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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
361/458

第三百六十幕 二年目ダイバース・新人代表戦・個人の部・決勝

 ──“医務室”。


「……!」

「おや、目覚めたか」

「レモンさん……」


 試合が終わり、医務室で私は起き上がった。

 隣にはレモンさんの姿が。

 その両手には包帯が巻かれており、まだ完治していない様子。当たり前だよね。危うく両腕が無くなる直前だったんだから……けど私より遥かに元気そう。


「アハハ……私も負けちゃった……」

「そうだな。見ていたぞ。しかしまあ、与えたダメージで言えば私以上……と言っても励ましにはならないか。敗れてしまっている事実は変わらないのだからな」

「うん。後は決勝戦のボルカちゃん次第だね」


 ダイバース新人代表戦個人の部、最終日。残り試合は一つ。決勝戦、ボルカちゃんvsラトマさん。

 時間を見る限りまだ開始前だから、前みたいに起きたら試合が終わってたって事は無さそう。

 この戦いは絶対に見逃せないもんね。

 モニターには会場の様子が映っている。まさに今、試合が始まろうとしていた。


《此処まで繰り広げられてきた数々の激戦。いずれも素晴らしいものであり、どれが一番かはとても決められません。……そんな戦いの数日間に終止符を打つのは今日! この日!! 始まります!! 決勝戦!! 人間の国“魔専アステリア女学院”ボルカ・フレム選手vs魔族の国“英傑セイブルス学院”ラトマ選手!! 今この瞬間──》


 静かに入り、次第にギアを上げて声を張り上げる司会者さん。

 観客達の盛り上がりも最高を記録し、音が割れんばかりの声で話す。


《スタァァァァァァトオオオォォォォ━━━━ッッッ!!!!!!!》


「「「どわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」」」

「「「ウオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!」」」

『『『グギャアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!』』』

『『『キュオオオオオオオォォォォォォンンンンンンンッッッッッ!!!!!』』』


 会場の声が防音対策を施されている医務室まで響き渡る。

 ボルカちゃんvsラトマさんの最強を決める戦いが始まった。



*****



 ──“聖域ステージ”。


「此処が今回のステージか」


 アタシが転移した先は、この世界の中心にあるとか無いとか、まことしやかに囁かれる聖域。それをモチーフにしたステージ。

 起源の女神。英雄達やその前の時代に居たとされる勇者の時にあった場所で、近世では誰も行った記録が無いとされている。

 けど、噂じゃ魔物の国のエルマ・ローゼさんが行ったとか行かないとか。結局本人が答えないんで迷宮入り。

 そんな、嘘みたいな逸話が実在したとされるこの世界ですら眉唾な場所が今回の舞台。


「柱に花畑に神殿に……絵に描いたような聖域だな」


 再現内容はあくまで“聖域”のイメージ。記録が無いんだから再現のしようがないもんな。

 見る分には綺麗だけど、此処は今から戦場になってメチャクチャになっちまうから今のうちに収めておくか……っても壊れてもまた再利用する機会はあるから再生されるんだろうけど。


「さて、気配は……」


 ラトマの気配をサーチ。決勝戦だからか結構離れた位置に居やがんな。

 今までの戦いから大凡おおよその実力は把握した。魔導などの異能なら星に直接影響が及ぶレベルでようやくダメージ。物理的なら山河破壊規模でダメージ。星その物を消し去るレベルなら重傷になる。

 んで、アタシがやれるのは精々魔導で山を破壊する程度。しかも多分、大きな物は難しい。


「うーむ……」


 割と……いやかなり厄介だな。思い付く限りで決定打が無い。直前のティーナとおこなった試合が規模も迫力もスゴかったからエンターテイメントとして成立しなくなりそうだ。司会者もかなり盛り立ててたしな~。

