第三百五十七幕 準決勝第二試合・猛攻
「おめでとう。ボルカちゃん。シュティルさん相手にあの立ち回りなんてスゴいね」
「ああ。ま、割とダメージは受けて気絶の一歩手前くらいには来たけど、なんとかなったぜ!」
ボルカちゃん達の試合が終わり、戻ってきた彼女に話し掛ける。
シュティルさんの強さは身を持って知っている。そんな人にも勝っちゃうんだからやっぱりボルカちゃんはスゴいや。
そして、私の方へと話した。
「んで、ティーナの次の相手。大丈夫そうか?」
「……うん。今大会でも随一の実力者……。ユピテルさんとレモンさんを倒した実績も持っている相手……正直不安だけど、やるだけやってみるよ」
それは、私の対戦相手について。
次の試合が準決勝第二試合。つまり、これに勝てば決勝進出……=ラトマさんが相手となる。
ユピテルさんにレモンさん。私でも勝てるか分からない二人に勝利してここまで勝ち進んだ人が相手。正直言って魔法主体の私とは相性も悪いし、勝率は低くなりそう。
だけどここまで来たんだもん。やれるだけやってみるしかないよね。どの道ラトマさんが相手じゃなくてもレモンさんかユピテルさんが順調に勝ち上がってきてたと思うし、強敵との戦いは今に始まった事じゃない。
「行ってこい。ティーナ!」
「うん! これに勝ったら代表決定戦での決着を付けようね!」
「おう! って、それフラグになりそうだな」
「あ、確かに……」
これに勝ったらボルカちゃんとの決勝戦となる。なので嬉しくてつい口走っちゃったけど、これが悪い結果に繋がらない事を祈るよ。
私とラトマさんは舞台に上がり、司会者さんは音声伝達の魔道具越しに大きく話す。
《さあ! 素晴らしい戦いの後ですが! 此方も素晴らしい物となる事でしょう! 準決勝第二試合! “魔専アステリア女学院”ティーナ選手vs“英傑セイブルス学院”ラトマ選手!! ──スタァァァトォォォッ!!!》
その言葉と同時に今回のステージへと転移。
私とラトマさんによる準決勝第二試合が始まった。
*****
──“砂漠ステージ”。
今回のステージは一切の草木が無い砂漠。あるとしたらオアシスくらいかな?
そんな砂以外に何もない場所に来た。
まずはセオリー通り気配を辿ってラトマさんを見つけて……。
「ううん。違う。それじゃ今までやられちゃったみんなと同じ……セオリーを破壊していかないと……!」
実力で言えば、実践経験的には私の方が上だけど単純な戦闘能力では向こうが上。強さを理解している以上、そんな悠長な事はしていられない。
強いのが分かり切っているなら受け身じゃなくて攻めの姿勢で行かなきゃならないよね。
最初から全力で、ラトマさんを討つ!
─
──
───
「……。来ないな。気配は既に把握している筈。今までとは少し違うか?」
砂漠の真ん中に立ち竦んでいるラトマさんの気配は既に分かっている。動こうとしないから攻撃してくるのを待っているみたい。
確かにユピテルさんやレモンさんの時も先手はそちらにさせた。先ずは攻撃を受けて様子見するのが彼のやり方。
それを踏まえ、私は初手から全力で撃つ。
「“ビームキャノン”!」
「……!」
フォレストゴーレムを作り、ボルカちゃんの炎を口周りに集中。魔力を一点に込め、それを射出した。
熱の光線は一直線にラトマさんへと向かい、着弾と同時に数キロに及ぶドーム状の大爆発を引き起こした。
「“ジャイアントビースト”!」
『『『…………』』』
そこ目掛けて魔法からなるビースト達を放ち、巨足にて押し潰す。
地面は柔らかい砂だけど、既に下準備で砂の中には頑丈な植物を張り巡らせている。ビースト達の攻撃と同時に天空に仕掛けた植物も放つ。
「“フォールフォレスト”!」
森その物を落とし、爆風が別の衝撃で消え去る。大きな砂塵が舞い上がり、砂漠ステージには地響きが轟いた。
「成る程な。初手から大技の応酬か」
「……っ。やっぱり大したダメージにはなってない……!」
植物魔法は魔法だけど物理特化のもの。それを受けても殆ど無傷なのを思うに、魔力からなる力なら全て無効化されちゃうのかな。
ううん。魔力だけじゃなくて全部の異能だっけ。神聖な気配を感じるユピテルさんの攻撃も無効化されたもんね。
けど、ユピテルさん最後の攻撃は火傷を負わせた。一定以上の力は無効化し切れないのかもしれない。
私達にそこまでは無理かもしれないけど、可能性があるなら試してみるだけ!
「“フォレストゴーレム”!」
『オオオォォォォ……!』
「空気の抜け音が鳴き声みたいだ」
巨大ゴーレムを作り、その巨腕で拳を打ち付ける。
ラトマさんは力を込めて踏み込み、足元を完全粉砕して跳躍。ゴーレムの拳に自分の拳をぶつけて崩壊させた。
島を砕く力。改めてやられると気圧されるけど、これくらいは想定内。やれる事を全力で仕掛け続けるのみ!
