第三百八十四幕 集結
ウラノちゃんと合流し、私とウラノちゃん、本魔法の龍でレモンさんを攻め立てる。
彼女は先程より短い木刀で対応し、植物を薙ぎ払い龍を打ちのめして動きを止める。そこに本の鳥達が迫るも掻き消され、次なる植物を仕掛けてまた砕かれる。
「本当に全ての攻撃に反応しているわね。今までの比じゃない速度」
「思考よりも先に体が動いているって感じだよね……!」
「極限まで集中力を高めた事で可能にしているのね。フローやゾーンと同等の状態みたい」
「ゾーン……スゴい実力者が稀に入れる状態だっけ……」
「ええ。レモンさんの場合は自分の意思でなれるみたい。一定のルーティンを組む事で可能にしているのでしょう」
これが今のレモンさんの状態。
それなら今の反応速度にも納得だね。彼女にとって今の私達はスローモーションのように見えている筈。だからこのレベルの戦いを可能にしている。
実質3vs1なのに向こうの優位が一向に揺るがないんだもん。
「質量で攻めると彼女に砕かれてしまう。無効化されないレベルの強さか防げない攻撃をするしか無さそうね」
「そんな事が出来たらこんなに苦戦してないかも……!」
「それもそうね。それじゃあそれが何かを見つけましょうか」
今のレモンさんは無敵とも言える状態。圧倒的な質量も周囲を埋め尽くす炎も全て防がれた。
最初からそのつもりだったけど、出し惜しみせず、私がやれる最大級の攻撃を通常攻撃にしなくちゃなさそう。
ウラノちゃんも銃を仕舞い、何だかゴツい筒を取り出した。
「ちょっと重いけど、魔力強化でそれはあってないようなもの。ティーナさんも本気でやりましょう」
「そうだね……!」
魔力を込め、全力でレモンさんにぶつかる。いつもはトドメくらいにしか使わないけど、それを駆使して初めて足元に及ぶ程度かもしれないから。
彼女は踏み込んで駆け出し、私達はそれより少し早く撃ち込んでいた。
「“惑星樹林”!」
「はっ!」
「……!」
ウラノちゃんも珍しく掛け声を出す。
レモンさんには巨大な植物の星が迫り、射筒からは無数のミサイルが飛び出した。
それを短めの木刀で迎撃し、ショップ内を覆い尽くす巨大な爆発と振動が広がる。そして私達の手が握られた。
これって……!
「爆発を抜けて……!」
「けれど木刀はまた粉砕させたみたい」
「はあーッ!」
もう一つの木刀も壊れた。だけどあまり大きなダメージにはならず、私とウラノちゃんの手は引かれて回転。ショップ内を分かれるように投げ飛ばされる。
「単なる腕力で……!?」
私達は別方向に吹き飛び、複数の店舗を破壊して身体中に痛みが走る。
魔力で覆っており、直接的な攻撃をされた訳じゃないのにこの威力。レモンさんが使っている木刀も普通の物らしいし、彼女が持つ物には特別な力が宿るのかも……!
だけどそれは魔導や異能の類いじゃない。分類で言えば素の能力。だからムツメちゃんでも無効化出来ないから対策のしようがない。ラトマさんみたいに素の強度がとてつもなく凄まじいくらいじゃなきゃ防せげないのかも……!
『ゴギャア!』
「ふっ」
彼女に向けて龍が踏み込み、その足を片手で防ぐ。そのままいなして粉塵が舞い上がり、近くのお店から傘を拾って龍の頬を打ち抜いた。
『ガッ……!』
「はっ!」
『……ッ!』
傘の先端で硬い鱗を突いて砕き、そのまま巨体を吹き飛ばす。
魔力からなる品物の傘だけど、それ自体の性能は普通の物と同じ。それなのにあの威力。やっぱりレモンさんが使うと強くなるんだ……!
