第三百六十六幕 新入部員達の能力審査
相手が決まったみんなは、それぞれの戦いを執り行う。
カザミさんは水を放ち、それをケイちゃんが棒でいなす。弾かれた水は虹を作り、辺りは輝いていた。
「へえ、簡単な水ならそのまま弾けるんだ」
「ええ。鍛えてますから」
踏み込んで飛び出し、棒を振りかざして下ろす。それをカザミさんは紙一重で躱し、腹部に風を押し付けた。
「“ウィンド”」
「……っ」
魔導の練度には差がある。なのでカザミさんは少し弱めて行動中。それでも今のところカザミさんの方が実力は上みたい。
「“風槍”!」
「“ランス”!」
一方でリゼちゃんと武器魔術のルマちゃん。二つの槍が衝突して衝撃波を放ち、地面の土が吹き飛んだ。
此方は今のところ互角って感じかな。双方本気には程遠いと思うけど。
「“火球”!」
「“土弾”!」
「“シールド”!」
「“魔力付与”!」
サラちゃんとベルちゃん。そしてシルドちゃんとギフちゃん。火球と土の弾丸が撃ち込まれ、魔力の付与で強化された防御魔法にて防ぐ。此方はまだ動いていないかな。
そして、
「“水球”!」
「わわ……!」
「“水弾”!」
「わっ……!」
ディーネちゃんとムツメちゃんだけど、ディーネちゃんの水魔術を避け続けている。避けられるのはスゴいけど、回避と言うよりは逃げ回ってるみたいな感じ。
まだ実力は分からない。でもやっぱり平均を越える事が無いような動きに見えちゃうや。
「はあ!」
「やあ!」
その様に、出揃った面々で戦闘を行う。私達もただ観戦しているんじゃなく、その戦闘スタイルや立ち振舞いから情報を得ているよ。
「はっ!」
「棒術から剣術に切り替えたね。いくつも武器を仕込んでいるみたい」
「ええ、苦手な武器は無いので!」
例えば武器全般を扱えると言うケイちゃんだけど、その中にも得手不得手がある。
棒や木刀のような物は得意だけど、遠距離型はモデルガンにしても弓矢にしてもあまり上手じゃないみたい。
それでも普通よりは遥かに戦えているけど、比較的苦手なのはその辺り。
「“アロー”!」
「近距離遠距離対応か」
「はい」
武器魔術を扱うルマちゃん。
彼女は遠中近全てを上手く扱っているけど武器を切り替える時に少し遅れたりしている。同じ魔力からなる力。なんでも出来るからこそ、どれで行くか一瞬の迷いが生まれちゃってるね。
「“火弾”!」
「“土球”!」
「まだまだ“シールド”!」
「その攻撃じゃ一生破れませんよ!」
シルドちゃんにギフちゃん。彼女達の合わせ技はまさしく鉄壁の守りだけど、守ってばかりで決定打が無い。
他の子達が攻撃に加わるまで耐え忍ぶつもりなんだろうけど、先に攻撃陣がやられちゃったら削り続けられて押し切られるのが関の山だよね。
「“水切”!」
「ひっ……!」
そしてムツメちゃん。
彼女は……なんだろう。さっきの通り攻撃からは逃げ回っている。その回避性能の高さは利点。ただ逃げられるだけでもディーネちゃんの魔術は速いから難しいもんね。
でも戦おうと言う素振りも見せないなんて。
他の子達は戦い方もある程度分かったけど、彼女だけ本当に未知数。もう少し注目して観察してみたら何か分かるかな。
「逃げてるだけじゃ始まらないよ! ムツメちゃん!」
「わ、分かってますけど……」
水魔術から単なる魔力の放出へ切り替え、ムツメちゃんへと撃ち出すディーネちゃん。
それも関係無く逃げ回り、着弾と同時に土煙が舞い上がる。
「貴女相手なら、魔術を使わなくても勝てるかも」
「わっ……」
土煙に紛れ、水魔術による加速でムツメちゃんの近くに移動。その手を掴み、水で勢いを増して回転させ、そのまま村の建物へと投げ飛ばした。
粉塵を上げて崩れ落ち、カラカラと音が響く。
「直接当てるんじゃなくて、あくまで体術のサポートに回す感じだけどね」
「うぅ……痛いです……」
ある意味では初めてまともなダメージを受けたムツメちゃん。目立つ箇所に打撲や切り傷などが出来、一撃投げられただけでかなりのダメージを負っていた。
肉体的な強度も魔力強化の無い常人並み。涙も流しており、ちょっと可哀想。フラフラで今にも意識を失いそうな……。
「うーん……なんか悪い気がしてきた……。リタイアしても良──」
「し、しません……! リタイアは……!」
「……!」
だけど、その同情の方が彼女にとって悪い事だったと私も、多分ディーネちゃんも理解した。
肉体的な強さは常人並みだけど、根性は人一倍。それは入部テストの時からそうだった。
「それなら、遠慮無く仕掛けるよ……!」
「はい……!」
血にまみれた手で涙を拭い取り、ディーネちゃん相手に構える。
