第三十九幕 謎解きゲーム
──あれから更に一日を経て、休みが開けて登校日となった。
一昨日に結構歩き回ったから昨日は一日中のんびり過ごし、体力はバッチリ回復したよ!
いつものように朝支度を終え、そのまま食堂に。その道中、今日はウラノちゃんと会った。
「……なんで私に付いてくるの?」
「えー……だって一人じゃ心細いから。厳密に言えば一人じゃ無いんだけど……」
「厳密に言えば……。……。そ、好きにしたら」
「ホント! やったー!」
「あまりくっ付かないで」
ママとティナの事は相変わらず秘密。ボルカちゃんには教えたんだっけ……その時の記憶も全てが曖昧なまま。
何はともあれ、ウラノちゃんと一緒に朝ごはんを食べ、いつものように授業へ赴く。
それから特に大きな事もなく、そのまま部活動の時間になった。
「今日は何をするんだろうな~」
「いつもみたいにスパルタな感じかな~。けど魔力が戻ったから先週よりは動けるよ!」
「そりゃ頼もしいな」
ストレッチをしながら話し合う。
体を解して伸ばし、暖めて動きやすい態勢を整える。
魔力の微調整もし、万全の状態にさせた。
そこへルミエル先輩がやって来る。
「基本的には試合形式での練習なんだけれど、ちょっと大変だったものね。今回のゲームはあまり激しくないものにしましょうか」
「激しくないゲーム?」
「端的に言えば謎解きゲームね。私達が謎を考えて、それを解いてゴールしたら貴女達の勝ち。単純なルールよ」
ルミエル先輩が提案するは謎解きゲーム。
頭脳戦もあるって言ってたもんね。多分妨害とかもありなルールになるんだろうけど、思えば力押しが殆どだったから新鮮な感じかも。
「謎解きか~。苦手じゃないけど、大変かもな~」
「フフン、受けて立ちますわ!」
「謎解きは得意分野。今回は勝たせて貰うよ」
「みんなやる気満々だぁ~……」
ボルカちゃん達は乗り気。私も初めてだからちょっとワクワクしてる。
問題を考えるのは先輩達みたいだけど、先輩によって難易度は変わりそうだね。しっかりやっていかなきゃ!
「それじゃあ、簡易的なステージを造るから完成したら入って来てね♪」
「作るって……今からですか!?」
「フフ、ちょっとしたギミック設定くらいよ。魔法で壁を造ったりして、どんな風に動くかとかのね。基本的にはこの森と、少し先にある山が舞台かしら」
「わ、分かりました!」
「そう緊張しないで。そんなに難しい物は作らないわ。初等部の子でもやれそうな物ね♪」
問題は難しくしないらしいけど、それでもドキドキする……。
前述したように謎解きゲーム自体が初めてだから要領を掴まなきゃね!
それから数十分を経て簡易ステージが作られ、私達はそこへと入って行った。
*****
「ここがステージ? いつもの森って感じ」
「特に変哲はないな」
「ルールはここに書かれてるわよ」
「そう言えば対抗戦なのでしょうか」
パッと見何も変わらない森の中。木に貼り付けられた紙に今回のルールとルミエル先輩のコメントが書いてあり、私達は確認してみる。
「えーと……“それじゃあ始めましょうか。今回の謎解きゲーム! ルールは簡単。この森全域に散りばめられたヒントから割り出し、出題の答えを持ってくる事! ヒントは文章の場所に隠されているわ!”……だって。後は勝利条件と時間制限が二時間って事くらいだね」
「成る程な。宝探しゲームみたいな事も担ってるのか。それでその文章ってのが……」
「これね。紙と一緒に付いてる」
木に貼り付けられた物を剥がし、ウラノちゃんが読み進める。
「──“英雄達の旅路は長く短い物だった。・最初に訪れたのは北に位置する日の少ない魔族の国。破壊を生み出す神は強敵である。・次に訪れるは南に位置する幻獣の国。幻獣達の王は頼もしい味方になった。・三番目に訪ねたのは西に位置する魔物の国。狂暴な魔物達は手が付けられない。・最後に来たのが東に位置する人間の国。それらが合わさる事で生まれる到達点がゴール”……だって」
「要するにみんながよく知る絵本をなぞってる文章だな。魔族、幻獣、魔物、人間。それらの種族の国をこの森の何処かに再現してあるから探し出せって訳だ」
文の内容は、この世界の伝承を更に短くした物。
物語は至って単純。四つの国を回った英雄達が世界を平和にしたというもの。
これをヒントにして指定された国となっている場所の捜索。それが今回のクリア条件。
「取り敢えず歩きながら考えるか。ルールに書いてある今回の時間制限はこの森の広さを踏まえて二時間。まさしく長いようで短い設定だからな」
「そうだね。結構広い森だから迷っちゃったら大変」
立ち話もあれなので、ボルカちゃんの提案通り進みながら考える。
その道中、私達は文章を見ながら指定ポイントを探っていた。
「ま、単純に考えて魔族の国って言われた場所は“北側”にあって、他の国も同様、幻獣の国が南側。魔物の国が西側。人間の国が東側だな」
「そうなると、森の入り口が既に南側だったから私達は幻獣の国付近に居るって事になるのかな?」
「そうとも限らないかもな。この地図が森全体を示してるとして、何処が真ん中かも決まっていない。此処は即席のステージだからルールにある舞台が“森全域”ってなると、貼り紙があった場所が既に若干北側に寄ってる」
