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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第三十七幕 ちょっぴり不思議な体験

 ──昼食を摂り終えた私達は少し街中を歩いていた。

 食べた後だから激しい運動は痛くなっちゃうし、特に行き先も決めずに放浪する。


「うまかった~。彼処のメシは絶品だな!」

「また口調……」

「空腹の時に食べたらなんでも美味しく感じるでしょうに」

「いやいや、アタシも生ゴミとかは美味しく食えないぜ?」

「人間の食料。もしくは常識の範囲内で考えて頂戴」

「アハハ……」


 三人のやり取りに私は苦笑を浮かべる。

 お昼ご飯はとても美味しかった。けれど基本的に行き当たりばったりなお出掛けだからワンアクション始めるたびに何処へ行こうかの話し合いに移行しちゃう。

 それも楽しいんだけどね~。

 こう言う時に提案するのは大抵ボルカちゃんだけど、


「そんじゃ、隣国の“日の下(ヒノモト)”に行こうぜ。あそこはどこの国とも違う異質な雰囲気があるんだ」

「“日の下(ヒノモト)”……イェラ先輩がよく行くって言う?」

「そ。そのヒノモト!」


 “シャラン・ウェーテル共和国”から隣国の“日の下(ヒノモト)”へ行こうと提案された。

 異質な雰囲気って言うのは気になるけど、イェラ先輩がよく行っているなら治安とかの保証はされている筈。

 確かにそれは良いかも。お茶とお菓子は部室でも食べてるから、ある意味馴染み深いもんね。


「良いじゃないですの。あの国の独特な雰囲気は嫌いじゃなくってよ!」

「歴史の深い国。独自に発展した文化が特徴的。私も良いよ」

「私も勿論オッケー!」

「よし決まり! 本当なら歩いて行きたいけど、もう午後だしこの国にある転移の魔道具で移動すっか~」

「「おおー!」」

「……そのノリやらなきゃダメ……?」


 何はともあれ、次なる行き先は隣国“日の下(ヒノモト)”。

 曰く独自の文化や国柄が見所らしい。

 私達はその場所へ向かう為、中心街に行って転移の魔道具で移動した。



*****



 ──“日の下(ヒノモト)”。


「到着っと~。なんやかんや転移の魔道具は便利だな~」

「そうだねぇ。実際の距離はどんな感じなの?」

「詳しくはシラネー。けど、割と近かった季がすんぜ。乗り物次第なら二、三時間もありゃ着くかもな」

「ホントにご近所さんだね……!」


 着いた国、“日の下(ヒノモト)”。

 “シャラン・ウェーテル共和国”とは一風変わり、全体的に落ち着いた印象の見受けられる国だった。

 建物は木造建築物が大半を占めており、歩道は整備されているけど地面が剥き出しとなっている。

 道行く人々の服装も私達の物とは違い、着物を中心的に使っているみたい。着物は本で読んだ事があるかな。長袖に足元まで届く裾。肌を大きくは見せないスタイル。

 履き物はこれもまた私達の靴とは違って木からなる物がカラン、コロンと心地好い音を立てている。

 此処が日の下(ヒノモト)かぁ~。


「確かになんか独特の雰囲気。建物から服装まで別世界に来たみたい」

「此処は昔ながらの景観を残した場所だからな。都心部は高層建造物とか作られてるぞ」

「そうなんだ」


 曰く、全域がこんな感じじゃなくてちゃんと私の知る建物も都市には作られているみたい。

 一方でウラノちゃんは目を輝かせていた。


「古風な造形! 何処か懐かしさを感じる景観! 資料館で見たような衣類が未だに残っている感動! 何度か来てるけど、やっぱり素敵な所!」


「ス、スゴいテンションだね……」

「ハハハ……ビブリーの夢はいつか世界中の遺跡とか伝承を網羅する事なんだってさ」

「彼女なら本当にやってしまいそうですわ」


 ウラノちゃんにはそんな夢があるんだ。

 思えば彼女は本魔法だから様々な物語を読むだろうし、こうなるのは自然なのかもね。


「そんじゃ、早速色々観光してみるか! この国の城は他国とも結構違うんだ。他にも他国に無い文化が色々ある! 昔は“妖怪”って呼ばれる魔物の仲間が居たともされてるんだ!」


「そうなんだ! 楽しみ~」

「参りますわよ!」

「フフン♪ 良いわよ!」


 一見するだけで分かる文化の違い。それの更に深い所をこれから一緒に見て回れるのは楽しみ。

 これからみんなで探索だーっ!



