第三十八幕 最高の思い出
「うわ~。たかーい……」
「五階建てくらいか~?」
数時間後、縁日で買った食べ物を片手に私達はお城を見上げていた。
確かに私達の知るお城とは大分違う。まず高さ。よく知っているお城も高いけど、何となくこれは細長いって印象が見受けられた。
横幅はあんまり変わらない筈なんだけど、積み立てるタイプのお城だからかな?
早速その中へ入って探索してみる。
堀に架かった橋を渡り、城内へ。
全体的に木造建築であり、床とかもフローリングに近いのかな。
歩く度にギシギシと音が鳴るのは不思議な感じ。リズミカルでちょっと楽しい。
窓は無く、外には丸石の並んだ池のような物が見えた。庭には砂利が敷き詰められており、そこを歩く人の足音がよく聞こえる。
全体的に照明は少ないね。
「よく音が鳴るねぇ」
「これは侵入者とかをすぐに見つけられるようにする工夫だったの。昔は今程防犯システムが確立されてないからね」
「そうだったんだ~」
気になる所があればウラノちゃんが説明してくれる。
ホントに物知りだよね~。お陰で色んな知識が入ってきて私にとっても勉強になるよ。
「此処がお殿様……知るところで言う王様が居た部屋」
「全体的に椅子とか置かれてないんだねぇ」
豪華絢爛な部屋を見て回る。奥へ立ち入る事は禁止されてるけど、外から見ても間取りは分かりやすいかも。
「此処が天守閣って言って、戦の際に指揮とかをしていたんだって。謂わば中枢かな」
「へえ~」
その後、ウラノちゃんの知識を借りながら“日の下”の城内を見て回った。
私だけじゃなくてボルカちゃんもお城には興味があるらしく退屈しておらず、ルーチェちゃんも感心しながらみんなで楽しめた。
食堂、書斎、浴場、名称は同じでも形が大きく違うそれらには文化の違いを感じたなぁ。
数時間程お城を見、外に出る頃には日も暮れて夕方になっていた。
*****
「面白かった~。もう夕方だし、そろそろ帰る?」
「名残惜しいけどな~」
学院の門限にはまだだけど、距離も距離だからそろそろ帰る方向に話が纏まりつつあった。
そこでボルカちゃんが思い付いたかのように提案する。
「そんじゃ、最後に“シャラン・ウェーテル”の城も見てみようぜ。折角“日の下”の城を見たんだし、見比べてみて今日は終わろう」
「あ、それいいかも!」
「私は構いませんわ!」
「……ま、門限には時間もあるし、お城の近くには転移の魔道具も設置されてるから良いかもね」
この国のお城を見て今日は終わらせる事にした。
反対の意見は出ていない。一番出しそうなウラノちゃんも歴史が詰まったお城の見学は賛成だからね!
距離も結構近いので私達はそこへ向かう。
「改めて見ると大っきいね~」
「割と馴染みある城の形だけど、やっぱ迫力あんな~」
「私のお屋敷より荘厳ですわ」
「色んな歴史を感じるお城……!」
お城の前で見上げ、各々で感想を言う。
レンガ造りのお城。四方には塔があり、絵本とかでよく出てくるタイプの物だから何となく親しみやすさがあった。
昔はこれが本当に使われていたんだよねぇ。そんなお城も今や観光地かぁ。なんだか感慨深い……で良いのかな? 私は昔の姿も知らないもんね。
架かっている石橋を渡り、ウラノちゃんがまた豆知識を披露する。
「このお城の兵士……騎士って呼ばれる人達は街の治安を護ったり、魔物討伐のクエストを受けたりしていたの。その名残で“シャラン・ウェーテル共和国”の警務部隊は未だに“騎士”の称号で通ってるんだって」
「そうだったんだ。防衛隊にも歴史があるんだねぇ」
騎士と言うのはお城の兵士として馴染み深い称号だけど、かつてのこの国ではより重宝されていたんだ。
昔は騎士団が治安維持をしていたんだね。
「うわ~。広いね~。アステリア学院の何倍もある!」
「そりゃあね。学校と比べるのはナンセンス。昔は此処で騎士達が過ごしていたとか。まあ、城内は何処でもそうだけどね」
お城に入って最初に目に付くのは大広間。昔は此処で騎士達が交流したりしていたみたい。
「此処は図書室かな? お客さんに自由解放されてるみたい」
「色々な本……読みたい……けど、時間がない……!」
上の階へ登り、図書室を見てみる。ウラノちゃんがウズウズしていたけど、これを読んでたら時間が掛かるので渋々断念した。
「此処は食堂のようですわね。私達の知る物とあまり変わりませんわ」
「今では観光客用のレストランになってるみたいだね!」
昔に使われていた施設はそのまま現代に流用されている。
考えてみれば当たり前か~。昔の感覚にも近い事もやれるし、色々と便利だもんね。
食堂の外にも飲食スペースがあり、そこは街を一望出来る所だった。
「此処は大浴場だって……あれ? けど三つあるね」
「男湯と女湯と混浴だな。この辺じゃ別に珍しくはないぜ」
「こ、混浴……!? 男の人と一緒に入るの!?」
「そうなるな。どうだ? ティーナも」
「わ、私はいいかな……普通に女湯で」
男女と混浴。そう言う文化があるのかもしれないけど、スゴく恥ずかしいよ絶対。
ウラノちゃんが補足を加える。
「これもまたかつての名残だね。昔は男女で騎士用と、王族用のお風呂があったみたい。それでどうせ利用するならって混浴にしたんだって」
「王族用のお風呂……」
「命が狙われたりするから大変だったみたいだよ」
「それでなんで混浴なの……?」
「色々諸説あるけど、国の偉人である銅像の人が混浴を好んだんだって」
「あんな真っ直ぐな人が……」
「下心は無かったみたいだよ。誰からそれを聞いたのかは分からない眉唾な資料だけどね」
混浴の文化は偉人が広めたから……けど他意は無くて純粋な気持ちだったとの事。
真実は分からないけど、それもまた歴史……なのかな?
