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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部三年生
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第三百九十幕 知と力の佳境へ

 ──“汝、この文脈から真実を見つけ、宝を示せ。

 その場所は光と闇の混ざりし空洞。冷気と熱気の集いし闇の底。神の子孫と動物達の居る森の中。然れどその先には魔の待つ街がある。そこで大きな戦いがあった。

 英雄の伝承に則ったそれぞれの場所から物を持ち込み、島に隠されし宝を見つけよ”。


「次は“神の子孫と動物達の居る森の中”。という事は島にある森なのは間違いないとして、“神の子孫と動物達”という部分が引っ掛かるわね」


「そうですね。英雄のパーティには本当の神様の子孫も居たらしいですけど、その方と出会ったエピソードを謎に組み込んだという事でしょうか」


「そうね。似たような内容の謎解きは私達もした事があるわ。その時と勝手は違うけど、参考程度にはなるんじゃないかしら」


 英雄関連のダイバースは練習でも本番でも定期的にする事がある。なので場所の前提はある程度理解しているけれど、今回の指定場所は何処にあるか。

 “神の子孫”に“動物達”。簡単に考えるなら祠や鳥居のような場所があると思うけど、取り敢えず探さなければ始まらない。そしてそろそろ日暮れ。


「この時間帯にあまり動くのは止めましょうか。ティーナさんの放ったゴーレムやビースト達のお陰で“ゼウサロス学院”の選手達とは会わないけど、向こうも探索している筈だものね。バッティングして無駄な時間を過ごすのは避けたいわ」


「そうですね。向こうも代表決定戦相当の実力者。手強い相手になりますもの」


 私達の進行は極力相手に会わない事。理由はディーネさんも言う通り、簡単に倒せるような相手じゃないから。今ティーナさん達がユピテルさんにしているように、足止めでもされたら苦労するわ。

 気配は消し、灯りも点けずに息を潜める。夜の時間は10分にも満たないくらい。その間に謎解きをしていきましょうか。余程の地獄耳か、私達の声が大きくなければ通常の会話なんて聞かれないでしょう。


「一先ず森には入ったけれど、後は此処からどうやって探すか。ヒントとなりそうな文脈はその先にある“然れどその先には魔の待つ街がある。そこで大きな戦いがあった。”……かしら」


「“街”と言っているなら何かしらの痕跡はありそうですね。“大きな戦い”があったなら崩れていそうですけど」


「そうね。その辺を踏まえて行動しなくてはならないわ。どの程度の大きさかによるけど、文献に残る程の大きな戦いだったなら近くに跡とか無いかしら。具体的には島の一角が消えていたり」


「ティーナ先輩達がユピテルさんと戦っていますから既に消えてるかもしれませんね……」


「それもそうね。さっき大きな爆発も海底越しで見えたし。衝撃波も伝わったもの」


 戦いは既にこの島で起こっている。なので痕跡があっても掻き消されている可能性はあるわね。今現在も炎と雷の衝撃波が島中に伝わっているわ。

 けれどもその辺はちゃんと配慮されてるかしら。ルミエル先輩が提供したステージなら気遣いが細部まで行き渡っている筈だものね。ヒントの場所はなんともないかもしれない。

 そんな事を話しているうちに朝となった。昼間の時間も短いけど、夜よりは長めに設定されているから探しやすいわね。


「探すのは建物とかの建造物。自然物っぽくない石ころでもヒントになりそうだから捜索しましょうか。ついでに探索範囲を広げましょう。……物語ストーリー──“調査員”そして“本の鳥”」

「「「歴史の謎を紐解くぞ!」」」

『『『………』』』

「数を増やせるのが良いですね!」


 私達二人だけで探しても致し方無し。謎の数が少なくなったのも考え、多少のリスクは承知として多人数で探る。

 ティーナさんのように視覚共有が出来る訳じゃないから少しラグは生じるけど、それでも効率は上がるわ。

 その甲斐あって数分後。私達の前には明らかに人の手が加わったような建造物が現れた。


「十中八九此処みたいね。ヒント通り、正面には街がある。そして動物達とはこれの事」

「動物達の石像ですね。狼とか馬とかでしょうか?」

「伝承通りならフェンリルやユニコーンではないかしら。けれど大きさ的には子供ね」


 前方にある建物のような物。目の前には動物達を象った石像がある。フェンリルとユニコーンの近くには少女の像があり、神の子孫は彼女という事が分かった。

 目的地には着いた。後は此処からお宝を探し出す訳だけど、場所はもう言わずもがなって感じね。


「彼女が手に乗せている……宝石。これかしら」

「最後の方なのに簡単ですね」

「フェイクの可能性も勿論あるわ。謎が“文脈から真実を見つけ”……だから単純に場所を示しているだけではなく“偽り”を交えているかもしれないもの」

「成る程。言われてみれば……今まで探した場所が違う可能性もあるという事でしょうか」

「ふふ、少しはね。最初の洞窟にも怪しい石ころが置かれた場所はいくつかあったし、海底火山も複数の場所に顕在していたわ。それらがフェイクと考えたら私達が見つけたのは“真実”になるけど、こんな分かりやすい場所にある物が本物なのか少し疑ってしまうわね。それに、早い者勝ちと言う訳でもないから向こうが解けてない道理にはならない。証明となる物が複数ある可能性もあるわ」

