第三百七十五幕 妖狐の妖力と植物魔法
「“樹突”!」
「無駄よ!」
巨大ショップに顕在する無数の鳥居。それに阻まれ、攻撃を通すのは難しいと感じた。
他の気配は少し離れた所に居るね。ショップステージだけど、その大きさはちょっとした街並みはある。
あくまでもダイバースのステージだから殆どの場所がショップ内であり、外の空気を感じられるのは箒や絨毯を止める駐場くらい。だからこんなに鳥居があっても気付いていないかもしれないし、気付いていたとしても自分達の相手で大変だろうから現状では助太刀は期待出来ない。
けど、一人くらいは自分だけの力で倒すべきだよね。それに私にはママとティナ、ボルカちゃんが居るから数の差でも勝っている。
「こうなったら、攻撃が通るまで仕掛けるくらいかな! “樹海行進”!」
「メチャクチャするね。一番頭が悪い方法……一番効果的かもしれないけどさ!」
無数の木々や植物を展開させ、ヨーコちゃんに向けて撃ち放つ。
完全に無敵なら成す術が無いけど、足止めが出来ればボルカちゃん達が他の相手を倒し終えた時に全員で叩ける。その間に残っている誰かがムツメちゃんと入れ替われば妖力からなる鳥居を消し去れるからね。勝つ方法はいくらかあるよ。
進行する植物類は鳥居に当たって消え去り、たまに反射されて私の方へ返っていく。けれど此方の手数も相当。返った側から相打って消え去る。
これは持久戦になるかな。
「……っ」
「……!」
すると、無数の植物のうちの一つがヨーコちゃんに到達。見切って避けられたけど、掠ったのを確認した。
鳥居の隙間を通ったのかな。千と言う数だけの鳥居があるとして、隙間が無い訳じゃない。無数の手数ならそう言う事もあるのかも。
けどこれで攻略法は分かったね。数撃てば当たる。
「当たるまで撃ち続ける!」
「あまり調子に乗らないで!」
植物が迫り行き、ヨーコちゃんは妖力を込めてその塊を放出した。
鳥居を抜けても本人が止める。さっきは不意を突けたから掠ったけど普通はこうだよね。
「でもまだまだ!」
「……っ。量が多い……! 相変わらずデタラメな魔力出力……!」
数が決まっている向こうの妖術と数え切れない植物魔法の私達。何れは数を追い越し、全てがヨーコちゃんに当たるかもしれない。
更に植物を追加して撃ち込み、次第に鳥居を抜ける種類も増えた。でもなんだか違和感。植物達が単純に鳥居の隙間を抜けている訳じゃないような、そんな感覚。
それが分かればより的確に狙う事が出来る。
「もう一度“夜薙樹”!」
「……っ」
今度は単純な手数だけじゃなく、全体を広く見て様子を確認。鳥居の中に吸い込まれていく植物。そして──
「……! 今……」
鳥居を潜ったのに突き抜けた物を確認。それは中心じゃなく、端の方に寄って進んだもの。
もしかしてこの鳥居……と言うより、鳥居の在り方についてかな。
思い付いた事を遂行し、確認してみる。
「“樹拳”!」
分かりやすく一つの植物を放つ。もちろん他の植物も変わらず放ち続けるけど、一つだからこそ分かる事がある。
鳥居の端を抜けた樹の拳は──
「……!」
消滅も反射もせずに通り抜け、ヨーコちゃんに直撃した。
彼女は全身を妖力で覆っており、直接的なダメージは受けないように防御。だけど間違いなく攻撃は通った。つまりこれは、
「鳥居の真ん中じゃなく、端を通れば過ぎられるんだね」
「……さあね!」
一瞬の間を置き、答え合わせなどの返答はせず妖力を放つ。
ヨーコちゃんは言葉を濁したけどほぼ確定かな。多分鳥居の真ん中が神様の通り道であり、端には干渉していないから抜けられるのかな。
