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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部三年生
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第三百八十五幕 対等

 私、ボルカちゃん、ウラノちゃん。そしてレモンさん。数の差では私達が有利だけど、今のレモンさん相手では大した問題にはならないのが現状。

 けれどボルカちゃんが加わってくれただけでなんか行けそうな気がしてきた。全員少しは回復したけど万全ではない状態なのに不思議な気持ち。

 この勝負を勝利で飾って見せる!


「サポートは頼んだぜ!」

「全く。一番ボロボロなのに勝手なんだから」

「精一杯をやろう!」


「来い。今の私はより集中力が高まっているのを感じるぞ!」


 炎剣を構え、炎で加速してレモンさんとの距離を詰め寄る。瞬間的に木刀と炎剣が衝突して火花を散らし、その左右から植物で挟み込む。


「はっ!」

「……っ。成る程な。確かに今までで一番強ぇ……!」


 レモンさんはボルカちゃんを容易くいなし、回転して植物を振り払う。その上からはウラノちゃんの召喚した風雷神が風と雷を落として攻撃。それらも払い除け、追撃に迫った本の鳥達も打ち落とした。

 標的は近くのボルカちゃんに変え、今一度木刀を薙ぎ払う。


「まともに受けちゃダメそうだ。今までと勝手が違う」

「冷静な判断をする」


 正面から打ち合っても勝てる見込みが無さそうなのを確認したボルカちゃんは木刀を紙一重でかわし、振りかぶった状態のレモンさんへ炎を押し付ける。


「ふっ」

「ハッ、これが当たらないのかよ……!」


 対するレモンさんは崩れた体勢だったにも関わらず至近距離の炎を避け、その体に木刀を叩き込む。

 咄嗟に炎と魔力で防いだのは確認したけど構わず押し切られ、ボルカちゃんは近くのお店に吹き飛ばされた。

 ボルカちゃんが仕掛けている間にも当然私達は攻撃をしていたけど、既にそれらは打ち消された後。同時に攻めた三、四つの攻撃を全て防ぐなんて……今のレモンさんは本当にとんでもない。


「“上昇樹木”!」

「……!」

「やりなさい。アナタ達」

『『…………!』』


 足元、下の階層から樹木を突き上げてレモンさんの体を上へ。そこ目掛けて左右から風雷を放ち、暴風雨の衝撃がほとばしった。

 それがダメージにならないのは今までの傾向から分かる。なのでまだ残っている森の巨人が拳を振り下ろし、さっきみたいに押し潰した。

 そしてそれがダメージにならないのも分かっている。今回は仲間達が居てくれるけどね!


「そらよっと!」

「……!」


 風雷と巨人の拳を同時に防いだ事によって確かな隙となった場所にボルカちゃんが加速して迫り、炎剣で胴体を打ち抜き、更に下の階層へと吹き飛ばした。

 床が砕けて粉塵が舞い上がり、そこに植物と風雷。炎が放たれ融合して大爆発を引き起こす。流石にこれはダメージになったと思うけど……。


「相変わらず、手強い者達だ」

「「「…………!」」」


 下層から飛び出し、一瞬にして私達へ木刀を叩き込む。動きは見えていたのでガードはしたけど、そのまま吹き飛ばされて私達三人は同時に吹き飛ぶ。

 まるで時間でも止められたみたいな速度。今のレモンさんは速いなんて次元じゃない領域にいるね。


「でも……!」

「……!」


 魔力を込めて周囲の植物を集め、レモンさんの体を拘束……するよりも前に破壊されたけど、今までと違って飛ばされながらの反応を可能にした。

 ただ飛ばされるんじゃなく、そんな中で何が出来るかを見定めなきゃね。その上で行動に移す!


「“夜薙樹”!」

「それは既に防いだ」


 無数の植物を叩き付け、レモンさんの動きを止める。防がれるのは大前提。今はボルカちゃんとウラノちゃんが居るから止めるだけでも助けになる!


「ナイスだティーナ!」

「成る程ね。それならこうした方が良いかしら」

「何人でも来るが良い!」


 ボルカちゃんが炎で加速して肉薄し、炎剣を振り下ろす。ウラノちゃんは何かを考えて“魔導書グリモワール”をパラパラと開き、彼女なりの行動に移った。

 その間にも無数の植物が降り注ぎ、ボルカちゃんも攻め立てる。それですらレモンさんは全てを防ぎ、風雷神が風と雷を落とす。


「先に武器を二つ消しておこう」

「っと……!」


 ボルカちゃんの体を弾き飛ばし、降り注ぐ植物の上を駆け抜ける。次の瞬間には風雷神を殴り飛ばし、そのまま消滅させた。

 植物を降り注がせた所為で二体が……!


「しまった……!」

「気にする事は無いわ。風雷神は私が自分で消したんだもの」

「……!」


 風雷神は消されたのではなく、ウラノちゃんが自分の意思で消し去ったとの事。それは良かったけど、何が狙いだろう?

