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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
363/458

第三百六十二幕 二年目ダイバース新人代表戦・終幕・思わぬ事実

 ──“医務室”。


「んあっ……」

「あ、気付いたね。ボルカちゃん」

「おお、ティーナか。意識を失って……そうだ。結果は!?」


 目覚めるや否や、ガバッ! と起き上がるボルカちゃん。

 私はモニターの方を指し示して言葉を告げた。


「今から始まるよ。タイミングは良かったね」

「そっか。あ、アタシ服着てるし痛みもないや。ラトマの姿は無いな」

「うん。同性の医務担当者さんが治療と同時に服を着替えてくれたの。そしてラトマさんもあの後意識を失ったらしくて運ばれたけど、別の担当医務室に向かったよ」

「成る程な~。あの後ってどれくらいだ?」

「ボルカちゃんとほぼ同時くらいかな~。だからまだ結果は分からないの」

「そうか。っし、んじゃ覚悟を決めて見るとするか」


 諸々の理由からラトマさんとは別の部屋。モニター越しにも結果は分からず、司会者さんが壇上に立って口を開く。


《お待たせ致しました! 今回の結果はほぼ同時だったが為、厳正な審査。及び映像判定にて決めました!! それ故に時間が掛かってしまいましたが!! そんな代表決定戦までなら引き分けとなるような結果ですら!! どちらが勝利を収めたか告げたいと思います!!》


「「「どわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」」」

「「「ウオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!」」」

『『『グギャアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!』』』

『『『キュオオオオオオオォォォォォォンンンンンンンッッッッッ!!!!!』』』


 どうやら本当にギリギリの戦いだったらしく、発表が遅くなった理由もそこにあるとの事。映像判定ですら確実性が中々出なかった、互角の決着。

 その結果は今、明らかに──



《勝者!! ───“英傑セイブルス学院”!! ラトマ選手ゥゥゥ━━━ッッッ!!!》



「「「どわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」」」

「「「ウオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!」」」

『『『グギャアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!』』』

『『『キュオオオオオオオォォォォォォンンンンンンンッッッッッ!!!!!』』』


──

───


「……負けたか~」

「そうみたい……残念だね……」


 結果を知り、肩を落とす。

 本当にギリギリだったとは言え、そのギリギリを制する事は叶わなかった。どちらの可能性もあった事だけど、こんな時どんな言葉を掛ければ良いのか分からないや。


「って、オイオイ。なんでティーナの方が落ち込んでるんだよ? 中等部はもう終わりだけど、個人戦なら高等部でもあるんだ。ダイバースを辞めない限りはチャンスがあんだろ?」


「ボルカちゃん……。うん、そうだよね」


「重っ苦しいなぁ~。確かにスゲェ悔しいけど、優勝しちまったら後は挑戦者を待つ側に立ってとんでもないプレッシャーに押し潰され兼ねない。逆に勝ち過ぎて萎える可能性も出てくる。でも、その挑戦者チャレンジャー側ならまだ“目標”がある。始めてすぐで優勝したラトマが来年以降続けてない可能性もあるっちゃあるが、それでも優勝目標に頑張れんだろ。落ち込むよりも前に進まなきゃな!」


