第三百五十六幕 準決勝第一試合・決着
屋敷内を駆け抜け、一先ずは二階を目指す。
シュティルは一階に居る訳だけど、何はともあれガスが一番の問題だからな。まずは呼吸の確保が大事ってことだ。
階段に到達し、その辺の装飾品を拾い上げる。何故かって? その答えは一つ。
「そらっ!」
階段の方へと放り投げ、一定の地点に到達した瞬間に空気が破裂。爆発のような衝撃波が散った。
てな訳だ。当然階段にも罠は仕掛けてある。此処だけなのか屋敷中なのかは定かじゃないが、ガスからの脱出口になりうる場所は抑えてあるみたいだ。
(さて、何処から行くか)
シュティル自身、屋敷内に入ったばかり。今から仕掛けているとしても限りがある。なら遠くの階段を目指すのも悪くないけど、今は分が悪い。
理由は単純。向こうはガスの中を自由に動けてもアタシは魔力による身体能力強化の移動しか出来ない。素のスペックじゃ流石にヴァンパイアにゃ及ばないし、別の所を探している間にシュティルの領域が完成する方が早いだろう。
だから呼吸の確保が出来る場所は此処から上がる事の方が手っ取り早く、その為に罠に触れても問題無い方法を思い付いた。
「よっと!」
また装飾品を投げ、圧縮された大気が爆発。暴風と共に衝撃波が散る。
チマチマと一つずつ破壊する? いやいや、そんなやり方はアタシ好みじゃない。この衝撃波が良いんだ。
「“フレイムアクセル”!」
何故なら一瞬だけガスを吹き飛ばしてくれるから。
その間に炎による加速をし、階段を一気に突破。吹き飛んだ一瞬と僅かな隙を突いて突き抜けるのみ。
自分の周りにも炎の膜を貼って空気弾の中に突撃。爆発で多少は衝撃が来るけど、表面の炎が剥がれるだけだから数瞬は問題無し。仮に二階へガスが一部入っていても既に炎は剥がれてるんで暴発なんてマヌケな真似はしない。
そのまま駆け抜けて到着し、一呼吸で確認。一階に充満しているから匂いは届いているけど、ガス自体は来ていなかった。
呼吸で新鮮な空気を取り入れ、そのまま二階を駆け行く。相手は既に気配を消しているけど、方向から大凡の位置は把握済み。
この一撃で炙り出す!
「“フレイムバーン”!」
「……!」
二階の床を炎で貫き、粉砕してシュティルの場所に放出。
位置は多少ズレたみたいだけど、一階には既にガスが充満しているからな。確実な一撃が入る。
「吹き飛べ!」
「やるな……!」
炎がガスに引火し、一階全域を飲み込む大爆発が巻き起こった。
そこから連鎖するような爆発が広がり、轟音と衝撃によって二階と三階も崩落し、屋敷の一角が崩壊する。
ステージ全体が屋敷。つまりちょっとした島サイズの建物って訳だ。その一角が崩壊しただけでもかなりの物だろうぜ。っても、あくまで別館が崩れた程度。屋敷全体は何の影響も無いと言ってもいい。
けどまあ、アタシ達の戦闘範囲で考えりゃやり易くなった。
「流石に焼け爛れたか。ギリギリ意識までは届かなかったみたいだけどな」
「ああ、これは効いた。とは言え、頭が吹っ飛ばなかったから脳に到達せず、意識を保つ事は出来たよ」
「結構バンバン肉体が崩壊している印象あるけど、やっぱ頑丈だよな。あの爆発を受けて皮膚の表面が抉れた程度なんてよ」
「そうでなくては魔物の国の無法地帯になんか行けんよ」
「無法地帯か。ティーナから聞いたぜ~。ヤベー所ってな」
「そうだな。それで間違いない」
爆発の衝撃波によってシュティルに与えられたダメージは皮膚が剥がれ、筋肉が抉れたくらい。
常人なら早急に治療しなきゃ最悪死ぬが、ヴァンパイアにとっては軽傷でしかない。便利な体だな。魔族の血があるから本物の日光にもある程度耐えられるし、殆ど弱点が無い状態だ。