 そう言えばさっき何かを思い付いていたよね。


「私の召喚した子達が相手にならないなら、余分な魔力を消費せず味方のサポートに徹したした方が良いわね」


 パラパラと開いた本は指定ページで止まり、“魔導書グリモワール”は光を発する。その光は私とボルカちゃんの方に及び、体が軽くなったような気がした。


物語ストーリー──“覚醒”」


 それは、私達を強化する物語。

 視野が広まり、細かい動きを見極められるようになる。前述通り体が軽くなり、魔力の質も高まったかも。

 本魔法……今に始まった事じゃないけど、もはや何でもありだね。物語として描かれていたなら全てを具現化させる事が出来る力。風雷神とか龍とか、生物? は制約があるけど、ウラノちゃんの口振りから味方をパワーアップさせる事はあまり関係無いのかな。


「アクションや戦闘物の物語からの具現化よ。私は何も出来ないけど、私が出せる最大の龍より二人を覚醒させた方が良いと判断したわ」


「へへ、こりゃ良いや。集中力も動きも全てが今までで一番だ……!」

「うん。なんか何でも出来るような気分……!」


「強化されたか。しかし、問題は無い。このまま押し切る!」


 ウラノちゃんは後方に回ってサポートを主体とし、私達が前線でレモンさんの相手をする。

 お陰でレモンさんとの開きが少しは縮まったような気がする……!


「んじゃ、行くぜ……!」


 ボルカちゃんが踏み込み、レモンさんとの距離を詰め寄る。一瞬にして眼前へと迫った。


「成る程。先程の数倍は速いな」

「それに対応する今のレモンもレモンだぜ!」


 炎剣と木刀がぶつかり合い、心地好い音と共に衝撃波がほとばしる。

 ぶつかった刹那には体勢を変えてせめぎ合いが行われており、目にも止まらぬ速度で攻防を繰り広げる。


「コイツは良いぜ!」

「やり甲斐があるな」


 更に二人の速度は高まり、音すら置き去りにして二つの刀剣がぶつかり合うごとに風圧が吹き荒れる。

 刺突を刀身で逸らして斬り込み、石突きでそれを弾いて互いに開いた距離を一瞬で詰める。


「そらっ!」

「ふっ!」


 ボルカちゃんとレモンさんはそこから鍔迫り合いを行い、互いに押し合いへ発展。それも一瞬で終わり、お互いを弾いて店内へ突っ込む。のちにそこから抜け出して加速。移動の余波でそれらが崩れ、今一度高速の剣戟けんげきが繰り広げられた。

 私としても見ているだけじゃない。二人の動きはしかと見えており、ボルカちゃんの邪魔にならない範囲へ無数の植物を打ち込む。その上を二人は駆け抜けながら打ち合い、レモンさんの周囲に植物を展開。その体を包み込む。


「……!」

「そこォ!」


 ボルカちゃんがそんなレモンさんへ突きを打ち込み、彼女の体を吹き飛ばした。

 その最中に全方位から植物の乱打を差し込み、確実にダメージを蓄積させていく。

 流石に同程度の実力になった今なら二人居る私達の方が有利かな。ちょっと申し訳無くなってくるかも。


「──これなら……もう少し本気を出しても良さそうよの……!」

「「…………!?」」


 そしてそんな甘い考えは、直後に杞憂でしかないと実感する事となった。

 レモンさんは一度だけ深く息を吸い、ゆっくりとその息を吐く。同時に一歩足を出し、次の刹那にはボルカちゃんの体が吹き飛ばされていた。


「今のは……!」

「次は君だ!」

「……!」


 気付いた時には私の真ん前におり、横からは木刀が迫っていた。そして既に殴り抜かれた後だった。


「……ッ! “柔樹林”……!」


 柔らかい木々で自身を包み込み、受ける衝撃を弱める。

 全く見えなかった……! まだなんとか意識は保っているけど、あんな速度で仕掛けられたら時間の問題。これがレモンさんの……!


「ようやく本気で戦えそうな状態になってくれた。集中力も無限という訳じゃないからな。此処から最後まで全力だ……!」


「確かに……理には適ってるかもね……!」


 最初から本気を出せば、決着が付くよりも前に集中力が切れてしまう可能性がある。さっきの時点だと私しか居なかったから、そこで終わってたらボルカちゃんとウラノちゃんにやられていた可能性が高い。

 だけど今なら、近くに私達は全員揃っており、全力をぶつけるには絶好の機会。本人が戦いを楽しみたい節もあるから、簡単にはやられない今の状態でこれならレモンさんにとっても都合が良いよね。


「さて、やろうか。最終戦だ」

「まだ初戦なんだけどね……これでさ……!」


 まるで決勝戦のような代表決定戦、第一試合。レモンさんの本気を目の当たりにする。

 私達の初戦は終盤へと持ち込まれるのだった。


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