ディーネちゃんは可哀想だから魔術を使わずに戦おうとしていたけど、その考えを改め、相手を尊重して魔術を込め直す。
「“水弾”!」
「……っ」
水の弾丸が撃ち込まれ、前のめりに倒れるように回避。その後を追撃するように仕掛けるも避けていき、建物の後ろに隠れた。
「それは遮蔽にならないよ! “水球”!」
「……!」
大きな水球が放たれ、建物ごとムツメちゃんを吹き飛ばす。
だけど彼女はまだ意識を残しており、ディーネちゃんの出方を窺っている様子だった。
「やる気があっても、回避だけじゃやれる事は限られるよ!」
「心得てます……!」
複数の水を集め、更に撃ち出す。
一つ一つは地面に穴を空ける威力だけど、それでもテストの延長という体は守っており、ちゃんと向こうから仕掛けられる隙を残していた。
「……!」
「お……」
何かに気付き、ムツメちゃんは駆け出す。
隙を分かったみたいだね。観察眼もしっかりとある様子。わざと隙を作っているとは言え、分かりにくくもしてあるからね。
そこを抜けてディーネちゃんの眼前に迫り、彼女は握り拳を握った。
その拳は勢いを増して突き出され──
「やあ!」
「……!」
──ペチッ……と軽くビンタしたような音が響いた。
「……え?」
それを受け、小首を傾げるディーネちゃん。今は戦闘中なのもあって魔力で身体能力を強化している。とは言え、こんなに威力が低いなんて。
「それ!」
「わっ!」
手で押し出し、ムツメちゃんを倒す。これまたなんの魔力も込めていない攻撃……攻撃って言える程の事ですらない。
身体能力は常人並み……にしてもちょっと力が無さ過ぎるような気がしてならないや……。
「これで終わりだよ……!」
「……!」
これ以上戦うとムツメちゃんの傷が大きくなる一方。なのでディーネちゃんは魔力を込めてトドメの態勢に移る。
ムツメちゃんはなんとか立ち上がり、今度は怯えずその魔力に向き直った。
「“空間掌握・突”!」
「……」
空間魔術の解放。水魔術じゃまた逃げられる可能性があるので目には見えず、反応するのも難しい空間魔術で意識を奪うみたい。
空間その物を突き出して差し迫り、ムツメちゃんは両手を前に翳した。
「えい!」
「……!?」
──そして、空間魔術を消し去った。
……え?
その光景を前に観戦中の私と対戦中のディーネちゃんは固まり、ムツメちゃんはまたディーネちゃんに立ち向かう。
「今度こそ倒します……!」
(違和感はあった……さっき殴られた時……私の体は魔力で強化していたんだけど……その感覚が一瞬消えたような気がした……単純に部活動で鍛えられているから素の状態でも余裕で耐えられたけど……これってもしかして魔力その物を……)
駆け出すムツメちゃんに向け、何かを長考しているのか動かないディーネちゃん。
ハッとし、また臨戦態勢に入った。
(リスクはあるかもしれないけど……もう一撃受けてみればハッキリするかも。今度は全身に空間その物の防御術を組み込んで……)
「……! 周りが歪んで……!?」
ディーネちゃんの周囲は歪みを見せ、ムツメちゃんは驚いて目を凝らすように見つめる。真偽を確める為に空間魔術で防ごうって考えてるみたい。
そしてそれは、不本意な勝敗を定めるものとなってしまった。
「距離感が掴めな……あ……!」
「ムツメちゃん!?」
歪んだ空間に惑わされ、攻撃の余波で散った小石に躓いて前のめりに倒れてしまった。
打ち所が悪かったのか、そのまま意識を失って転移。私は「あちゃー」とおでこを押さえて頭を抱える。隣のルーチェちゃんも苦笑を浮かべていた。
「決まってしまいましたね……」
「うん。そうみたい……他のみんなも終わったみたいだよ」
気付けば他の新入生の子達も全員が敗北して終わっていた。まだまだ戦闘に置ける問題は山積みだね。これから鍛えるとして、間違いなく全員が戦力になりそう。
そう思ったのは戦っていた他のみんなが掠り傷とは言え負傷らしきものをしていたから。
経験の差と練習の差。それを踏まえた上でダメージと言えるダメージを残した今、新入生達はみんなが強くなれると私は確信した。多分向こうのボルカちゃん達もそう思ってるよね。
「取り敢えず、面白い戦いだったね~」
「そうですわね。新入生達にもまだまだ伸び代があり、ムツメさんも珍しい力が宿っているかもしれませんわ!」
「うん!」
試合を終え、感想を言い合う。
みんなに光る物があり、ムツメちゃんはラトマさんと同じような無効化の力があるかもしれない事も分かった。この感想は後でボルカちゃん達とも話し合いたいね。
何はともあれ、入部テスト後の能力審査ダイバース。それは沢山の収穫を得て終わりを迎えるのだった。




