第三百七十二幕 中等部最後と初めてのダイバース都市大会
──“ダイバース・都市大会”。
《やって来ました!! “多様の戦術による対抗戦”!! 都市大会!!》
「おおおおおぉぉぉぉぉっっ!!!」
地区大会を突破して数日。すぐに都市大会も始まりを迎えた。都市大会は地区大会よりも声援には激しさが増しており、会場が大きく揺れる。
恒例だけどやっぱり一つ上に行くだけで熱量が大きく変わるよね~。
「これが都市大会……!」
「観客席で見るのと全然違う……」
一年生達の反応は、これまた去年も見たような感じ。最初はこの圧力に気圧されちゃうよね。私もそんな感じだったなぁ。
ほんの二年前なのになんだかもう懐かしく思えちゃうや。
「今日は緊張してないな。ティーナ」
「うん。地区大会を越えて来たから落ち着いたかも」
地区大会の時も穏やかな心境だったけど今回も心底穏やか。開会式が終わって第一試合が始まる前。都市大会での友達がやって来る。
「ティーナちゃん。やっぱり“魔専アステリア女学院”も勝ち上がってきたんだね!」
「エメちゃん! うん! そうだよ~! 当たったら負けないから!」
「私の方も負けないよ!」
エメちゃん。
今年もちゃんと都市大会まで勝ち上がってきとる。本人の実力は代表戦相当だから当然だよね~。そして前より元気になってるかも。友達が元気なのは嬉しいよね。
だけどそんな友達が相手でも手加減はしない。当たったら本気でぶつかっていくよ。
《それでは第一試合の発表に入ります!》
「あ、始まるみたい」
「相手はどこだろうね~」
司会者さんの声が響き、第一試合、都市大会一回戦の対戦チームが明かされる。
これが火蓋が切られる合図。気持ち良く勝って先に進みたいね。都市大会ではエメちゃんと当たる可能性も高いから、気を引き締めて臨まなきゃ。
そんな対戦相手は──
「第一試合! “魔専アステリア女学院”vs───」
「ぇ……」
「……っ」
その名が呼ばれ、私とエメちゃんは顔を見合わせる。
そう、これが意味する事それは、
「まさか一回戦から当たるなんてね……エメちゃん」
「そうだね。ティーナちゃん……!」
一回戦の相手は、エメちゃん達。
いつかは当たると思っていたけど、まさかこんなに早く来るなんて。いきなり決勝戦規模の戦いになりそうだよ。
「宣言通り、負けないからね。エメちゃん!」
「うん……私も!」
互いに見合わせ、お互いの控え室へ向かう。他のチームが弱い訳じゃないけど、エメちゃん達はおそらく都市大会で当たるには一番強いところ。勝つ為には色々と工夫が必要になる。
それについて控え室で話さないとね。
──“魔専アステリア女学院・控え室”。
「……て事で、一回戦は単純な戦闘。エメの場所を見つけたらすぐに指示を出す。後は作戦通り頼むぜ」
「分かりました!」
「いきなり相手が代表戦クラスなんて……武者震いが……!」
「でも負けませんよ!」
初日の第一試合であるvsエメちゃんのチーム。故にルールは単純が為、私達はそれについての作戦を決めて試みる。
制限時間に達し、私達は今回のステージへと転移した。
*****
──“廃工場ステージ”。
「此処が今回の……」
「なんか空気が淀んでるや」
今回のステージは廃工場。わざわざ“廃”を付けたのは諸々の関係者に対する配慮らしいので気にせず、周りの景観を見やる。
私達としても初めてのステージだね。新しいステージは何年かの間隔で追加されているみたいだけど、今回がそれみたい。
あるのはボロボロの建物に廃油が流れて淀んだ水辺……それはもはや廃油の海。
乗り捨てられた物が沢山あり、使われなかった資材とかも多い。鋭利な物も多いし、足元には森や街ステージ以上に気を付けなくちゃならないね。
「今回は……というより都市大会初戦のチームメンバー転移位置は全員同じ場所だ。既にエメの気配も見つけたし、その場所に向かってくれ。ムツメ、ケイ、ルマ」