「“樹槍”!」
「フム、やはりしっくり来ないな」
植物の槍を放ち、傘で刺突して迎撃。打ち消し合い、植物と傘が粉砕する。
でも木刀じゃなきゃ強度はあまり高くならないみたいだね。元の硬度に依存するのかな?
「これが良い」
「……!」
狙いは私。まずは広範囲攻撃を警戒しているみたい。
レモンさんは迫る際に近くのお店から得物を持ち出し、それを用いて嗾ける。
それに対して植物で防ぎ、破壊される時にその武器を確認した。
「金属……?」
「鉄の棒だな」
鉄からなる棒状の得物。強度は木刀より高いのかな? 意外と変わらないかもしれないけど、傘よりは遥かに頑丈だから気を付けなきゃ。
植物で私自身を引っ張って飛び退きながら距離を置き、本の鳥達がレモンさんの進行を妨害してくれた。
「フム、案外復帰力は高いな。ウラノ殿」
「ただ投げ飛ばされただけだもの。本の鳥達でクッションを作って衝撃を和らげたわ」
ウラノちゃん自身も近くまで来ていた。私も植物をクッションにして勢いを弱めた方が良かったかも。
龍もまだ消え去っておらず、レモンさん目掛けて火炎を放射した。
「これくらいなら容易く防げる」
「瓦礫を……!」
足元の瓦礫を片足で持ち上げ、蹴り抜いて吹き飛ばす。それだけで炎は防がれながら突き進み、龍の顔に命中。そのまま吹き飛び、完全に消滅してしまった。
これで戦力の一角が無くなっちゃったね。ウラノちゃんも次の召喚を使うには少し時間が掛かるから、元々有利じゃなかった状態が更に不利になってしまう。
それとは別に、ウラノちゃんは今の一連の攻撃を見て何かを思案する。
「レモンさん。貴女のその力……付喪神の類いかもしれないわね」
「つくもがみ……?」
「……ほう?」
よく分からない単語が彼女から出てきた。付喪神とは。名前の響きから神様の感じなんだろうけど、私は知らないや。
レモンさんも小首を傾げていた。
「その様な力など私には無いがな。神降ろしなんぞ出来ぬよ」
「そうね。特殊な能力ではないと思うわ。あくまでも貴女の“素の力”の一種。ムツメさんやラトマさんのような全異能の無効化にも関係無く通じる。似通った力と言うだけ。貴女は素でそれを遂行しているのよ」
「思い当たる節を言えば先祖帰りでという事か? ふむ、確かに祖先は神に通じていたと言われているが……私自身はそんな気がせぬな。元より“日の下”の出身者は皆神から産まれたとされている。それを含めてあくまで伝承や神話……言い伝えの一つよ。だから物には神仏が宿るとされ、常に他者に見られている事を意識せねばならぬから悪事は働けぬと言うのが我が国の在り方だ」
「貴女の力が神様の物と言う確証は無いわ。他の物に作用する力がそれに近いと思っただけよ。貴女達の国の在り方がそうなのも知っているわ。世界中に伝わる神話や信仰の違いは本から学んでいるもの」
「そうか。私も一つ学びを得た。……では改めて、雑談は仕舞いとしよう。君達を打ち倒す」
「受けて立ちましょう」
神話についてはよく分からないから付いて行けなかったけど、物に作用する力があるみたい。レモンさんの物に対する在り方はそれに近いとの事。
話は終わり、レモンさんは鉄の棒を構えて踏み出し、さっきと同じ通り私の方へと向かってきた。
お話で中断したとしても狙いは変えない。順を追って確実に倒そうとしているみたい。
「“レーザー”!」
「………」
植物を纏め、射出口とする。そこへ一点に熱を集め、光線として撃ち出した。
余波のみで周りの瓦礫を熔解させながら突き抜け、レモンさんは鉄の棒を薙ぎ払って消し去った。
「鉄くらいなら簡単に溶かせるけど、やっぱり使うと強化される……!」
「直接防いでいる訳ではない。強く速く振る事で空気の膜を作って炎を消し去っただけよ」
「だけって言う程に簡単な技術じゃない……!」
これは防げない。なので全身に植物を纏めて防御を固め、本の鳥達も守りのサポート。それら全てを打ち抜かれ、全身に走る激痛と共に複数のお店を破壊しながら吹き飛んだ。
痛い……骨も折れちゃってるかも……! 本当にレモンさんの一撃は致命的……!
