第三百七十幕 修学旅行・二日目後半・最終日
──“舞台”。
「おお、神よ。何故私にこの様な罰を与えたのですか……! 私はただ平穏に生きていただけ……! その日暮らしの追い詰められた日々をただ必死に過ごしているだけと言うのに……!」
午後の最初は舞台の観覧。演者のお芝居には鬼気迫る物があり、とても迫力があった。
まるで本当にその場に居合わせたような感覚になって面白いけど、
「……。……ZZZ……」
お昼後の眠くなる時間帯。ただ見ているだけなのはボルカちゃんにとってはツラいものがあるみたい。寝息を立てて俯き、気持ち良さそうに寝ているや。
舞台の公演時間は二、三時間。体感時間だとすぐに終わり、残りの散策を執り行う。
「いやー、ぐっすり寝ていたから元気満々だぜ」
「本当にぐっすりだったもんね~」
「貴女は興味がある事と無い事への関心の差が激しいわね」
「ボルカさんらしいですわ」
「これで成績優秀だからね。本当に天才型だよ君は」
時間たっぷり寝ていたボルカちゃんは元気な様子。私達も良いお芝居を見る事が出来てモチベーションは高い。
他の場所も私達が自分で選んだ所だから楽しみであり、和やかなムードでそこへ向かった。
「此処が今日のラスト……先輩や後輩達へのお土産だ!」
「うん!」
「お店で買えば良いでしょうに。興味深いから良いけれど」
「珍しくウラノさんのお顔が微笑んでらっしゃる……!」
「──“彫刻体験”とはね」
午後。今日のラストは彫刻造りを体験出来る場所。お土産をここで造るのが目的。
何故かと言うと、この“フラーゾ・テオス”で普通に購入するお土産は基本的に“魔専アステリア女学院”の生徒なら簡単に買える物。だけど私達が自分で造ればそれは唯一無二となり、世界に一つしかないお土産に早変わりって訳。
この国は見ての通り彫刻が盛ん。なのでそれをお土産にしたら良いもんね! 勿論普通のお土産も買っておくよ! 一つだけじゃ足りないもん! そんな感じで私達はその建物に入った。
「そしてここからは──」
それからある程度の説明を受け、小さな彫刻へと取り掛かる。“魔導使用コース”なら残り時間で作れるくらいに時短出来るからそこを選んだよ!
「何造ろっかな~」
「人数は多いから、小さな彫刻を複数個だね……」
「どうしましょう」
「簡単に造ってしまいましょう」
「そうだね」
何を作るかは悩むけど、大きさ的にもやれる事は限られる。高いクオリティは維持したいからその方針で行こっか。
材料となる石柱に魔力を向け、植物を展開した。
「細かい箇所はこうして……大部分には植物の種を仕込んで急成長させて……」
種を入れ、成長と共に割る。そこから別の植物で形を整え、次第に完成へ近付けさせていく。
私の方は案外順調。ボルカちゃん達はどうだろう。
余裕が生まれて来たのでチラッと他のみんなを見てみる。
「よっと」
ボルカちゃんは炎剣で石を焼き切りながら形を整えていた。私のとは違って大きな石を使ってるけど、大丈夫なのかな?
けど順調みたいなのは流石だね。
「そーれ!」
ルーチェちゃんは光魔法で少しずつ削っている。誤って壊した物は溶接し、違和感無く修正していた。
所々でミスはしているけど、リカバリーは早いし此方も順調だ。
「はっ!」
カザミさんは風と水で上手い具合に微調整して形を作っていく。切断の分野では本当に綺麗に出来るもんね。丁寧な造り。
彼女も順調な様子。
「…………」
そしてウラノちゃん。彼女は言葉を発さず、集中して取り組んでいた。
手際よく作業を進め、魔法をあまり使っていないのに私達より進行が早い。教えられたとは言え、作業自体は初めての筈。それでこの手際なのはスゴいとしか言い様が無いや。
「みんな順調みたいだね……私も負けてられないや……!」
小声で力を込め、植物の操作。ティナと感覚共有もして確認する時間も短くし、作業を進めていく。
手芸を趣味にしているから、こう言った作業はやった事が無い人よりは得意な方。違いと言えば材料の硬度くらいであまり変わらないかも。
まあ一から削るのと一から縫うのは全然違う感覚なんだけどね~。あまり変わらないって言うのは完成後の形を想像し、そのイメージに近付けるという作業について。お陰で石は理想の形になっていく。
それから数時間が経過した。
「やったー! 完成ー!」
「アタシも終わったぜ」
「私もですわ!」
「私もよ」
「みんな殆ど同じタイミングだな」
私達の作品、もといお土産は完成した。
その彫刻はお互いに見せ合う。
「私は小さな石のお人形さん! 角もちゃんと削って、安心安全の代物だよ!」
「流石。上手いなティーナ。アタシは石像だぜ! 流石に一つしか出来なかったから部室にでも飾っとくか!」
「スゴい出来映えですわね。私はお花ですわ!」
「へえ。細部までちゃんと作ってるね。とても綺麗だよ。私は動物系かな」
「貴女もやるじゃない。みんな良い作品が出来たわね」
「ウラノちゃんが一番スゴいよ!?」
私達の作品披露。
私は趣味の延長みたいな感じで石のお人形さん。ちゃんと間接を動くようにしたり工夫したよ。
ボルカちゃんは大きめの石像。ジャンルで言えば人だけど、かなりの完成度の高さだね。