「私達が一番進んでいない可能性もあるという事ですね……」

「ええ。“ゼウサロス学院”は代表決定戦相当。ユピテルさんのワンマンチームにも思えるけど、全員がそのレベルに達しているのは間違いないもの」


 果たしてこの宝石が“真実”と見て良いのか。そして“ゼウサロス学院”の面々も謎を解いているとして、その進展は如何程か。

 人間の国で随一の実力も知恵も兼ね備えたメンバーによる祭典がこのダイバース代表決定戦。人間の国での最強を決める大会という名は伊達じゃないわね。私達の方が進んでいると思いたいけど、何度か言うように確実ではないもの。


「一先ず此処はこれで良しとしましょうか。魔の街へ向かいましょう」

「はい!」


 取り敢えず宝石は入手した。これが本物かどうかは次の場所に向かって確認しましょうか。

 もしそれでクリアにならないのなら、そこか今現在の場所かで間違えた事になる。“島に隠されし宝”が最終目標として、手に入れたこれらの示す場所に現れるのかしらね。

 私達の謎解きは佳境に迫る。ティーナさん達の戦いもそうかしら。



*****



「はっ!」

「……っ」

「“柔樹”!」

「そこだ!」


 ユピテルさんは常例通りムツメちゃんを狙い、吹き飛ばされた瞬間に柔らかい植物で包み込んでダメージを軽減。触れる事で生身となった彼女へボルカちゃんが蹴りを放ち、下方の森へと打ち落とした。

 粉塵と木々が舞い上がるも周囲に雷鳴轟き、即座に戻って雷が放たれた。


「先輩!」

「うん!」


 柔らかい植物で包み込んだムツメちゃんを操り、私達の前に立たせて雷を防ぐ。下方が瞬いた瞬間に私達の前に移動させたから相手が如何に早くとも行動前に防御の態勢が出来たよ。

 本当に道具みたいな扱いをしちゃっているけど、ムツメちゃん自身の指示。その気概を私達も見習わなくちゃね……!


「ムツメ・ノーマもだが、ティーナ・ロスト・ルミナスも相変わらず厄介。戦闘の主軸としてもサポートとしても優秀だな」

「アタシへの評価はどうだよ!」

「言うまでも無かろう。単体でも我と渡り合える実力者よ」


 ボルカちゃんが横から打ち込み、ユピテルさんはそれを弾くように回避。雷を放って感電させ、負けじと炎が放たれて全身を包み込んだ。

 次の瞬間に炎と雷は弾け飛び、二人の姿が露になる。そこへ植物を打ち出したけど雷で焼き切られた。


「捕らえます……!」

「主は最も警戒している」


 その植物の中からムツメちゃんが飛び出し、ユピテルさんは飛び退くように回避。そう簡単には触らせてくれないよね。


「そらよ!」

「避けた先にはボルカ・フレム。現状私が大いに不利だな」


 回避地点にボルカちゃんが迫り、ユピテルさんへ炎剣を斬り付ける。彼女はそれを雷の剣で防ぎ、刹那にぜて炎と雷が島全体に伝わった。


「やはり大技か。“雷矢”!」

「デカイ雷だな! “フレイムスピア”!」


 雷の矢を撃ち出し、炎の槍で防御。再び爆裂して二つがほとばしり、上空の雲が蒸発した。

 そんなユピテルさんへ地上から樹を放ち、避けた場所に炎。コンビネーションで攻め立て、避けに専念した所でムツメちゃんがけしかける。


「やあ!」

「……! これは……!」


 正面にはムツメちゃん。周囲は植物と炎が覆って逃げ場無し。完全に無効化される状態が整った。

 けれどそこは即断即決。ユピテルさんは横へ雷を放って植物に穴を空け、抜け出した……その先にはボルカちゃんが来ていた。


「……! 先程まで……いや、そうか……誘われた……!」


 互いに打ち消し合う炎はリスクが高い。なので確実に穴を空けられる植物を焼き消して抜けるのは想定済み。

 炎と植物でユピテルさんの周りを囲んでいるけど、植物を置いた場所を限らせたの。よって、雷速で動いても到達点が分かるからボルカちゃんが間に合った。


「“フレイムバーン”!」

「……ッ!」


 相手は雷速。なので間髪入れず穴が空いた瞬間……ううん、穴を空けようと植物が盛り上がった瞬間に炎を撃ち込み、ユピテルさんを正面から焼き尽くした。

 そのまま炎の衝撃に押されて吹き飛び、雲の無くなった天空へと消えた。


「……まだ、意識には届いてないか」

「ギリギリで炎をかわしたのかな……!」

「向こうも流石ですね……!」


 天から雷鳴が轟き、風が巻き起こる。雲が集まり、ゴロゴロと小さく響いた。

 瞬間的にカッ! と瞬き、全身が焦げて衣服が焼失し、皮膚まで火傷した状態のユピテルさんが姿を現す。


「このまま敗れては元も子も無い。全力を出すぞ! “魔専アステリア女学院”!!」


 全身に雷が込められ、バリバリと島に落雷が広がる。

 これは、“雷霆ケラウノス”も出してくるかもしれないね。追い詰められた今、何もせずにやられたら可能性は0だけど、今後自分自身があまり戦力にならなかったとしても、この試合を勝利すれば代表戦まで行く可能性が出てくる。

 だからユピテルさんは、此処からが本当に本気……!


「ケリを付けようぞ! 主ら!」

「……っ」


 満身創痍の状態なのに凄まじい気迫。これが彼女の勝利に対する執念……!

 だけど、その執念なら私達も負けていない。勝利へのこだわりで負けるつもりはない!


「行くよ……ユピテルさん!」

「無論だ!」


 私達“魔専アステリア女学院”とユピテルさん達“ゼウサロス学院”の戦況。それは佳境に入り、終盤戦へと縺れ込むのだった。


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