「……ッ!」
大きなお店にぶつかった事で停止。体が動かない程のダメージを負ってしまった。
早急に治療が必要だけど、そんな時間は与えてくれないよね。少しでも隙を作れたら良いけど、ウラノちゃんは遠くになっちゃったしボルカちゃんはまだ動く気配が無い……と言うか、もしかしてボルカちゃんのダメージが深刻なのかも……!
「……!」
そこで、一つの事を思い付く。レモンさんにも影響が及ぶ可能性があるから賭けになるけど、こうするしか現状で勝ち目は見えない。
ダメージは大きいけど魔力はまだまだ残っている。なので私はママに大量の魔力を込めた。
「“樹海生成”!」
「あのダメージでこれ程の魔導を。私を錯乱でもさせて回復するつもりか? それとも別か、どの道させぬがな」
駆け出し、樹海を粉砕しながら直進。既に次の魔力も込めていた。
これが一か八かの賭け……!
「──“再生樹林”!」
「……! 傷が……私にも多少は影響が及んでいるな」
樹海全てに回復の力を付与。これは薬草からなる樹海。近くの全員に回復効果を付与するのは簡単。
何とか抑えてレモンさんへの影響は少なくしているけど、それでも回復してしまう。……でも、それを含めた大一番!
既に“彼女”は私の近くに来ているから、一瞬の勝負。
「終わりとしようぞ。ティーナ殿!」
「……っ」
間髪入れず振り下ろされる鉄の棒。今回の賭け、一か八かの大一番は──
「──“フレイムバーン”!」
「……!」
──私が勝った。
ボルカちゃんが天井を撃ち抜いて炎を放ち、的確にレモンさんを狙う。彼女の持っている鉄の棒は熔け、使用不能となる。
そのまま天井から飛び降り、私を庇うようにボルカちゃんが前に立って姿を現した。
「助かったぜ。ティーナ。動けるまで回復した!」
「ボルカちゃん……!」
「成る程……自分もだが、主軸はこれが狙いだったか」
さっきの回復する樹海は私やウラノちゃんのみならず、遠方に居たボルカちゃんにも届かせたもの。
そう、魔力の無駄遣いとも言える派手な樹海生成。及び回復術。相手を回復させてしまうかもしれないリスクも承知の上で、全てはこの為のもの。
ボルカちゃんは炎剣を構えており、レモンさんは近くのお店から木刀を拾っていた。
「……む? しっくり来るな。自分で持ち込んだ物より良い手触りだ」
「ティーナ達はレモンの木刀を使用不能にしていたのか。それに身体中の傷……みんなかなり頑張ってたみたいだ。中々治らず動けなかったアタシの体が情けないぜ……!」
「私の仲間達も良い仕事をしたようだ。流石は信頼の置ける者達よ」
お互いに自分達のチームメイトを褒め合い、ジリジリと構える。ウラノちゃんも追い付いており、既に近くには本魔法から召喚した存在を置いていた。
ちゃんと彼女にも回復は届いたみたいだね。それも良かったよ。
「気配を読む限り、此処に居る四人が両チームの残った戦力みたいだな」
「その様だ。私は一人だが、逆境にこそ侍の真髄は現れる」
駆け付けたボルカちゃんと多少は回復したレモンさん。私達もさっきよりは良い状態になり、三人と一人で向き直る。
私達とレモンさんの戦い。全戦力がここに集った。