 決勝戦がパッとしない戦いだと示しが付かないし、優勝目指してきた今までの選手達の思い的なものも勝手に背負うつもりだからやるしかないな。

 今までの試合傾向からラトマは仕掛けられるのを待つタイプだし、アタシから仕掛けてやっか。


「向こうだな」


 既に気配は掴んでいる。なのでいつでも行く事は可能。罠とか作戦とか、まどろっこしいのは趣味じゃないし、さっさとけしかける。

 アタシは魔力を込めて加速し、気配のする方へと向かった。


「来たか」

「っぱ気付いていたか。毎回毎回、なんで知ってんのに待ってんだよ!」

「俺の頑丈さは俺が知っている。相手にさせるのが一番手っ取り早いだろ」

「そうかい!」


 受け待ちは自分が頑丈な為、相手にチャンスを与えるから。

 初手の一撃じゃ意識まで届かないという自信の証明。自信満々なのは良い事だけど、その考えを改めるような一撃を与えたいな。


「“太陽の大放出(プロミネンス)”!」

「最初から大技か」


 熱エネルギーを込め、一気に放出した。

 小手先の技じゃ意味が無いのを理解しているし、様子見とかする必要は皆無。最大級の攻撃を放って状態を確かめた方が合理的だ。


「これがアンタの最大か」

「成る程な。これくらいなら蝋燭の火を吹くみたいに消せるんだな」

「流石にその程度じゃないさ。ちゃんと熱い」


 片手のてのひらを払い、その勢いで消し去った。

 熱気は感じているみたいだけど、ダメージにはなっていない。流石に大陸を蒸発レベルに達していないしな。それくらいやれてやっとこさ火傷する頑丈さ。

 魔導からなる攻撃も植物みたいに質量があれば効果的みたいだし、体術で攻めてみるか。ラトマの攻撃は一撃受けたら致命的とは言え、武術はてんで素人。戦いは成立するだろう。


「そらよっと!」

「俺に通るのか?」

「やってみなくちゃ分からないだろ!」

「それはそうだな」


 炎剣を作り出し、ラトマに向けて振りかざす。

 レモンの木刀でもダメージを受けなかったやつ。魔法の剣じゃダメージが通らないだろうけど、木刀と打ち合えるくらいの質量はある。単なる炎の放出よりは通るだろうさ。

 剣は止められ、消されたんじゃなくて止められてアタシの体は引き寄せられる。概ね予想通りだ。


「“ボム”!」

「……!」


 炎剣の性質を変え、炎から派生させて爆弾へ。と言ってもあくまで爆炎。衝撃や破片が散る本物の爆弾とはまた違う。

 爆発させてラトマから逃れ、炎で加速してけしかける。


「そら!」

「速いな」


 蹴りを突き刺し、後退らせる。そこから体勢を低くして炎で加速した回し蹴りを打ち込んで仰け反らせ、炎で加速させた掌底しょうていを懐に差し込んだ。


「ぶっ飛べ!」

「……っ」


 吹き飛ばし、いくつかの柱を粉砕しながら遠方へ。大したダメージは無いんだろうけど、こんな風に体を移動させる事は可能。人間より硬い鉄球を人間の手で投げる事が出来るのと一緒だ。

 激突のダメージは高が知れてるとして、何もしないよりは良いだろう。


「“ファイアボール連弾”!」


 火球を放ち、ラトマの飛んだ方向へ着弾。複数の爆発が起き、聖域ステージを揺らす。

 更に力を込め、アタシは近くにある壊れた柱を手にした。


「毎度毎度吹き飛ばされるな。……さて、ボルカ・フレムは──」

「“柱ミサイル”!」

「ステージのオブジェクトを……!」


 柱を持ち上げ、炎で加速して突撃。物理的な魔法が効くならこれもありだろう。

 先端となる場所は念の為に鋭利にしておき、ラトマの体にぶつけた。


「使える物は何でも利用する精神か。悪くないけど、それはつまりアンタ自身の魔法に決定打が無い事の証明だ」

「だから色々試してんだろ!」

「今度は神殿を……!? いくらなんでも罰当たりじゃないか?」

「本物じゃないからセーフだ!」


 炎による熱風で神殿を持ち上げ、下方のラトマへと突き落とす。

 相手は拳を突き上げて砕き、その死角にアタシが入り込んでいた。


「“マグマウェーブ”!」

「……! 地面を……!」

「シュティル戦で使った方法さ!」


 あれだけ派手に動けば準備するまでの時間も稼げる。事前に大量の火球を着弾させていた訳だからな。後は炎を放ち続けて足元をドロドロの溶岩に。

 魔力なんでそれを操り、ラトマの体を飲み込んだ。


「マグマくらいじゃ良くて赤くなる程度だぞ?」

「だろうな。けど、呼吸気管にマグマが流し込まれたら息も出来ないだろ!」

「成る程な。水や土の役割を溶岩で補ったって訳か……!」


 溶岩は液体みたいな物。なので体にまとわり付くし、熱に耐える事が出来るなら溺れたりもする。

 窒息が効果的なのも分かっていたし、物は試しだ。


「けど、これは魔力からなる溶岩。俺が弾き飛ばせば問題無い!」

「そう来ると思って、既に体は固定してある!」

「……! 動きが……!」

「人体……魔族のアンタに適切な表現かは分からないけど、人体の構造上間接を固められたら動けなくなるんだ。拳とかと違って直接力を与える事も出来ないし、アンタの間接部分は明確な弱点だ!」

