第三百六十五幕 新部員達
──“部室”。
「それじゃ、体力も回復させたところで自己紹介と得意魔導……と言うか戦いに置ける得意分野を教えてくれ」
入部テストが終わり、私達は部室で新入生の紹介に当たる。
中等部の部長としてボルカちゃんが周りの事を纏めていた。
「取り敢えず右からだ」
「はい。私は“セリー・ケイ”と申します。得意分野は得物……要するに武器類ですね」
最初に紹介したのは、入部テストでは得物を持って戦っていた子。
ケイちゃんと言う名前で、黒髪に凛とした目。誠実そうな子だった。名前の響きから“日の下”の血筋かな? カザミさんやレヴィア先輩にと、友好関係のある隣国なだけあってチラホラ居るよね~。
「“ルマ・ウェポ”。得意分野は“武器魔術”です。魔力の形を様々な武器にします」
次の子は魔力から武器を作っていた子。名前はルマちゃんで、黒髪に赤い目。さっき見た通り武器魔術が得意。戦略の幅は広いね。
「“シルド・ガディア”。得意な事は防御魔法。平均的なそれより頑丈です」
そして次は防御魔法を展開していたシルドちゃん。銀髪に青い目の大人しそうな雰囲気であり、彼女の防御力は普通より高いとの事。これは頼りになるね~。
「“ギフ・プレン”。よろしくお願いします。得意な事柄は魔力の精密な操作。力を分け与えたり、回復させたり出来ます」
赤い長髪に黄色い目のギフちゃんは魔力によるサポートを行っていた子。魔力操作が得意なのでそれを応用して色々な事が出来るみたい。器用な子だねぇ。
「“ムツメ・ノーマ”です……。得意分野は……魔導への対抗です……」
最後にムツメちゃん。人一倍根性があって勇敢だった子だね。でもちょっと自信無さげな自己紹介。
白髪に白くなだらかな目。勇気はあるけど、性格的には私やディーネちゃんに近い感じ。
でも魔導への対抗ってなんだろう? ディーネちゃんの水魔術の中に飛び込んで大丈夫だったし、魔導耐性が高かったりとかかな。
これで新入生五人の紹介が終わる。まずは“魔専アステリア女学院”ダイバース部の洗礼からかな。
「それじゃあ早速、お前達には毎年恒例の事をして貰う」
「毎年恒例の……」
「これが先輩片の強さの秘密に……」
ボルカちゃんの言葉からゴクリと息を飲み、奥の方から陶器のコップを持ってきた。
それにトットットッと赤や黄色の液体を注ぎ、湯気が立つ。ズラリと用意した皿に色鮮やかな物が置かれる。
そう、ダイバースの恒例……。
「茶会だ!」
「ティータイムだよ!」
「「「「「…………。……え?」」」」」
素っ頓狂な声が漏れ、呆気に取られたような表情。
緊張の糸は切れ、目の前に並んだ紅茶とクッキーに視線を落とす。そんな五人にボルカちゃんは言葉を続けた。
「入部テスト頑張ったからな~。疲労回復には糖分補給と酸味の接種だぜ」
「今日はレモンティーも用意したんだよ~」
「そ、そうですか……」
「美味しそうですね……」
「うん、とっても美味しそう……」
「ですね……」
「いただきます……」
取り敢えず出された物に対して遠慮する方が失礼と分かっているので手に取り、一口頬張った。
「お、美味しい……」
「美味だ」
「紅茶と合いますね!」
「ホントだ」
「スゴく美味しい!」
「ふふん、ルミエル先輩の時代から受け継いだ一級品だからね!」
「言うて三、四年前だけどな~」
「あの伝説的なルミエル・セイブ・アステリアさんの……!」
「すごい……!」
後輩ちゃん達はみんなが絶賛してくれた。
受け継いだレシピをそのまま使っているんだけど、やっぱりとても美味しいよね。食べてみて改めて思う。
そんな感じで楽しみつつ、入部テストの初日が終わりを迎えるのだった。
今日は軽い練習くらいで、明日からが本番だね。
*****
──“翌日”。
「それじゃ、今日は実践形式の練習にする。改めて新入生達の実力も見ておきたいからな。準備体操も終えたし、万全だろうぜ」
「じゅ、準備体操……」
「あれでまだその段階だったんですか……」
軽い運動を終え、実践形式の練習に移る前。新入生の子達は準備体操で息を切らしていた。
やっぱり最初はこんな感じだよね~。本格的な練習はその数百倍はキツいけど、私達もディーネちゃん達もすっかり慣れたし、時間の問題かな。
それはそれとして、もう一つのお知らせがあるの。
「それと、新たにダイバース部に入る奴も居る。新入生じゃなくて既に中等部に居る奴だけどな」
「……?」
それは、在校生からの入部希望者。
余裕を持ってテストも終え、実力は私達も理解している。体育祭とかを経て本格的にやってみたくなったんだって。
後輩ちゃん達は小首を傾げ、ボルカちゃんは手を広げた。
「新しい部員。──カザミ・ミナモだ」
「……!」
その言葉と同時に暴風を引き起こし、水を纏いながら姿を現す。綺麗な水色の髪を揺らし、凛とした面持ちで登場した。
