第三百九十五幕 決定的な一撃
「そらそらそらそらァ!!」
「くっ……!」
放たれる蛇達を切り伏せ焼き消し、吹き飛ばす。そのままメドへ剣を抜き、そのまま斬り付けた。
さっきと同様、中々の反応速度で防御。けども押し切り、相手の体を吹き飛ばす。
「……っ」
「“ファイアレーザー”!」
その先に炎の光線を放って追撃。相手は魔力か何かの防御壁で守っているけど、その隙も突いて直進。炎剣で貫いてダメージを与えた。
「このままじゃ、本領発揮するよりも前にアタシが勝っちまうぞ。それで良いのか?」
「良い訳無いけど……!」
「反応は出来るけど、反射神経はそこまで高くないのかもな!」
アタシの攻撃を辛うじて受けるメド。これがブラフの可能性もあるっちゃあるけど、この必死さを思えば多分違うか。
身体能力は決して低くはないが、アタシの方が上。単純に考えてその戦績からシュティルやユピテル以下だろうしな。その二人と渡り合ったり、何なら勝てる可能性のある……いや、勝てるアタシはメドより動けるだろうぜ。
その上で奥の手を使わせないかどうかを考えるとして……やっぱ種族とか諸々暴きたいな。でも追い詰め過ぎたら自分の首を絞める結果になり兼ねない。ケースバイケースかもな。取り敢えず勝利を優先するか。
「よっと!」
「……!」
「そこっ!」
「カハッ……!」
炎剣を薙ぎ、頑丈な腕を弾き飛ばす。がら空きになった胸から胴体に掛けて拳を打ち付け、殴ると同時に炎を放って焼きながら吹き飛ばした。
炎とメドは神殿ステージを飛び行き、一際大きな建物に激突して瓦礫を巻き上げる。そこ目掛け、更なる炎を放出した。
火によって建物は粉砕。飲み込まれて煙を上げる。この程度じゃやられないだろうし、種族を考えながら追撃するか。
「何のこれしき……!」
「立ち上がると思ったぜ!」
「……!」
単純な回し蹴りを放ち、それも腕で防御。この感触、鉄とは違うな。銅とかその辺りだ。
そして腕の鎧と言う訳でもない。肉体の一部で間違いないな。色合いからして青銅だこりゃ。
青銅からなる腕に無数の蛇を生み出す能力。あの揺れる髪……間近でよく見りゃ、もしかしてあの髪も蛇か?
蛇の髪に青銅の腕。隠された目……これは、本領発揮させたらヤバい種族っぽいぞ。そうなった場合、意識不明扱いになるのか分からないけど、間違いなく動きは止められる。
さっさと倒すに越した事は無さそうだ。
「“ファイアボール”!」
「……! 至近距離で……!」
胴体に火球をぶつけ、メドを怯ませる。アタシの予測が正しけりゃ、それに合わせて戦わなくちゃならないな。
なるべく遮蔽は用意して、狙い目は頭じゃなくて体。理由はサングラスっぽいアレが取れちまうから。
そもそもメドって名前からしてまんまだったか。取り敢えず気絶するまで攻撃あるのみだ。
「“ファイアエクスプロージョン”!」
「……!?」
一気に大技でトドメを刺す。
火球から変化させて至近距離で大爆発を引き起こし、その体を吹き飛ばす。って、この衝撃じゃサングラスも取れちゃうな。けど今更だ。その時はその時で仕方無い。
爆風に乗って神殿の遮蔽に隠れ、そう思わせないように追撃を仕掛ける。
「“火球連弾”!」
「……っ」
着弾と同時に複数の火柱が舞い上がる。けれどまだ光は確認していない。中々タフだな。流石はその祖先を持つだけはあるぜ。
英雄が生まれる前、今じゃ“英雄”は特定の人物を表す言葉だけど、数千年よりも前の時代は英雄と呼ばれる存在が沢山居たらしいからな。
そのうちの一人に討伐された伝承を持つ魔物。アタシ達がよく知る方の英雄も会った事はあるらしいけど、それは同名の別人。そう言った存在は世界中に居たらしいしな。
本来はその怪物を表す名。
「──メドゥーサ。神をも石化させる力を持つ怪物の子孫……!」
蛇の髪を持ち、青銅の腕がある。神によってその姿を変えられたらしいメドゥーサの真髄は、その石化させる宝石の目。
メドもその力を持っており、此処まではその力を使わずに来たらしいな。だからこそ、使った時にどうなるかは本人も知らない。故に封印している……ってところだろ。
今回も使うかは分からないけど、使わないなら使わないで勝利するだけだ。
「“フレイムドラゴン”!」
「……! 龍……!」
蛇に対する上位互換ってところだ。見た目だけの再現だけどな。
龍のような炎は真っ直ぐにメドへと向かい、その体を飲み込んだ。既に何度か全身を焼いてるし、打撃も割と与えている。それなのに耐えている訳だからな。その実力はかなりのもの。耐久力だけなら大会随一だ。
「まだまだ……!」
「“ジェットパンチ”!」
「……ッ!」
炎で加速し、メドの腹部へ拳を打ち付ける。それによって空気が漏れ、今一度大きく吹き飛んだ。
