第三百九十一幕 ダイバース・中等部最後の代表決定戦・全ての決着
バチッと刹那の瞬きと共にユピテルさんが移動し、私達の周りは雷に囲まれた。
触れるだけで意識が飛び兼ねない事象。それが周囲に張り巡らされ、一挙一動で多大なダメージになる包囲網となった。
「これはユピテルさんから作り出されたもの。それなら私が……!」
「……! やはり厄介だな」
「スゴいやムツメちゃん!」
ムツメちゃんが雷糸の一本に触れ、連鎖するように他の雷を切断した。
一筆書のように、ユピテルさんから発する雷が本人の移動で網のようになったもの。なので一つを無効化すれば完全に消え去るみたい。
「お陰で攻撃し易いぜ!」
「素で我に追い付くボルカ・フレムもだ」
炎で加速し、炎剣で斬り付ける。それをユピテルさんは雷剣で防ぎ、また炎と雷の衝撃波が周囲に飛び散る。
私はティナ越しに俯瞰視点でユピテルさんの後を追い、先を読んで植物を突く。彼女は雷速で躱すけど、何処か一ヶ所にムツメちゃんが居るだけで動きは止まる。止められる。
「行かせません……!」
「誠に厄介。ムツメ・ノーマ……!」
既に周囲も私達とボルカちゃんの罠を張っているからね。単純に炎と植物を置いてるだけで効果的。ムツメちゃんと合わせると相乗効果でより大きな影響を発するよ。
そして止まっているうちに植物で全方位を取り囲む。
「脱出する他無いか」
雷を纏い、天辺から植物を貫いて脱出。そこにはボルカちゃんが待ち構えている。何処を抜けるかはユピテルさん次第だけど、ボルカちゃんはその辺の勘も鋭い。
けれどユピテルさんもそれを予測していたのか、雷で貫通力を高めて突撃。ボルカちゃんとぶつかり合い、強い衝撃波を周囲に飛ばした。既に雲は無くなっているけどね。
「今までは弾いていたけど、今度は止めてやるぜ!」
「押し切りたいが難しいな……!」
バチバチと鬩ぎ合い、ボルカちゃんとユピテルさんは拮抗する。
お互いに負傷している状態。だけどユピテルさんの傷は私達より遥かに大きい……筈なのに、それでも互角なんて。地力の高さが窺えるね。
けど、止まっている今なら攻め立てるチャンス!
「“突き上げ樹林”!」
「……!」
「ナイスだ! ティーナ!」
下方から植物を突き上げ、ユピテルさんは片手で雷を放って防御。それも明確な隙となり、ボルカちゃんは好機と取って更に押し出し、相手が揺らぐ。
「もうちょい……!」
「それは……何に対してだ!」
「「…………!」」
押し切れるかと思った矢先、一気に電流が放出されて私達は引き離された。
まだこんな力を有しているなんて……! 本当に手強い相手……!
「終わらせる!」
「マズイ!」
「雷が集中して……!」
雷速で天空へ上昇し、片手に力を込める。それは槍のような形となり、さっきまでのそれとは別次元のエネルギーを放出していた。
「──“顕現・雷霆”!」
バチバチと雷が迸り、凄まじい力となる。だけど心無しか威力が低く感じる。
それはユピテルさんの負傷と、勝ち上がった場合の余力を残す為かな。それか、今はこれくらいで限界を迎えているか。……でもこれなら……!
「“惑星樹林”!」
「“太陽の大放出”!」
宇宙を焼き尽くすとされた力に対し、宇宙に顕在する物をイメージした魔導を用いる。
雷の槍と巨大な植物。太陽の力がぶつかり合う。三つの力は互いに譲らず、島ステージを大きく振動させる。余波だけで崩壊し兼ねない威力。弱っていてこれだからとんでもないや……!
「やはり……我が残りの代表戦、後の試合に出る事が出来なくとも仕方無いか……!」
「……!」
雷の槍は更に威力を増し、私達の力が競り負けてしまった。
これがユピテルさんの“雷霆”……! これ程の威力なのにまだ本来の力には遠く及ばないなんてね……!
