第三百八十八幕 謎解きサバイバル
「まずは洞窟かしら。文にある“光と闇の混ざりし空洞”。当てはまるのはこのステージじゃ洞窟くらい。洞窟に光の差し込む空間があって、そこに何かあるのでしょう」
「そうですね。最初のヒントだけあって簡単な問題でした」
書かれている文章から答えを導き出す謎解き。最初のヒントはディーネさんの言う通りそのまんま場所を書かれている。
元より中等部一年生の子達でも解けるような問題。代表決定戦相当の難易度ではあるけど、私達にとっては簡単ね。
その指定場所となる洞窟へ。この島は本当になんでもあるから洞窟を見つけるのも簡単。そこへ入っていく。
「ある程度奥へ進んだら入り口付近とは違う風を探しましょう。そこは外に繋がっているから十中八九光も差し込んでいる筈だわ」
「分かりました!」
本からランプを取り出し、洞窟を照らしながら進む。
我ながら便利な魔法ね。日用品なら大抵の読み物に出てくるから困らないわ。魔力消費も少ないから自分の意思で消さなければずっと継続していられる。魔力は時間が経てば回復するからそれが少し遅くなるだけで別の用途に使わなければずっとね。
「……それにしても、物騒な洞窟ね。本物ではないんでしょうけど、人骨が至る所に転がっているわ」
「そ、そうですね……不気味です……」
「骨の大きさから女性や子供。趣味の悪い生き物の巣という設定かしら」
「女子供を好んで食べる……確かに反吐が出ます」
「……中々強い言葉を使うわね。けど、多分ここに主は居ない。英雄の痕跡を追う謎解きだから既に倒した後でしょう」
「そうなんですか」
あちらこちらに転がる小さな人骨。確かに英雄は洞窟で怪物を倒し、近隣の街を救ったと言う伝承がある。
まあ、英雄伝説はそんな伝承だらけでどれを示すかは今の文脈からは特定出来ないけれどね。私は関連の本を全部読んだから知ってるだけ。
何はともあれ、主となる怪物は居ないし解いて行きましょう。
「あったわね。それじゃあこの辺を探りましょうか」
「ですね!」
長い道を少し進み、光の差し込む場所を発見。後はこの付近を探すだけだけど、何処にあるかのヒントも文章から見つけなくちゃね。
「“その場所は光と闇の混ざりし空洞”。光と闇が“顕在する”ではなく“混ざり合う”。“混合”を意味するなら……此処かしら」
「ここですか?」
「ええ。丁度光の当たる位置に人為的なちょっと大きめの石ころがあるもの。光がそこに差し込めば石ころには影が出来る。原始的な日時計と同じ原理ね。これについては月明かりでも可……」
場所は把握。光によって位置を示す原理も理解した。けれどそれについて少し違和感が。その正体はすぐに分かった。
「……日陰が動いているわね」
「……! それって……!」
「ええ。このステージでは時間が経過する……している。通常の何倍もの早さでね。もう夕方だわ」
「“謎解きサバイバル”ってつまり……」
「外では数十分だけど、此処では何日も経過する事になるわね。まあ景観だけだけれど。取り敢えず太陽と月も魔法から作られたもの。本当にサバイバルをする事になるみたい」
違和感の正体。置かれた石ころの影が動いていた。それだけなら普通だけど、その早さが異常だったの。
この試合……ゲーム名とでも言っておきましょうか。“謎解きサバイバル”。まさかサバイバルがそのまんまの意味とは思わなかったわ。どちらかと言えば倒し合いの意味合いが強めと思っていたもの。朝になったり夜になったり、様々な状況下でどの様な判断をするか。それを見定めなければ代表戦には到底いけないわね。
「早いうちに物を集めて指定場所に向かおうかしら。これから夜になるとして、要因が色々と変わるから立ち回り方も工夫が必要ね」
「はい……!」
昼と夜の立ち回り。気配を読めても読めなくても、夜は暗くて視界が悪いのは変わらない。それこそヴァンパイア族や魔族でもなければ大半の人間はそうなる。
暗がりだと不意を突かれる危険性も高まるし、光で照らすと場所が特定される可能性も出てくる。素早く行動するに越した事はないでしょう。
「それじゃあ次……“冷気と熱気の集いし闇の底”を探しましょうか」
「冷気と熱気……この島には火山がありますし、その辺りでしょうか?」
「そうね。“火山”と言うのは間違ってないと思うわ。けどそれだけじゃ“冷気”の説明が付かない。噴火でもした後で雲に覆われたら冷えるけど、そんな回りくどい物でも無いでしょうからね」
洞窟の指定位置から一つ目のお宝は入手した。何かしらの生物の鱗を再現した物みたいね。英雄が倒した怪物でしょうけど。
そして次の謎。“冷気”と“熱気”が同時に存在する場所。普通に考えれば火山であり、冷気はその近くの洞窟や山を示すのでしょうけど、そんな単純かしら?