複数の建物を砕きながら突き抜け、一際大きな物にぶつかって停止。カラカラと崩れ落ち、大きな粉塵が舞い上がった。
「これで終わりになるか? ──“フレイムバーン”!」
粉塵目掛け、上級の炎魔術を放出。これがトドメになるかどうかはメド次第。このまま成す術無く勝たせてくれるのか、反撃に出るか。
火炎は真っ直ぐ突き進み、次の瞬間に炎が石化した。
「使ってきたか……!」
サングラスをしていたって事は、石化は自動。その目に見られたらお仕舞いなので瓦礫の後ろに隠れる。
アタシが相手の目を見てもダメだから気配を読んで動きを予測しなくちゃならないな。それを前提にさせる程の力。これは手強いぜ。
「その動き、どうやら私の正体には既に気付いているみたいだね。けど、だからと言って此処に対策アイテムは無いよ!」
「だな。鏡なんかありゃしないぜ」
相手に自分の目を見せれば反射して石化する。その瞬間にアタシの勝利は確定となる……けど、鏡どころか同じような役割を担うガラスも水も此処には無いからな。
今回の参加メンバーはアタシとティーナ、リゼにシルドとギフの五人。その役割を担える人は誰も居ない。強いて言えばシルドの防御魔法に鏡の盾でもあれば良いんだけど、勝手が分からないからな。ティーナの割と何でもありな植物魔法もありっちゃありかもしんないけど、何処までやれるかは分からないしな。
(となると控えメンバーだけど……)
此処でアタシと選手交替したとして、やりようがあるのはビブリーやディーネ、ムツメになるけど即座に理解して行動に移れるかどうか。仮に理解してもこのタイミングだと代わった瞬間に石化もあり得るぜ。
そうなると安全策は多分石化も無効化出来るムツメなんだろうけど、身体能力が追い付いていない。
アタシに押されるとは言え、相手も動きに対応しているからな。単純な運動能力が少し鍛えた常人並みしかない事を考えると、あの硬い腕で殴られたら意識を失っちまう。
アタシが戦い続けるとしてもう一人、誰かが此処にやって来れば直ぐ様事情説明から交代したり対策も練られるけど、これまた来た瞬間に石化もあり得る。結局は目を何とかするか、さっさと意識を奪うか。
見られずに攻撃する方法は……。
「これかもな……!」
「……そこ……! ………え!?」
アタシは飛び出し、メドは此方を見やる。けど一瞬は大丈夫。何故なら全身を炎で包み込み、姿は見えないようにしているからな!
「なんて事を……けど、これじゃ対策にはならない!」
「かもな」
「……!?」
全身を覆う炎は即座に石化。石の塊となる。だけど大丈夫。すぐに飛び出して背後に回り込んでやったぜ。
石になった炎をそのまま遮蔽とし、そこから飛び出す。視線は外れた場所に移動し、背後に回り込んで一撃を繰り出した。
「“フレイムバーン”!」
「……ッ!」
二度目の上級魔術。死角かつ至近距離でのこの一撃。今までのダメージも踏まえ、そろそろ意識に届く筈。
何ならメド自身結構負け続けてきたらしいからな。それが必ずしも戦闘とは限らないけど、此処まですりゃもう終わるだろ。てか、そうじゃないと困るぜ。
「……カハッ……ま、まだ……」
「本当に頑丈だけど……意識には届いたか」
フラフラし、意識が遠退くのを確認。今度こそ後一撃か否か。
何はともあれ魔力を込め、倒れ掛けているメドへ最後の一撃を──
『シャア!』
「……! 蛇……! しまっ……!」
油断……していた訳じゃないけど、完全に意識外だった……!
蛇が腕に絡み付き、身動きが制限される。毒物が注入され、若干の痺れも生じる。ヤバいな。完全に術中に嵌まった……!
「せめて……相討ちに……!」
「やるじゃねえか!」
振り向き、宝石の目が此方を見やる。
けど既に準備も完了しているぜ!
「“フラッシュ”!」
「……!?」
そんなに魔力を込めずとも放てる炎による光を放出。メドの目を閉じさせる。
光らせた片手は見られちゃったけど、もう片方の手も残っている。だったらこれでOKだ!
「“ファイアブラスト”!」
「……──!」
至近距離で炎の衝撃波を放出。メドの体を吹き飛ばし、今一度神殿に叩き付けて建物を崩壊させた。
次の瞬間には光となって粉塵の中から転移し、勝利したアタシは石化して重くなった片腕を見やる。
「マジかよ……侵食性の石化……どういう原理だ、こりゃ……」
石化した片腕から徐々に広がり、半身が鈍くなる。
こりゃ数分のうちに石化が完了しちまうな。流石に交代した方が……。
「あ、ダメだ。既にその動きも……」
交代にも宣言とか動作は必要。それが出来ないような領域に達し、アタシの体は石化する。
これで意識不明扱いのリタイアか、時間経過で戻るのか。何れにせよ、一時的には戻ってこれないな。
アタシとメドの対決。それはアタシが勝ったけど、結果的には引き分けと言う形で収まった。




