第三百八十一幕 均衡状態
駆け付けるや否や、ルーチェちゃんはやられてしまっていた。
だけどレモンさんの体にある傷を見ると善戦していたみたいだね。流石はルーチェちゃん。
後は託されたし、上の方で行われている二つの気配も今のところ助太刀は要らなそうだからレモンさんに集中しようか。
既に植物は展開してあるからね。一気に仕掛けられる!
「“樹木乱打”!」
「相変わらず凄まじい範囲と数だが、今の私には通じぬぞ」
「……!」
無数の植物を打ち込み放つ。けれどレモンさんは意に介さず自分に降り掛かる物を的確に木刀でいなし、一瞬にして私の前へ躍り出た。
そこから木刀を突き出されるもティナからの俯瞰視点で動きは確認している。魔力とかの類いを有していない彼女は私じゃ気配が読めないけど、第三者視点で見る事が出来るので紙一重で回避した。
動きが今まで以上に鋭いね。さっき感じたルーチェちゃんの魔力変化もスゴかったけど、それを打ち破るだけの状態になっているんだ。
「なら……! “フォレストゴーレム”&“フォレストビースト”!」
「使い古した手だ」
「知られ尽くされていたとしても、数は大きなアドバンテージになるからね!」
私に近付ける訳にはいかない。
駆け付けたのが終わった後だったのでルーチェちゃんとどんな戦いをしたのかは分からないけど、今のレモンさん相手に一定以上の距離を詰め寄られるのは愚の骨頂。即座にやられる未来が見える。なので私自身も直ぐ様距離を置き、ゴーレム達に相手を任せて策を練る。
……そんな時間もあまり無さそうだけどね。
「確かに、数と言うものは厄介ではあるな。一つ一つは簡単に破壊出来るが、それでも破壊に至るまでの時間を食ってしまう」
『『『…………』』』
『『『…………』』』
飛び掛かるゴーレム達に対し、木刀を振り抜いて一撃で粉砕する。
的確に機能を停止させる箇所を打ち、一秒も掛からずに複数体が壊されちゃった。まだ数は残っているけど、全滅も時間の問題かもしれないね。
「“樹拳”!」
「そしてやはり、君自身も難儀な相手となっておる」
勿論私もゴーレム達をただ召喚して放置ではなく、ママの植物でサポートとメインを兼ねた攻撃をしている……けどそれも防がれてしまう。
本当にスゴい集中力とそれを可能にする動き。何なら植物やゴーレム達が到達する前に破壊しているよ。
「はっ!」
「……! 打撃を……!?」
「本来なら斬撃だが、木刀ではそうなるな」
そしてレモンさんに遠距離技が無い訳でも無いみたい。
木刀で空気を突き、その一片を押し出して弾丸のように放つ。それによってまた複数体のゴーレムとビーストが貫かれて停止した。
こんな技もあるんだね。言うなら刺突による空気弾かな。代表戦には斬撃その物を飛ばす剣士の人も少なくないし、世界の上澄みレベルになると当然のスキルみたい。流石に刺突を飛ばす人はレモンさん以外に見た事なかったけどね。
(さて、どうやって仕掛けようかな)
現状、どちらが有利か不利かは決まっていない。まだお互いに牽制しての様子見段階だからね。レモンさんもまだ本格的に攻めてないと思う。もし攻めていたらこんなに持たないから。
なので攻め方を考えるなら今。けれど今のレモンさんには如何なる攻撃も通じないような気がする。勘とかじゃなくてそんな実感があるの。多分それは間違いない。
今はまだ足止めをしている最中。そこからどう攻めれば良いのか。残念だけど全く思い付かないかも。
「“樹拳”!」
「ふっ」
でもしない事には始まらない。だから試しに色々としてみる。まずは単純な樹木の拳を正面に。
速くて大きくて重い拳。生半可な相手ならこれで倒せるけど、レモンさんには簡単に斬り伏せられてしまった。それは既に確認済み。次を仕掛けよう。
「“夜薙樹”!」
「止まって見えるぞ」
複数の木々を打ち付けるように降り注がせる。それについてもさっき似たような物は防がれたもんね。自分に及ぶ攻撃のみを的確に、無駄のない動きで捌いていく。
一点型も多様型もダメ。全方位を覆ってもレモンさんに及ぶ物だけを破壊するだろうからどの道ダメ。ゴーレム達で気を引いた上でこの有り様。ちょっと厳しいかも……。
「だったら……!」
「……!」
ボルカちゃんを取り出し、魔力を込める。刹那に炎へと変換させ、レモンさん目掛けて放出した。
木刀を振るう時に生じる衝撃波で炎は消されちゃうけど、絶え間無く放出し続ければ隙が生まれる筈。更には背後から別の植物で嗾ける!
