第三百五十八幕 大きくて速くて重ければ強い!
『『『…………』』』
「あの巨体がこの速度かよ……!」
ゴーレム達を作り出し、炎で加速して距離を詰め寄る。距離と言ってもあの大きさ。一歩踏み込むだけで越える事も可能。
高速で間合いを詰めて巨腕を振り下ろし、ステージ全体に地震のような震動を巻き起こす。
「厄介だな」
『……!』
ラトマさんは跳躍し、巨腕の上を駆け抜ける。そのまま眼前へと到達して殴り付け、一体のゴーレムを打ち倒した。
強度も高めてあるんだけど、それでも一撃で壊れちゃう。大きさから山河を破壊するくらいの力は必要だとして、ラトマさんの腕力なら十分にあり得る事だよね。
そんな空中に留まる彼へ別のゴーレムが巨腕の拳を打ち付け、地面へと叩き落とす。
大きな粉塵が舞い上がり、その上へ巨足が降り立ち、踏みつけて陥没させた。
「追撃!」
『『『…………』』』
そこ目掛け、他のゴーレム達も追撃に加わる。踏みつけ殴り、樹木で打つ。
その様子を私は大きな樹の安全圏から見守り、また一体のゴーレムが粉砕されたのを確認した。
「これは大変だ。危うく窒息するところだった」
跳躍してゴーレムを殴り付けたのを確認。近くのティナへ彼の一人言が聞こえた。
窒息。確かにその方法ならラトマさんにも効果的かも。
だけど水も砂も、魔法からなる物なら消し去られるのが関の山。植物で巻き付けて拘束しても千切られちゃうよね。
可能性として頭の片隅に入れ、今はひたすら攻め続けよっか。
『『『…………』』』
「面倒だ。纏めて片付けるとしよう」
ゴーレム達が嗾け、ラトマさんは回し蹴りで粉砕。その欠片を持ち、高速で放り投げてもう一体のゴーレムを崩落させた。
沢山作ったけど、全部が一撃で破壊されてしまう。それは厄介。このままじゃ成果も得られないし、数より質で攻めてみようかな。
「“融合”!」
『『『…………』』』
「……ゴーレムが一ヶ所に? 返ってやり易くなるだけじゃないか」
ゴーレム達が集まって混ざり合い、一つの存在と化す。
確かにこれが破壊されたら終わりだけど、そう簡単にはいかないよ!
『ブオオオォォォォッッ!!!』
「正面から……カウンターで終わりだ」
巨腕が風を切り、鳴き声のような音を出す。
ラトマさんは迎え撃つべく力を込め、その巨腕に拳を叩き付け──
「これは……デカ……!」
──るも押し負け、巨大な拳によって掬い上げられるように吹き飛ばされ、遥か彼方へと吹き飛んだ。
砂漠ステージの砂を除けながら飛び行き、それだけでソニックブームが生じる。ステージの端に到達した所で見えない壁に衝突して大きく揺れ、その体は止まった。
「カハッ……俺が……押し負けた……? こんなの人生で二度目……!」
『……オオオォォォォオオォォォッッッ!!!』
「速っ……!」
勿論炎魔法による加速装置付き。ジェットの速度で音を越えてステージの端に到達。今度は巨足を叩き付けて見えない壁を大きく揺らした。
この壁はルミエル先輩が作って提供した物であり、大陸を縦にしたような巨大ゴーレムが音速以上で蹴っても壊れない代物。この蹴りを受けた流石のラトマさんも怯みを見せた。
「……オラァ!」
だけどそれを拳で押し返す腕力は凄まじい。
けれどあの巨体を飛ばす事は出来ず、すぐに態勢を立て直して今一度押し潰した。
「これは……キツイな」
『オオオォォォォ……』
ゴーレムの体は皮膚じゃなくて樹。更には線が入っていないから壁との間に隙間は生じず、全ての負荷が直に掛かる。
ラトマさんは壁に両手を置いて支えとし、両足蹴りを放って押し出しまた距離を空ける。それと同時に身を翻し空気を蹴って高速で着地。踏み込んで進み足元に蹴りを打ち付け、ゴーレムもジェット噴射からなる勢いの蹴りで対抗。その衝撃波によって砂漠の砂は消し飛び、ステージは大きく割れた。
「改めて見ると、巨大過ぎるな。このゴーレム……!」
『…………』
大木を蹴っているどころじゃない質量。それと互角のラトマさんはスゴいんだけど、そんな彼と融合ゴーレムは渡り合えている。さっきより戦える目処は立ってきたかな。
まだ本気じゃない事を前提として、今のうちに与えられるだけのダメージは与えておくに限る。
『オオオォォォォ……』
「……っと……!」
山よりも遥かに巨大な拳を音速以上で振り下ろし、ラトマさんへ強襲。
それを防いだように見えたけど質量は半端じゃない。速度の分も上乗せされ、既に割れたステージが更に陥没して地面の底の見えない壁まで沈んだ。
代表戦の舞台となるとこれ以上の破壊も当たり前。なので基本的には、多分絶対壊れない透明な壁に囲まれている。
だから転移の魔道具を使っているとも言えるね。けれど外部から侵入する事が出来ない訳ではなく、複雑な設定で可否を選定しているの。
何はともあれ、このゴーレムがいくら暴れ回ってもステージが崩れる事はないから存分に戦える!
