第三百五十九幕 底無しの力
ステージ外から植物を寄せ集め、魔力にて結合。無効化されない森の巨人を形成した。
それでも正面から打ち合えば競り負ける。ある程度の工夫をして仕掛けないといけないかな。
「やって!」
『…………』
「大きさもさっきよりあって、威力の程は……!」
森の巨腕を振り下ろし、ラトマさんは迎え撃つ。その衝撃でステージは抉れ、もはや砂は完全に消え去り見えない壁に囲まれた舞台のみとなっていた。
シンプルな闘技場での戦闘って考えれば良いかな。壊れる事は無いと思うから存分に仕掛けられる。
『オオオォォォォ……』
「相変わらず空気の通り道が声のようだ」
音を出しながら踏みつけ、彼も足で防御。
森の巨人は足の指の第一間接ですら島その物が降ってくるようなもの。全速力で回避するより自らでガードした方が良いと判断したみたい。
実際に弾いては登り行き、森の巨人の核になりうる箇所を探す。でもそんなに自由は与えないよ。巨人は掌を薙いで台風のような暴風を巻き起こし、そのままの勢いでラトマさんを叩いた。
それによって透明な壁の方へと吹き飛んで衝突。また大きく揺らす。
『…………』
「間髪入れない連撃……凌ぐだけで精一杯だな……!」
壁目掛けて蹴りを放ち、ラトマさんは自分の足で受けるように防御。軌道を逸らして巨人の足に乗り、巨躯の体を駆け登る。
高さだけど、距離を言えば大陸を走り抜けているのと同等。全身を魔力で操っているからどこが急所かは私でも分からない程。
それなのに中枢を見つけようとするなんて胆力もあるね。けど、そう簡単にはさせないんだから!
「それ!」
「当然、体から別の植物を生やす事も可能か」
走り抜ける場所に鋭利な物や様々な植物を顕現。これによって進行を妨害。ラトマさんの動きは阻んだ。
止めたのならそこを突くのみ。巨人は掌を落とし、体に付いた虫を払うように薙ぐ。
避ける暇なんか無かったと思うけど、
「成る程ね……!」
「危ないな」
巨人の体にある樹皮を粉砕して穴を空け、そこに避難したみたい。
あの強靭な肉体なら直撃しても意識までは届かないと思うけど、避けたという事はダメージになる証明。このままの調子で仕掛け続ければ良いかな。私は一撃でも食らったら意識が飛んじゃうと思うから極力手を出さず。
「穴が空いたなら戻せば良いだけ!」
「……! 樹皮が躍動して……!」
全身は魔力で繋がっている。なので空いた穴もすぐに塞ぐ事が出来、その上で突起させる事も可能。
つまり、今のラトマさんは格好の的って訳。
「そう言う事かよ……! 頑丈で変幻自在ならそりゃ強いよな……!」
飛び出し、そこに巨人のジェット噴射からなる超速の回し蹴り。
それを受けたラトマさんの体は別方向に吹き飛び、逆位置にある見えない壁に激突して大きく揺らした。
「ケホッ……あー、苦しっ……」
壁に張り付く形となり、既に眼前には森の巨人が。
ジェット噴射の巨腕を叩き付け、ルミエル先輩が提供した見えない壁にヒビを入れた。
「……ッ!」
「効いた……!」
そしてようやく手応えを感じる。
一瞬だけフラついて巨人を足場とし、高速で踏み込んで眼前に。拳には力が込められており、私達の反応は間に合わない。
「オラァ!!」
『……!』
ドンッ! と重低音が響き、巨人の頭は吹き飛んだ。
頭だけでも小さな大陸サイズはある。それを吹き飛ばすなんて、やっぱりラトマさんは相応の力を持っているね。
『…………』
「……っと、んな分かりやすい場所を弱点にはしていないか……!」
首から分厚くて太い蔦が伸び、吹き飛んだ頭を引っ張って引き寄せる。
動力はママの植物魔法。弱点が人間と同じ場所にある訳じゃない。直ぐ様再生し、巨腕を再びラトマさんに叩き付けて壁のヒビを更に大きくした。
「流石にそろそろキツイか……!」
今回の攻撃にも手応えあり。呟きからして向こうも意識に多少なりとも影響が生じたのかもしれない。
更なる魔力を込め、トドメの一撃を──
「──もう温存はしないでおこう」
『…………』
「……!」
放った巨腕に対して片腕で止め、背後の壁を足場に踏み出す。それによって森の巨人を押し退けて距離を空けた。
同時にラトマさんは踏み込み、全身のバネを利用して真横に跳躍。力を込め、拳を巨人の胴体に押し当てた。
「そんな……!」
その衝撃で巨人は崩壊を喫し、割れるように砕けていく。
本気じゃなかったのは薄々感じていたけど、まさかここまでの力なんて……! 底無しの腕力……!