「“樹拳”!」
「遠距離からの巨大な拳か」
樹木を纏めて打ち込み、ラトマさんはそれも破壊する。
まだ数キロ以上離れているけど、遠方で爆発が起きるのを確認。つまり踏み込んだって事。ここまで来ちゃうよね。
「“樹海生成”!」
「砂漠ステージが森ステージに……なんて魔力出力だ」
錯乱させる為、エリア全体を樹海に変更。砂漠ステージの意味が無くなっちゃうけど、何度も変えているから今更。
今やるのは勝つ方法を模索するのみ。つまり、弱点が見つかるまでの休みない攻撃。
「“夜薙樹”!」
無数の植物を降り注がせ、ラトマさんを狙う。
手数を増やすならこの技に限るよね。連続して打ち込み続ければいつかは突破口が開かれる。その時をただ耐え忍ぶのみ。
「狙いは分かった。無意味だ」
「……!」
──そしてそれを遂行するには、攻撃が当たる事が大前提。
拳を正面に放って吹き飛ばし、自分に降り掛かる植物類を消し去った。
元々一挙一動で島を崩壊させる力の持ち主。風圧のみで攻撃を無効化する事なんて簡単な所業。
「まだ!」
「……!」
でもだからと言って攻撃を止める理由にはならない。魔力が尽きるまで放ち続ける事は可能だもんね。
更なる魔力を込め、ラトマさんへと打ち込んだ。
「“樹木乱打”!」
「何が違うのか」
今度は上のみならず、全方向から無数の植物を撃ち込んだ。
周りの樹海はまだ健在。だからあらゆる方向からの乱打撃を可能にしている。
ラトマさんは上に拳を放って吹き飛ばし、横に回し蹴りを打ち込んで消し飛ばした。
「“特化樹拳”!」
「魔力の質が上がった……」
全ての植物を消されたところで力を一点に集中した植物を放出。拳で迎撃するように打ち込み、しばらく拮抗して消し去った。
その下から新たな植物を生やす。
「“上昇樹林”!」
「完全な死角からの……!」
「“フォレストアーム”!」
「……!」
足元から樹を生やして浮かせ、その体を別の樹にて拘束。無効化とは言え、縛るだけなら大丈夫みたいだね。魔力からなるステージを歩くだけで消えていないから当たり前と言えば当たり前。魔力関連全部が消えると思っていたけど、触れるだけで消え去る訳じゃないみたい。
そのまま振り回し、地面へと叩き付けるように擦った。
如何なる魔法も無効化されるのなら、地面にぶつけてその衝撃でダメージにすれば良い。壁にぶつけるやり方はユピテルさんもレモンさんもしているから、本格的にダメージが通るまで!
「はあああ!」
砂を擦って砂塵が巻き上がり、近くの岩やサボテンに衝突させる。
更に回転させ、樹を天空へ。そのままの勢いで上空から降下。大きな粉塵が舞い上がった。
「まだまだまだまだ!」
それによって形成されたクレーター内に向け、無数の木々を叩き込む。クレーターは広がり砂埃がステージを覆い、地下水脈に到達して水が溢れる。
樹海も相まり、砂漠ステージの新たなオアシスとなった。
「これで……!」
そこ目掛けて森を落とし、大きな地響きによって揺れる。
間髪入れない攻撃の応酬。それを受けたラトマさんは……。
「──大会上位勢が相手だと……成す術無い時間が長く続くな」
「……っ」
森を拳で吹き飛ばし、私との距離を一歩で詰め寄った。
これでもダメ……! こんなに沢山仕掛けたのに効いた様子も無いなんて……!
力が込められたのを確認。無数の植物を咄嗟に張り巡らせて緩衝材とし、私の体も分厚い植物で覆った。
「オラァ!」
「……ッ!」
多重の防御に対してなんて衝撃……!
無効化と言っても植物は完全に消滅させる訳じゃなく、破壊する方面での消失。だから防御の意味は成したけど、まともに食らったら一撃で意識が失っちゃう……!
「あのタイミングで間に合うとは……まるでもう一つの目があるような……。……あれか……!」
(気付かれた……!)
ラトマさんを観察出来るよう、ティナを配置してその動きを見定めていた。
それがバレちゃったけど、距離はそれなりに離れているからわざわざ排除しようとはしない筈。少なくとも現時点ではラトマさんの方が実力的に上なのでする理由も無い。
吹き飛ばされたとは言え丁度距離も空いたし、隙はある。
「“挟樹”!」
「左右からか」
地面から分厚い樹を生やし、ラトマさんの体を挟み込むように押し潰す。
ユピテルさんの雷は触れるだけで消していたけど、質量のある樹とはまた別ベクトルの無効化と判断して攻めてみる。
前述したように魔力からなるステージを普通に移動出来ている以上、物理攻撃なら持ち前の腕力で粉砕されない限りは通る気がする!
「まだまだ質量が足りないな」
そして挟んだ樹の中から抉じ開けて脱出。やっぱり植物は触るだけで消えていない。炎や雷みたいな代物はその存在を消せるんだろうけど、これなら大丈夫と確信した。
そうと決まればこの距離を詰められるよりも前に叩きまくるだけ!
「“森の巨人達による軍隊”!」
「……大量の樹の巨人……これが人間一人の出力かよ。国家戦力に匹敵するんじゃないか?」
砂漠ステージを埋め尽くす数十から数百メートルの高さを誇るゴーレム達。足元からは炎を放出させ、機動力も高めた。
高速の巨体が圧倒的な質量で攻め来るだけで普通なら対処のしようが無い筈。私がこの勝負に勝ってみせる!
「まだまだこれからだよ……! ラトマさん!」
「まだまだ序盤……これはまた苦労しそうだな。ティーナ・ロスト・ルミナスさん」
互いに距離はあるので声は届かないけど、多分受け答えみたいな感じで会話は成立しているかもね。
私とラトマさんによる準決勝第二試合。本格的に始動した。