「うん……そうかも……!」


 ボルカちゃんが一番悔しい思いをしたのは間違いない。でも、だからこそ個人戦の優勝も目標に続ける事が出来る。

 この精神力を私も見習わないと。同率3位としての示しが付かないよね。

 発表が終わり、改めて本格的な治療を施される。悔しい思いを残しつつ、私達は会場を後にするのだった。


───

──


 ──“会場前”。


「腹減ったなー。この後どうする? 打ち上げでもすっか」

「良いかもしれないね~」

「賛成ですわ!」

「……まあ、乗ってあげるわ」


 会場を抜けた外。会場前の広場でインタビューなどを受けた後に私達は応援に来てくれていたルーチェちゃんやウラノちゃん。ディーネちゃん達と合流した。

 体力の方は回復しており、傷口も塞がっている。負けちゃったから祝勝会とはいかないけど、打ち上げでもしようかなと話が纏まりつつあった。


「では、それに私達も同行して良いかな? 敗れたのは同じだ」

「そうだな。結局ボルカも負けてしまった。一番惜しいところまではいったがな」

「お疲れ様です」


「レモンさん! ユピテルさん! エメちゃん!」


 そこにお馴染みのメンバーも集合。断る理由は無いしみんなで打ち上げに行こっか。

 そして遠方には沢山の記者に囲まれ、不服そうなラトマさんの姿も見えた。

 彼はそのままここまで来、口を開く。


「ボルカ・フレム。何故か今回は俺が勝ったけど、そんな気は全くしない。こんな体験は二度目だ。次こそは君に完璧に勝つ……!」


 どうやらラトマさんは結果に納得いってないみたいだね。確かにほとんど引き分けでの判定勝ち。今まで明確に勝てたと言える状態にあった以上、今回の勝利は不服なんだ。

 ボルカちゃんは笑って返した。


「そうか。安心しな。アタシもダイバースは続ける。団体の部で代表戦まで行けるかはともかく、個人の部で当たる事があるとしたら高等部だな」


「そうなるな。俺の学校は……まあそんなに強い所じゃない。別分野では色々と功績を残しているんだけどな。だから団体戦は分からないけど、再来年の高等部で個人戦の代表まで勝ち上がれたらその時が真の決着だ」


「おう。望むところだぜ!」


 また戦おうという約束を交わす二人。もちろん、私達の誰かが当たったとしても負けるつもりはないよ。

 話に纏まりが出てきた辺りで、ふと気になるワードを思い出す。


「そう言えば、負けた事はあるし今回の雪辱も二度目って言っていたけど、それは誰が相手だったの? 魔族の人?」

「ん? ああ、そうだな。その相手ってのは──」


 ラトマさんが話そうとした時、急激に周りが騒がしくなった。

 大会が終わって減りつつあった人混みが増え、私達はそちらに視線を向ける。

 この感じ、なんとなく予想は付くよね。


「ふふ、惜しかったわね。ボルカさん。もう少しでラトマに勝てたのに」

「「ルミエル先輩!」」

「あわわ……! ル、ルミエル・セイブ・アステリア様です……!」

「こんなところまで……!」


「「「きゃああああ!!」」」

「「「わああああっ!!」」」


 事件性のある悲鳴と共にやって来たのはルミエル先輩。今回も大会を見届けてくれたんだ。

 けど、その感想はすぐにラトマさんの言葉によって掻き消された。


「……っ。──ルミねえ……!」

「……え……?」


 ルミ……ねえ……? 聞き間違えじゃないよね……? それってつまり、ルミエル先輩とラトマさんは……!?


「姉弟ですか……!?」

「違うわよ。似たような感じではあるけれど、親戚の子と言ったところかしら。彼は“ラトマ・セイブ・アステリア”。私の従兄弟よ♪」

「従兄弟……!」


 驚愕の事実が判明した。

 ルミエル先輩に従兄弟が居るのは別におかしくないとして、その人が参加していたなんて……。

 ルミエル先輩は更に言葉を続ける。


「そう。今大会には何故かフルネームでは登録しなくて、同郷の出くらいしかそれを知る子は居ないけれどね」


「当たり前だ。それで俺が優勝してもルミエル・セイブ・アステリアと同じ血筋だから当然となってしまう。それは“俺の優勝”じゃない。……まあ、結果的には不本意なものに終わってしまったけどな」


 名字を名乗らなかった理由は、どうやらルミエル先輩の存在にあったみたい。

 確かに世界的に超有名なルミエル先輩。その“セイブ・アステリア”があれば偉大な祖先のお陰、及び先輩のお陰で勝てたのだと思われてしまう。始めたばかりとは言え、本人なりに認識も変えて努力もしているのにそれは酷だよね。そもそもルミエル先輩の魔導とラトマさんの無効化は根本的に違うような気もするもん。