*****



「……迷っちゃった……」


 ──数分後、みんなとはぐれた私はトボトボと歩いていた。

 今日は縁日なのか、ヒノモトの国には多くの屋台が立ち並んでおり、それに気を取られていたら見失ってしまったの。

 つまり全てに置いて私が悪いんだけど、どうしよう……。


「ティナ。ちょっと探してきて」

『うん。オッケー!』


 連絡手段は持ってないけど、ティナが居るから空から探す事は出来る。

 他の観光客と服装は似ているけど、この国に居る人達は全員が着物だからボルカちゃん達は分かりやすいと思う。

 まだ日も高いから暗くなるよりも前に見つけなきゃ! 帰りの乗り方も分からないもん!


「うぅ……不安だよぉ……」

『そう言いながらちゃんと縁日は楽しんでいるのね』

「何となく口寂しくて……」


 一時間後、赤い果実の飴を舐め、ティナとの感覚を共有して探る。

 お昼ご飯直後であまりお腹は減ってないけど、飴やデザート系ならまだ大丈夫だから。

 ピーピーヒョロロ、ピーヒョロロ、変わった音色の笛が聞こえ、ドンドン! と豪快な太鼓の音が鳴る。

 ピーピーヒョロロ、ピーヒョロロ、ドンドンドドン、ドン、ドドン。「えんやらえんやら!」「ワッショイワッショイ!」縁日を楽しむ人々の声は幸福その物だけど、私の心境はドン底だよぉ。

 ママとティナが居なかったら発狂していたと思う。


「……。……あれ?」


 考え事をし、目を閉じながら歩いていたら急に人の気配と音が途絶えた。

 なんだろう。さっきまでの賑やかさがまるで夢だったかのように消え去る。目を開け、ティナを私の元に戻す。

 眼前に広がるのは殺風景な広場に、ポツンとたたずむ建物。背後には赤く大きな入り口……? みたいな物があった。

 どこだろう……此処。

 橙色の光に照らされ、なんだか不思議な雰囲気を醸し出す。……ん? 橙……オレンジ色……?


「……あれ!? もう夕方!? さっきまで昼間だったのに!? そんなに長い間目を閉じてたの私!? それとも寝ながら歩いてた!?」


 黒く小さな鳥が鳴き、ヒュウ……と風が吹き抜ける。

 そんなに時間が経った気はしなかったけど、目を閉じてティナと感覚を共有してたからあり得ないとは言い切れない……。

 そう考えるとちょっと疲れたかも。

 私は目の前の小さな建物……ほこらみたいな場所の石階段に座る。

 本当に夕方ならこれからどうしよう……路頭に迷っちゃったよ~。このまま誰にも気付かれずひっそりと私は息を引き取るんだ~!


