第三百六十四幕 入部テスト
「そ、それでは、入部テストを行います……! 一次試験の場所に来て下さい!」
やや緊張気味のディーネちゃんが呼び掛け、新入生の子達はそちらへ向かう。
今回の試験だけど、あくまでも付いて行く事が大事。なので解けなきゃ次に進めないような謎解きなどは無く、力量を測る物を大半としている。
その上で到達する事が出来るか。ディーネちゃんは詳細を説明した。
「基本的に脱落はありません。先程話した通り、付いて来ればそれで完了ですので。その代わり、自主的なリタイアはありとします。その場合は安全を考慮し、私達を含めた見守りの先輩方が安全地帯へ運びますので安心してください」
「「「はーい!」」」
「ルールはこの森を一周するだけ。その間に私達が妨害をしますので、自主リタイアしないようにゴールしましょう!」
その他にも細かい事柄を説明し、早速スタート。試験内容は単純で、私達の妨害を越えて部室周りの森を一周するだけ。
疲れたら休んでも良いし、夜までにゴールすれば良し。制限時間は門限の問題だね。時間切れの場合はまた後日受ける事が出来るようにしてあるの。
そんな感じでサラちゃんが天空へ杖を構えた。
「それじゃあよーい……スタート!」
ボンッ! と火球を放ち、内部から小さな爆発。それが合図となり、新入生達は森を走り出した。
「少し疲れるけど、これくらいならゴール出来そう」
「十周とかじゃなくて一周だけだもんね!」
「そんなに簡単じゃないと思うけどな~」
あまり走った事が無い子も居ると思うけど、休み休みでも進めばオーケーなので余裕のある様子。
そしてその余裕は、次の瞬間に消え去る事となる。
「“土波”!」
「「「………!?」」」
ベルちゃんの土魔術による地形の変動が起き、波立って新入生達の行く手を阻む。
単純に足場が波打つだけで動きにくいよね。地面その物の形が変わってるから地震とは別ベクトルの揺れが新入生達を襲っている。
「地面が……!」
「どうしよう!」
揺らぎ、動けない様子の新入生達。立つ事も出来ずに踞り、早くも打ち止め。
しかし何人かは気付いた。
「そうだ……これが地面だけなら……」
「あくまで一周する事……“走って一周”とは言われてない……!」
箒や足元への魔術展開。それによって浮き上がり、地面の波から逃れた。
そう、その通り。森を一周するとしか言ってないもんね。その方法は走るだけじゃない。極論、テレポートで瞬間移動しても良いの。
何はともあれゴールすれば良いだけだからね。その間にちょっと妨害が入るくらい。──今も。
「空中が安全だと思ったら大間違いだぞ。後輩達。“突風”!」
「「「………っ」」」
リゼちゃんが空中に向けて風を放ち、ゴールへ向かおうとしていた子達を吹き飛ばす。
魔力での踏ん張りが効かずに成す術無く吹き飛ばされ、一気に距離が空いてしまった。
「これが先輩達の魔導……!」
「単なる妨害ですらこんな威力……!」
「せっかく髪をセットしたのに……!」
残った何人かは風に煽られながら髪を揺らし、抗いながら突き進む。
確かに風魔法は進路の妨害だけじゃなく、髪の毛もボサボサにしちゃうからセットした子達にとっては大変だよね。
「髪の毛が心配なのは、ダイバースじゃちょっと大変かもよ~!」
「「「……っ!」」」
突風を乗り越え、直進していた新入生達に降り掛かるはサラちゃんの炎。
衣服も焦げちゃったり、毛先も燃えたり、大切にしている子達にとっては大変だよね。
「もうムリィィィ~~!」
「ギブアップしますー!」
そして何人かは自主的にリタイア。これくらいでへこたれちゃうならその方が賢明な判断だよね。
試合に出ると全焼とか粉砕骨折とかよくある事。最大限の治療はされるけど、それでも傷が残っちゃう事はあるかもしれない。ただの試合でも大変だよ。
そんな土、風、火を越えて新入生のみんなは一割くらい減った。ディーネちゃん達のものはシンプルなエレメントを越えていく試練だから思ったよりまだ残っているかもね。
そして次がそんな彼女達最後の妨害。
「“水弾”……!」
「「「…………!?」」」