一先ず行ってみなくては始まらないわ。
夜になったので警戒しながら進み、火山の近くにやって来た。
「後はこの辺から冷気の出る場所を探して……」
「取り敢えず山頂に行きましょうか。仮にこれが活火山で、噴火ギミックが施されているとしても意識までは届かない筈ですもの」
「そうですね。その道中で何があるかを調べてみましょう」
火山の山頂に着く頃には夜が明けており、海の向こう側からは魔導からなる太陽が昇っていた。
「それっぽい物は見つかりませんね」
「そうね。当てが外れたかしら? 太陽が昇ってるわ」
因みに山頂付近には何も無かった。けど、昇る太陽を眺めながら考えてみる。
島は向こうにもあるのね。あれも島ステージの一つ。けれどその形は山の割合が高く、煙を噴いていた。
「……もしかして……」
「何かに気付きましたか?」
「ええ。冷気と熱気。その二つを成立させる場所を思い付いたわ」
「……! 流石です! 行ってみましょう!」
「それじゃ、落ちましょうか」
「……? えっ? ええぇぇえええ!?」
ディーネさんの疑問を聞く間もなく火山から飛び降り、一気に島の外へと出る。
前方にあるあの島。私の推理が正しければあの場所には。
私達はそのまま海へと飛び込んだ。
「……あったわ。“海底火山”」
「海底火山……あ! そう言う事ですか!」
「ご名答。この近くなら冷たい海水と熱い火山が同時に存在しているわ。特に此処の深さからして海面よりずっと冷たい。冷気の温度は自分の感じる体感でしかないけど、信憑性は高まる」
“冷気”以外の温度指定は無く、大凡を自分で考えなくてはならないけれど、おそらくこの場所で間違いは無いでしょう。
またヒントとなる文章を探す。
「……“闇の底”。成る程ね。深海で海底火山が活動している場所かしら」
“冷気と熱気の集いし闇の底”。
まんまの答えが書かれているも同然ね。闇は深海。更に底となればそこには大地がある。その場所に到達し、真っ暗で殆ど見えないけれど一ヶ所だけ明るい場所を発見した。
「あれね。海底火山から漏れ出している溶岩。たった一つの彼処だけに流れているから熱気と冷気が同時に存在している。そこに指定物があると思うわ」
「確かに熱気と冷気が集って変な水流が発生しててます……!」
「そしてこれが」
「ありましたーっ!」
これで二つ目のポイントも制覇。これもまた何かしらの鱗。けれどその強度は先程の比じゃない。まるで鋼鉄を持ってるみたいだわ。もしくはそれ以上。
とにかく、これで二つゲットしたわね。私達は誰とも会わずとても順調だけれど、ティーナさん達は大丈夫そうかしら?