「数ヶ所だけ温度の低い溶岩で……魔力で分断したのか。器用過ぎんだろ……!」

「まあな!」


 ラトマの体を動かす間接は既に溶岩が冷え固まり、ガッチリと固定していた。

 少し体を震うだけで剥がせるけど、その辺もちゃんと工夫して固めておいたぜ。


「後は意識を失うまで耐え忍ぶのみだけど、さてどうなるか」


 既にラトマの体は溶岩に飲み込まれ、声も何も聞こえない状態になっている。だけど決着が付くまでは終わらない。当たり前の事だけど、その当たり前が今は見えないからな。

 例えば猛毒が充満した密封箱の中に、残酷だけど猫を入れるとして、数分間放置する。果たして中の猫はどうなっているか。それを観測してなければ判断が付かないって言うアレだ。

 まさに今はその状況。中のラトマは──


「攻撃が通じずとも、工夫によってやられる危険性があったのは分かった。次からは気を付けるとしよう」

「脱出したか」


 固まった溶岩が割れ、中からラトマが出てきた。

 完全に腕や足の間接は抑えていたけど、成る程な。腰を捻った衝撃で砕いたみたいだ。

 完全に閉じ込める事は叶わなかったけど、取り敢えず効果的なのは確認した。まだまだやりようはある。


「“フレイムバーン”!」

「間髪入れないな!」


 上級の炎魔術を放ち、それも片手で粉砕。消し去った。

 それと同時に違和感を覚える。さっきからラトマのやつ、片方の手しか使っていない。舐めプとか余裕の表れとかの理由もありそうだけど、思えばティーナとの戦いから数十分しか経過してないもんな。となると、もしかしたらそうなのかもしれない。


「“ファイアボール”!」

「今更なんだ?」

「“スネークファイア”!」

「縦横無尽の炎……これも問題無い」

「“ミラーフレイム”!」

「前後から……」


 正面に火球を放ち、それは片方の手で触れて消失。次いで上下左右から蛇のような炎を差し向け、回し蹴りで吹き消される。

 それらによって生まれた死角を突き、前後から挟み込むような火炎を放射。ラトマは片手と片足を突き出して掻き消す。

 此処からが真髄。


「横がガラ空きだぜ」

「……!」


 使えないと思しき腕の方に炎で加速して回り込み、わざとらしく魔力を込める。それを撃ち込み、ラトマはわざわざ回転し、裏拳の要領で消し去った。

 これでハッキリしたな。


「あれ程の重傷、流石に回復術でも完治していないか。そもそも治療魔導が無効化体質の体に使えるかが疑問だけどな」


「……! 気付かれたか。ああ、回復魔導の方は問題無い。害が無ければ問題無かったりと自分に都合の良い体質だからな。それとは別に、腕は単純に治り切らなかった」


 やはりと言うべきか、ティーナとの戦いで負った傷がそう簡単に治る訳が無かったみたいだ。

 まあ、ティーナの強さを思えば何ら不思議な事じゃない。……けどまあ、


「オーケー。それでやっと同じ土俵に立てそうだ。弱ってる相手に勝っても負けても恥だけどな」


「俺には体質とか諸々のハンデがあるのは理解している。別に恥では無いだろう。この無効化体質とパワー。それを卑怯と非難しないだけアンタは温情だ」


「生まれ持った才能を否定する方がおかしいだろ。それがアンタだよ」


「その言葉は有り難い」


 弱ってる状態なのは好都合だけど、そんな相手と戦うのはいささかアンフェアな気もする。

 けど、ラトマ的には自分の体質がズルいと思っているらしく、やっと正々堂々戦えるくらいの面持ち。

 どう思うかは人の勝手だけど、自分の才能ですら非難される覚悟を持たなきゃいけないのは大変だな。その言葉から何度か受けた事があったみたいだし、ラトマもラトマで苦労しているらしい。そりゃダイバースを退屈そうにしていた訳だ。アタシのダチらと戦うまではな。


「今のこの舞台でそんな小さな事は気にするなよ。代表戦に出るような選手は全員が各種分野のトップクラス。卑怯な訳が無いしな。罵った奴らを見返し……はしてるから更に言われるなら無視するくらいの気概は必要だ」


「……そうか。アンタの言葉は胸に刺さるな。それじゃ遠慮無く……生まれ持った才能を存分に使わせて貰う……!」


「その意気だ。っても、その意気込みに片手負傷の今じゃ色々噛み合わないけどな~。今回勝っても負けてもまたいつか、万全の状態でやりたいものだ」


「ああ。そうしよう」


 再び向き直り、互いに構える。負傷したラトマ相手に何処まで戦えるか、まさにアタシの気分は挑戦者チャレンジャー。怪我を理由に手を抜く方が失礼だし、全力で相手をするとしよう。むしろそこまでしてやっと互角より少し下くらいだからな。

 アタシとラトマによる決勝戦。本格的にスタートした。


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