第三百八十七幕 中等部最後のダイバース代表決定戦・二日目
初戦を突破し、次の試合まで少し時間があるので私を含めた“魔専アステリア女学院”のメンバーでボルカちゃん達の居る医務室へと向かった。
そこでは既にみんなが起きている様子だった。
「勝ったみたいだな。流石だぜ。ティーナ!」
「そんな。ディーネちゃんも主力の一人を倒してくれたし、ルーチェちゃんが一人で相手をして、ボルカちゃんが引き付けてくれたのとウラノちゃんの置き土産のお陰……つまりみんなの勝利だよ!」
「そう言って貰えますと嬉しいですわ」
「私なんてまだまだですよ」
みんなの力無くしては“神妖百鬼天照学園”に勝てなかった。一人でも欠けていたらそこから瓦解して私達は壊滅していたと思う。それは紛れもない事実。みんなが居たから初戦を突破出来たの。
そしてその近く、同じ医務室にはレモンさん達も居た。
「やれやれ。敗れた者の近くで斯様な会話をするとは。デリカシーが無いのではないか?」
「あ、ごめんなさい。レモンさん」
「……ふっ、冗談。単なる戯れよ。その事を話しても大丈夫と判断したメンバー同士で同じ部屋となるのだからな。……しかし、これで私達の中等部最後となるダイバースは終幕よ。それだけが残念。もっと皆の者と戦いたかった所存」
「レモンさん……」
そう、今回は初戦。なのでレモンさん達から代表戦出場の資格は無くなり、中等部でのダイバースからは完全に撤退となってしまう。新人戦が無い三年生のレモンさんはこれが最後の試合だった。
“神妖百鬼天照学園”が一貫校なのかどうかは分からないけど、来年からは同じメンバーじゃない可能性もあるんだもんね。そう思うとちょっと悪いなぁと感じちゃったり……。
「オイオイ、何故主が暗い顔となる。落ち込みを見せるその立場は私のものであろうからに」
「うん……なんだか悪いなぁって……それに、レモンさんとも一緒に代表戦に出たかったから……」
「それについては私も同義。天命……こればかりは運が悪かったと割り切る他あるまい。……寧ろ今まで共に戦う機会が多かった方が稀有なもの。この年代のダイバース選手として、心残りはあれど後悔は御座らんよ。主ら“魔専アステリア女学院”が私達の分まで勝ち上がってくれればそれで良しだ」
「うん、頑張るよ。レモンさん!」
レモンさんだけじゃない。これから私達が勝ち上がり続けるとして、敗退していった人達はみんながその気持ちを抱いているんだ。
それのみならず、今まで勝った人達も全員が様々な思いを懸けて臨んでいたのがダイバース。
分かっていた事なんだけど、改めて肝に命じる。その人達みんなの分を背負わなきゃ……!
「そろそろ次の試合も始まるだろう。勝って来ると良い」
「うん!」
ボルカちゃん達はまだ軽傷なので治療が施されて少し経った今は動けるようになっている。
私達は医務室を後にし、残りの試合へ集中する。他のみんなの想いを背負う気持ちを胸に、会場へと赴いた。
「──……強がってみたが、やはり堪えるな……随分と悔しいものだ」
*****
初戦が終わり、一日目の残り試合。それらに“神妖百鬼天照学園”で戦ったメンバーは私とルーチェちゃん以外出場しなかったけど、無事に勝ち上がる事が出来た。
後輩ちゃん達の経験にもなったんじゃないかな? 私も全試合に出た訳じゃないし、この調子なら今年の新人戦と来年の試合も大丈夫そう。
ダイバース代表決定戦、初日が終わり、二日目へと突入するのだった。
《昨日も盛り上がりを見せた“多様の戦術による対抗戦”!! 二日目となり──》
司会者さんの話が始まり、程好い緊張感に包まれる。
今日は二日目。昨日は初戦からとてつもない強豪であるレモンさん達が相手だったけど、参加チームは全てが強敵。油断大敵だね。
《二日目の第一試合は──!》
そして、今日の対戦相手が発表される。私達の目線は自然とモニターの方へと向けられる。
その結果を見やり、ツーっと冷や汗が一滴落ちた。これは暑さによるものじゃない。
「──第一試合! “魔専アステリア女学院”vs“ゼウサロス学院”ンンン━━━ッ!!!」
