第三百九十三幕 中等部最後の代表戦・開始
──夥しい数の植物が私を覆い、周囲は真っ暗になった。暗くて、冷たくて、温かい。
この場所には私だけ。ううん。私とママ、二人の世界……ここはママの中。だからもう、何も苦しくない。だからもう、これで良いの。これが良いの。これが私の望む世界。
クルクルターン、タンタターン。楽しいパレードのお時間ですよ。踊りに踊って踊り狂い、街中を練り歩いてさあ壊そう。踊り踊ってあらあらと、疲れちゃったらスヤスヤ休眠。
まるで赤ちゃんが眠るかのように、私は世界から意識を閉ざした。
───
──
─
──“代表戦当日”。
《始まりました!! “多様の戦術による対抗戦”!! 世界各国から猛者が集いし代表戦!!! 今年の顔触れは例年に比べて大きく変わっており───》
代表決定戦から少しの休みを挟んで数日後。いよいよ中等部最後の代表戦が始まろうとしていた。
会場はとても大きな賑わいを見せ、一年生の子達はこの雰囲気に気圧されてる感じだね。
「つ、つつつ、ついに来たね……最後の代表戦……!」
「緊張し過ぎだぜ。ティーナ。地区大会の時と言い、緩急の差が激しいな~。しかも、最後は最後でもあくまで中等部の最後だ。中等部の最後。最後の代表戦じゃ意味合いが変わっちまうだろ~」
「ア、ハハハ、そ、そそ、そうだよね!」
私は見ての通り平常心。
今回レモンさんやユピテルさん達のチームは私達の所為で参加しておらず、人間の国一番の主力は必然的に私達“魔専アステリア女学院”になっちゃうけど、全く緊張せず臨めていると思う。さっきから武者震いが止まらないや……!
「スゴい活気です……」
「そんな舞台にもう私達が上がれるなんて……」
「楽しくなってきた……!」
ねー? 一年生の子達はスゴく緊張している! だから此処は私が先輩らしく振るわないとね! たまには先輩風吹かせて道を示さなきゃ!
「大丈夫ですか? ティーナ先輩」
「な、ななな、何をおっしゃっているのかな? ムツメ殿!」
「殿!?」
「私は見ての通り落ち着き過ぎてどうしようもない状態になってるよ!」
「その様ですね……どうしようもない状態なのは……」
緊張からか、ムツメちゃんが私に話し掛ける。全く、しょうがないな~! やっぱり私がしっかりしてこその解し方だよ!
今大会は知り合いが少なくてちょっと物足りないけど、だからこそだね! 何がって? つまりそう言う事なの! 理由はほら、そう言う事!
「こりゃガチガチだ。ま、試合が始まりゃ気が引き締まると思うけどな~」
隣のボルカちゃんも笑っている。流石だね。代表戦でも私に負けず劣らずの余裕っぷり。これは試合でも頼りになるね~。
そんな私達に話し掛けてくる人も居た。
「フッ、随分と固くなっているな。大丈夫か? ティーナよ」
「だ、だ……あ! シュティルさん!」
「お、治った」
今回の優勝候補筆頭、“神魔物エマテュポヌス”のシュティル・ローゼさん。
私は武者震いが止まり、久々に会った彼女とお話をする。
「やっぱり勝ち上がってきたね。流石!」
「そう言う君達も、“神妖百鬼天照学園”や“ゼウサロス学院”。並み居る名門、強豪を打ち倒して来たようだな。凄まじい快進撃だ」
「みんなスゴい強かったよ。本当にどっちが勝ってもおかしくない戦いだったもん。だから、みんなの分まで背負ってきたんだ……!」
「それは良い覚悟だ。私もその意思はある。互いに背負う者同士、負けられぬ戦いだな」
「そうだね!」
想いを背負う。それはシュティルさんも同じ。だからこそ私達は負けられないんだね。
そして他に、知り合いでなくとも話し掛けてくれる人も居た。
「随分と親しげに話している人も居るんだね。シュティル・ローゼさん。人間の国の人達と……って、ティーナ・ロスト・ルミナスさんと“魔専アステリア女学院”の面々……!?」
「“メド”。そうか、君は確か元々人間の国出身。“魔専アステリア女学院”の名は知っているか。まあ、そうでなくとも世界的に有名なチームと人物だがな」
「そちらは……?」
シュティルさんとは知り合いな様子。魔物の国出身かな? でも元々は人間の国に居たとの事。
波毛にサングラスのような物をしており、肌の色は普通だけど、腕に少し違和感がある。でも手袋をしているからよく分からないや。
そんな人が話し掛け、シュティルさんは説明する。
「この者は魔物の国、“メニーアイズ”の一員だ。元よりスカウトを重点的に行っているチームで、元々代表決定戦の常連だったが、今年は彼女が入った事によって更に力を伸ばし、今回初めて代表戦入りする事が出来たのだ」
「そうなんだ!」
「とは言え、結局はシュティルさんの“神魔物エマテュポヌス”には負けちゃってるし、今までも初戦で敗れちゃってたんだって。でも今年は去年や一昨年と違って、代表戦入りが決定したところで当たったから負けても勝ち上がれただけなの」