 理由は分かったけど、それとは別に気になる事もある。


「という事は、ラトマさんは人間の血筋も入っているの?」

「いや、俺は純魔族だ。戦いを見たら分かると思うけど、ルミ姉と俺の力は違う。英雄が文字通り全てを無効化する力を持っていると言われているから先祖帰り的なものかもな。まあ、この力を持ってしてもルミ姉には一度も勝てていない。英雄の力には程遠いさ」

「そうだったんだ」


 ルミエル先輩の親戚だけど、人間の血筋は入っておらず、昔から魔族の家系みたい。そしてラトマさんの有する力。それはご先祖様……かつて世界を救った英雄と同じ物らしい。

 あれ? だけどそしたらまた疑問が生まれちゃう。


「同じ英雄の子孫なのに力が全然違うんだね。大半は努力の賜物だと思うけど」

「私は英雄のパーティーに居た後の英雄の奥さんに近いみたいよ。あらゆる魔術を使い、全知全能にも勝利を収めたらしいわ」

「んで、俺が英雄の力……前述した通り程遠いけどな」

「二人で分岐してんのか~。数千年も経てば他種族の血が入るのも分かるし、なんか面白いな」


 との事。

 ルミエル先輩の万能な魔術は大半が本人の努力だけど、そのスタイルは英雄パーティの一人に近い。対するラトマさんはダイバースを始めたのも最近なだけあり、まだまだ練習不足でかつての英雄には届いていないけど力は受け継いでいるんだね。

 そんな感じで有意義な話も聞く事が出来たけど、気付いたら周りには人だかりが作られていた。その中心に居るのはご存知ルミエル先輩。


「あら、もう少しお話したかったけど、此処は去ろうかしら。折角合間に来たのだけれどね。……血筋の事、ラトマは隠したいみたいだからあまり話さないようにね。貴女達に教えたのは知った上で仲良くなれそうだからよ♪ ラトマも私の可愛い後輩達をよろしくね♪」


「……ああ、分かったよ。ルミ姉」


 ラトマさんが姓を隠したい理由は分かった。ルミエル先輩が私達に教えてくれたのは信頼出来るからみたい。それはちょっと嬉しい。先輩に信じられてるって気がするから。

 ルミエル先輩はわざと目立つように進んで人だかりを引き連れ、その間に私達は会場を後にした。


「ラトマはどうだ? この後みんなとどっか行かね?」

「いや、遠慮しておくよ。練習もしたいし、単純に全員女性なのは気が引ける」

「そっか。まあ無理には誘わないけど」


 帰り道、ボルカちゃんはラトマさんを誘ってみたけど、色々と緊張しちゃうからと断った。

 私としても色々とルミエル先輩の話とか聞きたかったけど、無理強いは出来ないよね。

 なので彼とは別れ、手際の良いルーチェちゃんが予約していてくれたレストランに向かう。

 これでダイバース新人戦の団体の部、個人の部全ての日程が無事終了となる。しばらくは大きな大会も無いから、いつもの日常が続きそうだね。


「春の長期休暇明けには中等部の三年か。また新しい後輩達も入ってくるな」

「そうだねぇ。ディーネちゃん達もこれから先輩だよ♪」

「う、精進します……!」


 来月には私達は中等部三年生。ディーネちゃん達も二年生となり、後輩ちゃん達も入ってくる。本人は今から緊張しているみたい。


「あ、お花」

「すっかり暖かくなったからな~。花咲く出会いの季節の始まりだ」


 一迅の風が吹き抜け、私は揺れる髪を抑える。同時に花弁が舞い上がり、月の明かりに照らされた。

 すっかり夜。これからみんなでご飯に行くとして、帰るのは門限ギリギリになっちゃうかな。

 来月からは新しい学年のスタート。胸が踊り、期待と不安に包まれる。でももう三年目だからね。流石に慣れたかな。


 中等部最後の新人戦が終わった今、新たな学年へ私達は歩み出す。

 “魔専アステリア女学院”の生活は三年目に突入。一貫校だから、それでもまだ序盤が終わったに過ぎない。これからも楽しい思い出を沢山作りたいな♪



 ──そんな思いを胸に秘め、私はみんなと一緒に過ごすのだった。



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