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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
355/458

第三百五十四幕 流れ

《し、試合終了……勝者……ラトマ選手……!》


「「「………………………………っ」」」

「「「………………………………ッ」」」

『『『………………………………っ』』』

『『『………………………………ッ』』』


 レモンさんとラトマさんの試合が終わり、会場は絶句していた。

 それもその筈。映像と音声は会場の方にも届いており、レモンさんの両手両足くらいなら失っても構わないと言う覚悟を直に見、聞いたのだから。

 ダイバースは、普通のスポーツよりは遥かに怪我率が高い。内容が内容なので当然なんだけど、レモンさんレベルの重傷はここ数年は無かった程のもの。ある程度のダメージも楽しみなお客さんは居るんだろうけど、いざ目の当たりにすると何も言えなくなるんだと思う。

 数分間沈黙が続き、お客さんの一人が口を開いた。


「スゴかったぞー! ルーナ=アマラール・麗衛門レモン選手!」

「カッコ良かったー!」「素敵ー!」

『素晴らしい奮闘だ!』

「ラトマ選手の覚悟も受け取ったぞー!」

『さっきまでの試合での態度がいけ好かなかったけど、今は好きだー!』

「これだよこれ! こんな試合が見たかった!」


 喝采万雷。ほとんどのお客さんが今の試合を見やり、感銘を受けていた。

 今まではどこかダイバースを甘く見ていたラトマさんもレモンさんの覚悟を目の当たりにして対応も変わったし、世間的な評価は一気に向上したみたいだね。


「アタシらも負けてられないな」

「うん、そうだね……!」


 感銘を受けたのは観客達だけじゃなく、これから試合のある私達もそう。

 まずは私達の準々決勝を勝利で終わらせ、次の試合……準決勝が始まろうとしていた。

 私の試合も控えているけど、私は準決勝の第二試合。最初に行われるのは、この二人の対決。


《此処まで来れば優勝も目と鼻の先!? いやいやいやいや!! 何をおっしゃる!! 此処からが最も遠いと言っても過言じゃありません!! 準決勝第一試合!! “魔専アステリア女学院”はボルカ・フレム!! 対する“神魔物エマテュポヌス”のシュティル・ローゼ選手!! 決勝へ進めるのはどちらになるか!! 今始まりまァす!!!》


 ボルカちゃんとシュティルさん。この二人で勝った方が決勝戦で第二試合の勝者と戦う事になる。

 最終日は本当に激戦の連続。今回の試合もきっとそうなるよね。


「シュティル~。アンタとアタシって戦った事あったっけ?」

「うーむ、チームとしてはあったかもしれないが、一対一サシで戦った事は無いかもしれないような……試合の回数が多くて覚えてないな」

「アタシもアタシも~。ま、あっても無くても新鮮な気持ちで戦えるのは悪くないけどな」

「ああ、そうだな」


 お互いに軽いノリで話しているけど、実力は把握しているので程好い緊張感には包まれていた。

 どちらが勝つかは予想も付かないこの戦い。それが始まった。


《スタァァァトォォォ━━ッ!!!》



*****



 ──“屋敷ステージ”。


「ほーん?」


 此処は、大きな屋敷を全てステージとした場所か。

 現在地は渡り廊下的な所。庭に繋がっているけど、あくまで敷地内。多分何処まで行っても屋敷から抜ける事は無いんだろうな。

 今までのステージと違って室内な分、風の流れとかを読む事は出来ない。ま、あまり関係無いけど。火を使って屋敷内を炎上させて戦い易い環境を作るのも良いけど、それは愚策だろう。相手はシュティル。気配を消して潜む事は得意分野だ。

