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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部三年生
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第三百九十七幕 切っ掛け

 ステージを覆い尽くした植物を抜け出し、私は仲間探しを再開する。

 なんだか落ち着かない。胸がザワつくような、何とも言えない悪い気持ち。早く誰かと合流して落ち着こう。でも先輩として後輩達に恥ずかしい姿は見せられないし、ボルカちゃんと会うのが一番かな。

 一先ず私はボルカちゃんの気配を追う。彼女の気配ならよく分かるけど……似たような物があるのに、何だか弱まっている。どうしたんだろう……大丈夫かな……?

 心配だし、早くそこに向かわなきゃ。


「ボルカちゃん……」


 植物に乗り、加速して移動。気付いたら神殿ステージは全てを植物で覆っており、私達の移動し易い環境になっていた。

 相手チームと思しき気配は既に三つ消えている。それなら残りは他のみんなに任せても大丈夫そう。リゼちゃんもシルドちゃんもギフちゃんも強いからね。

 そちらの心配はしておらず、今は気配が弱まっているボルカちゃんを最優先。


「気配の位置は……」


 そして到達するは神殿の上。この辺にはまだ植物はそんなに無いけど、明らかに戦いがあった痕跡が残っている。

 倒壊した神殿。燃え尽きた焦げ目。炎の痕はボルカちゃんの物。それならこの近くに居るのかも。

 だけど何だか不思議。元々石造りの神殿だけど、それとは別に不自然な石像がチラホラ。まるで神殿がその上から更に石にされたような、そんな石像。

 元々こう言うコンセプトのステージなのかな? 神々の戦いで石化したような神殿の建物。一つの石柱に触れ、軽く倒し壊してみる。するとまた不思議な物が出てきた。


「鈍色の石の中に……白亜の石……本当に上から石化で塗り固められたような感じ……」


 もしこれが戦いの痕なら……私は少し胸騒ぎがした。

 ザワつく心を抑え、神殿からボルカちゃんを探す。けれど見つからない。気配を辿って追ってみるけど、気付いたら通り過ぎているような気がする。

 それは決まった地点で気配が移動する。その場所にあるモノを私は見た。


「ボルカ……ちゃん……?」

「………」


 ──ボルカちゃんを精巧に象った石像。

 まさか、そんな訳が無い。確かに気配は感じる……だけど微動だにしない。まるでボルカちゃんがお人形みたい……。

 ふと思い、私はボルカちゃんを取り出した。


「ボルカちゃん……これって……」

『……ああ、アタシが石になってる。多分、戦いでこうなったんだろう』

「やっぱりそうなのかな……。でも、リタイアはしていない……どうやって戻せば……」

『方法は分からないな。アタシが誰と戦っていたかも分からないし』

「そうだよね……ボルカちゃんが誰と戦っていたかなんて、ボルカちゃんには……あれ?」


 自分で言って、疑問が浮かぶ。だってボルカちゃんは間違いなく本物。なのに戦っていた相手を本人が分からないなんて変……。

 まるで私の独り言みたいに……そんな訳無い! この会話が独り言ならママ達との話も……? ママ達は間違いなく此処に居る筈なのに……!!


「ね、ねえ……ママ……。ママはずっと一緒だよね……」

『……そうね……私はずっと一緒……貴女と一緒……』


 聞き馴染みのある声で私の言葉に返答するママ。そもそも、ママってどんな声だったっけ……そんな筈無い……のに……何故だか私には分からない。

 記憶が薄れる。ほんの数年前、ママがまだ大きかった頃の事なのに……何故か悲しみ以外の記憶を感じない……。

 そんな、違う……嫌だ……ママは病気だったから治るまで私とずっと一緒なのに……昔からずっと一緒だったのに……!


「一体……どうして……何が……私は……」


 今まで築き上げて来たモノ……それとはまた別の何か。よく分からない感覚がより一層精神をむしばみ、頭がこんがらがって混乱する。

 目の前に居るママとティナとボルカちゃん。何故かみんなは……私が考え事をしていると話さない。まるで■が無いような……。

 そんな事はない! みんなは……! 私は……!


「みんなとはずっと一緒……絶対に……みんなを離さない……」


 ボルカちゃんは魔法か何かで石化しただけ。ルール上、生きているのは確定している。

 ボルカちゃんは生きている……ボルカちゃん……“は”……? 違う……ママもちゃんと生きている……。みんなとは……! 私は……!