「グスン……」


 どんどん悪い方向の思考が募り、なんだか悲しくなってきた。

 縁日の音まで聞こえなくなったのがより孤独感を増幅させる。……ううん。ママとティナが居るから一人じゃないけど、それでも積み重なる不安はぬぐえない。

 夕方の暖かい日差しが更なる追い討ちを掛け、私はママとティナをギュッと抱き締めながら膝を抱えて座る。


「──あら、お客さん? 珍しいですね。こんな所に人間の方が来るなんて」

「……え?」


 すると一つの声が聞こえてくる。

 顔を上げるとそこには綺麗な女性が居た。

 頭にはかんざしを着けており、艶のある黒髪に赤い瞳が特徴的。衣服には着物を着用しており、それは色鮮やかで豪華絢爛な服装だった。

 誰だろう。高貴そうな人……他の気配なんて無かったけど、いつの間に私の前に? それに人間の方って……。


「……えーと……魔族や幻獣、魔物の方ですか?」

「うーん、違いますね。どちらかと言えば近いのは貴女達人間さんです」

「え? 一体どう言う……」

「ふふ、貴女は何しに此処に来ましたか? お参りですか?」

「えーと……道に迷って友達とはぐれちゃって……途方に暮れてました」

「あらあら、迷子ですか。それはそれは」


 なんだろう。この人と話していると暖かい感覚がある。精神的な物じゃなくて物理的に。優しい暖かさ。

 そして迷子……私的には間違ってないよね。


「あら、そちらのお人形さん……なんだか魔力の気配を感じますね。もしかして貴女は人形魔法の使い手ですか?」

「え? はい。そう言う事になってます……」

「それは珍しい。とても可愛らしいお人形さんですね♪」

「ありがとうございます……」


 ホントになんだろう。この人……普通に考えたら怪しいんだけど、そんな感じは全く無い。どこかフワフワしてるけど、私を純粋に心配してくれてる。

 不思議な雰囲気の人。曖昧なのにそう形容するのがしっくり来る。


「けど……そうですか。貴女はかなり複雑なようです」

「いきなりなんですか。失礼ですよ」

「ふふ、ごめんなさい。あ、そうだ。せっかくだからお参りでも如何です? もしかしたら願い事が叶うかもしれませんよ」

「お参り……そもそも此処って一体どういう場所なのでしょう……」

「此処は神社と呼ばれる所ですね。この広場が境内。要するに神様が居るとされるやしろです」

「神様……」


 どうやら此処は神様の居場所らしい。

 それで独特な雰囲気があるのかな。ボルカちゃん達が居ないのは寂しいけど、落ち着く雰囲気もある。

 それならこの人は住職さんとかかな。


「あの……貴女は……」

「私ですか? 言うなら巫女ですね。神様に仕える者です」

「巫女さん……。巫女さんは此処に居て長いんですか?」

「そうですねぇ……地上からはしばらく離れてましたから。かつての英雄さん達とも顔見知りなんですよ♪」

「アハハ……それはスゴいですね」


 数千年前の英雄達と知り合いかぁ。あくまで神様に仕える巫女さんがそれは有り得ない事。冗談言って励ましてくれたのかな。優しい人。

 私は寂しさを紛らわせてくれたお礼にお参りしてみる。


「えーと……」

「作法はお賽銭箱と呼ばれる目の前の箱にお金を入れて、本坪鈴ホンツボスズと呼ばれる鈴をガラガラと鳴らし、二礼二拍手一礼ですよ。頭を下げてる時にお願いするのです」

「そうなんですか。あまり持ち合わせは少ないですけど……」

「ふふ、気持ちがあれば十分ですよ。人間界のお金と神様の世界のお金は違いますから♪ 神様によっては沢山入れなきゃ叶わない事もありますけど、私……じゃなくて、此処の神様は大丈夫です」

「わ、分かりました」


 丁寧に教えてくれるね。

 チャリンと銀貨を入れ、頭を下げてパンパンと柏手を打つ。

 この時にお願いするんだよね?


(ボルカちゃん達と会えますように……ボルカちゃん達と会えますように……ボルカちゃん達と……)


 最後に一礼し、目を開けようとした瞬間に背後から声が掛かった。


「居たー! ティーナ! 探したぞー!」

「……! ボルカちゃん!」


 振り向き、彼女の姿を確認する。

 良かったー。近くに居たんだね。けど結構石段とかあったのにもう私の場所まで──


「──……あれ? 神社と女の人は……」

「ん? どしたー?」


 見てみると前にあるのは何の変哲もない建物。商店かな? お店の人が小首を傾げていた。

 なんだろう……不思議な感じ。

 そこへウラノちゃんが話し掛けてくる。


「神社? 貴女神社に居たの? それなら鳥居を潜る時とか色々注意が必要だよ。彼処は神様の住まいって言うからね」


「あ、うん。鳥居……がなんなのかは分からないけど、神様の居場所ってのは聞いたよ」


「聞いた? 誰から?」

「神社の巫女さん……」

「おかしいわね……巫女さんは今縁日に出払ってて誰も居ない筈だけど。それに、此処から神社までは徒歩だと半日は掛かるよ」

「そうなの!?」


 何から何まで不思議な感じ。そしてハッとし、空を見上げる。


「青空……」

「んあ? そりゃあな。ティーナとはぐれて数十分。まだ一時間も経ってないからな!」

「え? え?」


 さっき見た時は夕方だったけど、そんなに時間経ってなかったの? 確かに私も早過ぎるって思ったけど……。

 あれれ~?


「ま、ティーナが早く見つかって良かったよ! せっかくの縁日だし楽しもーぜ! 後この国の城に行こう! 城に!」

「お城に行くなら近くに神社もあるね。そこにも行きましょう!」

「ふふ、行きましょうか。ティーナさん」

「うん……行こっ!」


 何もかも分からないまま、その疑問は解決しなかった。

 こんな世界。不思議な事は色々あるんだね。目を瞑ってたし、夢を見ていた可能性もあるもん。


「……? あれ?」


 そしてポケットを探ってみると、食べ終えた飴の棒が……確かこれって探してる時に買った物……。

 けど探し始めてから一時間後くらいに買ったやつ……なんで此処に?


「オーイ! ティーナー? またはぐれるぞー!」

「……! うん! 今行くー!」


 ボルカちゃんに呼ばれ、意識が引き戻される。これもまた一時の不思議な出来事。説明付かない事なんて沢山あるよね。

 何はともあれ、私達はこの国のお城に行ってみる事になった。

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