スカウト中心のチームで、そこに入ってそのまま代表戦まで残った選手なんだって~。だけどシュティルさん達には勝てなかったらしい。
でもそれは仕方無いよ。私達も毎回勝てる訳じゃないから。
そして、それとは別に気になる事もあった。
「元々人間の国に居たんだよね? そんな実力者なら名声が私達の方に届いていてもおかしくないんだけど、メドさんの事を全然知らなかったよ」
「それは……そうだね。人間の国の時はくじ運が悪くて……“ゼウサロス学院”とか“アテナロア学院”とかの強豪チームと同地区だから……初戦で当たる事が多くて毎回地区大会止まりだったの。それもあって人間の国じゃそんなに名声が無いんだ。お家の事情で魔物の国に引っ越して、私は魔物とのハーフだから魔物の国の“メニーアイズ”に加入した後、此処まで這い上がれたの」
「そうだったんだ……。確かにユピテルさん達は強いもんね」
「うん、謎解きでも戦闘でも一回も勝てなかった……」
気になったのは、彼女の加入で一つのチームがそんなに強くなるのに、何故人間の国に居た頃は名が広まっていなかったのか。
曰く、“ゼウサロス学院”を始めとした人間の国のみならず代表戦ですら優勝候補の筆頭となりうる強豪チームと地区大会で当たる事が多かったからとの事。
確かにそれじゃあ厳しいよね。そのレベルの実力者だもん。
「聞いてると色々不憫だな~。ま、今の時点で代表戦に行けたなら払拭したのかもしれないけど」
「運が悪いのはご先祖様譲りかな。それを言うと攻略のヒントになっちゃうから言えないけど、昔から不憫な家系なの」
「そうか。色々あんだな~」
ご先祖様譲りの運。気になるけど、それによって試合が不利になるから言えないみたい。力を隠すのも大事だよね。
何はともあれ、メドさん率いる“メニーアイズ”。強敵が多いのは変わらないから、もし当たる事があったら注意しなくちゃね。今年は新顔が多いのも相まり、他チームがどんな戦い方をするのかも不明だからより警戒が必要だよ!
「もし当たる事があっても容赦しないからね!」
「勝ちに行くぜ!」
「望むところ!」
言葉を交わし、私達は会場の方へ。また知り合いが出来て良かったね~。
そんなんで開会式は終わり、次に発表されるのは今回の対戦相手。誰が相手になったとしても手強いのは間違いない。心して掛からなきゃ!
モニターにはその表が映し出された。
私達の相手は──
《第一試合! Aブロック! 人間の国からは“魔専アステリア女学院”! 魔族の国は“タウィーザ市立天空学園”! 魔物の国から“メニーアイズ”! 幻獣の国は“フォースエレメント”となりましたァ!! ルールは総当たり! 初戦は“魔専アステリア女学院”vs“メニーアイズ”! “タウィーザ市立天空学園”vs“フォースエレメント”! 全チーム、如何様な戦いを見せるのか──》
「……初戦から当たっちゃった……」
「ハハ、こりゃ本当に不憫だな。いや、アタシ達が言えた事じゃないけどさ。特に今年は都市大会も代表決定戦も早々に当たりたくない相手と当たっちゃったしな~」
今回のルールは総当たり。代表戦では割とよく使われるものだね。
それにつき、他の三チームと戦った勝敗で次のブロックが決まるんだけど、まさか初戦でさっき話したばかりのメドさん達と当たるなんて。私達とメドさん。どっちのくじ運の問題なんだろう。それとも二つの悪い相乗効果かな……。
「えーと、ああ言った手前だけど、負けないよ!」
「此方こそ! 一位通過が無理だとしても、二位通過は死守するよ!」
「弱気な前向き!?」
私達の実力を知ってからか、取り敢えずこのAブロックで一位通過は半ば諦めている様子。確かに私達は“ゼウサロス学院”に勝ち、“神魔物エマテュポヌス”にも勝った事があるけど、パワーバランスは常に変わるもの。今やっても勝てるかは分からない状態なのにね。
けど、実際に私達が負ける訳にはいかないから弱腰でも容赦なく戦うよ!
《それでは各種第一試合! ────スタァァァトォォォッッッ!!!》
「「「どわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」」」
「「「ウオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!」」」
『『『グギャアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!』』』
『『『キュオオオオオオオォォォォォォンンンンンンンッッッッッ!!!!!』』』
指定ステージに転移し、私達“魔専アステリア女学院”とメドさん達“メニーアイズ”の初戦が始まった。




