第三十六幕 ファッションショー
歴史資料館を後にし、私達は“シャラン・ウェーテル共和国”の街を進んでいた。
まだお昼までは時間もあるし、もうちょっと遊べるね。どこで何をするかは相変わらず決めてないけど。
「昼も近いっちゃ近いし、飲食店のあるショッピングモールで時間を潰そっか」
「良いね。けど何してれば良いんだろう」
「見てるだけでも楽しいですわよ。ついでに欲しい物があったらご購入するのも良いですわ!」
「……私も新しい本探してみよ」
お昼じゃないけど、近いと言えば近い時間帯。なので飲食スペースが近いお店へ。
そこは横に広い建物であり、より一層の賑わいを見せていた。
今日が休日ってのもあるけど、スゴい人数。ボルカちゃん達とはぐれないようにしないと……。
「ここは?」
「アパレルショップですわ。様々な衣類やアクセサリーがある場所ですの!」
「テ、テンション高いね……ルーチェちゃん」
「この光景だけでワクワクするんですの!」
「変なテンション」
「さっきのウラノちゃんもこんな感じだったよ」
「え……ウソ……」
「ホントホント」
私達が来たのはアパレルショップという場所。要するに洋服屋さんかな。
色とりどりの衣類やアクセサリーが並んでおり、そのどれもが可愛かったり綺麗だったりで興味を引かれる物ばかり。
どれもこれも素敵で目移りしちゃう。
「ティーナ! これとか似合うんじゃないか?」
「早っ!? いつの間に持ってきたの……」
「ま、いーからいーから! 更衣室あるから着替えて来なよ!」
「え? う、うん……」
ボルカちゃんに背中を押され、更衣室に押し込まれる。
着替えるって、ボルカちゃんの持ってきたこの服に……。
衣服を脱ぐ途中、外からは声が聞こえてきた。
「そんじゃ今から、ルーチェよりも箱入りお嬢様であるティーナの着せ替えコーナーを始めたいと思いまーす!」
「ちょっと!? 私の!?」
思わず更衣室から顔だけ出す。
なんか新コーナーが始まっちゃった!? とんでもない事をされそうな気がして身の危険を感じた。
ボルカちゃんは笑って返す。
「ティーナはこう言うお店初めてだろ? だからアタシ達でその体にどんな感じなのか教えようって思ってな!」
「ティーナさんはお人形さんみたいで可愛らしいですものね。フフ、私も乗りましたわ!」
「へえ、いいじゃん。私もやるよ」
そしてルーチェちゃん、挙げ句の果てにはウラノちゃんまで乗り気。自分が着る訳じゃないからって……。
断れる雰囲気でもなく、私は唐突に始まったコーナーに巻き込まれてしまった。
取り敢えず最初に渡されたのはボルカちゃんからの衣装。それに着替えてみる。
「それではエントリーNo.1番! アタシことボルカ・フレムの選んだ服はこちらー!」
「ちょ、ちょっとこの服……おへそ出す意味あるの……?」
ばーん! って効果音が流れてきそうな雰囲気で私の着用した服をお披露目。
全体的に赤で纏まった色合いで、ショートパンツに異様に短い黒シャツに金のラインが入っている赤いベスト。おへその部分が少し寒い気もする。
何このセンス……。
「おお、似合ってるぞティーナ! アタシは動きやすさと軽さ重視だ! ティーナって結構足長いし、ショートパンツが似合うって思ったんだよなぁ。金髪にオッドアイに赤も合ってる!」
「そ、そうかな……」
そう言われると悪い気はしないけど……。
「あら、あの子……」
「フフ、カワイイ」
「無理してないかしら?」
「活発そうで良いわね~」
「うおっ……なんて挑発的なファッション……!」
「お淑やかな子がああいう格好するのって良いよね……」
「いい……」
は、恥ずかしい……!
店内に居る女性達からは微笑ましい目付きで見られ、外を行く男性からはなんか鋭い視線が……。
ボルカちゃんには丁度良い服かもしれないけど、私にはレベルが高いよ~!
「ボルカちゃ~ん!」
「うーん、ダメかぁ。よく似合ってるんだけどなぁ」
怪訝そうな表情のボルカちゃん。
例え似合っていてもこんなに露出の多いファッションは恥ずかしいよ……。
その横で、次はルーチェちゃんが服を持ってきた。
「私が選んだのはこれですわ! 是非着てくださいまし!」
「う、うん……」
また更衣室に入り、ボルカちゃんの服を脱いでルーチェちゃんの物に着替える。
さっきのやつとは違って、今回はスカートかな。だけどショートパンツよりは長いしロングスカート。ちょっと大きい服みたい。
試着して鏡を見る。似合ってるのかな……と思いながら外に出た。
「ど、どうかな……」
「可愛らしいですわ! ティーナさん!」
「へえ。ロングのワンピースか」
色合いは赤……と言ってもワインレッドかな。それと白を基調とした物で、頭には被り物。お人形さんが着けたりしてるやつだね。ボンネットって言うんだっけ。
お人形だとカワイイけど、リアルだと貴族の方々とかお婆ちゃんが被ってるよね。私に似合うのかな……。
ルーチェちゃんは可愛いって言ってくれたけど。それに赤はボルカちゃんのと色被りしてる……。
「見て見て。あれ」
「わ、カワイイ……」
「お人形さんみたい」
「ふふ、ホントにお人形さんも持ってるね~」
「オイ、あれ」
「さっきの子か。ああ言う服装も似合うな……」
「いい……」
以上、周りの反応。やっぱりお人形さんチックに思われてる……。
確かに私はティナでもあるけど、こう言う場ではちょっと照れ臭い。
「盛り上がってるね。はい。私のはこれ」
「あ、ありがとう」
流れるように手渡されるウラノちゃんチョイスの服。
選ばれたのは無難な帽子に襟着きシャツとベスト。そしてチュールスカート。
色合いはモノクロスタイル。赤被りのボルカちゃんルーチェちゃんと来て、まさか二人が被ってない黒と白を被せてきたね。
帽子はブラウンで、全体的に感じさせる印象は落ち着いたシックな雰囲気。
なんとなくこれが一番抵抗無く着れるかも。
服を着替えて外に出た。
「これはなんかしっくり来るかも!」
「おお、似合ってる似合ってる。ってか、大抵の服が似合うな。ティーナ!」
「羨ましいですわ~」
「私のチョイスに間違いはないから」
白い襟着きシャツに黒いベストとチュールスカートにブラウンの帽子を被り、クルクルと回ってみる。
スカートがワッと浮かび上がって良い感じ。絶対領域は見せないよ。
この服は派手じゃないし恥ずかしくないし、丁度良いかも!