「ウソ……」
「こんな……!」
ディーネちゃん自身による水球が放たれ、新入生達はたじろぐ。
正面からじゃ彼女の膨大な魔力による攻撃は止め切れないもんね。そこをどう突破するか。或いはどう耐え忍ぶか。その答えが結果を左右する。
「み、みんな! 私が魔術を中和しながら走るからその後に続いて!」
「……!」
すると、一人の子が迫る水球を見て話した。
中和。この場合は威力を抑えるって事かな? 見ればその子は箒や魔力に乗っておらず、ここまで走ってきた様子。根性はありそうだけど、どうやって突破するのか。
他の子達も疑問には思っているけど、眼前に迫った水を前に考えている時間は無い。走るその子の後に続き、水魔術の中へと突っ込んでいった。
そして──
「やったー!」
「ゴール!」
「何人かは来れなかったかな……」
「もう……ムリ……」
「ギブ……」
「こんなに大変だったなんて……」
後ろを付いて行った子達は無事に辿り着き、別の方法を模索していた子達はリタイアする結果になった。
これで一次試験で減った人数は全体の三割程。まだ半数以上残ったね。
「へへ、やるな。新入生達。これは思ったより期待出来そうだぜ」
「ふふん、私達の力を見せて上げましょうか」
「そうね。厳しさを叩き込まなければあの子達の方がツラくなるもの」
「うん。二次試験の私達も簡単には終わらせないよ!」
人数の確認をし、私達はリタイアした子達を回収し終えて準備を整える。
次は最後となる二次試験。
*****
「よーし、よくやったお前らー! 無事一次試験は突破だ! 次は二次試験、アタシ達が妨害役になる。気張ってけよー!」
「「「はい!」」」
一次試験を終え、残った子達の顔付きは締まったものとなっていた。
単純な疲労もあるんだろうけど、厳しさの片鱗を知る事で意識が変わったのかもね。
そんなんで始まった二次試験。ルールは変わらず、妨害役が私達になるくらい。軽く息を整えて位置に付き、二次試験が始まった。
「“光球雨”!」
「「「…………!」」」
手始めにルーチェちゃんが光魔法からなる雨を降り注がせ、新入生達を狙い行く。
よく見れば隙間は大きく、必ず通れるルートもあるけどこの派手な見た目に惑わされて爆発に巻き込まれ、自主的にリタイアする子達が増えた。
仮に意識を失っても気力があれば後日に受けられるけど、今のところそんな様子の子達はいないみたいだね。
光の雨エリアを抜け、そこにはモンスター達が立ちはだかる。
「物語──“ミノタウロス”」
「“フォレストゴーレム”!」
私達による召喚と創造のモンスターがね。
広範囲の植物魔法はまだ後半に残しておき、単純にこのモンスター達をいなして進まなければならない。
回避の立ち振舞いを見る機会が多かったから、単純に戦闘能力を見てみようって感じ。
ミノタウロスもゴーレムも弱めてあるから、去年まで初等部だった子達でも倒せるくらいの調整だよ。
「“ファイア”!」
「“ウィンド”!」
「ウォーター!」
「“ストーン”!」
新一年生の子達は初等部で習う初級魔法で対処。一人の一撃でも怯ませる事は出来るけど、倒すまではいかない。
怯ませた間に抜け出したり、何人かで力を合わせて突破していく。
「このくらい。本番より遥かに弱めてあるのは先輩の優しさかな」
『………』
「肩慣らしには丁度良いけど世界レベルには到底及ばせてないもんね“カッター”!」
『………』
中には一人で一体一体を討伐する事が出来る子も居た。
片や棒状の得物で薙ぎ払い、片や魔力を武器にして切り捨てる。流石の名門“魔専アステリア女学院”。必ず何人かは即戦力になりうる人材が居るんだね。
『……』
「わわ……!」
『ブモォ!』
「ひぃ……!」
そして、リタイアはしていないけど逃げ回っている子も居た。魔導を使おうともしていないくらいに怖がっちゃってるのかな。
「これが入部テスト……すごい怖い……」
「あの子……」
よく見たら、さっきディーネちゃんの水魔術の中に飛び込んだ勇敢な子。
ギャップが激しいね。怖がりなのか勇敢なのか分からないや。ちょっとシンパシーも感じるけど。
