ボルカちゃんは天才タイプだ。
だったら私も何となくの感覚でやってみるしかない。実技の時間だけボルカちゃんを一人にさせる訳にはいかないから……! 友達として!
そんな感じでボルカちゃんの様子を見、何をしているのか観察して見様見真似でやってみる。
「……」
「……」
あ、なんだろう。この感覚……やってる事は瞑想なんだけど、研ぎ澄まされていくような感覚や体を巡る魔力が不思議な感じ……。
─
──
───
────
【ティーナ……お前……】
【あ、パパ! ママがね! また踊りを踊りたいって!】
【人形に……■が……? いや、そうじゃないようだ……だが……】
【━━フフ、ティーナ。さあ、踊りましょう。──うん! ママ!】
あれ……なんだろう……これ……。私とパパと……ママの記憶だよね。
ママが病気で■■■■■■──病気が治って……。三人で踊った時の──
────
───
──
─
「──よーし、授業を始めるぞー」
「ティーナ? 先生来たぞー。寝てんのかー?」
「……! ううん、起きてるよ。瞑想してたら魔力の感覚が上手く掴めたみたい」
「そっか。確かに調整出来てるな。へへ、ティーナはアタシに付いてこれるんだな!」
嬉しそうに鼻の下を擦りながら笑うボルカちゃん。
あれ? 何を考えていたんだっけ。なんか重要そうだけど、別に思い出す必要が無いような事。ま、いっか。
ボルカちゃんの可愛い笑顔を見てたらそんな事どうでもよくなるもん。今は授業に集中だね!
「次は魔導実技だ。まだ実践には移さなくても良いかもな。どのみち次は昼休憩。お腹も空いてきたし、この五十分は軽く流す感じでやっていこう」
「先生ー! 先生がそんなんじゃダメだと思いまーす!」
「真面目だなー。生徒が真面目で何よりだが、たまには息抜きもしろー」
「十分していまーす!」
先生と生徒という立場だけど、基本的にはちょっと歳の離れた友達みたいな感覚で接している。
本当にこれが学校のあるべき形なのかな? なんか微妙に違う気がする。初めての学校だから私の知識が足りないだけかもしれないけど。
「まあいい! さて、魔導学の時間に魔力放出は終えたから、真面目な生徒の意を汲んで普通に魔導実技をしようと思う!」
「それこそ普通の事だと思いまーす」
「ええーい! いちいち揚げ足を取るな! 私にも教師の威厳がだな……」
「いえ、威厳はないと思いますよ」
「うん、ありません」
「授業は真面目に受けますけどね~」
「貴様ら~!」
生徒に教師が翻弄されているけど、実際真面目には受けてるね。うん、これもまた一種の形なのかも。
みんな仲良くていいなー。
「じゃあボルカ。まずは一番優秀な君が手本を見せろ。中等部からの新入生の為にもな」
「はーい。分かりましたー」
「「「ボルカさーん♡」」」
「……!?」
ボルカちゃんが立ち上がると、他の子達から黄色い歓声が上がった。
何この感じ。女の子だよね!? よく分からないけど、何となく女の子からは男の子に向けて送られるモノだとばかり思ってた!
「魔法と魔術、どちらで行きますか?」
「二限目の魔導学では魔法だったから、今回は魔術の方でいいぞ」
「ウス」
杖を置き、片手に魔力を込める。
魔法だけじゃないの……? ボルカちゃんは魔術も使えるんだ!
「フフ、説明して差し上げますわ」
「あ、貴女は……! 朝のホームルーム前、一人で席に座っていた金髪ロールの方……!」
「あら、既にご存知で。しかし第一印象は髪型ですか。……コホン、私“ルーチェ・ゴルド・シルヴィア”と申しますわ。以後お見知り置きを……一人で座っていたも余計ですけど」
「よ、よろしくお願いします!」
「ええ、よろしくてよ」
金髪ロールの子、名前をルーチェちゃん。遠目から見てもそうだったけど、スゴく上品で気品漂う感じがする。本当に良いとこのお嬢様みたい。
ルーチェちゃんはボルカちゃんを見て言葉を続ける。
「彼女は魔法と魔術、その二つを高いレベルで扱えるのです。本来は片方に寄せた方が威力も消費魔力も効率が良いのですけど、その力を関係無く放てるのが彼女ですわ。利点としては例え杖がなくても魔法が撃てる事。魔力切れでもある程度戦える事ですね。魔法を使いながら魔術を使えたり……まあどちらかに集中した方が力と消費効率が良いのは変わらないのですけど、何よりボルカさん自身がかなりのものなので、“なんかスゴい!”って思わせる力を感じるのです!」
「へえ……なんか途中から投げやり……と言うか私、口に出してませんでしたよね?」
「その表情を見れば分かります事よ!」
「そうなんですか!」
「そうなのですわ!」
表情から考えている事が分かっちゃうなんてスゴい!