 アタシも火に耐性はある方だが、熱いは熱いんで自分の首を締める結果になり兼ねない。今この時も既に見られてるかもな。……いや、流石にそれは早過ぎか。

 何はともあれ、既に気配を消しているシュティルを探さなくちゃ始まらないな。


「“フレイムサーチ”」


 久々に使った炎の探索魔導。

 気配を読めるようになってからすっかり使わなくなったけど、仕掛ける時には必ず周りの空気に揺らぎが生じるだろうし使い得だ。

 一先ずこれは下準備。気配の方も辿っており、いつ来ても対応出来るようにはしてある。

 屋敷内の探索に移り、シュティルの行動を待つ。いつもは先手を取るけど、後手に回るのはちょっと新鮮だな。


「……特に影響は無いか」


 渡り廊下を進んでリビング、食堂、浴室を見てみたけど一向に出会う気配無し。

 そうだな。こういう時は向こうの立場になって考えてみるか。シュティルの性格や特徴から居そうな場所を推測。

 思えば今までの場所は全部日光が差し込んでいるな。ヴァンパイアの事を踏まえ、ステージの太陽光はあくまで照明でしかない。とは言え明るい場所はあまり好きじゃないだろうから、暗い場所を探してみるのが良いかもな。


──

───


「そしてやって来たのが書斎って訳」

「そうか。確かに悪くない推理だ。別に光へそこまで苦手意識がある訳でもないが、実際に此処は居心地が良い」


 ビンゴ。探知機もちゃんと揺らめいた。

 居やがったな。シュティル。優雅に書斎机で本をパラパラと捲っている。

 アタシも近くの本棚から手に取ってみるけど、まあ内容は当然白紙。本物の本を使ったら色々とクレームが来たりするらしいしな。戦闘でボロボロになるのは決まっているからそう言った方向で。

 本棚に戻し、シュティルも白紙の本を閉じる。次の瞬間、横から圧縮された大気が弾ける。凄まじい衝撃波を生み出し、書斎は木っ端微塵に吹き飛んだ。


「当然、待っていたからには何らかの罠が仕掛けてあるよな。気配を消していたのも奇襲を思わせ、罠への注意をおろそかにさせるのが狙いか」

「そんなところだが、既に把握していたか。あまり友を傷付けたくはないからこの一撃で終われば良かったのだがな」

「素でもこの程度じゃ一撃でやられないよ。そもそも戦いが始まった時点で無意識のうちに魔力強化はしている訳だしな」

「当然か。お陰で苦手な日光の下に出てしまった」

「嘘をけ~」


 日光が苦手なのは本当として、シュティルの戦闘スタイルからしても書斎は戦い難い筈。なので外に出たのは狙ってのもの。

 じゃあなんで書斎で待機していたのかと問われれば、単純に気分の問題だろうな。罠を仕掛けて狭い書斎で確実な一撃を与えるのも理由の一つとは思うけど、シュティルは割と雰囲気を大事にするタイプだ。

 ヴァンパイア自体、案外種族全体でロマンチストだったりするしな~。長生きな分、そう言った事柄に惹かれるんだろうさ。

 何はともあれ、広い屋外に出たんだ。早速やるとすっか。


「開始だ」

「ああ、受けて立つ」


 炎剣を生成し、一歩踏み出して加速。シュティルへそれを振りかざす。

 相手はてのひらに念動力を纏って応戦し、剣尖と念力が衝突して衝撃波を散らす。まだ大地が砕けるとかそのレベルには達してないけどな。あくまで空気が揺らぐ程度だ。

 初動は互いに拮抗。押し合いへと発展する。んでも、ヴァンパイア相手に力比べは愚策。剣尖で逸らし、もう片方の手に魔力を込めた。


「“ファイア”!」

「今更初級魔術か」

「初級でも炎は炎だ」


 放たれた炎を避けようともせず、距離を詰め寄って圧縮した大気を放出。アタシはそれをかわし、炎剣を横に薙ぎ払って距離を空けた。


「“火球連弾”!」

「このくらいなら、避けるまでもない」

「ああ、そう来ると思ってたぜ!」

「……!」


 火球を連続して撃ち込み、シュティルは念力で払い除けながらすぐ近くまで肉薄。

 そこを狙って炎剣を突き出し、相手は紙一重で避けた。


「狙いは頭か。内部から脳が焼かれ続けたら一瞬だけ意識が飛んでしまうから食らう訳にはいかないな」

「はっ、避けるのも想定内だぜ!」

「……これは……」


 かわした方向に炎の先端が伸び、シュティルの体を拘束した。

 それと同時に燃え上がり、その体は炎上する。


「刀身だって魔力なんだぜ!」

「そうだな。変幻自在の魔導剣。このまま焼かれるのは少々厄介」


 全身を包み込む炎に対して念力で壁を貼り、引き剥がすように消し去った。

 そんな簡単にゃ決まらないか。精々衣服が少し焼けた程度。けれどもまあ、炎はヴァンパイアに相性が良い。酸欠って概念は無いだろうけど、一定時間燃やし続ければ意識が途絶える事があるからな。