その上で私達の魔導は完全に押し負け、雷が眼前に。此処からもう、賭けになる……!
「──な……! 何故……何故空を飛べぬ主がそこに居る……!? ムツメ・ノーマ……!」
「──はあ!」
私達の前に、植物魔法と共に上昇していたムツメちゃんが降り立ち、“雷霆”を正面から受け止めた。
同じような力を持ったラトマさんも負傷した大技。それがムツメちゃんに止められるかどうか、全てを一年生の彼女に託した賭け。
雷の槍はムツメちゃんに直撃し、次の瞬間には消え去った。
「なにっ……!」
「やった……!」
「これでアタシ達が優位に立った!」
「終わらせます!」
「まだだ……! 多少は使えるこの力を用いて最後まで……!」
“雷霆”を消し去り、私達は一気に畳み掛ける。対するユピテルさんも余力を振り絞り、大きく帯電。雷が鳴り響く。まさにそれは──“神鳴り”……!
気力も体力も限界まで振り絞り、全員がぶつかり合う直前───……私達はステージへと戻っていた……って……え?
「「………!?」」
「「………!?」」
それと同時に、高らかに宣言される。
《勝者ァ!! “魔専アステリア女学院”ンンン━━━━ッッッ!!!》
「「「どわああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!」」」
そして、私達の勝利が確定した。
という事はつまり……!
「ウラノちゃんにディーネちゃん!」
「邪魔したかしら? 絶賛戦いの真っ只中って感じだったけれど」
「ううん。倒せたら良いなとは思っていたけど、元々足止めのつもりだったから。ウラノちゃん達が決めてくれて良かったよ!」
ウラノちゃん達の謎解き、本題の方は解決したみたいだね。
無事に謎を解き明かし、宝を示したんだ。
「……敗れたか。まだ余力が残っていると言うに負けてしまうとはな。やるせない心境だな……」
「ユピテルさん……」
「……フッ、なんてな。その心境も本音ではあるが、既に限界は迎えていた。どの道結果は同じだったかもしれぬが……その結果を分からずに敗れたのもまた一興よ」
レモンさんに続き、ユピテルさんも此処で敗退。二日目の第一試合。つまり彼女も代表戦には行けなくなった。私達のてによって……。
これで人間の国でのお友達のチームは一つも残らなかった。他のチームは居るけど……少し心細いね。
「我らに勝利を収めたのだ。代表戦で二連覇を達してしまえ。ティーナ・ロスト・ルミナス。ボルカ・フレム。主ら率いる“魔専アステリア女学院”よ!」
「うん。頑張るよ! 私達が勝った全てのチームの思いを勝手に背負う事にしたから!」
「フッ、そうか。その心意気で臨んでくれるのなら頼もしいな」
最後に激励をくれたユピテルさんと握手を交わし、彼女は観客席。私達は選手席の方へ別れた。
“ゼウサロス学院”にも勝利した。残る試合も勝ち進まなきゃね!
