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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部三年生
385/458

第三百八十三幕 助太刀

「“樹海行進”!」

「はっ!」


 無数の植物を放ち、その全ては木刀によって防がれる。

 今まで通り自分に降り掛かる物だけだから“全て”って言うのは語弊があるかな。けど一向に当たる気配が無いのは変わらない。

 まともな一撃も入らない今のレモンさん。今までもそんな事はあったけど、今回はその比じゃない。何とかして隙を突かないと……!


「これなら……!」

「……!」


 無数の植物を再び前進。それは今までと同じ。今回はそこから更に展開してみる。今までに得たノウハウをフル活用しなきゃ絶対に勝てないから。


「“樹木前線”!」

「樹から樹木人形を生やす……今までとあまり変わらぬがな」


 行進する樹海から植物を生やし、それを操ってけしかけた。

 けれどレモンさんの言う通り、これも今までとあまり変わらないやり方。今回はそこから更に一工夫交える。


「“樹鞭”!」

「周囲の樹を鞭のように……」


 前線にはゴーレムみたいな木人を。そして周辺からは樹の鞭を。

 全方位を取り囲み、レモンさんは回転斬りで薙ぎ払う。これでまた一からやり直し……って訳じゃない。


「“上昇樹林”!」

「……!」


 足元から樹を生やす。鋭利な細い今までの物ではなく、太くたくましい大樹を。

 レモンさんの体は空へと昇り、上から一撃を叩き込む。


「“フォレストジャイアント”!」

『オオオォォォォ……!』


 フォレストゴーレムの更に巨大バージョン。巨腕を舞い上がる大樹へ振り落とし、上下から潰すように挟み込む作戦。

 このショップステージは本当に巨大だけど真ん中は吹き抜けみたいになっているから立たせる事も出来る。山より大きなこの子も立てるような十分な確保スペースがあるの。

 轟音と共にレモンさんは押し潰され、その衝撃波で更にショップが大きく揺れた。


「今のは悪くない作戦だったぞ」

「……っぱこうなるんだ……!」


 ダメージくらいはあるかもしれないと思ったけど、レモンさんは潰されていなかった。

 木刀を上に掲げ、自分に当たる箇所は割れて大きな隙間になっていた。そこから足場の樹を切り崩し、一歩踏み込んで私の眼前に迫る。


「はっ!」

「“ナチュラルシールド”!」


 多重に集めた植物を纏めて盾とし、木刀の刺突を防御。しかし崩されてしまい、頬を剣尖が掠る。

 幸い直撃はしなかった。更に魔力を込め、盾からそのまま鋭利な枝を伸ばして貫く。彼女はそれを見切って避け、一瞬にして斬り砕かれた。だけどそこから攻撃を繋げる事も出来る。


「“ニードル”!」

「空中の破片からか……」


 散った破片に魔力を繋げ、その場で状態変化からのトゲを刺す。

 ルミエル先輩のように独立した魔力に繋げる術はまだまだ不足だけど、植物なら全てを操作する事が可能。空中に漂う物を変化させ、初めてレモンさんの頬に掠り傷を付ける事が出来た。


「やっと一撃……!」

「流れが君に移ってしまってかな」


 ほんの少量だけど確かな進歩。一歩だけでも踏み出す事が出来たので畳み掛けて見せる。


「“樹木束縛”!」

「周りの樹が更に……」


 鋭利な形となった植物は今一度形態変化し、レモンさんを取り囲むように柔軟に覆う。

 今まで通り彼女は木刀で切り裂くけどその傍から形を変え、または再生してまとわりついた。


「“突撃樹木”!」

「……!」


 身動きが取れなくなるのはほんの一瞬。その一瞬を突いてその体を吹き飛ばした。

 樹木に突撃されたレモンさんはショップ内を吹き飛び、次々と店舗を破壊して突き抜ける。一定以上の距離を進んだところで一際大きな衝撃波がほとばしり、お店の瓦礫と粉塵が舞い上がった。