ルーチェちゃんはお花。単純にお花と言っても、花弁の一枚一枚を丁寧に造っているからかなりの高難易度。綺麗に咲き誇っていた。
カザミさんは動物さん。此方も毛先まで丁寧な造りで、高い完成度を誇っていた。
そしてウラノちゃんの作品。
「もはや家になるなこれ」
「お城ですもの。でも住むには少々脆いわ」
──お城。
私達の国や“フラーゾ・テオス”のお城と“日の下”にあるようなお城を絶妙な加減でマッチングさせたような完成度を誇るお城。
ミスマッチのように見えてスゴくバランスが良い。城門から窓の一つ一つまで、かなり手を込んで造っているね。
「こりゃウラノが優勝だな~」
「そうだねぇ」
「悔しいですわ!」
「全くだね」
「いつから勝負になってたのかしら?」
確かに。いつの間にか競っていた。これ全部先輩や後輩達へのお土産なんだもんね~。良い風に見られたいのは先輩後輩としての願望かな~。
ボルカちゃんとウラノちゃんの作品は学院長から許可を得て部室に飾るとして、私達の作品は渡さなきゃね。
そんな感じで夕刻となり、二日目も終わりを迎えるのだった。
*****
──“修学旅行・最終日”。
「ついに修学旅行も終わりかぁ。名残惜しいぜ」
「楽しかったね~」
昨晩も宿泊施設でみんなとワイワイして過ごし、いよいよ最終日に差し掛かった。と言っても巡る場所は無く、お土産の購入とか自由行動をする日。指定時間までに転移の魔道具がある場所に戻ってくれば良いの。
だから私達は昨日の彫刻に加え、名産品や特産品。お菓子などの食べ物類をお土産とする為それ用のお店に入った。
「色々あるね~」
「やっぱり転移の魔道具付近で正解だな」
「一番人が来るものね。人気商品や定番の品物は大抵此処にあるわ」
「目移りしますわ~!」
「本当にね」
入るや否や、ズラッと並ぶ様々な品々。
“フラーゾ・テオス”定番のお土産屋さんって感じなんだろうねぇ。
「どれにすっかな~」
「みんなで食べたいからお菓子はあった方が良いよね~」
「お化粧品……はまだ後輩達には早いかもしれませんわね。気にしてる方自体は初等部からそれなりにおりますけど」
「無難な物で良いんじゃないかしら」
「小物系かな~」
色々あって悩んじゃうけど、指定時間まではまだ三時間くらいある。まだまだ探せるね。
取り敢えずお菓子は購入。他の食べ物はどうしよっか。
「あ、何だろうこのキャラクター。可愛い」
「“フラーゾ・テオス”のマスコット的な何かだな。これ買っとくか~。アタシの懐事情的には丁度良いや」
「限定の飲み物……良さそうですわね」
「取り敢えず好き嫌いが総合的に少なくて、貰っても困らない物が無難になるわね」
「その理屈だと彫刻はどうなんだろうか。まあ、飾ってくれるかもしれないけど。私はこれかな」
目移りはするけど、何だかんだで簡単に決まっていく。良さそうな物が目に映ったら取り敢えず買って考えれば良いもんね。
要らなそうだったら自分達で貰えば良いし、無駄にはしないよ! 私達が良さそうって思った物だからね!
「これくらいかな~」
「お手頃ですわね!」
「二人とも結構買ったな~。流石はお嬢様だぜ」
「私はこれくらいで良いわ」
「宣言通り無難かつ妥当な物だね。嫌いの割合も少なくて貰っても無駄にならない。流石だ」
それから小一時間過ごし、私達は良さそうなお土産を購入した。
お菓子や飲み物みたいに、みんなで食べられたり断られても自分達で後処理が出来る物。小物類なども嵩張らず、断られても自分達で飾る事が出来る物が大半。
買って要らないから捨てるって言うのは作ってる人達に失礼だもんね~。流石に使い古したり壊れたりしたら仕方無いけど、基本的には残さず食べるし使っていくよ。
何はともあれ、これでお土産コーナーは終了。残り時間私達は近場のお店で食べ歩きをしながら進んでいた。
国によってはそれが禁止されている所もあるけど、“フラーゾ・テオス”は大丈夫な国だから無問題。
「っしゃ! 片っ端から食ってくぞー!」
「おー!」
「朝食から二時間くらい……まあ、間食する人はする時間帯かしら」
完全にお腹ペコペコって訳じゃないけど、スイーツとか飲み物とかなら食べられる。
なので名物の物を次々と購入し、ボルカちゃんは食べ進めていく。私も食べるけど、量は要らないかな~。その辺は各々で調整しなきゃね。
美味しい物は食べていきたい。ママは私に沢山美味しい物を食べて欲しいって言ってたの。食欲も無くなって、数日前には殆ど何も食べなくなったママの分まで私は──あれ? 今何を思ったんだろう。なんか少し胸が痛くなったような……。
気のせい気のせい。今はこの瞬間を楽しまなきゃ! 要らない思考は捨てよう!
「……? ティーナ、大丈夫か?」
「……え? ううん……大丈夫だよ! 何でもない! 食べながら歩き回ると疲れちゃって!」
「そっか。……。……無理はするなよ!」
「……? ……うん!」
なんか間があったような気がするけど、それもまた気のせい。こんなに楽しいんだもん。何も悩みなんて、無理なんて全く無いよね!
スゴく楽しい! ホントのホントに楽しい! 楽しいの!
それから残り時間を思う存分楽しんだ私達は転移の魔道具で移動。“魔専アステリア女学院”へと帰る。
これにて私達の楽しい修学旅行は幕を降ろすのだった。