「「「はい!」」」
「頑張ってね!」
今回の選出メンバーは、ムツメちゃんにケイちゃん、ルマちゃんの一年生三人。それに加えて私とボルカちゃんのパーティ。
そして作戦はと言うと、エメちゃんの相手をこの三人で執り行い、他の選手達を気配の読める私とボルカちゃんで倒すというもの。
一年生の相手がいきなり代表戦レベルなのは大変だと思うけど、三人による戦い方の指導もこの三ヶ月でしている。
後はそれが成功するかどうか。武運を祈ってるよ。
「三人は西南西に向かってくれ。エメはそこに居る。向こうも気配は分かってると思うから、物陰に隠れたりとかせず正面突破だ。ただし、作戦の陣形は崩すなよ」
「「「はい!」」」
「それじゃ、散るぞ!」
ボルカちゃんの言葉と同時に私達は三手に分かれる。
私とボルカちゃんで別々に集まった選手達を相手取り、教えた場所には一年生三人が。
試合が始まった。
「ティーナ・ロスト・ルミナス……!」
「相手にとって不足なし!」
「丁度二人。良いね」
向こうも三手に分かれての行動をしている様子。だけど二人二人一人の私達とは違う分配。
私が出会った二人は即座に植物で打ち倒した。
「「ぐはっ!」」
「……。やっぱり、エメちゃん以外が……かな」
思ったよりも遥かに簡単に倒せてしまった。その様子を見、ユピテルさんが言った事を思い出す。
エメちゃんのチームは彼女以外が代表戦レベルに達していない。だから新人戦における個人の部以外で行ける可能性は少ない。
来年の高等部。エメちゃんはどうするんだろう……ダイバースを続けるのかな、それとも……。
そこまで考え、少し離れた場所に立った火柱を見てボルカちゃんも勝利を収めたのを確認した。これで残りはエメちゃんだけ。私達も向かうつもりだけど、距離はそれなりに離れている。到達するまでにどっちが優先なのかも分からないや。
取り敢えず既に数十分は経ってるし、私達もそこへ急ぐのだった。
─
──
───
ティーナ先輩達と離れてから数分が経った頃合い、私達はエメさんを見つけた。
ダイバースは初等部の頃から見ており、彼女の存在ももちろん知っている。彼女はエルフと人間のハーフで、去年の新人戦では個人の部で代表戦まで行った実力者。最初からしてないけど、油断大敵。
「……まさか、私の相手が全員一年生なんてね……」
「はい。残りの仲間は先輩達が倒しに行ってるので、私達が貴女と戦います……!」
「一年生だからって舐めないで下さいよ!」
「そして、私達も貴女方を侮っているからこの人選とは思わないようにしてください。対策はしていますから」
「舐めてないよ。そしてティーナちゃん達の作戦なら勘違いはしない。勝てる見込みがあるから来させた訳だもんね」
流石の実力者。私達を侮ったり油断していたらやり易いんだけど、そんな様子は全く無かった。
これはティーナ先輩達への信頼があるからみたい。単なる腕試しで送ったとかは一切考えていないね。
「ではムツメよ。作戦通りに仕掛けるぞ」
「貴女がキーポイント。任せたよ」
「うん、任せて。二人とも……!」
ケイちゃんとルマちゃんが指定された陣形となり、私は正面からエメさんを相手する。
先輩達に鍛えられて、魔力が無くてもそこそこは動けるようになった。それでも身体強化の魔導や鍛えた生身主体の人には及ばないけど、作戦を遂行するくらいは可能。
魔法もレイピアも弓矢も全部魔力。エメさんの戦い方を思えば、私との相性はバッチリ。
「行きます……!」
「最初に来るのは……無効化の子だね」
大会自体には出ているから、私の能力は既に明らかになっている。私一人じゃ素のエメさんにも勝てないけど、今回は二人も居てくれるから心強い。
だからそんなみんなの為にも私が役に立つんだ……!