 “みんな”に“私”。そのフレーズが流転するように脳内で反復される。何かを言いたいのに、何も言えずに言葉に詰まってしまう。


「……っ。ああ……っ!」


 私は何がしたいんだろう。何が言いたいんだろう。なんで此処に居るんだろう。ダイバースの代表戦。大きな大会だけど、チームメイト以外のお友達は少ない。私達の手で阻んだから。


「……! …………!」


 何の為に戦うのか、何の為に優勝目指しているのか。私達が倒してきた他のチームの分まで……勝ち続けなければならない。


「……………………………………………………………………」


 そうだった……今やる事は……勝利するだけ……。試合が終わればボルカちゃんは戻る。きっとママ達もいつもみたいに話してくれる。

 長々と戦っていても意味が無い……。チームメイトのみんなは頑張っているんだから、この試合を終わらせれば全てが解決するんだ……きっと。




 ──私が(・・)勝手に(・・・)全部(・・)背負った(・・・・)んだもん(・・・・)




「──“世界樹ユグドラシル”」


 全てを飲み込む世界樹。前に使った時は本物には遠く及ばなかったけど……今の私……じゃない。私とママ。私達なら再現出来る。

 大きな力で一気にケリを付ける。全てを一瞬で終わらせる。ステージ全体を大きく飲み込み、全てを植物で覆い尽くした。

 嗚呼、暖かい……草木や花に囲まれた私はまるで、ママの中に居るような感覚。

 敵は全て排除する。


「これで終わり……」


 植物の中に入り、朦朧とした意識。このままずっと此処の中で閉ざしたい。色々なしがらみから抜け出したい。

 私を守るママの植物は自動的に敵を倒していく筈。外の様子は分からない。けどきっと全てから私を守ってくれる。力がどんどん強くなるのを感じる。魔力ももっと大きくなる。

 私の意識は眠りにつき、夢の中でずっとママ達と楽しいダンスを踊るんだ。その夢からは覚めず、絶えず、続いていく。

 そう、これがきっと楽しい夢。外から何かが聞こえたような気がするけど、それはきっと気のせい。何もない。

 本当に……これで終わり。



*****



 ──“ダイバース代表戦会場”。


《勝者! “魔専アステリア女学院”ンンン!! ティーナ・ロスト・ルミナス選手の植物魔法により一網打尽と……って、一体これは何事か……!? 会場に戻ったのは数名でティーナ・ロスト・ルミナス選手とボルカ・フレム選手が戻ってきません!!? そしてステージは更なる植物に覆われてしまい……!!?》


「「「……………………!?」」」

『『『……………………!?』』』

「「「……………………!?」」」

『『『……………………!?』』』


「これは……」


 代表戦の初戦。私達“魔専アステリア女学院”はボルカさんとティーナさんの活躍で勝利を収めたけれど、少し様子がおかしかった。

 でもこれは前に見た事がある状況。ティーナさんの精神が追い詰められた時、防衛本能の一種で魔法が暴走する事がある。

 今回は何が切っ掛けかしら……。直前に心がどうこう言っている魔物と戦っていたけれど、決定的なのはメドさんとの戦いで石化したボルカさんを見てからかしら。

 心関連で荒れ始めた所にあの状態のボルカさんを見てしまった。彼女への好意からしてティーナさんの精神をむしばむには十分な要素だったみたいね。


「ウラノさん……!」

「ええ。おそらく予想通りだと思うわ。植物の領域がどんどん広がっている……!」

「先輩……! これは……!?」

「そうね。貴女達にも話しておきましょうか。実は──」


 何の事か分からない後輩達に説明する。

 後輩達が入ってから、なりかけた事は度々あったけど、実際に見たのは私達と先輩達くらいだものね。

 今回はストッパーとなるボルカさんが石化してしまい、ダクさんのような止めてくれる目上の人も居ない。更に言えばレモンさんやユピテルさんが近くに居る訳でもないものね。

 要するに今回こうなる可能性が歴代の大会で一番高かったという事。

 説明を受け、後輩達は言葉が出なくなっていた。


「そんな事がティーナ先輩に……」

「初耳ですけど……確かに今までもお人形と本当に話していたような……」

「あれはそう言う……」


 信じられない様子だけど、取り敢えず納得はしてくれたみたいね。

 さて、問題は転移の魔道具が起動しても戻って来ない程の出力になった植物魔法ね。あの植物は未だに広がり続け、ステージとなる島を覆い尽くしてしまった。

 これは何処まで伸び続けるのかしら。


「一先ずまだ範囲はあのステージのみ。司会者さんに説明をし、この場は私達で収めましょうか」

「そうですわね。ティーナさんの植物魔法は絶大。対処は早いに越した事はありませんわ」


 あまりパニックにさせるのは問題。なので次の試合までに私達で対応すべきね。

 ボルカさんが居ないのは不安だけれど、やれる事はやっておかなくちゃ。


「次の試合が始まるまでにティーナさんを止めましょう。あのままでは彼女が自分の植物魔法に押し潰されてしまうわ」

「それを見過ごす訳にはいきませんわ!」

「わ、私達も協力します!」

「勿論です!」


 後輩達も手伝いを名乗り出てくれた。心強いわね。他にも観客席に居るレモンさんやユピテルさん達にも協力を要請して対処しましょうか。

 ダイバースの代表戦。これを中断させる訳にはいかないものね。みんながそれぞれ本気なのだから。

 私も少し感情的になったのかしら。他の人達の事なんて今まで考えた事なかったのに。


「それじゃあ、対応していきましょうか」

「はいですわ!」

「「「はい!」」」


 初戦は私達の勝利。まだ魔族の国と幻獣の国との戦いは残っているけど、その試合は少し後なので今は暴走してしまったティーナさんを止めなくてはね。

 私達のダイバース代表戦。それは別の部分で苦労しそうだわ。


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