第三百七十三幕 ダイバース・中等部最後の都市大会・終幕
「“バレット”!」
「単純な弾丸……」
ルマちゃんが銃弾を撃ち込み、エメさんの気を引く。
けれどこれくらいの攻撃は今までに何度も何度も受けている筈。軽く躱され、魔力からなる弓矢を形成。そのまま放った。
「……っ」
「避けた先には、また別の魔力があるよ!」
「……!」
矢を何とか避けたルマちゃんだけど、工場の壁に刺さった物から魔力が漏れ、次の瞬間には破裂。魔力の衝撃波に吹き飛ばされた。
「ルマ!」
「ルマちゃん……!」
「遠隔の魔力操作はまだ難しいけど、時限制で衝撃波を放つ魔法は出来たかな」
壁に叩き付けられ、ルマちゃんの意識は飛び掛ける。
まだ意識は消えていないけど、攻撃の主体は彼女。それはケイちゃんの武器調達も兼ねて。
だからエメさんは先にそちらを狙ったんだ。即座に力関係を見極め、誰を優先して倒すのが一番良いのか考えて……!
「ムツメ!」
「うん……!」
だったらそれを阻止するのみ。踏み出してエメさんに近寄り、左右から挟み込むように叩く。
幸いまだルマちゃんはトドメまで持っていかれていない。今ならまだ……! ……あれ? 何でまだトドメを刺してないんだろう……? 人数差も相まって早く倒すに越した事はないのに。
それはなぜか。ルマちゃんが居る事でエメさんの有利に運ぶ事柄。思考で一瞬だけ止まり、ハッとした。既にケイちゃんの武器はエメさんへと振り下ろされた後だった。
「これは罠だよ! ケイちゃ……!」
「……ッ!」
「……やっぱり。本当になんの魔法も効かない体質なんだね。……そして、まだまだ経験不足だよ」
気付いた時既に遅く、エメさんは雷を纏い、隣ではケイちゃんの意識が途絶えていた。
ルマちゃんはいつでも倒せるからこそ囮だったんだ。私達を引き寄せ、同時に討つ為の……!
ケイちゃんは転移。私は風圧で吹き飛ばされ、ルマちゃんには片手が向けられていた。
「これで残り一人」
「……っ」
魔力が放たれ、そのまま意識を失って転移した。
これが代表戦レベルの選手。数の有利が少しの行動で消え去り、私は追い詰められた。
「はっ!」
「……っ」
矢が射られ、私の体に当たって消え去る。
本物の武器の持ち込みはルールで禁止されている。だから相手の武器による攻撃でダメージを受ける事は無いけど、それでも身構えちゃうよね。
「さっきからそうだけど、やっぱり魔力の弓矢じゃダメみたいだね」
「……!」
次いで距離を詰め寄り、レイピアを突いた。それは当たった瞬間に先端から砕けて崩壊し、エメさんは自ら消し去る。
「レイピアもダメ。大凡の確認は出来たかな」
「無駄と分かってなぜ……?」
「知識として知っていても、実際に確かめてみなくちゃ分からない事もあるからね。割とそう言う性格なの……!」
「知的好奇心が高いのですね……」
「うん、そんなところ」
今のエメさんは雷。なので私の目には到底追えない。
実験されていても理解するよりも前に終わっており、次の行動に移っていた。
「触れたらこの状態が解かれるのも分かったよ。だから、今回はこのやり方で戦う」
「……!」
痛っ……! 何を……!?
瞬き、雷鳴と共に光が放たれ私の脇腹が貫かれていた。何をされたかは全く分からない。だけど雷状態が解かれておらず、私に攻撃出来たという事は、何かしらの武器を使ったという事。
そしてルール上持ち込み禁止な事を踏まえれば答えは一つ。
「レプリカや模擬刀のような武器……!」
「理解したみたいだね」
エメさんはレイピアの模造品を使ったみたい。
先端は丸く、本来なら殺傷力の無い物だけど、雷と同等になる事によって貫通力を何倍にも高めた。そして私は貫かれた。
素の身体能力ですら劣っているのに、レプリカまで持ち出されたら勝ち目は薄い……!