「はあ!」
「シンプルに走ってくるね」
駆け出し、エメさんとの距離を詰め寄る。手には棒状の得物。
初等部の頃からケイちゃんと練習したりしてたし、ボルカ先輩に教わって武器の扱い方も上達した。あまり力の無い私が生身でパンチするよりはずっと効くよね。
私が走ると同時に二人も左右から攻め立てる。エメさんは魔力を込めた。
「正面は……だから左右なら……」
何かを呟き、両手を広げる。左右に向けて雷を放出した。
「「……っ!」」
「二人とも!」
その雷は何とか当たらず、二人は距離を置く。私もその間に近付いたけど、エメさんは徒手空拳で向き合った。
「差し詰め、貴女が魔法を無効化して二人が攻める感じかな。そうはさせないよ!」
「……ッ!」
動きが読まれ、得物は空振り。魔力の込められていない回し蹴りが打ち込まれ、私の体は倒れるように飛ばされた。
エルフの身体能力は有名。その血を持っているエメさんは間違いなく素でも上澄み。
でも魔力によるバフが無いからあまり距離は離れていない。これならすぐに近寄れる。
そして近くには、ううん。既に至るところに仕掛けてある。
「──“起爆”!」
「……!?」
「はあ!」
ルマちゃんが仕掛けた爆弾の衝撃で飛び、加速してエメさんとの距離を詰め寄る。
全ての魔導は無効化する体だけど、衝撃波に乗る事は出来る。要するに魔導でもなんでもない空気が押し出されているだけだからね。
その勢いで迫り、エメさんの体に触れた。
「……! 力が……!」
「“ソード”&“マシンガン”!」
「貰い受けたぞ!」
エメさんの魔力を使用不能にし、ルマちゃんがケイちゃんの分の武器も作って投げ渡し、本人は遠距離から弾を撃ち出す。
ルマちゃんの方向は左側で、ケイちゃんは右側。つまり反対方向に弾は当たらなくしてある。
正面から抑えている私には当たるけど、その瞬間に無効化されて消え去っているからね。結果的にケイちゃんの方に向かう弾は更に減っているし、一方的にエメさんを撃てるって訳!
「考えたね……! けど、貴女は軽いよ!」
「……!」
「そして、魔力のレイピアが使えなくても剣術は嗜んでいるの!」
「流石ですね……!」
軽いって言われたのは嬉しいけど、今はそれどころじゃないよね。
素でも高いエルフの身体能力を持ってしてその辺の細長い鉄材でケイちゃんを相手取りつつ、私を振り回して弾も防御。持ち前の動体視力も相まり、三人の攻撃を全ていなしていた。
「魔導を無効化にする相手なら、去年の新人代表戦個人の部で見たからね! こう言うのは悪いけど貴女の完全上位互換。無駄かもしれないと思いつつ、素の動きも鍛えていたの!」
「……っ。ラトマさんですね……! 去年のダイバース新人代表戦、魔族の国の優勝者……!」
タイミングは悪かったかもしれない。去年の戦いはダイバース史の中でも上位。それの対策を、代表戦レベルのエメさんがやっていない訳が無かった。
私は振りほどかれ、離れた瞬間に魔力で加速。ケイちゃんの剣を弾き飛ばし、魔弾でルマちゃんのマシンガンも破壊した。
「確かに貴女達は強いけど、まだまだ代表戦……ううん。代表決定戦レベルにも達していない。私は負けないよ!」
「これがエメ・フェアリさん……!」
「孤軍奮闘でチームを引っ張る強者……!」
「侮っていたのは私達の方だったね……!」
一瞬で形勢逆転。改めてレベルの高さを思い知る。代表戦レベルでもチームは彼女のワンマン。三人掛かりならどうにかなると思っていたけど、それを改めなきゃ……!
私達の初めてのダイバース都市大会。一回戦で当たった優勝候補は前評判以上の強さだった。