「「「わああああぁぁぁぁっっ!!!」」」
「“ゼウサロス学院”……」
「二日続けてこれって……とんでもない相手になったな」
「骨が折れるわね」
第一試合の相手はユピテルさん率いる“ゼウサロス学院”。昨日のレモンさん達と言い、去年までのクジ運が嘘みたいに悪かった。いや、一年目もそんな感じだったかも……。
何れ当たるから戦う事自体は良いんだけど……二日目の第一試合じゃどちらかは代表戦への希望が潰える事の証明。もし私達が勝っても知り合いの少ない代表戦になっちゃう……。
「昨日の“神妖百鬼天照学園”戦は見事だったが、今回は我らとの戦いか。……フッ、武者震いがする」
「ユピテルさん……!」
「我らに負けるつもりはない。覚悟せよ」
「……うん。私達も負けるつもりはないよ……!」
試合前にやって来るユピテルさん。
武者震いなら私達もしている。レモンさん達と同じく代表戦の常連チームが相手だからね。どちらが勝つかは分からない。レモンさんと同じように、ユピテルさん一人に全滅の可能性もあり得る。それ程のチーム。
「どちらが勝っても恨みっこ無しだ」
「うん……!」
数言だけ交わし、私達は互いに見つめて離れる。
司会者さんから試合の説明があり、二日目の第一試合がスタートした。
「第一試合! “謎解きサバイバル”! スタァァァトォォォ━━ッ!!!」
そして私達はステージとなる場所へ転移した。
*****
──“島ステージ”。
今回のステージは海に囲まれた島。火山に洞窟に森に川に、自然物は大抵あるね。試合内容は“謎解きサバイバル”であり、その名の通りサバイバルをしながら謎を解くと言うもの。……謎解きはいいとして、サバイバルは何をするんだろう?
とにかく、今回のメンバーは私とボルカちゃんにウラノちゃん。そしてディーネちゃんと言う戦闘と推理を上手く分けたパーティ。
残る一人と私、ボルカちゃんの三人でユピテルさんを相手取る算段。
「頑張ろうね。ムツメちゃん!」
「は、はい……! 頑張ります……!」
──ムツメちゃん。
相手はユピテルさん達だけど、ムツメちゃんも立派な戦力。彼女が居るだけでユピテルさんの動きを制限させる事が出来るもんね。頼りにしてるよ!
「それじゃ、話し合いの通り謎解きの方は私とディーネさんでするわ。なるべく邪魔が入らないようにして頂戴」
「うん。もう既にゴーレムとビーストは島中に放っているし、ユピテルさんの気配も捕捉しているから大丈夫。別れた後、すぐにユピテルさん達の場所に行くよ」
「ええ、頼んだわ。謎の方はなるべく早く解いておくわ。それが本題だものね」
今回の転移地点は全員が同じ。そう言った趣旨の試合だもんね。協力ゲームって感じ。
なので各々の役割分担をその場で話し合い、それぞれの配置に向かう。
「ユピテルさんも私達の位置は把握していると思うけど、勝ちに来るなら人数の少ないウラノちゃん達を狙うかもしれない。その前に早く向かっちゃおう」
「だな。ティーナの使役しているゴーレム達がユピテル以外のメンバーを足止めするとしても、アイツを止められるのはアタシ達だけだ」
「分かりました……!」
私とムツメちゃんは植物に乗り、ボルカちゃんは炎で加速してユピテルさんの元に向かう。
相手は雷速で来ると思うけど、私達も反応くらいは何とか出来るようになっている。とにもかくにも先に会わなきゃね。
謎の方は全部ウラノちゃんとディーネちゃんに任せる。それが彼女達への信頼。
「さて、解きながら進みましょうか。制限時間は無いけど、強いて言えば相手が解くまで。時間は有効活用しなくちゃ」
「そうですね。ウラノ先輩」
──“汝、この文脈から真実を見つけ、宝を示せ。
その場所は光と闇の混ざりし空洞。冷気と熱気の集いし闇の底。神の子孫と動物達の居る森の中。然れどその先には魔の待つ街がある。そこで大きな戦いがあった。
英雄の伝承に則ったそれぞれの場所から物を持ち込み、島に隠されし宝を見つけよ”。
私達のダイバース二日目、第一試合が始まった。