「“ゼロ距離放射”!」
ラトマさんを押し付ける巨腕から炎が辿り、高熱が下方へ放出された。
炎その物は無効化されると思うけど、熱はそうもいかない。圧力と熱。二つに挟まれたら堪ったモノじゃないよね!
「……にゃろ……!」
一撃を放ち、巨腕を押し退けて跳躍。地下から地上へと飛び出し、そんな彼の眼前にはもう片方の拳が迫っていた。
「誘われたか……!」
その拳がラトマさんへ衝突すると同時に見えない壁にぶつかり、まるで窓を叩いたかのようにバンッ! と揺れる。
硝子なら簡単に砕けちゃうけど、ルミエル先輩作のこの壁は大丈夫。ミシミシと押し付けて複数の植物で拘束。掌に縛り付け、次なる攻撃へ出る。
「“先鋭挟掌”!」
「これは……!」
ラトマさんを縛り付けた手。そこに向かってくるは、炎のジェット噴射によって加速した掌。しかしただの平面ではなく、その中心には鋭利で頑丈なトゲがあり、突き刺すように彼の体を押し潰した。
普通なら大怪我じゃ済まないこの攻撃。ラトマさんが相手だから使ってみた。その成果は……。
「これは……流石に効くなァ……ッ!」
「……!」
少し声を張り上げ、ゴーレムの掌を弾き飛ばす。
その体には痣や多少の出血があり、明確にダメージが与えられたと確信する。
「範囲もだが、一点に込める事で俺の肉体強度を、文字通り貫通する一撃が放たれた訳だ。これがティーナ・ロスト・ルミナスの力。……目を掛けるだけある」
「……?」
誰か知り合いの話かな。私に注目している人が居るみたいな言い方。
だけどそれを気にする余裕なんてない。ラトマさんはそれ程の相手だからね。ダメージを与えた実績が生まれたなら、このまま仕掛ければ勝利を収められるって事。彼が相手なら、あまりにも危険だからやれなかった方法を使っても大丈夫そう。
「更に仕掛けるよ!」
『オオオォォォォ!』
「早急に対処しなきゃ、本格的にマズイな……!」
指示を出して着地したラトマさんへ攻撃。
相手は体に力を込めるような素振りを見せ、握った拳を掲げた。
「オゥラァ━━ッ!」
「……!」
それによってゴーレムの一国並みの大きさを誇る片手は粉砕。即座に断面の植物が血管のように伸びて巻き付き、くっ付いて再生する。
その間にラトマさんは駆け出し、更に力を込めた。
「砕いてもすぐに再生……だったら、こうするしかないよな!」
そのまま音を越え、宇宙速度に達し、天井の壁ギリギリまで跳躍。逆さまになって天を足場とし、その壁を大きく揺らしながら降下した。
「“メテオインパクト”!」
『…………!』
その言葉通り隕石のような、ううん。寧ろ隕石を遥かに超越するような一撃がゴーレムの頭から足元まで貫いた。
同時に無効化の力が働いて操っていた魔力は霧散し、一気にその体が瓦解する。
「これで完了……次はアンタだ。ティーナ・ロスト・ルミナス……!」
「うん。そうみたいだね」
舞い上がる粉塵を余所に、ラトマさんは私の近くに到達。
正面から戦っても勝てる保証は無い。ユピテルさんやレモンさん相手にあの戦い方をした彼だもんね。
だから私は、戦えるように準備をしていた。
「──“リアルフォレスト”……!」
「なんだ……地響き……?」
魔力からなる物は無効化される。それは立証済み。だから私はゴーレムが戦っている最中に考えた。
魔力からじゃない、本物の森が相手ならより効率的にダメージを与えられるんじゃないかと。
「貴方の相手は私達……この大陸に存在する森その物……!」
「……! 外から……森が入ってくる……!?」
前にもやった事があるんだってね。ステージの外に干渉してこの星の森を操るやり方。
ダイバースの舞台となるステージがある場所は、万が一に備えて人の居ない大陸で行われている。人が居ないと言っても人や高い知能を有する存在以外の動物は別であり、環境的にも大きな森が形成されているの。
まあそれは場所によりけり。人々が住んでいる大陸にステージを作る場合もあるけど、少なくとも今回の砂漠ステージは森に囲まれた所。
だから私は、ステージから魔力を伸ばして森に伝え、森その物を此処に持ってきた。
「この星の植物は全て、私達の意のままに……!」
「成る程。ヤバいな。惑星その物を操っているも同義じゃねえか……」
ゴーレムが時間を稼いでくれたから集まるまで持ち堪える事が出来た。
魔法の方の植物と組み合わせて強度もエネルギーも高めたので、本番はここから……!
「始めよっか。ラトマさん。準決勝の第二試合、後半戦……!」
「ああ。規模は間違いなくこの大会一だな……!」
私とラトマさんによる準決勝。ボルカちゃんと戦う為にも、私は勝つ……勝ってみせる!!