「これで終わりだ!」
更にもう一発打ち付け、崩壊した体を衝撃波で消し飛ばす。
植物は霧散して消え去り、唯一爆心地から離れていた爪先だけが残った。
だったらまた奥の手を使う!
「“上昇樹林”!」
「……! 蔦が空に……?」
足首の断面から大きな蔦を伸ばし、雲を突き抜けて上昇。直後に確認し、空から引き寄せた。
「──“メテオハンマー”!」
「マジかよ……! 宇宙から持ってきた本物の隕石……!」
直径数十キロの巨大隕石を引き寄せ、威力を落とさずラトマさんへと接近させる。上空の雲は除け、プラズマによって燃え盛る。
相手は体勢を低くし、更に力を込め直した。
「直径数十キロが秒速数百キロで……! ティーナ・ロスト・ルミナスは今世界中に居る生き物を絶滅でもさせるつもりか……!? 星が無くなるぞ……!」
迫る隕石の音でティナ越しでも声は聞こえないけど、焦りの色は見えている。
このまま落とし、相手の意識を奪い去る!
「そう言えば、……は一度暴走したら中々手が付けられないとも言ってたっけ……今はそんな状態じゃないけど、本当に手段を選ばないみたいだ。なのに常人より優しくて善性が強いのも把握している……集中のし過ぎで周りが見えなくなってしまうタイプのようだな」
隕石は既にヒビの入っている透明な壁を粉砕し、一直線にラトマさんへ向かった。
この一撃で終──
「──そんな彼女がまた暴走したらどうなるか。恐ろしいな」
「……!」
跳躍。片手を突き出し、隕石へ。
一筋の爆発が巻き起こり、辺りは凄まじい衝撃波に包まれた。
……って、しまった! やり過ぎちゃった……! これじゃ近辺だけじゃなく、世界中に悪影響が及んじゃう!
即座に隕石の周りを複数の植物魔法で覆い、なるべく余波を外に出さないように試みる。大きな震動が収まり、隕石が消滅したのを確認した。
「やれやれ……全く、無茶苦茶するな……」
「ラトマさん……! あ……その……ごめんなさい……」
「いや、いいさ。こんな大怪我を負ったのは生まれて初めてだけど、お陰で間合いを詰められた」
私達の前に降り立ったのは、片腕が内部から爆ぜたように赤く染まったラトマさん。こんなになっても普通に話せて意識もあるなんて……本当にスゴい人……。
「……じゃあ、終わりだね……!」
「ああ、終わらせる……!」
まだ勝負は終わっていない。本格的に謝罪したい私情は抑え、私は魔力を込めた。
対するラトマさんも片手をダランと下げ、もう片方の手に力を込める。
殆ど満身創痍だけど、これでやっと互角の領域かな。私達は数秒だけ睨み合い、互いの力を相手に向けて放った。
「──“惑星樹林”!!」
「──オゥラァッ!!」
巨大な樹木を放ち、それを片腕で迎撃。二つの力は押し合い、壁が無くなったステージから外部まで衝撃波が伝わる。
そして決着の時は今──
「あれだけの力を使ってまだこんな余力が……ハァ……つくづく……君の耐久性が一般魔導師より少し高いくらいで助かった……底無しの魔力だ……」
「──!」
樹木は砕かれ、衝撃波が突き抜ける。
敗北……敗因は耐久性の高さ。無理矢理脳を覚醒させる方法もあったけど、それには事前に植物魔法から抽出した薬を打ち込んでおく必要がある。……今からじゃ間に合わないよね。
「俺の……ゼェ……勝ちだ……!」
私の意識が飛び、砕けていない方の片手を突き上げたラトマさんの姿が。
負けちゃった。決勝戦でボルカちゃんと戦いたかったな。
私達の準決勝第二試合。今大会でラトマさんに一番ダメージを与えられたけど、私の敗北で幕が降りるのだった。