けども、レモンやティーナがやったようにダイバース内でなら意識を奪う事も出来る。何かを仕掛けていたにしても爆発で全てを無下にしてやったし、此処からが本番だ。
「さて、やるか」
「ああ、傷も癒えたしな。待っていてくれたか」
「これで終わらせるんだ。正々堂々とした真剣勝負でケリを付ける。あ、この一撃で決めるとかじゃなくて、もう離脱させたり勝負を中断しないって意味でな」
「言わずとも分かる」
爆心地の瓦礫の真ん中でアタシ達は向き直る。
次の一撃で終わる訳じゃないけど、そろそろ決着を付けても良い頃合い。再生に限度が無いシュティル相手にはダメージの蓄積って概念も無いしな。
いつトドメに動き出したとしてもあんまし関係無い。単純に手の内は互いに明かしたから刺し易くなり、向こうも痺れを切らして乗ってくるってだけだ。
「“フレイムレーザー”!」
「その技は一度見た」
「基本的には同じ魔導の応酬だぜ!」
牽制程度に熱線を撃ち込み、躱されると同時に距離を詰め寄る。
シュティルの手には念力が込められており、また天候や諸々を操ってあらゆる方向から嗾ける。
それらは炎で相殺して消し去り、至近距離に迫ると同時に炎で加速した拳を放ち、向こうも念力を纏った蹴りを打ち込んだ。
互いの体は弾かれ、遅れてダメージがやって来る。
「オェ……念力パンチ厄介だな……衝撃波を余す事無く伝えて来るぜ……」
「感想を言っている暇など無かろう」
「それもそうだ」
悠長な会話のターンは終了している。感想途中で次なる攻撃が仕掛けられ、アタシは見切って回避した。
距離自体は余分に取る。何故なら一撃一撃には念力が込められており、見た目より遥かに広範囲に及ぶからな。
「そんなに近くて良いのか?」
「数メートルじゃ距離に入らないか」
シュティルの背後から屋敷の瓦礫が放たれ、弾丸のように飛び来る。
武器の持ち込みは禁止だけど、本物の銃の方が優しいまである瓦礫の隕石群。
それらを炎で熔解させて瓦解させ瓦礫の後ろに隠れてやり過ごす。
溶かしたら溶岩みたいな状態になるけど、直撃しなければ問題無い。瓦礫で防御出来る分、障害物の多いフィールドなら単純な瓦礫が撃ち込まれるよりずっとマシだぜ。
「……そうだ。これなら……」
とある事を思い付き、次は瓦礫が塊で来ると判断してその場を離れる。
しかとシュティルは視界に収めており、さっきまで隠れていた場所が粉砕すると同時に魔力を込め、相手に向けて放った。
「“ファイアボール”!」
「何度も見た。それでは私の意識まで届かんぞ」
「知ってるよ!」
大したダメージにならないのは承知の上。思い付いた事柄を遂行する為にもある程度は注意を向けておかなくちゃならないからな。
火球を連続して放ち、シュティルは念力纏の手で払い除けて距離を詰め寄る。
「先程のように小技から大きな技へと繋げて確実な一撃を狙うつもりか? 二度は通じんぞ」
「さあ、どうだろうな!」
火球から変化させ、継続的に放出し続ける炎へと変更。
今回やろうとしている事自体が初めての試み。上手くいく保証が無いからこそ、慎重かつ大胆に攻め立てる。
「その様に見えるが、まだ確定はしていない。仕掛けるよりも前に潰すとしよう」
「ま、そう来るよな……!」
更に加速し、念力で大気爆弾を携えて嗾けられる。
一撃でも食らったらアタシには大ダメージ。上手く躱していかなくちゃならないけど、闇雲に放つんじゃなくて狙いは正確だからな。ただ避けるだけでも一苦労だ。
「そこは隙だぞ」
「……ッ!」
大気に気を取られ、横から瓦礫が飛んできてアタシの体は吹き飛ばされる。そのまま別の瓦礫にぶつかり、押し潰される形となった。なので破壊して脱出する。
魔力強化で肉体は多少頑丈にしているけど完全に防げる訳じゃない。つか、既に意識が飛び兼ねない状態だ。