ウラノちゃんもメガネをクイッとして誇らしげだった。
以下お客さんの反応。
「ほら見て」
「もう普通にカワイイ~」
「あら、急に大人びたわね」
「表情も明るいわ~」
「なあ、あれ!」
「何でも似合うな~あの子」
「いい……」
周りの人達からも好評みたい。……って、思えば最初から好評だったような……。約二名は語彙力消失してるし……。
だけど良いかも。気に入っちゃった。
「それではどうしますか~?」
「全部くださいまし」
「ルーチェちゃん!?」
店員さんが訊ね、ルーチェちゃんが誰よりも早く返す。
良いブランドの服だから結構お値段するし、悪いよ。あ、けど私のじゃないか! 流石にね!
「ルーチェちゃん。全部持って帰るんだね~」
「フフ、ティーナさんにプレゼントですわ」
「え゛……」
私のだった。
って、本当に悪いから!
「ダメダメ! なんかダメ! 悪いって!」
「大丈夫ですわ! お友達ですもの。私の選んだ服を着て欲しいんです!」
「友達はお金で買う物じゃないよ……!」
「フフ、勘違いしておりますわね。お金はあくまで信頼の表れ。私的には、“買ってあげたから友達”ではなく、“友達だから一緒に買いたい”……ですの。既にお友達と認めている方にしかこう言う事はしませんわ!」
「それはそれで悪い気が……」
「遠慮なさらず! 一方的なのが嫌なら、後日また一緒に遊びましょう♪」
「う、うん。一緒に遊ぶのは大賛成だけど……良いのかなぁ……」
「良いのですわ! シルヴィア家の信条は何より友人を大切にする事! 大切な方にしかしませんの!」
私を友達って認めてくれているから全部買ってくれる。けれど決して都合の良い友人関係じゃなく、真の繋がりを重視するのが彼女の家柄みたい。
ボルカちゃんとウラノちゃんの方を見たら「うんうん」と頷かれ、私はその意を汲む事にした。
その後、ショッピングモール内の道中。
「そろそろ昼飯だな。何処で食う?」
「ボルカさん。相変わらず口調が汚いですわ。女の子なのだからもう少しお淑やかにした方が宜しいですわよ」
「そうなのですわね。じゃあこうしますわよホホホホホ」
「私の真似をしないでくださいまし。と言うか、ホホホホホなんて笑い方しませんの!」
「悪ィ悪ィ。けど今の口調が慣れちゃったから今のままなんだ。ほら、アタシって天才だけど出自は一般家庭だろ?」
「自分で天才とおっしゃらない方がよろしいですわ。それに、一般家庭であっても女の子は柔らかい口調の方が多いと思いますわよ」
「そんじゃアタシは少数派の稀少種って訳だな!」
「全く……」
話ながらレストラン的な場所を探してみる。
けれどボルカちゃんって一般家庭の出だったんだ。
言動の割には雰囲気から何処か高貴さも感じられるし意外かも。
「そう言や、ティーナはどんな場所に住んでたんだ? 一応お屋敷住まいなんだろ?」
「え? うん。でも人口も少なかったし、本当に田舎のプチ貴族って感じかな。使用人さんも二十人前後しか居なかったし」
「いや、十分多いと思うぞ? まあ本当にヤバい所は三桁人居たりするけど」
「ふふ、静かな所だったよ。アステリア学院からも馬車で一時間半くらいだし」
「おお、思ったよりも近いな。中等部からだけど、何でこの学院を選んだんだ? 倍率ヤバかったろ」
「そこは努力で頑張った。……私、引っ込み思案だったからあまり外に出た事無くて、パパにオススメされて入学したの。ママともアステリア学院の学園祭で会ったんだって!」
「へえ。何かと縁があるって訳か~」
思えば魔専アステリア女学院には何かと縁があったみたい。
あれ? けどなんでママは何も言わなかったんだろう。私は知らなくてもママは知っている筈なのに……そこまで考え、何故か急に思考が阻害された。と言うより、私自身の意思で思考を放棄した……たまにあるけど、これもなんだろう。
「お、付いたぞ。レストラン。何食う?」
「……! あ、ホントだ。何にしよっかな~」
「お腹ペコペコですわ~」
「本も買ったし、糖分補給はしてもいいかも」
モヤモヤした所で、ボルカちゃんが話して現実に意識が戻る。
せっかく遊びに来てるんだもん。この事は自室でママに直接聞けば良いよね。歩き回ったり叫んだりでお腹空いちゃった。
私達の休日。それはお昼を食べ、午後へと差し掛かる。