「そう言えば、謎……島に隠されたお宝の正体はなんだったの? ウラノちゃん」
「そうね。簡単に言えば……形の無い物だったわ」
「無形物?」
「ええ。そうね。あれは──」
───
──
─
【此処が魔の街……思ってた雰囲気とは違うわね】
【そうですね……此処にある銅像、住んでいた人々なのでしょうけど、みんなが楽しそうです】
【それに、戦いの痕跡も無い訳じゃないけど……そんなに大きくはないわ。何なら人々が修復作業に当たってるわね】
少女の銅像から宝石と思しき石を取り、街を象った場所に入った私達はその光景を前に、意外性の方向で呆気に取られていた。
前述通り、戦いの後とは思えない様子。寧ろ英雄を象ったと思しき石像が率先して手伝っているわね。
【……成る程ね。確かに英雄は略奪などはせず、戦いも全て完全なる平和の為と謂われているわ。戦闘の規模は大きくとも、多元宇宙すらをも手中に収めようとした“巨悪”以外を相手に行う戦闘で、他国の面々から死者は出なかった記録もあるわ。大きな戦いは相違からなる物として、それで済むなら終わらせた後はこうなるのも必然ね】
【しかし、戦いは戦いですよね。何故誰一人として悪態を吐いている様子の像が無いのでしょう?】
【事実の捏造と言う可能性も……まあ、少なからずあるかもしれないけれど、此処は“魔の待つ街”。それを英雄が最初に治めた“魔族の国”であると考えれば気持ちいい戦いが出来れば良かったんじゃないかしら】
【た、確かに……!】
多元宇宙論とか立体交差平行世界論とかパラレルワールドとか異世界とか、その他の世界線に置ける魔族は分からないけど、少なくとも私達の居る世界での魔族は義理堅く、ただ単に戦闘好きな種族でしかない。なので英雄が提示した物が満足の行く戦いであればこの状況にも納得がいく。
それを踏まえて“真実”や“宝”が何になるかを考えれば、自ずと答えが見えてくるわね。誰もが知ってる英雄伝説。その伝承に則った“真実”を“宝”とするなら──
【私達が入手した物。それを掲げる場所は街の復興作業を手伝う英雄達の所ね。私達が集めていたのは“戦いの証”。そしてそれをこの街と照らし合わせる事で……英雄の真実となる】
【街を治めた事実……それがそのまま真実に……!】
【そうなるわね。掲げる物は英雄の辿った──“軌跡”。魔族の国に入ったばかりの頃とするなら、此処から英雄伝説が本格的にスタートしたとなる。人間の国から洞窟や海を越え、森を抜けて魔族の国に到達した訳だものね】
英雄パーティ。入り口の森に居た神の子孫を除いた四人にそれぞれ見つけた三つの宝を渡し、この街に置いてあった残りの一つ、英雄の持っている物を合わせる。
すると同時に道は開け、クリアの証明書を手にした。
【これで私達の勝利ね。“ゼウサロス学院”のメンバーはまだ此処まで来ていなかったみたい】
【本を読み込み、他の人よりも英雄の伝承に詳しかったウラノ先輩だからこそですよ!】
【ふふ、ありがと。褒めても何も出せないけど、褒められるのは悪くないわね】
ディーネさんと会話をしつつ手に取り、私達の記録が記される。
気付いた時、私達は会場へと戻っていた。
《勝者ァ!! “魔専アステリア女学院”ンンン━━━━ッッッ!!!》
【【【どわああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!】】】
─
──
───
「──そんな感じで、英雄の仲間達に手に入れた物を置いたらゲームが終了したわ。渡したのは手に入れた順で、仲間に入ったとされる人達から。それで勝利って訳」
「真実は英雄の辿った軌跡……成る程ね~。確かに問題文にもそれについてのヒントが書かれていたね」
「そう言う事。その間も貴女達は大変だったようね」
「うん、だけど試合には勝てたし、後は残りも頑張るだけだね!」
「そうね」
以上がウラノちゃん達の辿った事の顛末。やっぱりウラノちゃんの推察力は凄まじいね。スラスラと問題を解いていっちゃうんだもん。
ともあれ、改めて“ゼウサロス学院”には勝利を収めた。それから二日目の試合も全勝で飾り三日目、代表決定戦の決勝も終わりを迎えた。
《──優勝チームゥ━━ッ!! “魔専アステリア女学院”ンンン━━━━ッ!!! これによりィィィ!!! 今年の人間の国最強は“魔専アステリア女学院”となりましたァ━━━ッ!!! “魔専アステリア女学院”を含め!! 人間の国代表には是非とも代表戦にて好成績を、あわよくば優勝して欲しいものです!!!!》
「「「どわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ!!!!!!!」」」
ダイバース代表決定戦、私達“魔専アステリア女学院”は見事に優勝を収め、代表戦への出場が叶うのだった。
それはいつもの代表戦と少し違う。来れなかった……阻止してしまったみんなの分まで、絶対に負けられない!




