第三百八十六幕 初戦の決着
「へっ、これから本気ってか。受けて立つぜ!」
遠いけど、ボルカちゃんも意識を失わずにいれた様子。直ぐ様炎で加速して距離を詰め、レモンさんへ斬り掛かる。
レモンさんは避けられる攻撃を敢えて避けずに受け、そのまま力で押し出して吹き飛ばした。
「……ッ! このレベルか……!」
「“樹拳”!」
「容易い!」
追撃されるよりも前に植物で牽制するも木刀で打ち砕かれ、そのまま真っ直ぐボルカちゃんの元へ迫った。
「一応私も居るんだけどね」
「……!」
そこへウラノちゃんが本の鳥達を放ち、レモンさんは木刀で粉砕。その足元は何やらベタついていた。
「貴女の厄介なところは何より速度。それがあるから攻撃も回避も成立している……だから防がせて貰ったわ」
「トリモチのような物か……!」
「そんなところね。私は今現在の時点で戦力にはならないけど、サポートに徹すれば私の力が及ばずとも手助けになるわ」
トリモチ……というのは何か分からないけど、相手の足を止めるのに適した物みたいだね。
それによって素早いレモンさんは一瞬止まり、その隙にボルカちゃんが突撃した。
「“フレイムパンチ”!」
「剣ではないのか?」
「剣じゃ倒し切れないんで、このまま追撃も兼ねてるのさ!」
「そうか」
炎で加速した拳を打ち付け、そこから更に発火させる。レモンさんの体を炎が包み込み、燃え上がりながら吹き飛ぶ。
その体を油多めの植物で覆い、更に威力を高める。ウラノちゃんはパラパラと“魔導書”を捲っていた。
「今回も強化する方向で行きましょうか。物語──“追い風”」
燃え上がる炎を更に焚き付け、より強く炎上させる。ボルカちゃんは更に魔力を込め、赤い炎が青く変色した。
熱はより高まり、存在するだけで周りの壁や床も熔解させていく。
「成る程。これは効くな……!」
「本当に効いてはいるな。意識までは届いてないけどさ!」
木刀を振るい、青い炎を薙ぎ払って吹き消す。
確かなダメージにはなっているけど決定打には欠け、ボルカちゃんの正面へ肉薄した。瞬時に木刀が振るわれたけどそれは炎のクッションで受け、背後から炎を放出して勢い付けて堪える。
レモンさんは体勢を変えて下段から斬り込み、ボルカちゃんはそれも防御。瞬間的に炎で加速した回し蹴りを打ち込み、レモンさんとの距離を空けた。
「君も……少しずつ慣れてきているな。ボルカ殿。今の私の動きに付いて行けている」
「そう言やそうだな。ダメージは増え続ける一方だけど、アンタの動きに慣れてきたぜ。レモン」
その二人の会話を聞き、私もハッとした。
確かにさっきは覚醒状態でも追えなかったのに今は動きが分かる。完璧に反応出来る訳じゃないにせよ、レモンさんの動きが読めてきた。
「ま、常に対応する必要があるから自ずと目が慣れたんだろ。一瞬でも気の抜けない状況に身を置く事で感覚が研ぎ澄まされる的なアレだ」
「それは確かにあるな。戦いの中で成長するなどこの世界では常。向上心があれば何処までも強くなれる。この全宇宙を掌握出来る程にな」
「ハッ、確かに英雄達はそのレベルだ。今を生きるアタシ達がなれない道理はない」
戦いの最中で起こる成長。スポーツではよくある事であり、試合によっては激しく盤面の変わるダイバースにおいては特に起こりうる事柄。
成長の切っ掛けは様々だけど、私達はレモンさんも含めて強敵を前にした事で強くなれたのかも。
「そして今回のこれは丁度良い。対等に戦ってやるぜ!」
「来い!」
成長を実感しつつ攻め入り、今一度鬩ぎ合いを執り行う。
木刀と炎剣。時には徒手空拳。打ち合いは更に更に加速を続け、ショップ内を超速で駆け巡る。移動の度に余波で抉れるように崩れ落ち、壁が液状化した真っ赤な熱液が風圧で巻き上がった。
「まるで火の海だな」
「文字通りな!」
溶岩のような液体が辺りに広がり、水飛沫のように舞い上がる。本来ならそれに触れるだけで体が熔けちゃうもんね。
そんな場所を意に介さず二人は攻防を繰り返し、私達の植物魔法が追随。ウラノちゃんもサポートに徹しており、仮にママ達を抜いたら三人で一人を相手取る。
「はっ!」
「そらっ!」
次の瞬間に炎で加速した拳がレモンさんの頬を打ち抜き、木刀がボルカちゃんの脇腹を打つ。同時に二人は吹き飛ばされ、体勢を立て直す前のレモンさんへ極太の植物が追突。その体を吹き飛ばした。
「付いて行けなくとも、場所の推測は出来るわ。物語──“針山”」
「……ッ!」
植物に吹き飛ばされた勢いそのままウラノちゃんが仕掛けていた針に激突。全身を鋭利な物で貫いた。
全体的にパワーアップしているレモンさんだけど、耐久面は変わらない。素の身体能力で魔力で強化したりしていないから。とは言え常人よりは遥かに頑丈として、それでもこの一撃は確かなダメージになった筈。ルーチェちゃんの戦いから始まり、その前に何度も受けているもんね。
「“剣樹”!」
「はあ!」
針で貫かれたレモンさんへ更に追撃。けれど無理矢理体を動かして木刀で薙ぎ払い、自分を貫く針山も粉砕させた。
「休む暇は与えないぜ!」
「元よりそのつもりはない!」
降り立った瞬間にボルカちゃんが突撃。レモンさんに止まるつもりはなく、正面から木刀で打ち合った。
互いに得物を弾いて距離を置き、刹那に詰め寄って衝突。その余波で床が捲れて弾け、後を追うように炎が広がって再び熱液の海が形成された。
「そろそろ……限界近いんじゃないか。レモン……!」
「お主こそな。ボルカ殿。カワミチと相対していたのだろう。そのダメージ……! 主の方が回復しているにも関わらず、負傷度合いで言えば上だ……!」
「ハッ、その辺は気合いだよ……!」
「根性論か……! 嫌いではないが、己が限界を知るのもまた成長よ!」
「……!」
木刀を薙ぎ、ボルカちゃんの体を吹き飛ばす。外から内部の見えない店舗に突入して品物を撒き散らし、そこへレモンさんが突撃して木刀が腹部を打ち抜いた。
「……ッ! カハッ……!」
「届いたな……意識に……!」
この一撃は流石のボルカちゃんも堪え切れない様子。確かに危ない状態。……え? なぜ屋根のあるお店の中の様子が分かるかって?