精密な動作が必要で抜けるのは大変だと思うけど、方法が分かれば後は戦える。
「“蛇樹”!」
「植物が蛇のように……!」
樹木がうねり、鳥居の隙間や端を通ってヨーコちゃんの方へ。妖力の尾を作るけどこの鳥居の数。妖力のリソースが足りず少々小さい物になっていた。
なのでその間も通り抜け、蛇の樹はヨーコちゃんに激突。その体を吹き飛ばし、ブティックに突っ込んで売り物の服を巻き上げた。
「今がチャンス!」
ぶつかったのを確認し、追撃するように植物をその場所に叩き込む。
本人にダメージがいったからか鳥居の動きは鈍くなり、防御を間に合わせず硝子片やマネキンの欠片を舞い上げる。
「調子に乗らないでって言ってるよね……!』
「狐の姿……」
ヨーコちゃんは本来の姿となり、妖力が高まったのを確認。あまり好きな姿じゃないらしいけど、強くなったのは間違いない。
此処からが本番かな。
「“集中樹拳”!」
『“罰当たり”!』
魔力を一点に込めた樹の拳を打ち付け、ヨーコちゃんは妖力からなる不思議な力で迎撃。衝突によって衝撃波が散り、周りの売り場を吹き飛ばした。
妖力の質が高まっているのを感じる。更には鳥居と併用してこの出力。早めに決めて体力を温存しておきたいところだね。
「一気に削るよ!」
『やってみな!』
ママに魔力を込め、今一度無数の植物をヨーコちゃんに放つ。それらは尾で弾くように消し去り、鳥居によって覆い打ち消しと反射の応酬。
だけど構わず正面から打ち込み続け、時には鳥居の隙間や端を抜けて迫り行く。
無数の植物と複数の尾が鬩ぎ合い、ヨーコちゃんは妖力を込めた。
『鬱陶しい! “狐火”!』
「更に強い炎……!」
正面からの攻撃は全て焼き尽くされ、連鎖するように燃え盛る。
植物は燃え広がり、最後には魔力の欠片となって焼失。一部を残して焼き払われた。
「殆ど消えちゃった」
『これで終わりにする!』
ヨーコちゃんは更に多くの妖力を込め、巨大な球体を形成。対する私の植物は後ろの方に少しだけ。
これによって私は──
『“妖弾”!』
──勝利を確信する。
妖力の弾は真っ直ぐに突き進み、周りを粉砕しながら接近。足元から植物を出して防御し、拮抗するように鬩ぎ合う。
通常ならこのまま決着までもっていけないけど、既に布石は打ってある。後ろにある一部の植物だけでも残ってくれて助かったよ。
「ヨーコちゃん……後方に注意だよ!」
『気安く呼ばないでって──え?』
ショップ内をグルッと一周させ、ヨーコちゃんの背後から植物がぶつかった。それによって怯みを見せ、妖力の勢いが弱まる。
トドメの為、ママへ更に魔力を込め直した。
「終わりだよ! “樹突猛進”!」
『……ッ!』
それだけじゃない。触れている植物を操る性質で見えない位置の植物魔法も成長させておいた。
その全てはヨーコちゃんに向け、完全に隙となっていた背後から激突。それのみならず正面からも植物を。
つまり、読んで字の如く挟み撃ちって事!
『カハッ……!』
前後から植物に押し潰され、空気が漏れるような音を鳴らす。
少し様子を窺い、数秒後には光となって転移。意識を失ったって事かな。
派手な攻撃で注意を引き、見えない場所で準備。満を持して同時攻撃。
このコンボが決まった事によってヨーコちゃんは意識を失い、私の勝利が確定した。
「……戦いはまだまだ残っているよね……!」
一つの戦いが終わってもまだ“天照学園”の人達は残っている。私達が駆け付ける時にはどうなっているか分からないけど、終わるまで戦うだけ。
私達の代表決定戦第一試合。まずは主力を一人削った。




