第三百六十七幕 行き先決議会議
──“一ヶ月後”。
新学期になってから早一月。今日中等部の三年生では来月に迫ったとあるイベント事についてのことで盛り上がりを見せていた。
実行委員の人が前に立ち、ホワイトボードにそれについての事柄を書き記し、学年中からアンケートを取る。
「それでは、来月に迫った“魔専アステリア女学院”修学旅行の事を話し合いたいと思います」
「「「イエーイ!」」」
そう、それは修学旅行。この学院の一大イベントであり、私も含めたみんなが心待ちにしているもの。その集いには私達のクラスだけではなく、中等部三年生の全員が参加した大規模な物となっている。
“魔専アステリア女学院”では一般校のように予め決められているのではなく、生徒達が自主的に決める物となっている。自分で判断する能力を培ったり、話し合いを経て意見する為の論力を高める方針なんだって。
「どこ行く~?」
「ここかな~?」
「じゃあ論争だね!」
「負けないよ!」
とは言え、本人達はその事を特に気にしていない。行きたい所は色々あるけど、自分の意見が通らずとも行こうと思えば行けるのがこの学院生の大半。
この決める瞬間を楽しんでいるって感じかな。
「それでは、候補となる場所について提案をお願いします。最初の多数決後、決議会議をした後に改めて多数決を取ります」
「「「はーい」」」
実行委員長に言われ、まずは行く手となる場所を次々と挙げていく。
「無難な“日の下”!」
「英雄生誕の国!」
「かつての王が居た国!」
「幻獣の国!」
「敢えての魔族の国!」
定番の場所から人間の国外の場所。色々と案は出てきた。この学院では基本的に国内ではなく海外を視野に入れて行われる。まあ人間の国の中の国々とかちょっとややこしい感じになるけど、取り敢えず扱いでは他国なので海外。
何はともあれその場所の選定に移ろうか。
ヒノモトは言わずもがな。私達もそれなりの頻度で行ってる国だね。そして英雄生誕の国は、文字通りかつての英雄が生まれ育った国。今でも英雄の痕跡はある程度残してあるとか。
それからかつての王様が居た国。それは大昔、人間の国には沢山の王様が居り、その中で最も権威を持っていた支配者が居た国の事。実は“ゼウサロス学院”があるユピテルさんの出身国でもあるの。
そして幻獣の国と魔族の国。観光名所としても有名な幻獣の国に、比較的治安も悪くない魔族の国は人気があった。
出なかった魔物の国については、何度か行ってる私からしたら良い所だったけど、実際に行く機会が少ない他のみんなからしたらそうは思えないみたいだね。
「それでは、意見が出揃いましたので話し合いを始めましょう。まずはヒノモト側の意見をどうぞ」
最初の多数決が終わり、現状の未投票を抜いた票数では“日の下”が優位に立っていた。
そんなヒノモト派のみんなが意見を出す。
「まず、ヒノモトには人間の国内でも珍しい独自の文化があり、歴史的建造物も数多く残っています。英雄の遥かに前の時代からその国の名前すら変わらず、伝統を重んじた成り立ちが──」
ヒノモトは世界的に見ても歴史のある国。今の世界にある国々は英雄の時代から名前を変えている物は多く、現代まで残っているのはそれぞれの住み処が分かれていた時代の名残である“人間の国”・“魔族の国”・“幻獣の国”・“魔物の国”という総称くらい。
そんな中ヒノモトはその名を昔から残しており、その観点から見ても歴史の深さが窺えられた。
修学旅行は“遊び”よりは“学び”を尊重したもの。国の歴史を知る事は趣旨にも合っているね。
「ありがとうございました。では、お次に英雄の生まれた国についての意見をお願いします」
ヒノモトの紹介が終わり、次の場所へと移る。英雄生誕の国。その名前は英雄から取り、“ライヴェリテ・セイブルス”。
英雄の名前からは少し離れているらしいんだけど、英雄の中に力を貸してくれる存在が居たとか居ないとかで混ざり合った感じになっているとの事。
でも証人はおらず、あくまで眉唾な感じなんだって。それと英雄繋がりと言うだけで“英傑セイブルス学院”がある場所とは違うの。あっちは魔族の国だからね。英雄も魔族だけど、生まれや育ちは人間の国。
そんな場所のPRに入る。
「歴史を知るという意味ならば、今あるこの世界の原点とも言えるこの国に行かずして始まらないと思います。歴史的価値の高さのみならず、今では観光都市としても栄えており──」