「だったら……!」
「……! 逃げ出した……ティーナちゃん達と合流するつもりかな」
脇腹を抑え、なるべく出血を止めながら背を向けて駆け出し、一目散に走り出す。
体力はこの三ヶ月で付いたから全速力でも数分は持つ。痛みの方もアドレナリン的なので少し和らいでいる。この数分のうちに……!
「私の速度は変わらないよ。貴女に直接触れていないから雷は切れてないからね!」
「……ッ!」
一瞬にして追い付かれ、レイピアにて貫かれた。
貫かれたのは肩。当然だよね。急所を突いて命を奪えば負けるのは向こう。だからじわじわと追い詰めるように仕掛ける筈。
もちろんその事も理解しているから、私が動けなくなるまで走り続ける。
「……っ」
「また……何かを狙っている?」
あまり不自然な動きをしたら阻止されてしまう。だからなるべく自然に、先輩達の方に向かうと思わせなきゃ。
エルフの血筋があるエメさんに頭脳戦じゃ敵わない。だから単純な頭脳戦じゃない騙し合いで……!
「ティーナちゃん達の方だとしても別の何かだとしても、私には及ばないよ!」
「……ッ!」
先回りされ、そのまま足をレイピアで貫かれた。
マズイ……! これじゃ動けな──
「足を奪って、そのままトドメを刺す!」
「……!」
今一度雷を迸らせ、目映い光と共に私の方へ。
それにより、私は一矢報いる事が出来たと確信した。
「雷魔法の性質も……! 本物の雷と変わりませんよね……!」
「……!」
転がり、廃工場の埠頭から落ちる。
その先は廃油の海。
「これは……!」
「油は電気を通しませんよね! ちょっと汚いですけどこれで多少は封じられます……!」
「しまっ……!」
一緒に油の中へ飛び込み、エメさんの動きが鈍くなる。それと同時に彼女へ触れた。
「これで貴女はもう、魔法を使えません!」
「それで何が……! 素でも身体能力は私の方が……!」
あくまで再現された場所。なので会話は可能。でも電気を通さなかったり燃えやすかったり、油本来の性質は残っている。だからヌメヌメもする。これに触れるだけなら無効化はされないみたい。
ともあれ、私は見た。さっき遠方で火柱が上がったのを。そして伝えた。エメさんが放電し、目映い光をステージに迸らせて。
私は絶対に勝てないけど、勝つ為のサポートは出来る。
「良いんだな! ムツメ!」
「はい! ボルカ先輩!」
「……! ボルカさ……!」
そしてその火柱の主。ボルカ先輩ならあのヒントだけで、一瞬でここに到達する事が出来る……!
先輩の決断力ならこの状況を見て即断即決する筈!
「──“フレイムバーン”!」
「……ッ! 自分ごとやるなんて……!」
「それに加え、得意の速度で逃げる事は出来ませんよ! 雷魔法は封じておりますし、私を振り払えても周りは油の海です!」
「スゴいね……新入生ちゃん……!」
それだけ話、ボルカ先輩の炎にて周囲は焼き払われる。
魔法の分は無効化出来るけど、単純に私の体力が限界。血は結構流れたし、この海に溶けてより多く出血してる。ダイバースの本番でこのダメージは初めて……こんなに厳しいんだね。
私とエメさんはリタイア。それにより試合は決まる。
───
──
─
《試合終了ォォォ!!! “魔専アステリア女学院”の勝ちとなりましたァァァ!!!》
「「「おおおおぉぉぉぉっっ!!!」」」
試合が終わり、私達の勝利が決まった。
火柱が立った瞬間に別の場所でまた燃え上がったから、そのままボルカちゃんが倒したみたいだね。
だけどムツメちゃん達の姿が無く、エメちゃんが私達の方に来ていなかった事を思うと直前まで足止めしてくれてたみたい。大活躍だったね。
「ムツメちゃん達、スゴく頑張ったんだね」
「そうだな。合図でアタシも気付けた。今回のMVPだ」
これで初戦を突破。一年生達の活躍もあり、私達も温存する事が出来た。
一回戦から優勝候補のエメちゃん達が相手だったからね。体力を温存するに越した事はないよ。
「このままの調子で都市大会も勝ち抜こうね!」
「おうよ!」
その言葉通り、エメちゃん以降特に苦戦も無く勝ち進んだ私達は初日と二日目、三日目を勝利。
そしてそのまま中等部最後の都市大会も優勝を収めるのだった。