とは言えゴーレム&ミノタウロス地帯を抜け、森も後半に差し掛かった。既にこの時点で更に半数は減っちゃってるね。
「いよいよラストスパート。“焦熱地獄”!」
「熱い……!」
「森が……!」
後半は全てが灼熱の炎に覆われた場所とした。更には植物を操って森を動かし、ボルカちゃんの炎でも燃えないように新入生達に襲い掛かる。
この時点で更に脱落者は増え、残った子達も苦戦していた。
「流石にこれは厳しいか……!」
「でもまだまだ本気じゃない……!」
とは言いつつ、上手く移動している様子。それと同時に別の子達も助太刀に入った。
「ここは協力と行こうか! “シールド”!」
「賛成! “魔力付与”!」
「その方が良さそうだ!」
「炎なら払える! “ウィップ”」
一人が防御魔法を展開し、もう一人がサポートの魔術を用いる。更に一人は得物で炎を薙ぎ払い、残りの一人が鞭を魔力から生み出して払い除けた。
見た感じ、この四人が今回における期待の新星って感じかな。まだ言っていないのに協力する事を視野に入れ、一人じゃ難しい場所を力を合わせて突破していた。
「“森林進行”!」
「これが最後の難所……!」
「でも私達ならやれる!」
「ああ、そうだ……!」
「やってみせる!」
炎と動く木々を抜け、最後に森その物が仕掛ける。四人は正面からそれを突破し、無事に入部テストを終える事が出来た。
「はぁ……はぁ……」
「思ったより疲れた……」
「まだまだ精進が足りないな。我ながら」
「自分に厳しいねぇ~」
一人は腰に手を当てて空を見上げ、残りの三人は息を切らしながら座り込む。
最後は全力疾走で駆け抜けたもんね。本当にお疲れ様だったよ。
「他の奴らで来る気配は無いか~?」
「魔力の気配は無いかも」
「見た感じそうですわね」
「そうね。殆どが自主的にリタイアしているわ」
そうなると合格者はこの四人になるのかな。
ボルカちゃんは気配を探り、私は魔力を辿る。ルーチェちゃんは目を凝らし、ウラノちゃんが新入生達の名前が書かれた名簿を手にチェックを入れる。
これで終わりかと思ったその時、ティナで森の中を探索していた私と気配を読んでいたボルカちゃんは同時に気付いた。
「いや……」
「もう一人……」
魔力は読めなかった。つまり魔力を有していないという事。この世界では、珍しいは珍しいけど前例が無い訳じゃない。イェラ先輩やレモンさんがその例。
なので私はティナの視覚共有越しに、ボルカちゃんは気配その物から気付いたの。
そんなボルカちゃんは小さく笑った。
「ちったぁ根性ある奴も居るじゃねえか!」
「はぁ……はぁ……やっと……着いた……」
ゴールの少し前でパタンと倒れる。魔力が無くちゃあのルートを通るのは大変。全部避ける事も難しかったらしく、途中でダメージ受けて倒れちゃったみたい。
これは流石に見なしておこうかな。残りの一人も合格とするよ。諦めないでここまで辿り着いた人達は確定で入部OKだからね!
「おめっとさん。アンタら五人、“魔専アステリア女学院”ダイバース部に入部決定だ!」
「や……やった……」
「素直に……ぜぇ……喜べない……」
「ふぅ……まだまだ……ひぃ……緩いんだろうね……これで……」
「あぁ……そうだな……」
「………」
疲労困憊で上手く話せない四人と、話す事すら出来ない一人。ちょっと厳し過ぎたかな……? 去年のディーネちゃん達の時より遥かに難易度が高かったもんね。
何はともあれ、これで入部希望者50~60人中の5人が決定した。見た感じ既存の得物を扱う子と武器魔術の子。防御魔法を得意とする子に魔力操作が得意な子。
そして魔力は無く、身体能力も平均的初等部最年長から中等部一年生な子。この五人が新一年生のメンバー。
「「ぜぇ……ぜぇ……」」
「はぁ……はぁ……」
「ふぅぅぅ……」
「…………」
「……まずは部室で休憩かな?」
「ハハ。そうだな」
今ちょっと話せないけど、無事……でもないけど決まったので取り敢えず部室で休憩させよっか。
何はともあれ、これにて“魔専アステリア女学院”ダイバース部の入部テストが終わるのだった。