「よろしく。紹介にあった通り、私はカザミ・ミナモ。三年生からの新入部員で経験は浅いけど、それなりの実力者だ」
「「「よ、よろしくお願いします……」」」
派手な登場に若干引き気味の後輩達。カザミさんはボルカちゃんの方へと視線を向け、耳打ちする。
「話が違うぞ。このやり方なら後輩から好感度が上がると言っていたけど」
「おっかしいな~。カザミーの実力を見せる事も出来るし、適切だと思ったんだけどな~」
どうやらこの方法についてはボルカちゃんが裏で手引きしていたみたい。
カザミさんは私達はよく知ってるけど、部活動にも入ってなかったし、単純に後輩ちゃん達は知らないって感じっぽいね。
それにつき、ボルカちゃんは説明を続ける。
「そんでもって、今回の練習は新入部員の実力審査だ。ディーネ率いる二年生チームにカザミーを入れて、一年生の五人チームとダイバースをする。それで色々と決めてくぞ」
「色々って……?」
「フッフッフ……さあ、なんだろうな?」
「不安です……」
何故か不敵に笑って言葉を濁すボルカちゃん。
単純に判断力とか実践に置ける立ち回りを見てどの試合に入れるかとかを決める感じなんだけどねぇ。
でもまあ、程好い緊張はあった方が気も引き締まって良いのかな? 取り敢えずそんな感じ。
「よろしくお願いします。カザミ先輩」
「ああ、よろしく。体育祭とかでは会ってるね。君達とはまだ息も合ってないと思うから、私が君達に合わせて動くよ。指示を出してね」
「分かりました」
一年先輩のカザミさんだけど、ダイバース部としては一年後輩。なので年下とかそう言った事は気にせず、ディーネちゃん達に合わせて動くみたい。
私達自身そんなに上下関係は無いつもりだし、方針に合ってるね。
「今回の形式は単純な戦闘にしとくか。謎解きとかは今はあんまし関係無いし。まずは呼吸合わせからだな」
ルールは代表戦でお馴染みのシンプルな戦闘。最初はどの程度合っているかを見るとの事。
舞台は既に借りており、そちらに私達は転移した。部室近くの森は昨日の入部テストで少しダメージを負っちゃったから今はゆっくりと再生させてるの。ちゃんと元通りになって更に頑丈になるよ!
「此処が今回のステージか」
「村ステージですね」
「建物や山に川。本番のステージにありがちな物は一通り揃っているから丁度良いんだ」
カザミさんとディーネちゃんがステージを見回して言い、ボルカちゃんが理由を話す。
何はともあれ実践形式の練習がスタート。私達は一応両チームの控えに居るよ。あまりに力量の差がある時とかその差を埋める役割を担っているの。
因みに私とルーチェちゃんで一年生チーム。ボルカちゃんとウラノちゃんが二年生+カザミさんチームの控え。
そのメンバーで開始した。
「始めに、一年生の子達はまだダイバースの実践をよく分かっていないので正面から仕掛けてくると思います。フォーメーションはおそらくシルドちゃんの防御とギフちゃんのサポートで攻撃を防ぎつつ、ケイちゃんとルマちゃんで攻撃。ムツメちゃんは未知数ですけど、入部テストを見る限り防御方面に回しているかと」
「成る程。それじゃ、私はどう行動する? 前述通り君達の考えに従うよ」
「はい。まずは私がその陣形を崩します。それによって分かれた所を各個撃破が無難かと。取り敢えず実践に慣らせる為、こちらもシンプルな方法で攻めようと思います」
「OK。確かに今回はあくまで新入生のテスト。私もそうだけど、実力は此方が上と自負している。一年生の子達に合わせて向こうの出方を見なくちゃね」
「そう言う事です」
作戦会議は順調な様子。一年生の実力を見たいのですぐに倒す訳にはいかず、ある程度は手を抜かなくちゃならない。
だから向こうに合わせて行動するみたい。
ディーネちゃん達は行動を開始した。
「“水球”!」
「……!」
正面に向け、多少力を抑えた水の塊を放出。予想通り防御の陣形を作っていた一年生達は弾かれ、それぞれの相手と対面する。
「私の相手は貴女ですか。カザミ先輩」
「ケイだったかな。近接戦が得意ならそちらに合わせるよ。名前の響き的にもシンパシー感じるからね」
「ええ、ありがとうございます」
「私の相手はリゼ先輩ですね」
「武器魔術。珍しい力だ。楽しみだな。ルマ」
「そうですね」
「私達のお相手は貴女方ですの。シルドさんにギフさん」
「防御が固そうなメンバーだね~!」
「貴女方は攻守に長けてそうですね。ベル先輩にサラ先輩」
「守り勝ちますよ!」
「そして私の相手は貴女なんだ。ムツメちゃん。入部テストでは突破されちゃったから、ちょっと対抗心見せたりして」
「お手柔らかにお願いします……」
開始直後、予定通り分断させ、それぞれの相手が決まった。
カザミさんvsケイちゃん。
リゼちゃんvsルマちゃん。
ベルちゃん&サラちゃんvsシルドちゃん&ギフちゃん。
そしてディーネちゃんvsムツメちゃん。
入部テスト後に行う実力診断が始まった。