「“追撃”!」


 それなりの距離を吹き飛んだレモンさんだけど、その距離を詰め寄る植物での追撃は可能。舞い上がった粉塵を突き抜けて植物が迫り、更に粉砕させた。

 その中には人影が見え、そこ目掛けて新たな植物を打ち込む。それによって生じた煙の中から飛び出した。


「はっ!」

「……っ」


 急降下で放たれる刺突。飛び退くように避けたものの床は砕けて落ち、別の階層へとやって来た。

 ここの高さは際限無し。果てはあるだろうけど、まだ到達する事は無い程に巨大。都市並みの大きさを誇るショップだもんね。最初の地点が何階なのかも分からないや。


「ふっ」

「……っ……!」


 下層に降り立つと同時にレモンさんの突きが打ち込まれ、咄嗟に植物でガードするもそれごと吹き飛ばされた。

 全身を植物で覆う事によって衝撃とダメージを弱めたけど勢いは消せず、そのまま飛ばされてお店の中に突っ込む。

 折角だからステージギミックを利用して有利に運べないかな……と思った矢先にレモンさんが。考える間も無く、結局植物魔法で対処する事になる。


「それなら……!」

「……?」


 更に大きく植物を展開。レモンさんはそれらを薙ぎ払って消し去り、風圧で欠片も飛ばす。

 だけど手は止めずに魔力を込め続け、この階層のみならず上下に伸ばして全体を飲み込んだ。


「何を狙っているのかは存ぜぬが……」

「……ッ!」


 一通り振り払い、私の眼前に迫り来る。植物でガードを試みるも間に合わず、最低限の防御のみで打ち抜かれてしまった。

 全身に強い衝撃を感じ取り、意識が遠退くような感覚があった。だけど最低限は守ったので意識を失うまではいかない。

 私は展開した植物を自分の元に引き寄せ、レモンさんを囲うようにけしかけた。


「これが狙いか。一点に込めた植物による一斉攻撃。だが……!」


 全てレモンさんに降り注ぎ、彼女は木刀を一振り。その全てが消し去った。


「一撃は与えた。後はトドメを刺すだけよ」

「……っ」


 踏み込み、加速。一瞬にして私の眼前へと迫り来る。

 確かにあと一撃でも受けたら大変。けど、私としても準備は整った。


「──やりなさい」

『ゴギャア!』

「……!」


 横から炎が吐かれ、レモンさんは木刀で防御。完全に不意を突いた一撃でも防いじゃうなんて……今日の試合は全部そうだけど、本当に今のレモンさんは今までで一番強い。


「ウラノ殿。……成る程。ティーナ殿の植物に乗って来たか。先程の大きな植物の展開……彼女が気配を読み、位置を把握して広範囲に伸ばしたのだな」

「今日の貴女は今までより鋭いわね。更に厳しい戦いになりそう」


 そう、さっきの植物は近くに居たウラノちゃんをこの場所に案内する為のもの。結構吹き飛び吹き飛ばされを繰り返していたから彼女の近くまで来ていたの。

 攻撃をするつもりもあったけど、それは防がれちゃったからしょうがない。ウラノちゃんを呼べたから大成功。


「既に最大の戦力を用意しているようだ」

「そうね。大凡おおよそは理解していたから出し惜しみはしないわ」


 流石のウラノちゃん。状況を把握して龍を召喚した状態で来てくれた。

 植物の展開から意図を理解してくれたんだね。最近は必要以上の植物は増やさないように気を付けていたから。無駄な魔力消費の削減かな。

 ともあれ、ボルカちゃんの気配はまだ遠いけどウラノちゃんが来てくれたので少しは有利に運ぶと良いな。


「ティーナさん。戦況は私の思った通りの在り方かしら?」

「うん、そんなところ。今のレモンさんは今までで一番強い……!」

「その様ね」

『ゴロロロ……』


 ウラノちゃんが召喚した龍も警戒している様子。本当に今のレモンさんはとんでもない力になっている。

 そんな彼女に一人であれ程のダメージを与えたルーチェちゃんはスゴいし、私もそれに負けないように行動しなきゃね。


「話が終わったなら仕掛けるぞ」

「いいよ……!」

「ええ、構わないわ」

『ゴギャア!』


 木刀を握り締め、一歩踏み込んで迫る。植物の多重防御で速度を少し緩め、龍の尾が彼女の体に迫った。


「容易い」


 その尾は木刀で弾かれる。瞬間的に本の鳥達が取り囲んで突撃し、ゴーレムやビーストも再び作り出して放つ。次の刹那には斬り伏せられていた。


「これは……近付くのは危険そうね」

「うん……! 今日はずっとそんな感じ……!」


 ウラノちゃんの武器は銃。的確に狙いを定めて撃ち込むも、音速以上で突き抜けるそれらを見切って斬り伏す。

 大会のルール上威力は下げてあるけど、速度は通常の数倍。それをあんなに簡単に防いじゃうなんてね……!


「“ドングリマシンガン”!」


 私も遠距離から、大量のドングリを弾として撃ち込む。

 ウラノちゃんの銃弾にドングリの弾。それらに対しても簡単に防いでおり、放たれた龍の尾を飛び退くようにかわした。そこ目掛けて炎が吐かれ、私も便乗するように炎を放つ。二つの業火を木刀の風圧のみで消し去り、降下と同時に龍の頭を貫いた。


『ガギャ……!』

「フム、頑丈な頭だ。ボロボロになった木刀では意識までは届かないか」


 直撃したけど、龍はまだ消えていない。おそらくルーチェちゃんの時から使っていた木刀。流石に刀身が限界を迎えて一撃一撃の威力は下がっちゃったみたいだね。

 けどこれはチャンス。生身のレモンさんも強いけど、メインの木刀が使えないと多少なりとも弱体化はする筈だもん。


「フッ、予備くらい用意してある!」


 そう告げ、木刀で龍の体を吹き飛ばして店舗に突っ込ませる。それを機に木刀は砕けたけれどもう一つ、一回り短い木刀を取り出した。

 短い木刀は元々持っていたけど、使う機会は無かったかも。レモンさん自身の動きに武器の方が付いて行けなくなったみたい。


「木刀が砕け、ウラノ殿もやって来て試合も佳境。今の状況は私が圧倒的に不利な筈だが……全くそんな気がしないな」

「そうね。一番強い物語が簡単に吹き飛ばされてしまったもの。まだ残っているけど、この一撃で単体では勝てない事が明らかになったわ」

「けど私達が居るからね! 勝つ見込みはあるよ!」

『ガギャア……』


 カラカラと店舗の欠片を落とし、龍が起き上がる。私とウラノちゃんも構え、レモンさんも一回り短い木刀を構えた。

 今のレモンさんは一人で私達全員を倒せそうな状態だけど、押し切る事が出来れば勝てる可能性もある。勝負はこれから……! ううん。今が最終局面……!

 私達のダイバース代表決定戦。初戦からかなりの接戦だね。

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