今のこの世界があるのは、かつての英雄が巨悪を討ち滅ぼして平和を確立したからとされている。
それまでは始祖の女神様が一度人類を滅亡寸前まで追い込んで整えたにも関わらず争いが絶えぬ世界だったとか。
ある種の世界の始まりと言うのなら、それは英雄の誕生が大きく関与していると言えるもんね。
そして肝心のPRだけど、英雄の生まれた家とかは当時の形のまま残してあり、国全体で言えば人間の国のみならず世界でも有数の観光スポットとなっている。人や人以外の種族が集まるんだから大きくなるのは必然だよね。
「ありがとうございました。では次に王国の説明をお願いします」
“ライヴェリテ・セイブルス”の紹介後、次に話すのは世界最高峰の王様が居た国について。
代表者は立ち上がる。
「はい。私が紹介する王の国──“フラーゾ・テオス”は、それこそ歴史的価値のある文献が数多く実在します。と言うのも、かつての王は真の全知全能であり、この次元に置いて起こりうる事から起こり得ない事。矛盾や理論上不可能な事まで遂行することが出来たとされています。そして今を生きる私達が知り得ない、それこそ宇宙の誕生から終わりまで全ての真理を理解していたとか。故にその知識に肖る事が出来、見聞を広げる事が──」
同じ英雄の時代。世界に沢山の王様が居た時、おそらく一番権力のある王様……或いは神様が収めていた国。今の名前は“フラーゾ・テオス”。
神王様に関する逸話は色々あり、その全てが本当にそうだったと語り継がれている。当然残っている記録は保管されており、あらゆる媒体で記されているの。
何度も言うように修学旅行の目的は去年の体験留学と同じく学びを得る事。全知全能、全知とされる神王様が残した記録は当然その役割を担える。全知の記録の断片を借りられるその場所は修学旅行本来の形に一番近いかもしれないね。
「ありがとうございました。次に幻獣の国の──」
それから、幻獣の国、魔族の国のPRも終える。
内容は幻獣達の知恵と歴史。魔族達の歴史等々、どうしても考古学関連の分野になっちゃう様子。
だけどその国特有の在り方を踏まえるとそれは必然。文学や数学なら“魔専アステリア女学院”でもやれる事だからね。現地でしか得られない情報を学ぶ為にある。
全員の話が終わった所で実行委員長が纏めに入る。
「以上を持ちましてその一派による意見の出し合いを終わらせたいと思います。改めてまして今しがた挙げられた五つの国に投票をお願いします」
多数決ではあるけど、挙手するのではなく投票制。もちろん提案していた人が変えても良い。
学年のみんなが行き先を紙に書き記し投票箱に入れる。各クラスの学級委員と総合の実行委員がそれを数え、多数決の結果をホワイトボードに書く形。
そんな投票の結果──
「決まりました。“魔専アステリア女学院”中等部三年生一同、修学旅行の行き先は──“フラーゾ・テオス”となりました」
決まったのは全ての中心となる神の王様が居た国“フラーゾ・テオス”。
最初は“日の下”だったけど逆転したね。時点で“ライヴェリテ・セイブルス”。
決まり手は全知の片鱗に触れる事が叶うから。今の時代にこれから起こりうる全ての可能性を見通す事が出来る人は居ないけど、かつて居た記録がある“フラーゾ・テオス”ならば良い傾向になるかもしれないもんね。
「“フラーゾ・テオス”だってー」
「確かあの国には様々な神殿がありましたわね」
「更には全ての王様が実際にいらっしゃったお城を見学する事も出来るそうですわ」
「来月が待ち遠しいですわね~!」
改めて決めた事であり、元々この議論自体を楽しんでいたみんなに反対の意見は出ず、目一杯満喫しようという心意気にあった。
斯く言う私にとっても初めての修学旅行。今から楽しみだよ!
「“フラーゾ・テオス”か。楽しみだなティーナ!」
「うん! ボルカちゃん!」
「一緒の班になろうぜー!」
「オーケー!」
それから班決めが行われ、みんなはそれぞれ仲の良い人。或いは利害の一致があった人など、一人も余る事無くサクサクと決められていった。
私達の班は言わずもがな、私とボルカちゃんにルーチェちゃん。そしてカザミさんで組む。他の班にも誘われたけど、やっぱりいつものメンバーが安心するよね~。カザミさんとは去年から同じクラスだから、実は結構話してるんだよ!
そんな感じで修学旅行の行き先と班を決め、今回はお開きとなる。
──それから一ヶ月後、修学旅行の当日となった。