どうやらボルカちゃんはこの学院でもかなりの実力者らしく、みんなに一目を置かれて尊敬されているみたい。
私もボルカちゃんみたいになれるかな?
『ええ、なれるわよ。きっと』
「そうだよね、ママ」
「……? 何を一人で仰有ってらっしゃる?」
「なんでもないですよ」
バレないように話しているから傍から見たら独り言。だけどママとティナは確かにここに居る。居るの。
さあて、ボルカちゃんのパフォーマンスを見よっか!
「これから全員で実技をやるから、まずは簡単な的当てでいいぞ」
「分かりました。“ファイア”!」
指先から炎を放ち、造り出された的を焼いて撃ち抜く。
そこから更に的が生み出され、現れた瞬間に貫く。スゴい正確な射撃……。先生の意思で造られている的だから現れる場所もランダム。なのにここまで丁寧に狙えるなんてスゴいとしか言い様がない!
「とまあ、こんな感じだ。単なる魔力放出だった二限目と違って正確性が求められるぞー」
「「「はーい!」」」
先生の指示と共に授業開始。
魔導実技は魔力の操作をメインとした、如何にして力をより操れるか。それを学ぶ為のもの。
先生がさっき造り出していた的を見ての通り、先生は魔力操作もスゴい。なので不馴れな子にはちゃんと教えていた。
授業であって軍隊の訓練とかじゃないもんね。私もママの花魔法をもう少し頑張ろう。私じゃなくてママが使うんだけどね。
「“フラワー……“フラワーマジック”!」
「君は系統の派生は出来るようだが、バリエーションは少ないようだな。もう片方の人形を使っての魔法とかは使えたりしないのか?」
「うーん、どうでしょう……やってみた事ないので」
ママの魔法はママのモノだから魔力を込めるだけで使えたけど、ティナはティーナだから私が使えない魔法は使えないと思う。
どうすればと悩むところに先生が言葉を続けた。
「それなら試しに魔力を流してみたらどうだろうか。何かを使えるかもしれない」
「そう……ですかね。やってみます」
私がやれるのは魔力の糸を出す事くらい。なのでどうなるかは分からない……けど、もしかしたら私が何か使えるかもしれない可能性もある。
やるだけやってみよう。
「糸伝いで魔力を……ティナに……」
『…………』
魔力を込め、私から私に与える。“私”はどんな魔法が使えるんだろう。
力のようなモノがティナに伝わり、フワリと舞い上がった……あれ、なんだろう……視界が二重に見える……。変な感じ……揺れて気持ち悪い……。
「うっ……」
「……! どうした、ティーナ。大丈夫か?」
フラッと傾き、先生に支えられる。
それによって思わず込めていた魔力を切っちゃったけど、お陰で体調は戻ってく。
あ、返事しなきゃ。
「はい……大丈夫……です。視界が悪くなって気持ちも悪くなりましたけど……この子と魔力の伝達を切ったら楽になりました……」
「フム、思った以上に魔力の消費が激しいのか……二限目で使った魔法の影響が残っていたのか……どちらにせよ君の体が大事だ。少し休憩してみて、ダメそうだったら保健室へ。大丈夫と判断したら気を付けながら実技に参加してくれ。時間の判断は君に任せる。今すぐ保健室でもいいぞ」
「分かりました」
魔力の消費とかはそんなに感じないけど、念の為に休んだ方がいいのかな?
もう体調も元通りだし、五分くらいで復帰出来そう。
実技が再開する前、ボルカちゃんが私の所に来てくれた。
「大丈夫か? ティーナ。授業前に魔力の微調整をさせた事が原因かも……だとしたらゴメン。なんか様子変だったもんな……」
「ううん、平気平気。本当に一瞬目眩がしただけだから。今は頭も痛くないし目眩もないし、すぐに参加出来るよ!」
「そっか。けど自分は大事にな」
「うん!」
優しいね、ボルカちゃん。クラスのみんなから人気があるのもよく分かる。絶対好きになっちゃうでしょ。
だけど私は少し休憩。ママに魔力を使った時は平気だったけど、なんでティナはあんな風になっちゃったんだろう。
『そうねぇ。私には普通だったのに不思議ねぇ』
『けど、なんか新しい発見もありそうだよ!』
「新しい発見……確かにそうかも。体調が悪くなっちゃったけど、実感はあったもんね。特訓すればなんか掴めるかも!」
ママとティナに相談してみても何も分からなかったけど、発見がありそうと言うのは確かにそう。
私はまだ魔力の操作も拙いし、この授業を含めて色々と挑戦してみよう!
「先生! 参加します!」
「お、大丈夫そうか?」
「はい!」
その後私は復帰し、魔導実技で魔力の操作について色々と試行錯誤してみた。
結果的には何も起こらなかったけど、数十分で何かを掴む方が難しいもんね。じっくりやってこ!
四時間目の授業も終わり、次はお昼休憩だね!