浴場を後にし、別の部屋へ。
「此処はパーティールームだって。昔は舞踏会とか開かれてたみたい」
「おー、広い部屋だなー。色んなパーティーが出来そうだ!」
「色んなパーティーって……なにその感想……」
一際広い部屋。舞踏会って聞くと何となく心が踊る。
バルコニーに続いていて熱冷ましが出来る箇所もあるね。
そこからも移動する。
「騎士達の寝室。此処で日々の疲れを癒していたんだね」
「今では一般客用の部屋になってるね~」
そんなに広さは無いけど、小さく纏まっていて利用し易そうな部屋。
なんだかこう言う雰囲気も良いね~。
「そして貴賓室と王室。今はVIPルームだから内装は見れないね」
「流石……一般客じゃ手を出せないね……」
「私なら払えますけど、予約先が長くて待てませんわ」
大きな扉の前で止まる。私達はこの部屋の宿泊客じゃないから見学は出来ない。
けどこの扉からスゴい部屋って言うのはよく分かるね。
最後に下の方に降りて行く。
「そして闘技場。騎士の入団試験とか騎士達の練習とか色々してたんだって。今も自由に魔法や剣技の練習に使えるよ」
「ここで……激しい戦いだったんだろうなぁ……」
最後に見たのは戦闘関連の用途に使われていた闘技場。
一切の無駄を省いたシンプルな場所。確かに此処なら自由に魔法で戦えるかもね。
そんなこんなでこのお城も見終わり、既にお月様が昇っていた。
「いや~。もうこんな時間だ~」
「そうだねぇ。今日は楽しかった~」
ボルカちゃんが腕を伸ばし、私も体を揺らして解す。
少し肌寒くなってきたので上着を羽織り、帰路に付く。……と、その前にボルカちゃんは私の腕を引いた。
「ま、ちょっと待てよ。今の時間帯はまだ最後のイベントが残ってんだ!」
「最後のイベント?」
その言葉に聞き返した瞬間、ドーン! と大きな音が鳴り響いた。
顔を上げると眼前に広がる火の花。
ヒュウっと一つの線が天上へと昇り、到達点にて花開く。
少し遅れて音が鳴り、パラパラと星の欠片のように鮮やかな火花が散った。
「花火……!」
「ああ。丁度今の時期、この近辺で花火大会が開かれるんだ。偉人かお姫様かの誕生祭でな。隣国でも屋台とかあっただろ? この両国は昔から交流があって、記念日も共有してるんだ」
「あ、それで縁日が開かれてたんだね!」
今日“日の下”で縁日があった理由。それは“シャラン・ウェーテル共和国”とこ二つの国で記念日だったから。
それを知ってたって事は、ボルカちゃんはより私を楽しませる為にしてくれたんだね。
「……ふふ、ありがとう。ボルカちゃん。みんな。今日は最高の思い出になったよ!」
「ふふん」
「ふん……」
「へへ。けど、最高ってのはまだ早いな。“魔専アステリア女学院”は中等部からでも転校とかしない限りは六年間あるからな。体育祭とか文化祭とか修学旅行とか、行事も目白押しだ! どんどん最高を更新して行こうぜ!」
「うん!」
今日は間違いなく最高の思い出。けれど思い出を作る機会は更にある。
私の学院生活。それはまだまだ始まったばかり。
空に上がる鮮やかな花火を四人で見届け、キラキラ輝く星空の下、今日と言う日が終わりを迎えるのだった。