それについては今明かす。ボルカちゃんは炎を展開し、レモンさんと木刀を固定した。
「これは……!」
「確かにもうアタシも限界だけど……! 最後の気力で勝利に繋げんぜ……!」
「……!」
既にティナで姿は確認済み。それをウラノちゃんと共有し、ボルカちゃんが抑えるレモンさんの元に私達は迫っていた。
「物語──“素肌の君主”」
「……! これは……」
「何も身に纏わない君主の物語。その状態になる訳じゃないけれど、それの解釈を広げて貴女の耐久力を下げたわ」
レモンさんの頑丈さを少し下げ、より確実に一撃を与える。
私はママに魔力を込めて植物を生成。更に一点へ集中し、その威力を高める。呪文に複雑さは交えず、シンプルなやり方で倒す!
「“貫通樹”!」
「……ッ!」
ボルカちゃんの拘束。ウラノちゃんのサポート。それらを掛け合わせてレモンさんを抑えた所に一点集中の植物を叩き付けた。
その一撃で店内を貫き、遅れて衝撃波が迸る。それによって複数のお店が崩壊を喫し、一気に突き抜けてステージの端にある見えない壁まで到達した。
「……っ」
カラカラと壁の破片が落ち、レモンさんも床に着く。私達もその後を追い、どうなったかの確認。まだ意識は失っていないけど、それも時間の問題──
「……っはあ!」
「「………!?」」
木刀が薙ぎ払われ、私とウラノちゃんが吹き飛ばされる。
まさかまだ耐えているなんて……! ボルカちゃんは既に限界を迎えており、今しがた遠方で転移したのを確認。なので残るは私達だけなんだけど……!
「此処までね……」
「ウラノちゃん!」
一緒に吹き飛ばされたウラノちゃんは覚醒状態じゃない。なので意識を失ってしまい、私一人……ううん。私とママ達だけになってしまった。
まだこんな余力があるなんて……! 即座に無数のゴーレムやビーストを生み出して時間を稼ぐ。冷静さは欠かず、自分に有利な展開を継続していかなきゃならない……!
「はあっ!」
『『『…………』』』
ゴーレム達は一瞬にして薙ぎ倒され、レモンさんの進撃は止まらない。私の方へと一直線に迫り、木刀を払う。
『ブモオオオォォォォッ!!!』
「「………!?」」
そこへ一つの雄叫びが轟き、レモンさんの体を戦斧が吹き飛ばした。
それは木刀でガードしたみたいだけど、この存在は……!
「ウラノちゃんのミノタウロス……!」
本魔法からなるミノタウロス。
どういう訳か此処におり、レモンさんを引き離してくれた。
ううん。理由は分かっている。最後の力を振り絞って味方を残しておいてくれたんだ……!
「……ふっ、まだまだァ……!」
『……!』
そんなミノタウロスもすぐに倒されてしまう。追い詰められたレモンさんの実力は凄まじいね……!
だけど、そのお陰で私の方の準備も整った。ミノタウロスに一瞬だけでも気を取られていたレモンさんに対し、現状では最大級の魔力をぶつける!
「──“小惑星樹林”!」
「……!」
ちょっと規模は落ちるけど、現状では最大。その植物は一直線にレモンさんへと向かい、彼女は木刀を振り抜いた。
「──最後の一刀だ!」
「──うん……!」
木の星と木刀がぶつかり合い、壁際で大きな衝撃波を生み出す。
「はあァ━━ッ!!!」
「やあァ━━ッ!!!」
強く迸る衝撃波。見えない壁はヒビが入り、私達は更に力を込める。
今の状態ですらレモンさんは拮抗しており、私は意識を失う事も覚悟で僅かな魔力を追加した。
「これで……!」
「終わらせる……!!」
────凄まじい衝撃波と共にショップステージは白く染まり、次の瞬間に私の視界は開けた。
《───勝者! “魔専アステリア女学院”ンンン━━ッ!!!》
「「「どわあああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」」」
「……。……勝った……んだ……」
気付いた時、立っていたのは会場。司会者さんの声と共に大歓声が響き渡るけど、その声すら遠くに感じる。
なんか……スゴく長い戦いだったような、そんな気分。
私達“魔専アステリア女学院”vsレモンさん達“神妖百鬼天照学園”。その決着は私達の勝利となる。これで初戦を収めるのだった。