「……ハッ、大胆な告白感謝するぜ……!」
「ニュアンスが違かろう。トドメとする」
「へへ……」
アタシは折れた腕で脇腹を抑えて倒れ込み、もう片方の手には魔力を込め続ける。
アイツ、トドメって言ったな。どんな方法で仕掛けてくるかはともかく、常に魔力の準備をしておかなくちゃ話にならない。意識が飛び飛びの今、これは結構ツラいな。
シュティルは力を込め、周りの瓦礫を持ち上げてその態勢へと入った。
「終わりだ」
「アンタがな!」
足に魔力を込めて炎を放出。加速して一気に間合いを詰める。
大きな瓦礫の投擲。自分の近くなら無闇に放つ事は出来ないだろうぜ。
「今更何をする。警戒してない訳ではないが、この瓦礫を私が受けようとノーダメージだぞ」
「だろうな。それも知ってるよ!」
アタシが想定しているのはそこじゃない。ある意味これが最後のヒント。そして挑発。
シュティルなら間違いなく乗ってきてくれる。その証拠に今、無数の瓦礫が降り注いだ。
「「これで私の勝ちだ!」」
「……なに?」
瓦礫を一気に落とし、自分ごと瓦礫の雨に撃たれる。
魔力強化しているアタシなら少しは耐える事が出来、既に準備も完了している。勝利を確信したのは果たしてどっちかな!
「“溶航路”!」
「……! 足元が熔け……!?」
さっきからずっと、思い付いた時から本当にずっと魔力……もとい、炎を放出し続けていた。
それによって床である地面は熔け、更に魔力を込める事でアタシの魔力比率が上になり操作する事が可能となった。さながらマグマの航海道。
これがさっき瓦礫を溶かした時に思い付いた方法、この数十メートル。一定の範囲は溶岩溜まりだ!
「瓦礫が……!」
「攻撃が仇になったな! シュティル!」
溶岩ドームを形成し、降り注ぐ瓦礫も飲み込んで新たな糧とする。
周りを溶岩みたいにする方法。多少の火耐性があるとは言えアタシにもダメージが及ぶし賭けだった。初めての試み+賭け事。受けたダメージ的にも、これで倒せなかったらアタシの負けだ。
「飲み込め!」
「くっ……!」
溶岩で取り囲み、シュティルは念力を込める。確かにマグマでもあのレベルの念力なら遠くから操れるし、完全に消し去る事も可能。単なるマグマじゃアイツは倒せない。
でも、これについても既に初動で実践済み。
「溶岩だって、魔力なんだぜ……?」
「……!」
溶岩を伸ばし、シュティルの両腕を切断。込められた念力は行き場を失って消え去り、アタシは飛び退くように距離を置く。
「これで終わりだ!」
足も焼き消し去り、相手の動きを完全に封じた。その体を溶岩で覆い尽くし、決着となるまでの経過を見届ける。
少し後、アタシは会場の方へと戻っていた。
《──勝者! ボルカ・フレムゥゥゥ━━ッ!!!》
「「「どわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」」」
「「「ウオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!」」」
『『『グギャアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!』』』
『『『キュオオオオオオオォォォォォォンンンンンンンッッッッッ!!!!!』』』
どうやら無事に勝てたみたいだな。
溶岩の中に閉じ込め、意識が無くなった判定を受けるまで包み込む。念力を使おうにも切断箇所は再生した側から焼かれるんで一定時間は治らない。
多分ダイバースのルールじゃなかったら脱出されて次の戦いに移っていたと思うし、ルールに救われた形だ。
アタシとシュティルの準決勝。それはアタシが勝利を収めるのだった。
これで決勝進出だぜ!