 その間隔を決着の時間に合わせればアタシの勝利は決まる。細胞一つでも残っていれば死ぬ事も無いし、やりたい放題だ。


「やれやれだな」

「急になんだ?」

「いや、厄介と思ったまでよ」

「そっか」


 バサッ! と蝙蝠コウモリの翼を広げ、加速して眼前に迫る。

 多分また何かを目論んでいるんだろうけど、アタシは割とアドリブ派。その場その時で臨機応変に対処するだけだ。

 多少の策は講じたりするけど、正面突破が一番気楽だ。


「ふっ」

「掛け声も小さいなぁ。もっとこう、“はあ!”とか“であ!”とか“ゼアアアッ!”とか気合い入れなくて良いのか?」

「それをして何になる。私が声を出すのは間合いの調整とかその程度よ。加え、戦闘中に会話する機会もある。呂律が回らず噛んだらしょうもないだろう」

「ハハ、それはそうだな。けど、アタシが言ってるのはシャウト効果ってやつだ。大声出せば脳のリミッターが少し外せるらしいぜ~」

「それなら自分の意思で出来る。私の肉体ならばな」

「あ、そっか。確かに再生する体。人間の脳が抑え込んでいるのは身を守る為とか言うし、そんな事関係無いヴァンパイアには必要も無いのか」

「そう言う事だ」


 回し蹴りが放たれ、仰け反って回避。風圧で体が揺れたんで炎で位置調整して立ち直る。

 すぐ目の前には異質な気配漂うシュティルの手が。完全に念力とか大気とか諸々が仕組まれていると確信して飛び退き、間合いや視線に気を付けて空中へ移動する。

 即座に雷が落とされたけど炎の天幕でガード。下方へ火球を放って牽制し、一定の距離を空けながら距離を詰めた。


「すぐに近寄っては距離を空けた意味が無いだろう」

「アタシのペースに合わせるのが目的だから関係無いのさ!」


 炎で加速し、炎剣一閃。掠り傷を与えたけど血も火傷もすぐに消え去る。けど、この一撃によって流れはアタシの方へと引き戻された。

 観客から見たら単純なせめぎ合いや攻防だけど、当事者しか分からない空気感ってのもあるからな。今流れが来ているのはアタシの方だ。


「そらよっと!」

「フム……速さもだが、狙いが正確だな」


 加速と同時に切り付け、傷痕から炎上させる。シュティルもすぐに消し去るが、まだ対応し切れていないみたいだな。

 速さだけならユピテルやエメの方が上だけど、アタシは先読みにけてると自負している。既に気配が分かっている現状なら尚更なおさら

 だからこそシュティル程の実力者でも対応が難しい。


「このまま押し切れ──」

「──る訳が無かろう!」


 ま、そうなるか。

 先読みに長けている存在が相手の場合、どうやって仕掛けるか。それは相手の攻撃が当たった瞬間にカウンターをすれば良い。近接主体なら間違いなく近くに来ている訳だからな。

 痛み耐性が遥かに高く、五感も鋭いヴァンパイアなら斬り付けられると同時に反応する事も叶うって訳だ。


「はっ」

「……ッ!」


 念力が込められ、通常よりも強化された拳がアタシの腹部を打ち、肺から血の味がする空気が漏れて吹き飛ばされた。

 炎の逆噴射で激突はせずに勢いを殺し、拳と念力による貫通のダメージだけで済んだ。

 これで立ち直る事は出来たけど、


「さて、続きと行こうか?」

「へへ、そうだよな……!」


 流れはシュティルの方に向いたのを実感する。

 勝負の流れってのは結構簡単な切っ掛けで入れ替わる。次はアタシが相手に攻撃を与えて流れを取り戻さなきゃジワジワやられちまうな。

 アタシとシュティルによる準決勝第一試合、それは場をみずからの物とした方が勝つ。


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