「な、成る程……あれ? それなら貼り紙の場所が中心だったって事?」
「そうなるな。だから北に真っ直ぐ進んでいるアタシ達は英雄達と同じく魔族の国に向かってるって訳だ」
貼り紙の位置を中心とし、私達が向かっている場所は魔族の国。
そこを最初に捜索するとして、文章のヒントから何処に代物があるのか見つけないとね。
「魔族の国の文章は──“最初に訪れたのは北に位置する日の少ない魔族の国。破壊を生み出す神は強敵である。”……だね。強調されているのは“日の少ない”と“破壊を生み出す神”……の所かな。日の少ないに至っては旅路をなぞるにしても書く必要が皆無だし、十中八九どこかの日陰にあるね」
「んじゃ問題は破壊を生み出す神か。単純に考えりゃなんか破壊すれば良いんだろうけど」
「破壊……それっぽい物が置かれてるのかな?」
今回の難易度は初等部の子達でも解ける程度のもの。なのであまり深く考える必要は無さそうだけど、ルミエル先輩の事だから何か細工されていても不思議じゃない。
そもそもこの森の北側って言っても上半分がそうならかなり広大だもんね。
なので私達は少し早足になり、魔族の国に該当しそうな何かを探してみる。
「……成る程な。北=寒いの方程式って訳か……。日陰にある理由も溶けにくくする為……」
「冷えるね……」
そして少し肌寒くなってき、その辺りを探すと日陰に大きな氷塊がドーンと置かれていた。
一工夫(物理)。それがルミエル先輩のやり方。
「答えは単純だったけど、破壊を生み出すってのはそう言う事かよ……」
「取り敢えずあれを壊さなきゃ始まらないんだよね……」
「そうなるな」
今回はどうやら対抗戦ではないみたいだけど、何かしらの方法で魔法を使わせる魔力の特訓も担っているみたい。
なので私達は杖を取り出し、目の前の氷塊に向き直る。……これって謎解きであって氷解きじゃないよね……?
「取り敢えずやるか。“ファイアボール”!」
ボルカちゃんが火球を放ち、氷塊へとぶつかって弾けた。
「全然効いてない……!」
「氷は熱に弱いけど、それと同時に熱に強くもあるからね。時間を掛ければ溶けるだろうけど、その時間が今はあまりない」
「チキショー! 固っいなぁ~!」
炎魔法や炎魔術ならそのうち溶けるとして、そのうちじゃ遅いのが今回のルール。
中に何があるか分からないからママの植物魔法で破壊して取り出す事も難しいし、どうしよう。
「どうすりゃいいんだ~!」
「自棄にならない。取り敢えずティーナさん、植物魔法でこれを囲んで」
「え? けど壊して中の何かがダメになったりしたら大変なんじゃ……」
「無問題。別に壊すんじゃなくて巻き付けるだけで良いから」
「うん!」
取り敢えず言われた通りやってみる。
ママを出して魔力を込め、ウラノちゃんが横から更なる指示を出した。
「なるべく乾燥した植物が良いかな。松ぼっくり辺りを付ければ尚更良しよ」
「わ、分かった!」
「乾燥……松ぼっくり……ハハ、成る程な!」
その言葉からボルカちゃんは理解したみたい。斯く言う私も何となく分かった。
確かにこれなら手っ取り早いかもしれない。
次いでルーチェちゃんへ指示を出す。
「貴女は上から暖かい光をお願い。脆くなった辺りで少しずつダメージを与えて取り出すから」
「分かりましたわ! “天の光”!」
ルーチェちゃんの光魔法で周りの温度が上昇。既にボルカちゃんは準備を終えていた。
「植物をすぐに燃やし尽くさないように……“ファイア”!」
同時に放たれる簡易的な炎魔法。それによって巻き付けた植物は燃え上がり、ウラノちゃんも魔導書を開いていた。
「内部からも届かせる。物語──“エルフ”!」
『はあ!』
本の中からエルフが飛び出し、炎魔法を纏ったレイピアで氷を突く。
既に熱で周りが壊れやすくなっており、奥へ奥へと入って行って全方位から熱が浸透する。
「ティーナさん。此処から少しずつ力を強められる?」
「やってみる!」
氷を縛り付ける植物を増やし、微調整しながらミシミシと氷を押し潰す。
一気に壊すんじゃなくて、明らかに何もない場所を見定めて力を加える。数分もしないうちにパキッとヒビが入り、氷は崩壊した。
「やった!」
「割れた氷は溶けてそのまま火を消火。これで手に入れたね」
中の物を取り出し、傷が無いかを確認。特に何事も無かったけどこれって……。
「黒い……石?」
「綺麗な石だな~」
宝石っぽい石ころだった。
けど別に宝石って訳じゃないね。綺麗だけど、それはそれとして普通の代物……なのかな? 実は宝石に詳しくないからどっちかは分からない。
撫でたりコンコン叩いたり、何の仕掛けが無い事を確認した。
「成る程な。“ちゃんと寄って見つけましたよ”。的な証明か」
「そうかもね。これに似た石を他に見つければ良いんだ!」
本当にそうかは定かじゃないけど、可能性はある。
クリア条件である“出題の答え”。それがこの石ころを指し示しているなら合点はいく。
「そんじゃ、似たような石ころを探してくか~」
「うん!」
「そうですわね!」
「りょ」
目的の代物が何かは分かった。後は幻獣、魔物、人間の国ってされている場所から見つけてくるだけ。
私達の謎解きゲーム。初めての頭を使うダイバースは出だし上々だった!