「フム、二重の攻撃。これは難儀な」
炎に対しては木刀を回転させて防ぎ、背後からの植物は跳躍から飛び乗って躱していく。
確かに植物は上から乗られちゃうね。炎は単純な風圧で消されてる。それもおかしいよね……かなりの範囲……山くらいなら溶かせるレベルなのに……!
「それなら……!」
『『『…………』』』
「植物の上から直接生やしたか」
ゴーレムとビーストを進行する木々の上に顕現させる。これでまた時間稼ぎは出来るけど、ダメージにはならない。あんなに与えられたルーチェちゃんってやっぱりスゴいや。
私とレモンさんの戦いもそうだけど、上の方で行われている戦いは大丈夫かな。気付いたら周りが水浸しになっちゃってるけど……。
*****
「“水球”!」
「“水遁の術”!」
水の塊を放ち、ノイチさんも水忍術で対抗する。だけど単純な威力なら私の方が高い。
押し勝ち、一つのお店を水で吹き飛ばした。だけど本人には当たっていない。素早いね。
「術対決は此方が不利なようですね。ならば……!」
「……!」
次の瞬間に姿が見えなくなり、慌てて周りに防壁を貼る。本当に速い。防壁のお陰でダメージまでは至らないけど、まるで消えたみたいに動くんだもんね。
ノイチさんと私は同年代。そういう意味でも負けたくないかな……!
「“洪水”……!」
「……!」
防壁をそのまま周囲に放ち、ショッピングモール内を水浸しにする。
下の方にも影響は及ぶかもしれないけど、多分そんなに大きくない。あくまでこの周辺に留めているからね。
「自身を離れた水を留めるとは。妙技を使いますね」
「それは褒め言葉だよね……!」
空間魔術は使わず、その感覚で水の操作は可能。変幻自在の水。やれる事は色々ある。
「しかし、それは自身の首を締める事にもなり兼ねませんよ」
「……それって……」
「こう言う事です。“雷遁・電流”!」
「……!」
留まった水に雷が流れ、一気に広がった。この威力はマズイかも……! ちょっと異臭もしてきた。
私の魔術は電気分解されても有毒なガスは出ないけど、単純に全体に電気が流れて危ない。直ぐ様消し去り、空中へと停止して電流から逃れた。
「空間に立つ事も可能な術。相手するのが難しいですね」
「私としても貴女の相手は大変って実感するよ……」
忍術という力。エレメントとも違う五つの属性を全て扱えるノイチさん。本人の身体能力も高く、相手取るのは至難の技。
直接的な攻撃は食らっていないけど、手札がとてつもなく多いからそれだけで押し切られそう。
「“分身の術”・“五遁包囲網”!」
「“空間掌握・弾”!」
複数人に分身し、それぞれから五つの属性が放たれる。それは空間魔術で弾き飛ばし、ついでに分身も消し去った。
と言うより、すぐに消さないと本当にやられるのを待つだけの状態になっちゃう。耐久力は本体より低いにしても、性能は本人と殆ど同じだから。
「空間術……忍術や妖術でも滅多に聞かぬ珍妙な技。これは骨が折れますね」
「それはお互い様じゃないかな……! “水槍”!」
忍術がダメならと、次はクナイを握って眼前へ。空間でノイチさんを塞き止め、水の槍で対抗。しかしクナイにも属性は有しており、押し合う形となった瞬間に私の体は蹴り飛ばされた。
「……っ。属性クナイはフェイク……!」
「気絶させれば勝ちですので」
体術レベルも高いノイチさん。と言うか、“日の下”出身の人達はみんなが高い身体能力を有しているよね。これが一番大変。魔導一筋ならまだ隙があるのに、そこを埋める体術が彼女達にはある。……女の子……なのかな? 取り敢えず、その人達には隙が少ない。
蹴りによって距離が空き、私達は一点で睨み合う。
「魔術は凄まじいですが、それに頼りっきりな様子。これでは私に勝てませんよ。負けるつもりはありませんけど」
「一応体術も練習はしているんだけどね……ちょっと大変かな……!」
一通り打ち合ったけど、お互いに何かしらの技を隠しているんじゃないかと牽制している状態。なのでまだ進展は無く、合間を縫って放った攻撃をいなしている感じ。けど私が少し押されているかもしれない。
そして下の方じゃ植物が広がっているから、ティーナ先輩が駆け付けたのかもしれない。ルーチェ先輩はどうなったんだろう。心配だけど、私は私の相手に集中しなきゃ……!
私達のダイバース。それは拮抗していた。