*****
「まさか、主らから直々に赴くとは。堂々と姿を現すとは、我も甘く見積もられた訳だ」
「いえ、その逆です……! この人数こそが警戒の明かし……!」
「“ゼウサロス学院”での最強はアンタだからな。三人で一気に叩くのが目的よ」
「そ、そうです……!」
何回か朝と夜を過ごした後にユピテルさんを見つけ、私達は三人で彼女に向き合っていた。
謎解きの方はウラノちゃんとディーネちゃんに全て任せる。相手のチームメイトは島に放ったゴーレムやビースト達が戦っている。だから私達は“ゼウサロス学院”の最高戦力であるユピテルさんを倒すんだ……!
「そちらがその気概なら……我も初めから全力で行かせて貰う……!」
「もう雷を……!」
「向こうも一切の手加減無しで仕掛けてくるか」
雷を纏い、己の身体能力を大幅に強化するユピテルさん。本気モードなのは向こうも同じ。けど私達も警戒を高め、罠を張っていた。
「“ジャングルリング”!」
「フム、周りを森で囲い、我の動きを制限するか。それでも一気に嗾けるがな」
周囲を雷でも焼き切れないように頑丈な素材で覆わなくちゃね。その上でどんな工夫を施すか。そんな事を考えつつ、ユピテルさんに構えた。
「囲ったはいいが……この広さ。我が動くには十分ぞ!」
「……!」
次の瞬間に閃光が迸り、一瞬にして距離が詰められて雷鳴が轟いた。
本当に一瞬の出来事。この速度も相変わらず。だけど雷速への対応はしている。確実でも絶対でも無いけど、準備はしているの。
「“設置樹木”……!」
「囲っただけではなく、近場にも置いていたか」
私達の近くに到達した瞬間に植物が取り囲み、雷速のユピテルさんを捕らえた。刹那には電熱で焼き切って脱出されたけど私達はまだ攻撃を食らっていない。
その横からボルカちゃんが差し迫る。
「そらよっと!」
「フッ……!」
炎で加速して突撃し、その拳を雷で受け止める。炎と雷のぶつかり合いで余波が広がり、植物が燃え盛るけどこれは想定内。
あくまでもユピテルさんの動きを抑制させ、なるべく私達に有利なフィールドを作るのが目的だからね。
「もういっちょ!」
「お返しだ!」
近接戦から飛び退き、正面へ炎と雷を放つ。今一度二つの力は衝突し、また周囲へ影響を齎した。
ボルカちゃんがユピテルさんの相手をしてくれているのもあり、その動きは更に制限される。その隙を突くのが、植物に乗せたムツメちゃん!
「はあ……!」
「……! 新入生……これは……!」
「アンタの事だ。その能力は把握してるだろ!」
「ああ……だが、完全に気配は消えていた……!」
植物が再び取り囲むと同時にムツメちゃんが飛び付き、ユピテルさんの雷を打ち消す。
ラトマさんと同じ、魔導だけじゃないあらゆる能力の無効化。身体能力は低めだけど、その点を私達がサポートすれば相手の能力を防いだも同然。と言うか実際に防いでいる。
「まずは一撃!」
「……ッ!」
ほぼ生身と変わらない状態になったユピテルさんへ向け、ボルカちゃんは炎で加速した拳を打ち付ける。
それによって怯みを見せ、その体は勢いよく吹き飛んだ。
だけどその先も植物の舞台の中。常に彼女を捉えており、激突した瞬間にその体を拘束する。
「成る程……確かにこれは手強いな……! 分かっていても完全に意識外から仕掛けてくる……!」
拘束した植物は体から発する雷に消され、再び脱出。雷でちょっとした応急措置もしており、手痛い一撃は与えられたと思うけど、戦闘続行は可能な様子だった。
そして元々油断はしていないんだろうけど、更に警戒が高まった様子。二度目は上手く行き難くなったかもね。
「良かろう。全力を以て相手取る。今回は我が挑戦者。君達相手に勝利を飾って見せる!」
バチバチと雷音が鳴り響き、周囲の空気が文字通りピリつく。相変わらずの威圧感とそれに伴った能力。依然として強敵なのは変わらない。
私達“魔専アステリア女学院”とユピテルさん達“ゼウサロス学院”。その戦いが本格的にスタートするのだった。




